イーグルジャンプ。
「はじめー、これなんだけど……」
コウが紙を持って顔を出すと、落書き状態になったはじめが椅子にもたれかかっていた。
「………どしたの?」
「そ、それが……」
代わりにゆんが説明した。
「はぁ、この前の学生クンに彼女らしき子が……」
「はい。コンクールの絵のモデルに選ぶくらいだからほぼほぼ間違いないって……」
「どれ、見せてよ」
「は、はぁ」
「ふふん、高校の部活で描く絵なんて……」
「ちなみに金賞らしいですよ」
「え?き、金賞?」
携帯の画面を見せるゆん。直後、コウは硬直した。いやそういうんじゃなくて。
「うわっ……上手いな……」
「ですよね……」
「これ、ここまで上手いのってこの子のこと好きだからじゃない?あははっ」
「や、やっぱり……?」
「あ、コラ八神さん!」
「あっ……」
魂が抜けたようにカラッカラになるはじめ。
「うわあ!ご、ごめんはじめ!ジョーダンだって!ていうか一回助けられただけでどんだけ惚れてるんだよ‼︎」
「だって……だってこれもう完全に運命かなって思ったんだもん!」
「う、運命って……歳いくつだよ。はじめもその子も」
「ま、まぁまぁ。とにかく落ち着きはじめ。まだ彼女と決まったわけやないし」
「こうなったら……探す。探して問い詰めてやる……」
「い、いやはじめだって彼女やないし……」
「にしてもホントに上手いなぁ、この絵……うちに欲しいな」
ボソッとコウがつぶやいた。
*
球技大会が終わり、シュウはいつものように部室へ。
まだ誰も来てないのか、部室はガランとしていた。眠かったので、丁度いいと思い、机の上に寝転がって鞄を枕にして寝た。
数分後、ねねと青葉が部室に入ってきた。
「こんにちはー!……って、あれ?誰もいない?」
「まだ、来てないだけかもねー。少し待ってよっか」
「うん。………およ?」
ねねが机の上に目を向けた。小さな寝息を立てて寝ているシュウの姿があった。
「あ、豊田くんだ」
「寝てる……?」
「まぁ、豊田くんのクラスは優勝してたからねー、疲れてるんだよ」
「………ふふーん」
ねねはいたずらっ子のように口を歪ませた。そして、鞄の中から黒のペン(油性)を出した。
「ちょっ、ねねっち?」
「こういう人見るといたずらしたくなるよね〜」
「やめときなって、怒られるよ?」
「大丈夫だよー。ちょーっと描くだけだし」
言いながら頬に髭を書いた。ドラえもんのような。
「……ぷふっ」
「あーあ、私知ーらない」
「ララァのホクロも書いとこう」
ノリノリになってきたねねと、絵を描きに行った青葉。
またガラッと扉が開いた。ほたるだ。
「みんな早いね……って、ねねっち⁉︎何してるの⁉︎」
「んー、落書き」
「やめた方がいいって!シュウ怒ると怖いよ⁉︎」
「だーいじょぶだってー」
「いやいやいや!去年、私がカツアゲにあった時にヤンキー達7人全員三箇所複雑骨折させてるから!」
固まるねねと青葉。
「えっ……?」
「ていうか、カツアゲにあったの?」
「うん。とにかく、謝るか起きる前に消しておいた方がいいって!男女平等主義者だからねねちゃん相手でも割とドロップキックとかされるよ?」
「雑巾!あおっち雑巾!」
「………ねねっち、後ろ……」
「へっ?」
後ろを見ると、悪魔の笑顔を浮かべたシュウが立っていた。
「………今、ここで俺にボコボコにされるのと、今週分の俺の飯をスーパーで奢るの、どっちがいい?」
「お、奢ります……」
「………よしっ、」
救急車呼ばなくて済んだ、と安心した。