まずいシリアル食ったら死んだ。 —Muv-Luv—   作:アストラ9

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東ドイツの、イレギュラー

 

 アイリスディーナのその一言で、場の空気が入れ替わる。

 流石だな。

 それじゃあ早速、交渉に入るか。

 

「っと、その前に。一つ、お前に聞きたい事がある。

 お前が今から交渉するのは、東ドイツ軍人としてか?

 それとも、アイリスディーナという個人として、か?」

 

 彼女との対談に於いて、もっとも重要な事がある。

 それは、相手が個人であるか、それとも、組織であるか、だ。

 

 組織であるならば相手とどう闘うのか、などを考えてしまうな。

 これでもそれなりの腕はあるつもりだ。相手の引き抜き、排除、政治的利用。どんな攻撃があるか分からない。

 詰まる所、相手を『敵』として認識して交渉を進めなければならないのだ。

 

 反面、個人としてならば相手を『商人』として見る事ができる。

 相手は俺の事を大体の場合、同じものとし、同じ土俵で見極める事が多い。

 "持ちつ持たれつ"、この関係が確立し易いのだ。

 

 さて、俺としては後者の方がやり易くて助かるんだが。

 彼女はどっちの面で、接してくるのかな?

 

「勿論、ドイツ軍人として! ……と、言いたい所だが。

 今の軍の連中には、少々不満があってな。シュタージと裏で繋がっている奴らがいて、ウンザリしている所なんだ」

 

 ふむふむ、という事は?

 

「この場での私は、『アイリスディーナ・ベルンハルト』という一人の女として、この場に立つ事を宣言しよう!」

 

 ……どうやら、その言葉に嘘はないらしいな。

 声質がハッキリしている。

 ま、元々嘘をつくタイプには見えなかったがな。

 

 ならば話は速い。

 俺は前々から考えていた事を彼ら、特に彼女(アイリスディーナ)に話す事にした。

 

「ならば俺に良い話がある。……が、その前に。

 お前達(東ドイツ軍人)も彼女と同じなのか?」

 

 その質問にその他の面は無言で首を縦に振った。

 ふふふ、タイミングはバラバラながら、皆の心は同じらしい。中隊メンバーは愚か、陸軍メンバーもが同じだなんてな。

 いや、それ程シュタージが嫌われていたという事か。

 

「お前達の気持ちは分かった。

 ……その上で提案させて貰おう。ここに居る全員、俺と組め」

 

 その場の空気が凍った。極寒の地ではあるが、そう言った意味のではなく、空気的な意味で。

 即座にアイリスディーナが再起動し、

 

「そ、それは一体、どういう事だ……?」

 

「なに、簡単な事だ。お前達に裏切れと言っているのだ、祖国を」

 

「あ、あなた! そんな事許されるとでも思っているの⁉︎」

 

 アイリスディーナが質問し、俺が簡単に纏めた答えを言い与える。

 だがその言葉だけでは物足りなかったのか、彼女の左側にいたセミロング黒髪、グレーテルが即座に反応を見せた。

 

 まあ予想は出来ていたがな。

 俺に対して何度か上から目線の態度で接してきた彼女だ。その高飛車な性格は、権力から来るものからだろうと、言動などから予測はつけている。

 それが先天的であるか、後天的であるかどうかは別として、な。

 

 さて、そんな彼女に対してはどんな対応をするかと言うと……

 

「……グレーテル・イェッケルン。お前にさっき聞いたよな?

 ここにいるのは彼女(アイリスディーナ)と同じ心の奴、極端に言えば反祖国思考であるか、と」

 

 まあ極端に言えば、だが。

 

「なっ⁉︎ そんな訳ないじゃないか! 党の人間である私が、そんな思考の持ち主だなど……!」

 

「だが、疑問を持っている事には変わりないだろう?

 例えば、国民を監視するシュタージの存在、とかな」

 

「……」

 

 その一言は、正に強烈であった。

 先程自分は権力ある人間である?的態度から一変して、消極的態度へと早変わり。これさえ言えば、相手が黙る事間違いなし!

 まあこれを言えば、大体の東ドイツ人は黙ると見込んで言ったのだが。逆に言えばこれが利かなかったら、今までの流れが崩れる所だった。危ない危ない。

 

「だからこそ、お前は先程の質問の際、異議をださなかったのだろう?

 自分の本心の部分では、密かに共感していたから」

 

 その言葉に、グレーテルは完全に黙り込んでしまう。

 少し前に東ドイツ人はメンタルが強いと思ったが、どうやら全部が全部、そうではないらしい。

 まあそのお陰で、確信も持てたのだがな。

 

「グレーテル、この際ハッキリしてみせてはどうだ?

 自分はその、"党の人間"とやらなのか、それとも自分の意思で行動できる、この隊の人間なのか、な」

 

 自由とは、皆がそれぞれ持ち得るものである。

 それを他人がどうこうする事は、絶対にしてはならないのだ。

 グレーテルはその顔をあげた。

 少々優れないようだったが、その顔には確かな闘気が芽生えていたようだった。

 

「さて、それじゃあもう一度聞くぞ?

 お前は一体、誰だ? 

 上の人間の操り人形か? 上が権力を直接使う為のプロセスなだけか?

 それとも……自分の意思が確立された、人間なのか?」

 

「私は……私は! 第666戦術機中隊政治将校、グレーテル・イェッケルン中尉だ! 他の何でもない!

 党の操り人形でも、誰かの道具でもない! 

 私は………人間なんだ!」

 

 決死の表情で訴えかける。

 どうやら彼女の心は、決まったらしいな。トラブルが起こる前に解決できて、良かった。

 というかこの場までに解決出来ていなかったって、結構ヤバい話だと思うんだが。

 ギスギスした会社にだけは、勤めたくないものである。

 

「……ならば、それなりの行動をしてみるがいい。

 最初に言っておくが、それがお前の意思というならば、俺はそれを認めてやる。他の誰もが否定したとしても、俺だけはお前の存在を、認めてやる。それだけは。忘れるな」

 

「……!!」

 

 孤独というのは、人間にとってはとても辛いものだ。

 精神が安定せず、馬鹿な行動に出やすい。自殺、とかな。

 だから、認められる必要がある。それが例え虚像だとしても、縋り付く位はできるしな。理想としては並び立つ位だな。

 ……ま、偉そうな事言ってるが、最初の世界では俺、一人で死ぬまでAC乗り回してたけどな。

 そういう体では、別に大丈夫なのかもしれん。

 

「まあ、お前には既に、ちゃんとした仲間がいるから、俺なんて必要ないと思うけど」

 

 チラリと中隊メンバーを見やる。

 グレーテルもそれに釣られて首をそっちの方向へと回す。

 皆、優しい瞳で見つめている。やはり、同じ中隊内での仲間、だという事か。

 

 グレーテルは一人でその場に崩れ、泣き叫んだ。

 それが何を意味するのか、俺には良く、分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、あれからは通常通りに話が進んだ。

 偶に横槍が入って上手くいかない事もあったが、大体の目的は達成した。

 

 まず、俺が求めたのは『この場で俺と彼らが接触した事は内密にする』、という事だ。

 

 もしもこれが連中の上にバレたら、色々と面倒な事になるだろうからな。彼らが俺の情報を持っている事をしったら、戸惑いなく拷問すると予想を立てている。

 それに、俺の方も、内密にしてくれたら助かるしな。顔が割れてちゃ、身動きが取りにくくなっちまう。

 これに関しては、双方の合意の元で、決まった。

 

 次に、技術的支援は一切しない、という事だ。

 

 これの理由も前記と同じで、彼らの持つ兵器のレベルが上がってしまったら、俺の存在が関わっていると、バレてしまうからだ。

 それでも、例外はある。

 

 それが、次に提示した、【ドイツ陸軍の引き抜き】だ。

 

 知っての通り、彼らの残存勢力は少ない。

 ディソーダーの襲撃によって、そして度重なる防衛戦によってその数を大きく減らしている。

 その数なんと、63人。随分と数を減らしたもんだ。

 また、人員の補充は無いらしい。こんな所に寄越す戦力は無いと、却下されたらしい。

 

 この数で最前線を守り抜くのは、至難の技だろう。63人の歩兵で、BETAの軍勢を退くのはかなり難しい。

 というか、次の戦争でこの隊は、十中八九、全滅すると予想を立てている。

 小型BETAでもその数は100を優に超えているのだ。体のスペックで負けているのにも関わらず、数でも負けている。

 更に大型種も来る。これでは、負け戦と何も変わらない。

 

 そこで提示したのが、

 

「ここにいるドイツ陸軍の全てを、俺の傘元にいれよう」

 

 というものだ。

 ドイツ軍に対しては俺からは何も支援が出来ない。奴らの上の連中と少しでも繋がっている者に、背中を預ける事は出来ない。

 

 ……が、ならばここにいるドイツ軍人達が本部との関係を断つと言ったら?

 情報の漏洩の心配は無い。つまり技術的支援が可能となるのだ。

 また、部下ならば俺のとこから機体を降ろす事も出来る。アディル達にも新メンバーの初期機体だと、そういう建前も出来るしな。

 

 するとどうなると思う?

 俺の勢力は一気に拡大し、陸軍は此方の技術を確保する事によって死亡率を大きく減らし、戦術機中隊は腐った連中に対する手札を増やす事が出来る。

 万々歳だな。……ま、上手くいけば、だけれども。

 

「エーアストさん! 凄いっすね、コレ!!」

 

 要塞内の片隅で、飛行機のパイロットシュミレーターみたいな物に搭乗している、元ドイツ陸軍人が叫んだ。

 

「ああ、そうか。それは良かった。お前は何も無いようだな」

 

「勿論っすよ! こんな面白そうなシュミレーター、酔うわけないじゃ無いですか!!」

 

 そう言って、シュミレーターの画面を見せつけてくる。

 中に写っているのは、右側に写る巨大な砲身から光の球を射出しながら右へ、左へ、前へ後ろへと移動し続ける画面。

 真ん中には、『GREAT‼︎』の文字が浮かび上がっている。

 

 彼がやっているコレは、『MTシュミレーター』。

 シャフターやレイヴンマスカーなど、凡ゆるMTのデータが入っており、コックピットブロックも換装する事である程度の特殊機にも対応できる、汎用型シュミレーターだ。

 イングヒルトもやっていたシュミレーターだな。これを何台か購入して、要塞内に配置してやった。

 

 彼らには丸一日かけて事前に簡単な説明を施している。

 リヴィ達に講師を務めてもらってな。

 その甲斐あって彼らの全員がシャフターのシュミレーターを、操縦過程と射撃過程をクリアしている。

 1日でコレをマスターするとは、流石は元軍人である。

 

 で、シャフターの基本シュミレーターをクリアした奴らに今度は機動戦闘シュミレーターをやらせてみた。

 これは移動と射撃を両立しながら仮想敵を撃破する物だったんだが……10人あまりが、いとも簡単にクリアしてしまった。

 聞いてみると、彼らの殆どは元戦車乗りだったらしい。底で合点がいった。なんとなく彼らの動きがタンクっぽっかったのが、小さな疑問だったんだ。

 

 そしてこのシュミレーターまでもをクリアした奴らは次に、とんでも無い事を言ってしまった。

 

「こんなの楽勝すぎだぜ! もっと難易度の高いのはないのかぁ!!」

 

 この一言がいけなかった。

 

 この一言を聞きつけたリヴィが怒って、クアドルペッド用のシュミレーターを用意したのだ。

 クアドルペッドは、数あるMTの中で、比較的高い難易度を誇る。

 高い機動性による高負荷のG、照準はその動きのせいでよくぶれ、EN管理にも気を配らなければいけない。それと、相手の攻撃から身を交わす技術、とかもな。

 

 そんな高機動戦闘を主軸とするクアドルペッドを、鈍足な戦車に乗りなれた奴らに、使いこなせる訳がなかった。

 戦車とは融通が違うため、コントロールが効かずに壁によくぶつかり、ENがすぐに切れ、フルボッコされる。

 

 戦車乗りである彼らに乗りこなせるようなものではなかった……彼を除いて。

 

 再度クアドルペッドのシュミレーター【高難易度版】にチャレンジしようとする目の前の元軍人、『フォルト』を見る。

 

 彼が今回の最優秀パイロットだ。そのセンスには、かなり驚かされた。

 

 まず、彼は戦車乗りでは無い事。

 つまり兵器の操縦経験が一切無かったという事だ。

 普通の車とは違い、兵器の操縦にはある程度のテクニックが必要となる。重い物を動かすのだから、それなりのものは必要だ。

 そんな経験があった戦車乗りだからこそ、大多数の奴らは機動戦闘ができた。

 そんな中で、一人歩兵が試験を生き残っていたので、面白いなとは思っていた。

 

 そして、頭角を表しだしたのは、クアドルペッドの試験の時。

 

 他の奴らが事故って終わっている傍で、コイツは一人悠々と仮想敵を排除していったのだ。

 これには他の奴らも、目を剥いて固まっていた。

 

 その後コイツは何を思ったのか、今度は高難易度版をプレイし始める。

 仮想敵が大幅に増加し、自機に負荷を増加させるモードの事だ。成り立てAC乗りでも、出来ない奴がいるくらいだ。

 並大抵の奴では即フルボッコなのだが……コイツはこっちまでクリアしやがった。

 

 流石にこれには驚いたね。

 兵器操縦の経験の無い奴が、高難易度のシュミレーターをクリアする?

 ……面白い。素直に脱帽してしまったよ。

 

 これから、面白い事になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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