はじめさんが可愛いと思います   作:杉山杉崎杉田

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第9話

 

夏休みになった。美術部の合宿の季節である。美大に合格するために青葉とほたるは民宿で絵を描いていた。

それな暇なので、ねねとシュウは裏の山に遊びに行った。

 

「すごーい、大自然って感じだねー」

 

「ああ、まぁそうだね」

 

打ち解けた、というよりねねと青葉がシュウとの会話の方法を覚えたため、なんとか話せるようになっていた。

 

「桜」

 

「何?」

 

「左腕、蚊」

 

「あ、ていっ。……ふぅ、ありがと。にしても虫多いねー」

 

「まぁ、山の中だし。ワンチャン、熊とか出るんじゃね」

 

「ち、ちょっと怖いこと言わないでよ!」

 

「あ、足元蛇」

 

「ぎゃひっ⁉︎……って、いないじゃん!」

 

「がいたらいいなぁって言おうとした」

 

「良くないよ‼︎」

 

ぷんぷん怒るねねを見ながらゲラゲラとシュウは笑ってると、木に蛇が巻き付いて登ってるのが見えた。

 

「…………」

 

「どしたの?」

 

「うん、とりあえずあっちに行こうか」

 

蛇のいない方へ進んだ。

 

「そういえば、桜と白露型10番艦はいつから付き合ってんの?」

 

「えーっと、あれは小学校に上がる前……お使いでスイカを買いに行った時……、

 

『スイカ1玉ください!』

 

『私もスイカ1玉ください』

 

『ごめんよ〜、ラスト1玉なんだ』

 

『ねねの方が最初だからねねのだよ』

 

『なー‼︎倍払います』

 

(な、なんだこいつ……!)

 

……が、出会いだったかな」

 

「偉いクールだな幼少期涼風……」

 

「だけど、結局おじさんがスイカを半分にしてサービスしてくれたから、二人とも買えて、それからかな?」

 

「それで良く仲良くなれたな……」

 

「というか、シューくんこそそういう仲良い友達いないの?」

 

「いないよ」

 

「へ?い、いないの?」

 

「いない。ほたる以外の友達は……」

 

いない、と言おうとしたところで、少し前に良くLINEする仲になった社会人を二人ほど思い出した。が、あれ以来あんま顔合わせてないし、そもそも向こう歳上なので友達とは言えないと判断した。

 

「いないな」

 

「何、今の間」

 

「とにかく、いないから」

 

「なんで?なんでいないの?」

 

「なんでって言われてもなぁ……昔から俺『変わってる』って言われて、あんま友達できなかったんだよ」

 

「ああ、ちょっと納得」

 

「おいテメェどういう意味だこの野郎」

 

「変わってるっていうか、アホだもんね。シューくん」

 

「あ?どこが」

 

「普通、漫画でやってる事を実践する人なんていないよ?ワンパンマンにしても食戟のソーマにしても」

 

「………るっせーよ」

 

「ね、その木殴ってみてよ」

 

「あ?なんで」

 

「いいから」

 

言われて、手首をコキコキと鳴らすと、シュウは木を思いっきり殴った。当然、手は真っ赤に腫れあがる。

 

「ってぇ!おい、俺に恨みでもあんのか⁉︎」

 

「や、普通やらないでしょ」

 

バカにしたようにねねが言った直後、ミシミシっと音がした。二人してそっちを見ると、木に亀裂が入っている。そして、ズズゥンッと音を立てて折れた。

 

「そして、普通の人は木が折れるパンチが突けるようになるまで鍛えないから」

 

「うるせぇなぁ」

 

涙目で赤く腫れ上がった手をプラプラ振りながら、折れた木を見下ろした。すると、「おっ」と声を漏らした。

 

「おい、見ろよ。カブトムシ!」

 

「あ、ホントだ。自然で生きてるの初めて見た」

 

「おいおいまじかよ。俺は何度か虫取りとか(一人で)行ってたから何回か見たことあるよ」

 

「ねねはそんな事ないもん。……あ、こっちにもいる」

 

言いながらねねは折れた木に手を伸ばした。黄色い背中に上下に開く長いツノ、

 

「ってヘラクレス⁉︎」

 

「……? 何言ってんの?」

 

「そのカブトムシの名前だよ!」

 

「ふぅん、強そうな名前だね。逃がそ」

 

「え、あ、ちょっ」

 

逃した。シュウが心底勿体なさそうな顔で飛んでいくヘラクレスを見てると、ねねが「そうだ」と声を漏らした。

 

「せっかくだから、ほたるやあおっちにカブトムシ見せてあげようよ」

 

「………好きにしろよ」

 

「…………何泣いてんの?」

 

「ほっとけよ」

 

マジ泣きしてるシュウに軽く引いてるねねだった。

 

 

民宿に戻った。

 

「あおっちー!ほたるー!見て見てー!」

 

元気良くカブトムシを見せるねねと、後ろから大人しく付いて来るシュウ。

 

「あっ、カブトムシ」

 

「天然モノなんて初めて見たね」

 

その二人の感想に、シュウがマジかよと本気で呆れてると、少し後ずさりしてるちなつが目に入った。

 

「何してんの」

 

「い、いやっ、その……」

 

その様子をしばらく見たあと、シュウは無表情でねねに言った。

 

「桜、あいつ虫にビビってんぞ」

 

「ちょっ、シュウ……‼︎」

 

「…………へぇ?」

 

ニヤリと笑うねね。そして、ゆっくりとカブトムシをちなつに近付けた。

 

「や、やめて……」

 

「おらっ」

 

無慈悲にも、シュウは後ろからちなつの背中を押した。前に倒れ込み、カブトムシがお腹にくっ付いた。

 

「ぎゃあああああああ‼︎」

 

悲鳴とゲンコツの音が民宿に響いた。

 

 


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