魚が苦手という方がいましたので、それに関係する話を載せさせていただきます。
これで魚嫌いな方が苦手を克服していただけますと作者的には嬉しい限りです。
「なんで、こんなの間違ってるにゃ!」
数分に渡る攻防の末に逃走したある少女…前川みくは部屋の壁際に追いやられていた。みくの居る場所は部屋から外へ出るための扉から最も遠い位置にある部屋の隅であった。みくを部屋の隅に追いやった原因は同じグループの年上のネコミミメイドの女性、高峯のあだった。そんなのあが部屋の扉とみくの居る場所の間に立ち、みくがどんな動きをしても俊敏な動きでみくの行く手を阻み、みくから逃走という手段を奪う。
みくとのあの関係は険悪ではなく、むしろ良好であるには十分な関係な物であった。週に二度以上は食事を共にし、ショッピングも月に一度は行き、もう一人のメンバーであるアナスタシアと共に三人で添い寝するぐらい仲が良い。そのため、普段からのあを信用していたみくからすれば、のあの行動は青天の霹靂と言っても良いだろう。
「のあにゃん、お願いだから、早まっちゃ駄目にゃ! 考え直すにゃ!」
みくは二つの目から大粒の涙を流し、のあの説得を試みる。みくから見たのあの愚行の根本にあるのあの主張はみくからすれば到底受け入れられないものであった。
「みく、相手を受け入れることは己の可能性を広げる行為。でも、敵対や逃走は自分には可能性の拒絶であり、貴方の可能性を狭める行為。だとしたら、これを受け入れることは貴方がアイドルとして成長するための礎」
のあから返ってきたのはみくの説得を拒絶する言葉であった。だが、のあの言葉は己の利得や快楽からくる言葉ではなく、みくを思うが故の言葉であった。みくもそれは知っている。だが、そんなのあの言葉をみくは受け入れることができないため、のあへと返す言葉は自然と拒絶の言葉となってしまう。
「でも、こんなのおかしいにゃ! 絶対に間違っているにゃ! こんなことでしか成長できないのなら、これを受け入れることでしか認められないのなら、それは世界が間違っているのにゃ!」
「間違い? それは何をもって間違いというのかしら? 誰かの固定概念から逸れることが間違いというのならこの世の発展の全てが間違い。貴方の発言は全ての進歩を否定することよ。みく」
ガリレオ=ガリレイは天動説から逸脱した地動説を唱え、そんな彼に対して教会は異端と認定し、ガリレオの主張を否定した。だが、真実はガリレオの主張に即したモノであり、教会の裁定は己の優勢を維持するための下らないものであり、現実からの逃避に他ならなかった。みくの主張はそんな教会の主張に近いと言って、みくの主張をのあは否定する。
それでも、みくは唱える。
「だから、お魚は嫌にゃ!」
あるスタジオのある控室で魚を箸で摘まんで自分を追い込むのあに対してみくは叫んだ。そんなみくに対してのあは禁句をみくに浴びせる。
「失望しました。みくにゃんのファン辞めます」
「というわけで、のあにゃんのやっていることは酷いとみくは思うの」
「苦悩を受け入れ取り込むことで人は成長する。だから、私はみくにその切欠を与えようとしただけ」
「ニ パニラー…分からないです。ノアもミクも正しいと私は思います。だから、判断デキナイ、です」
にゃんにゃんにゃん内乱の事の発端は楽屋に置かれた弁当だった。楽屋に置かれていた弁当は三つ。一つはハンバーグ弁当、一つはエビフライ弁当、最後の一つは焼き魚弁当だった。みくはハンバーグ弁当を食べようとした。だが、のあはみくの前に立ちはだかる。その間にアナスタシアはエビフライ弁当を手にして食べ始めた。残る弁当はハンバーグ弁当か焼き魚弁当の二つ、魚嫌いで肉料理の好きなみくからすれば、天国と地獄。なんとしても天国に辿り着くためにハンバーグ弁当を手にしようとするが、焼き魚弁当を手にしたのあに追い詰められてしまい、先ほどの攻防戦があった。
「みくはどうしてもハンバーグが食べたかったにゃ!」
「私はみくに魚料理を食べることで得られる可能性を手に入れてほしい」
「そんなお話をどうして私と瑞樹さんに?」
のあ、みく、アナスタシアの座るソファーの向かい側にあるソファーに座る楓は三人に疑問を返す。
「楓さんと川島さんはのあにゃんとで、ビザール・アダルティ(直訳:奇想天外な大人)ってユニットを組むって話を聞いたのにゃ! だから、みくたちにのあにゃんの暴走は止められないけど、二人なら止められると思ったのにゃ!」
「みくちゃん、どうして私だけ呼び方が名字なのかしら?」(28歳)
「そ…それは…楓さんにおまかせするにゃ!」(15歳JK)
「さあ、どうでしょう? 分かる、のあちゃん?」(25歳児)
「……呼称は人其々、だとすれば、その意味もまた其々」(フリーダムな24歳)
「のあにゃんの言うことは…ムドリョーヌゥィ……難しいです」(ハーフロシア15歳)
「つまり、片方は魚を食べたくないけど、ハンバーグは食べたい。片方は魚を食べてほしいというわけですね」
「そういうことにゃ」
料理の事で問題になっているのなら、料理の専門家に聞いた方が良いと考えた楓はにゃんにゃんにゃんの三人を連れていつもの小料理屋に来ていた。
「それで前川さんはどうして魚が駄目なんですか?」
「生臭いの駄目にゃ!それに、小骨があって食べにくいのが嫌にや!」
水産庁が毎年出している水産白書という本によると、魚嫌いという子供は全体の約1割と言われています。そんな1割の魚嫌いに理由を聞いた所、魚には骨があり食べづらいのが嫌いな主要因だと多くの子供は言っている。つまり、骨のない魚料理は食べられるとしている。そのため、最近の量販店はファストフィッシュという加工済みの水産物を販売したり、魚を販売する時に三枚下ろしにしてくれたりと、消費者のニーズに応えるために、色々している。
「うーん、私としては魚もちゃんと料理で使えば美味しい料理が食べられるんですけど…」
「それでも魚は嫌にゃ!」
「店長さん、どうにかなりませんか?」
「分かりました。ちょっと待っていて下さいね」
店長そういうと、厨房へと入り、ボールを持ってきた。そのボールの中には独特な色のミンチが入っていた。店長はボールの中からミンチを200gぐらい取ると、捏ねて、楕円の形になるように成形する。そして、オリーブオイルを引いた熱々のフライパンでそれを焼き始めた。片面を焼き終えると、ひっくり返して、蓋をして蒸し焼きにする。蒸し焼きを始めてから数分後、お皿に乗せて、ケチャップとウスターソースで作った簡単なソースをそれの上に掛ける。色のバランスのために、トマトとアスパラを盛りつけて、みくの前に出した。
「お待ちどうさまです」
「ハンバーグにゃ!」
白い皿の上に乗っていたのはハンバーグであった。
昼間にハンバーグを食べ損ねたみくは大喜びでハンバーグを口にする。だが、ガンバーグを食べたみくは不思議な感覚に陥った。
不味くは無い。いや、寧ろ結構美味しい分類に含まれる料理だろう。だが、みくが味わったのは不思議な味と食感だった。表面は程良い焦げ目のおかげでカリッとしているが、中は…フワフワだった。つまり、お好み焼きに近い食感をしていた。
ハンバーグ独特のジューシーさはあまりない。肉汁や肉の脂が全く口に広がらない。だが、パサパサと言うわけではなく、サッパリした味であり、食べやすい。だが、ヘルシーすぎる豆腐ハンバーグとはどこか違う。ちゃんと動物性たんぱく質の味がするため、それなりに美味しく、食べた気分になれる。
「これは何のハンバーグなの?」
「鰯のハンバーグです」
頭と内臓を取った鰯をフードプロセッサーでミンチにして、生姜・豆腐・パン粉・片栗粉・卵・塩コショウを足して手で捏ねて、焼いて作った鰯のハンバーグだ。
ハンバーグが食べたいとみくは言ったが、魚のハンバーグは食べたくないと言っていないため、店長は魚のハンバーグを出したのだ。屁理屈だと反論を想定済みの店長は、魚の骨をフードプロセッサーで粉々にしているから大丈夫だという再反論を準備していた。
そして、魚臭いのが駄目だと言ったみくのために、店長は生姜を混ぜた。鰯七度洗えば鯛の味ということわざがあるように、鰯は魚臭いが魚臭さを取り除くことができれば、美味であることは広く知られている。
そんな鰯の魚臭さを無くすために入れた生姜には、ショーガオールという殺菌効果と胃液分泌促進効果のある成分がある。この成分には魚の臭み成分を消す効果もあるため、魚料理に生姜を入れるのは非常に理にかなっている。生姜には他にも色々な成分が含まれている。
ジンゲロンは新陳代謝を高める効果がある。ジンゲベレン、ジンギベロール、シネオール、シトラール、カンフェンなどには唾液の分泌を促し、消化を促進し、胃腸の調子を整えるのに効果がある。これらの薬効成分があることから、生姜は薬として使用されることもある。
ただし、取り過ぎには注意してもらいたい。
「生姜だし、しょうがない」
「では、お返しに、鰯が美味しいって言わしたろうか」フフ
…鰯とは中々面白い魚である。
レジームシフト理論というのがある。海洋の気候の変化によって、生息する生物が微妙に変わるという理論だ。この代表的な例として鰯が挙げられている。鰯が多く生息している時は片口鰯の資源量が少ない。だが、片口鰯が増えると、鰯の資源量が減ってしまう。
「とにかく、鰯は面白いし、意外とやることは理解したにゃ」
「相手は食材で、調理方法によって美味くも不味くも出来ます。魚が原料だから食べないと言って拒絶するのは私から見て少し損な気がします。ですから、少しずつ、魚臭くない骨のない魚料理を食べて魚嫌いを克服してみてはどうでしょうか」
「分かったにゃ。みくも魚だからって意固地になっていたと思うにゃ。だから、少しずつ食べられる魚料理を増やしていこうと思うにゃ」
「みく…分かってくれたのね」
「のあにゃん、みくは頑張るにゃ!もう、今度から仕事や食材を選ぶようなことはしないにゃ!」
「ノア、ミク、ズドラーヴァ……良かった。仲直り、できました」
のあとみくは熱い抱擁を交わし、アナスタシアは横で涙ぐみながら拍手し、楓と瑞樹も拍手をする。自分の料理で誰かが和解したことに店長も嬉しいのか少し涙ぐんでいる。みんなより少し年上の店長は皆より涙腺が緩いのか涙の量が多い。
「それじゃあ、今度はシュールストレミングを食べてみましょうか」
「それは絶対に遠慮するにゃ!!」