まずいシリアル食ったら死んだ。 —Muv-Luv—   作:アストラ9

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 約2週間ぶりまして。どうも。作者です。

 なんか、目を離している間にお気に入り登録をして下さった方が増えているようで、嬉しい限りです。
 そんな皆さんに、私からのプレゼント。何話ぶりかの『依頼任務』となります。

 しかも今回は皆さんお待ちかね、『変態企業 キサラギ』の登場です! やったー。

 あ、因みに今回書き方を変えてあります。以前と比べて読みやすいか読みにくいか、感想欄にでもお教え頂ければ、有難いです。

 という訳で、どうでも良い話はこの辺で。

 本編、どうぞ。






『BETAサンプル回収依頼』

 

『久しぶりだな、レイヴン。今回お前に、依頼を持って来てやったぞ。

 依頼内容を説明しよう。目的は、その世界にて居座っている、BETAとやらのサンプル回収だ。

 『財団』という男に聞いたが、そのBETAとやらが持つ装甲は凄まじいようだな。モース硬度15以上……『財団』によると発掘(V)AC装甲に準ずる程のものらしいな。当然、靭性も、だ。

 そこで、だ。今回は君にこのサンプルを回収して来て貰いたい。

 なに、勿論報酬はたあんと弾ませて貰おう。前金に23万C、それと回収してきたサンプルの数に応じて支払わせて貰う。

 それと今回は、サンプル解析用に此方の技術班を派遣させて頂こう。最前線の緊張感の中でこそ、閃きは生まれやすいのでな。理解頂こう。

 ああ、そうだ。なんならこの技術班をレイヴンに貸してやってもいい。新たなパーツを作るのもよし、サンプルを解析して新造した兵器を使うのもよし。その判断は君に任せよう。

 これは私たちと、君との新たなる関係を前提に見た、試金石だ。此方としても、いい反応を待っている。

 

 

 ——追記 from『財団』——

 

 今回、サンプルを回収するに当たって、僕の方から回収用の専用装備を与える事になった。

 対象へと狙いを定めて射撃する事によって、対象をダイレクトに隔離施設……新たに増設したAF(ギガベース)の格納庫へ転送される仕組みだ。当然、僕たち神が開発したワープ技術が使われている為、パージや破損は厳禁だよ。

 その代わり、AFの方はAWWで負担させて貰っといたから。

 じゃあ、頑張ってね。

 

 

 依頼主: キサラギ

 

 敵戦力: BETA(未確認生命体)

 

 作戦領域: ポーランド グダンスク沿岸〜内陸

 

 成功条件: サンプルの確保によって増加。

 

 成功報酬: 前金—230000C

      成功報酬——サンプル数x9500C

      キサラギ技術開発部   』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧ポーランド領、グダンスク沿岸部。

 ここには今、大小、所属国全く異なった様々な戦艦が、海洋上を流れていた。

 国連軍、欧州連合、ワルシャワ条約機構軍……これら3軍による、連合軍である。

 

 その中には、勿論、東ドイツの存在も見られた。

 

 

「俺たちの知らない間に、こんな作戦が進められてたとはな……」

 

 

 そう呟くのは赤髪の青年、テオドール。

 彼とその隣にいるカティアは今回の作戦、『海王星作戦』のブリーフィング後に、自身のいる艦上にてそよ風に黄昏ていた。

 海に背を向けたカティアが、残念そうな声質で、

 

 

「西側の思惑が詰まった作戦ですよね……」

 

 

 カティアが言ったように、今回の作戦は西側、つまり資本主義国家の主導の下に進められる作戦である。

 その為今回ワルシャワ条約機構軍は、東ドイツ軍しか参戦していない。ソ連は参加を拒否したのだ。

 

 そして、ドイツ軍は東ドイツ最強と名高い、第666戦術機中隊しか出撃させていない。

 東ドイツに資金は少ない。損傷は少なくしなければならないのだ。なので、今回の作戦参加部隊はまさかの彼らのみ。

 ……まあ、東ドイツの名前を売ることが一番の目的なのだが。戦術機単体の戦闘能力の高さを他国に知らせる事。それが今回の本当の目的である。

 

 因みに、西側は東ドイツに盾としてまだ頑張って貰うというものと、東側よりも西側の作戦の方が優位だという事を証明する為にも、東側の作戦参加を、密かに狙っていたのだった。

 

 カティアは背を振り向いた。

 

 

「——艦艇30隻、戦術機500機、車両数千……」

 

 

 カティアは一瞬溜めてから、ハッキリした声質で、

 

 

「作戦参加人数、30万人……!」

 

 

 その視線は自らの前を進み続ける、数多くの戦艦に注がれていた。

 これを見てテオドールはフッと一笑。

 

 

「ちっぽけだよな……俺たちは」

 

 

 自分達を卑下した。

 

 これから現れるであろうBETAは数十万もの大群がいる。それなのに自分達は、これだけの数でしか戦えないのだ。

 そして、実際に戦えるのは精々数千程度が関の山である。

 自分達はこれだけの国が手を取り合っても、これだけの戦力しかないという事に、何処が褒められるのだろうか。

 

 

「それでも、戦果を上げる事で、東ドイツの精強さは、アピールできます!」

 

「ああ、その為に俺たちが派遣された訳だな。最強の戦術機部隊として」

 

 

 だが、自分達のような存在がいる事で、他国へのアピールが出来る。これは自分達にとって、党にとっても一番重要な役目である。

 

 

「それにしても……エーアストさん、今回も来るんでしょうか……」

 

「……あいつは来るよ。俺たちの予期できないタイミングで、必ずな」

 

 

 テオドールは過去の事に思考を飛ばす。

 今までエーアストは、自分達が予期できないタイミングで、自分達に干渉して来た。

 

 イングヒルトの被撃時、

 

 基地へのシュタージ強襲、

 

 パッチウォーク・バタリオン(つぎはぎ大隊)作戦への乱入、そしてシュタージへの攻撃。

 

 そして、先の謎の生物兵器による要塞襲撃。

 

 彼は、毎回自分達東ドイツに対して、絶妙なタイミングで干渉して来ている。

 しかもそれのほぼ全てが、自分の目の届く範囲で行われている。これには、少しばかりの疑問を抱く他ない。自分達と彼には、何かの繋がりがあるのではないか、と。

 

 

「……だからこそ、俺は信じてみたい。奴の取る行動の、意味を」

 

 

 イングヒルト救出の時だって、要塞救援の時だって、彼は人助けのために動いていた。

 シュタージの部隊を撃破してはいるが、正規軍の部隊を襲撃したというのは、聞いた事がない。

 そして何より、彼は言ったのだ。この腐った国を更生するのを、手伝うと。

 奴が何を考えているのは、テオドールにも分からない。が、それでも、なんとなくでも、彼を信じてみよう。そんな感情が、彼の中には確かに芽生えていたのだ。

 人見知りで、極度の閉鎖症の彼が。

 

 

「テオドールさん、今回の作戦、絶対に成功させましょう!!」

 

 

 カティアがガッツポーズをして、笑顔で抱負を述べる。

 その笑顔に釣られてテオドールも口元を三日月型にして、

 

 

「ああ、絶対に、絶対に成功させるぞ!!」

 

 

 それは彼なりの、BETAと、引いては自分に対しての抵抗だったのかも、知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時計の針が12時を指した時、空に無数の花火が舞い上がる。

 

 30隻の戦艦による、連続砲撃だった。

 

 けたたましい爆音を響かせて、何十もの戦艦から火花と黒煙が散る。その矛先はすべて、ポーランド沿岸部に向けられていた。

 

 そんな中、沿岸部から一本の光が射出され、一隻の戦艦が爆発。砲撃時のそれとは違った黒煙が、天へと登る。

 

 

 光線(レーザー)級による、レーザー砲撃だった。

 

 

 味方の戦艦が一隻やられた事で、連合軍に少なくない同様が走る。

 先程の戦艦のような運命を辿る船は、皆全て五分五分の確率なのだ。

 その恐怖は確かに、人間に対して心に刻まれている。

 

 そして、そんな感情が刻まれているのは、第666戦術機中隊も同じだった。

 

 

『『……っ!!』』

 

 

 戦艦が爆発した事に、カティアとリィズは動揺が隠せなかった。

 自らにもその高音の収束体が、向けられるかも知れない。そう思ってしまっていた。

 

 

『心配するな。沿岸部の光線(レーザー)級は水上部隊の砲撃で掃討される。怖がるな』

 

 

 そんな事務的な言葉をテオドールは投げかけるが、当然そんな言葉では恐怖は揺るがない。

 それどころか、逆に不安を煽りそうな言葉である。

 だが、そこで部隊内に通信が繋げられる。

 

 送信元は、アイリスディーナだった。

 

 

『各員、こんな話を知っているか?』

 

 

 彼女は軽やかな口調で話し始める。

 

 

『ベルリンのラジオ局にこんな質問が届いたそうだ。BETAの死骸は食べられるのですか、と』

 

 

 彼女は、一息区切って続ける。

 

 

『そこで、局員はこう答えたそうだ。

 "とても不味くて食べられた物ではありません……貴方がイギリス人でない限り"』

 

 

 呆れたような表情をしアイリスディーナは言い切った。

 その演技は意外にも合っていた為か、部隊に笑いが巻き起こる。

 いつの間にか、部隊の不安は消え去っていた。

 

 それを見てテオドールはマイクを開ける。

 

 

「カティア、リィズ! 同志中尉を補佐し、必ず任務を遂行させるぞ!」

 

『『ラジャー!!』』

 

 

 二人は気合いの入った声で返答し、通信を切る。

 それと入れ替わるように今度は、グレーテルから入る。

 

 

『同志少尉……よ、宜しく頼む』

 

 

 声は震えているようだが、それは恐怖から来るものではないように見えた。

 以前、要塞でエーアストに喝を入れられた事も関係しているのではないかと、テオドールは密かにエーアストの力を認める。

 それと同時に、奴に負けてばかりではいけない! と小さな対抗心を燃やす。

 

 いまやエーアストの存在は、人の心を動かすまでに浸透していた。

 

 戦術機上部のハッチが開口され、天空に浮かぶ青がその姿を見せる。

 まるでに天に昇るかのように、戦術機の昇降板が昇る。が、その昇降板は看板の水平面で立ち止まる。

 それは、この先は昇降版では上がれないという事を、暗に示していた。

 

 だが……

 

 

『総員傾注。これより我が隊は先行する国連軍と共に橋頭堡を広げ、後続部隊の安全を確保する』

 

 

 カタパルトの留め具が解除される。

 偉い人は言った。他者が自分を歩かせてくれないのならば、

 

 

『第666戦術機中隊、出撃!!』

 

 

 自分の(戦術機)で、行けば良いのだと。

 

 彼らは次々に飛び立っていく。これから共に闘う、多くの仲間と共に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、フランス 西側海洋。

 

 この海には、BETAは居なかった。東側に位置する、東ドイツの活躍によって、まだBETAは到達していなかったのだ。

 その為フランスは、未だにその脅威を直には味わっていない。未だに国全体の安心は守られていたのだった。

 

 そんなフランスの海洋上に、見慣れない物が浮かんでいた。いや、物というよりは『島』、と言ったほうが近いか。

 

 それは、金属で出来た、真四角の要塞。各場所に大小様々な砲台を設置し、中央部に4連装の大砲がついた司令塔のような物が付いている。

 更にその下部にはガトリングガンと、司令塔の何倍もの大きさの長砲も隠れている。

 

 

 アームズフォート(AF)、ギガベースだった。

 

 

 そんなAFの中で話し込む二人の男たちがいた。

 何方(どちら)も白衣を着込み、中には作業服を着込んでいる。他の場所にいる同じような服装をした者の中には、レンチを持っていたり、書類を持っていたりと、様々な格好をしている。

 二人組の内、レンチを持った若い男が手振りを加えて切り出した。

 

 

「先輩、マジで言ってるんですか? ここが異世界だって」

 

「ああ、上の命令を聞く限りじゃ、その通りだな。確か特殊な生物の秘密を解明する為に俺たちは送られてきた……らしいぞ」

 

「マジっすか……」

 

 

 彼らの正体は『キサラギ 第十三技術開発部』に所属する技術者の一員。

 エーアストが受けた依頼によって、解析班として送られて来た技術集団だ。その構成数、約30名。比較的小規模な人数構成で成り立っている部署である。

 そんな彼らは今、何をやっているのか。

 

 

  AFの改築である。

 

 

 そもそも、このAFはBETAを解析する為にわざわざ設置された物である。当然、BETAを収容出来なければ、意味がない。

 しかし、AFの基本オプションにそんなオプション(異生物収容施設)が付いている訳も無く……結果、『財団』が用意した特注品のパーツに換装する事で、事無きを得たのである。

 

 そんな話題の中心、BETAだが。今日の午後に搬入予定だった。

 

 

「一応パーツ換装は終えましたけど……あんなに頑丈にする必要、ありますかね? 『AMIDA』の時よりも厳重じゃないですか」

 

 

 そんな疑問をぶつける若い男に、タバコを吸っているガタイの良い男はその分厚い手袋で頰を掻きながら、

 

 

「まあ俺も話程度しか聞いてないが……なにやらその生物、ACみたいな奴を素手で殴り殺したりしてるらしいぞ」

 

 

 その言葉は嘘ではない。実際にACみたいな奴(戦術機)素手で殴り殺す奴(要撃級)もいるし、レーザーで撃ち落とす奴(光線級)もいる。

 そんな生物の話を聞いてキサラギの若者のテンションが上がらない筈が無かった。

 

 

「おほっ! マジっすか!? なんすかその超生物!!」

 

「まあ待て待て、慌てなくてもあと数十分で送られて来るから」

 

「そそそ、そうっすよね!! まだ慌てる時期じゃない、まだ慌てる……」

 

 

 その一言を繰り返し呟き続ける若者にガタイの良い男はやれやれ、と頭に手を置く。

 が、そんな対応をしているが、実はこの男もBETAが届くのにワクワクが止まらない様子だった。

 ACみたいな奴(戦術機)と渡り合える生物とはどのようなものか、制御出来るのか、素材を(ゼロ)から作るのは可能なのか。

 男の頭の中は既にBETAの事で一杯だった。

 

 

 結局、キサラギの技術者は何処に行っても、キサラギなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は戻って旧ポーランド 内陸部

 

 ここには今、三種類の戦術機部隊がいる。

 

 

  西側最大の軍力を誇るアメリカ軍。

 

  欧州各国の戦術機で構成された、欧州連合軍。

 

  そして、戦術機一個中隊のみの参加となる、ワルシャワ条約機構軍。

 

 

 それぞれが『北』、『中央』、『南』を受け持ち、橋頭堡から40kmの空間を制圧、BETAを撃滅する。

 確かに、軍力に溢れる『西側』ならば、その確保は容易だろう。時間と資材さえあれば、無理のない作戦なのだから。

 

 しかし、戦術思想から異なる東側からすれば、その作戦は非常に無の悪い作戦だった。

 ソ連は西側主導の作戦に参加する気は無く、東ドイツの他の機体も練度が比較的低い為、不参加。そもそも東側にとっては一機でも破れてしまえば、この作戦に参加する狙いが消え失せてしまうのだ。

 

 そんな訳で、東ドイツは人一倍少ない戦力で戦線を維持していたのだった……が。

 

 

 これよりも更に少ない戦力で戦線を、というか敵陣真っ只中で暴れまわっている戦術機のような機体がいる。

 

 その数なんと(いち)。一個小隊という訳でもなく、たったの一機で万を超える大群と同等以上に渡り合っていた。

 

 

 それどころか、BETAを蹂躙さえしていた。

 

 

 【折り畳み式の巨大な砲身】から射出される弾頭は突撃級の装甲を撃ち抜き、

 

 腕部に付けられた発振器から創られる【淡い光の刀身】が要塞級の脚を刈り取り、

 

 レーザー級の攻撃を避け、

 

 終いにはその手に持つライフル砲でBETAを跡形も無く消滅させる。

 

 

 そんな『化け物(イレギュラー)』の通称は、【黒い亡霊】

 

 後に『ジョリー・ロジャーズ』の『世界最強の戦術機中隊』という看板を引き摺り下ろす、『世界最狂の戦術機』であった。

 

 

 これは、あくまで彼の始まりの物語に過ぎない。

 

 

 

 彼は、これ以上の事を、未来に仕出かしてくれるのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
   —収支報告—

◯収入金額 前金報酬: 230,000
      成功報酬: 95,000
      特別加算: 33,142,000(小型15100、中型11000、大型10)

◯支出金額 弾薬清算: 15400C
      機体修理: 0(修理なし)
      特別減算: 0(なし)

◯合計        140,827,260C

 

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