まずいシリアル食ったら死んだ。 —Muv-Luv— 作:アストラ9
どうも。作者です。
本当は他の奴の執筆を進めたかったんですが……ACMAD見て やる気が出たので、投稿です。
今回も前回と引き続き前編だけ、投稿となります。後編はもう暫くしたら投稿して、結合する方式を取らせていただきます。
ご意見あれば感想までどうぞ。
では、本編どうぞ。
「………ねえ、ねえ、ねえ!
イングヒルトは……イングヒルトはどうなったの⁉︎」
目の前の名も知らぬ少女が、肩を掴んで前後に揺すってくる。
自己紹介もされずにこんな事をされると言うのは非常に不愉快なのだが……彼女の顔を見るに、どうやらそんな事はどうでも良いらしい。
それと、彼女は今、"イングヒルト"、と言っていたな。
「なんだ、お前はイングヒルトとどんな関係なんだ?」
恐らくだが、彼女とイングヒルトが最後に会ったのは、俺が行なったあの、誘拐事件当日だろう。
彼女が何処にいたのかは知らないが……少なくとも、イングヒルトはBETAにリンチされていたからな。コックピットブロックを。
無事ではないと言うのは誰にでも想像が付くだろう。実際、軽く見ただけで最低でも肋骨が何本か逝ってるのはすぐ分かった。
それは、あの時、彼女を外に連れ出した時に俺の背負っていたイングヒルトを見れば、機体越しだった彼らにも分かったと思われる。
肩を握る力が強くなる。
「私と、イングヒルトの関係……? そんなの、決まってるじゃない! イングヒルトはね、私の、私達の……」
そして、周りの彼らが抑えている感情を、彼女は剥き出しにしている。
自分の気持ちが、抑えられないのだ。
戦場だから、覚悟は出来ている筈だが……彼女には、抑えられなかった。イングヒルトという存在が欠ける事に彼女は、不安を覚えている。
彼女にとって、そんな存在となり得るものは、恐らく、ただ一つだろう。
それは……
「
「——ッ!」
彼女の目元が潤んで、次第赤くなっていく。
戦場にて、他の兵士に対してそこまでの感情を抱くのは、家族か、友しかいない。
家族という可能性もある事にはあるが……髪の色、顔の形から、違うという見解を付けた。
まあ、歳の事を考えると、自然と戦友となるではないか、という意見が一番大きいが。
「それで、彼女の安否を聞いてどうするつもりだ? 自分も墓参りぐらいには行きたい、ってか?」
「……!!」
とりあえず、イングヒルトは死んでしまった、という方向で話しを進めておく。
見た所、彼女はメンタルが弱い。こんなんで戦場に出られたら、溜まったもんじゃないだろう。
だから一度、"心を折っておく"。
人間という生物は、本当に面白いものだ。
なにせ、失敗からしか、何も学べないのだから。
時既に遅し、という言葉があるように、時間が経たないと人間は振り返ろうとは思わないのだ。
だからこそ、此処で心を折り、後悔させる。
自分はあの時、ああしていれば……、なんて、後悔の渦に巻かすのだ。
「お前は、あの時何をしていた? 彼女の事、メンバーに対して気を使いながら戦っていたのか?」
後悔している中で、俺が更に追撃を加える。
俺はいつも思っている事がある。
"やるならば、中途半端では止めない。確実に、徹底的にやりきる。"
適当に傷を残して放置しておくと、後で痛い目を見る事になるからな。弁当箱に染み付いたカビと一緒だ。
「お前がもしも、最前の注意を払って戦っていたと言うならば、それは苦笑を禁じ得ない。
何故なら、お前の最善の注意とは、仲間を見殺しにする、その程度の物でしかないのだから」
彼女が顔を手で覆い尽くす。
その中からは、すすり泣くような声が聞こえてくる。
まだ心を折れそうな気がするが……生憎、外野が続きをさせてくれそうにない。
赤髪青年、テオドールが前に出た。
「おい、良い加減にしろよ、お前!」
そして、此方を批難した。
ふむふむ、彼は何処となく大人びているような外見だったが……目を見るにどうやら、仲間を特別大事にしているようだな。
仕方ない、予定より早いが、彼の意思を見せて貰ったからな。説教タイムはここら辺で終わりだ。
俺が話そうとする前に、金髪隊長、アイリスディーナがテオドールの前に手を出して、
「そこまでにしろ、テオドール・エーベルバッハ少尉」
「なんでだよ、アイツは——!」
「エーベルバッハ少尉、二度目はないぞ」
「……チッ、了解」
どうやら、金髪隊長は俺の意思を読み取ったらしい。流石だな。
しかし……戦場での動きも洗練された物だったし、この場での状況判断能力も高い。此処まで能力が高いと、交渉能力も最低限のものは持っていると思われる。
そんな彼女は一体、何者だ?
「(……まあ、今は良いか)」
今すべき事は、他にある。
金髪隊長の事は、後回しでも良いだろう。……まあ、問題の先送りはあまり好きではないが。
さて、次は橙髪少女の心を一体どうするのか?
「でも、だったら今度こそは、仲間を守ってはみないか? 他でもない、お前自身の手で、な」
「……え?」
心を補強するのである。
言っただろう? 俺は中途半端は嫌いだと。
他の中隊メンバーをバックに出来る場所まで歩いていく。
「お前は、イングヒルトを助ける事はできなかった。それは、塗り変える事のできない、事実だ」
「……」
「だが、だからこそお前は、未来に向けて考えなければならない。イングヒルトが自分の命を持って教えてくれたのは、なんだ?」
そこで一旦区切ってから、彼女の瞳を見つめる。
彼女の目元は未だに、少し赤かった。
俺は答える、戦場に於いて、大切な事を。
「人間の脆さと、連携の大切だ」
「人間の……脆さ?」
「そうだ。この戦争、BETAとの戦争の事を思い浮かべろ。人間が生身で、最小サイズのBETAだとしても、勝つ事が出来るか?」
答えは、"出来ない"だ。
彼らとは、身体のスペック・考え方が違う。
俺たちが
肉体的に勝つという事自体が無理である。
「そして、敵はBETAだけじゃない。自分達の機体が出す、"G"も相手だ」
このGがあるからこそ、戦術機での連続戦闘は行えない。生身の人間には、有り余るエネルギーが身体を襲うのだ。
その身体への蓄積ダメージは、並大抵の物ではない。
「人間は脆い。それなのに、
そんな人間がこれらに打ち勝つ為には、何が必要だ?」
「もしかして……」
「ああ、お前の考えている通りだ。
人間がこれらに打ち勝つ為には、一人ではダメだ。つまり、連携が必要なんだ」
連携とは、一人では出来ない芸当を何人かで分担して、成そうとする戦術の事だ。
例えば、逃げ回る牛を一人で追い回しても、追いつく事はない。
が、一人で追い回してある場所へと誘導し、誘導された場所でもう一人が網を持って構えていたら、どうだろう?
これならば、牛を捕まえる"目的"は達成された事になる。
連携とは、"目的を達成するための戦術"の一つだと言える。
「一人で勝手に突っ込んでも、コストが嵩張るだけだし、いつかは破錠する。個人の力では無理がある事が、あるのだ」
だからこその、連携なのだ。
人間の手は二つしかない。それ故に、扱えるものの選択は狭くなっていく。
それを広げる為にはまあ……数を増やせばいい、ってだけだな。ネタ的に言うならば、
偉い人は言っていた、戦いは数だと。
「お前はこれから一人で突っ込んでいくので、それで良いのか? 一人で突っ込んで無理して、死ぬのか?
それとも……誰かに助けられて、その誰かを身代わりにするのか? イングヒルトのように」
「!! わ、私は——ッ!」
「お前は今までそうやって、生きてきたんだ。
精一杯頑張って、無理して、誰にも頼る事なく一人で解決しようとしていた。
これからも、そうやって生きていくのか? 誰かに支えられながら、生きていくのか?」
「それは……それは、違う!!」
橙髪が叫ぶ、自らの確かな意志を。
それを聞いて、口元が緩むのを感じるが、俺は話を辞めない。
「そうか、それがお前の答えなんだな。
……ならば今度は、その手で、自らの手で守るがいい。自分の大切な居場所を、仲間を!」
そう言って、自分の両手を大きく広げた。
勿論、その先にいるのは彼女の仲間、中隊のメンバーである。
目の前の少女の目元が再びウルウルと潤う。
が、その目から流れ出る液体を腕で拭き取って、キリッとする。まあ目元は少し赤いが。
「後は何をすれば、分かるな?」
「ええ、勿論。もう、イングヒルトの二の舞には、させない……!!」
その目には、確かな熱が籠っていた。
ふむふむ、荒治療っぽかったが、なんとか成功したようだ。良かった良かった、成功できて。
あ、そう言えば、
「ああ、そうだ。一応言っておくが、イングヒルトは生きているぞ?」
「……え」
そこで一旦空気が静まった。
と思ったその直後、
「「「「ええぇぇぇえええ!!?」」」」
という大声が、要塞内に広がった。
全く、なんだって言うんだ。
「い、イングヒルト!! 生きて、生きていてくれたんだね!!」
俺に突っかかってきた橙髪、アネットが叫んだ。
その言葉の先にいるのは、先日俺の隊へとやってきた、イングヒルトである。
イングヒルトがお返しとばかりにハグをし、
「アネット……! また、また逢えた……!!」
涙を流した。
これが友の為に流す涙、という奴か。
まあ、俺とは無縁なものだな。なにせ、大体の友が戦場にて倒れて行くのだから。……なぜ、俺は一人なのだろうか?
「(……いや、それは俺が"傭兵"だから、だな)」
何処の勢力にも属さない、例外的な存在。
それが俺の、"傭兵"としての特権だ。企業・勢力に属さないからこそ、俺は暴れられるのだ。
後ろ盾を得る事がない代わりに手に入れれる、"自由"という名の特権。
それはこの世界でも、変わらない。俺はただ、依頼をこなして、気の向くままに生きて行くだけだ。
「(……っと、感傷に浸っているのもいいが、交渉を始めないとな)」
目の前のメンバーを見る。
先ほど共闘したドイツ戦術機部隊、第666戦術機中隊の面々。
そして、ディソーダーに自分の陣地を襲われた、歩兵の面々。
こいつら相手に今回は、交渉をするつもりだ。
「さて、それじゃあそろそろ、本題にはいろうか」
その一言で、軽く場を引き締める。
周りを見渡すと、その顔に安房というふた文字はない。
ふむ、この場に於いて、俺の立ち位置はそれなりののものらしいな。まああれだけ暴れればそうなるか。
よし、この勢いのまま、優勢に事を運ばせて貰おうか。
「では、いきなりだが、彼女の事を紹介させて貰おう。
うちの傭兵の一人である……」
「イングヒルト・ブロニコスキーです。皆さん、宜しくお願いします」
イングヒルトはぺこりと頭を下げた。
その突然の挨拶に、第666戦術機中隊面々に、同様が走った。
アネットなんて、地獄でも見たかのように、口をあんぐりと開けていた。
「なっ⁉︎ ど、どういう事なの、イングヒルト!」
同様が一番酷かったアネット。それ故なのか、彼らの中一番に意識を取り戻す。
イングヒルトは反射的に、視線を逸らしてしまう。
そしてその先は、不幸にも俺の方向だった。
アネットは鬼の血相で此方へ近づき、
「あんた……もしかしてイングヒルトに何か……!!」
首根を掴みかかってきた。
ううむ、先程の俺への対応で分かってはいたが……彼女はどうやら、自制が効かない達らしい。
その手は、緩めようなんて事は考えていないと主張するかのように、力が強まって行く。
さて、どうやって抜け出そうか、なんて俺が考えた瞬間に、衝撃が伝わる。
視線をずらして見るとそこには、アネットに向かってしがみついている、イングヒルトがいた。
「アネット、辞めてください! 彼は何も悪くありません!」
「なっ、イングヒルト! 正気なの⁉︎」
「勿論正気ですよ! だって彼は、私の命の恩人なんですよ!!」
「——ッ!」
その言葉を聞いて、首を締めていた手の力が、緩んだ。
その瞬間にさっさと拘束を外し、俺は要塞内の空気を吸い込む。
……建物内だからか、余り美味しくはなかった。
「レイヴン殿、部下が失礼をしたな。すまない」
「いやいや、俺がちゃんと説明してなかったのが悪いんだ。まあ、彼女が短気なのもアレだとは、思うがな」
実際、彼女は沸点が低い。
先程、気を入れ直したとは言え、甲斐性的な部分は治らないらしい。ここら辺は時間と共に回復するのを祈るしかないな。
「……確かにそうだな。彼女には私の方からも、キツく言っておこう」
「……え"」
アネットの悲痛の声が要塞内に響いた。
そんな彼女を放って於いて、アイリスディーナが話を戻す。
「それで……何故イングヒルトが、貴殿の組織の傭兵なのか、説明して貰って良いだろうか?」
眉間にしわを寄せながら、此方へと詰め寄ってくる。
流石である、話の流れを修正するとはな。
「そうだな。良いだろう。実はな……」
それから俺は、イングヒルトに纏わる色々な事を話した。
勿論、直前にイングヒルトに話すかどうかの確認はしたからな。
で、話したのはイングヒルトが死に掛けていたこと、
強化人間手術をしなければ生き延びる事が難しかったこと、
強化人間手術がどれだけ危険で、どれだけ高コストなのかということ。
簡単に言えば、ギガベースでイングヒルトに話した事全部、だな。
「そうだったのか……通りで……」
アイリスディーナはチラリとイングヒルトを見る。
「"傭兵"イングヒルト、今お前は、自分の待遇に満足しているか?」
真剣な眼差しで問い掛ける。
最初は堅く構えていたイングヒルトだったが、その質問の意味に気付くと、自分の目元が潤うのを感じた。
彼女は真っ直ぐな瞳で、
「……はい。勿論です。
私はこの方と一緒に、傭兵として楽しく、気楽に生きています」
嘘を言っていないのは、その瞳が物語っていた。
「フッ、それは良かった。その場所をお前が気に入っているならば、私からいう事は何もないさ。
……それじゃあエーアスト殿、本題に入るとしよう」
それじゃあ次は、ビジネスの話でもしようか。