ゆんは仕事を終えてから、はじめの言う学生とやらを探しに行った。少し遠回りして帰ることになるのだが、まぁ友達のためだし、なんなら写メ撮ればはじめをからかえると思えば安いものだ、と思い探し始めた。
はじめの家の最寄駅で降り、聞いていた特徴の少年を探す。が、いくら特徴だけ分かってても、顔を見ないことには始まらない。
早くも飽きて、帰ろうかと思った時だ。スーパーからレジ袋を持って出て来た男に、ピクッと反応した。
学ランで身長は170cmくらい、青色のイヤホン、ボサボサの茶髪に、半開きした目、スクールバッグを背負っている。耳とポケットの財布は前からなので見えないが、ほぼほぼ間違いない。
ゆんはすぐにスマホを取り出したが、学ランはすぐに路地裏に入ってしまった。
「………お、追いかけないと」
慌てて後を追った。
ヌッ、と薄暗い路地裏を覗き込むと、既にヤンキーに囲まれていた。
(な、なんでや⁉︎ちょっと目を離した隙に⁉︎こんな状況、初めて見た‼︎)
口をあんぐりと開けてると、ヤンキーの一人が言った。
「おい、テメェがこの前ウチの者をボコった奴だな?」
「………あ?」
「三丁目のマンション付近だ。せっかく良い女を見つけたのに、テメェが邪魔したそうじゃねぇか」
「………そんなことあったっけ?」
「まぁいい。とにかく、舐められっぱなしじゃこっちも黙ってるわけにはいかないんでね。とりあえず、おとなしくボコられてもらおうか」
「ええ?まだその人が俺だって確定してないのに?そういう短気なところか人に舐められる一番の要因だと思うんだけど」
「テメッ、なめてんのかコラァッ⁉︎」
「おーい、人の話聞いてた?それとももしかして舐められたいの?前世はアイスクリーム?」
間違いない、こいつだ、とゆんは確信を持った。
「やっちまえテメェら‼︎」
「「「おおう‼︎」」」
が、喧嘩が始まればボンヤリ見てるわけにもいかないわけで。取り出した携帯で110番を押そうとした。
その時だ。
「何やってんのお前?」
後ろから声をかけられた。
「あっ………」
ヤバイ、と思うのと、携帯を取り上げられるのが同時だった。
「へぇ、110番。これでどうするつもりだった?」
「あ、いや……」
「まぁいいや。こっち来な」
抵抗することもできず、肩を掴まれてしまう。
一人のヤンキーがナイフを自分の首元に近付けた。
「ひうっ⁉︎」
「おいテメェ‼︎こいつ殺されたくなかったら……‼︎」
ヤンキーがそう言いかけた所で、口が止まった。ゆんもポカンとした。何せ、さっきまで学生を囲んでいたはずなヤンキーが全滅してるからだ。
「………ッ‼︎」
「……は?」
「まぁ、さすがにこの人数なんでちょっと本気出しましたわ」
「て、てめぇ!動くんじゃねぇぞ‼︎そこから動いたらテメェの女が……‼︎」
「や、つーか誰?その人」
「………は?」
「全然知り合いじゃないんですけど」
「う、嘘つくんじゃねぇ‼︎」
「いやマジでマジで。友達少ないから自分の知り合い見間違えるはずありませんもん」
「………今、とても悲しいことをサラッと言ったなお前」
「その点あんたは羨ましいよ。こんなたくさんの友達がいるんだから。しかも、仲間がやられたから仇討ちするような友達が」
「う、うるせぇ。全員ただの腐れ縁だ」
「そして、あんたの手前のその人にもそういう友達がいるかもしれないんだ。今度はあんたが仇討ちされる番だな」
「……………」
「しかも、間違って殺した暁には一族上げて来るかもしれない」
「はっ、俺がそんな奴らに負けるかよ」
「負けるよ。暴力じゃなく法によって。そしたら、この連中とあんたはもう友達じゃなくなる」
「……………」
「離せよ。その人」
「………………」
ヤンキーはゆんを離した。そして、ヤンキーは泣きながら学生に抱きついた。それをポンポンと肩を叩いて応じる。そんな絵を見ながらゆんは呟いた。
「………なんやこれ」
*
ヤンキー達が去り、残ったのはゆんとシュウの二人。
「………えっと、怪我は…ありませんでした、か?」
「え、あ、はい。すいません、わざわざ助けてもろて」
「あ、いえ……あの、家は、どの辺……ですか?」
「ふえ?」
「あっ、いえ!全然ナンパだとかそんなんじゃなくてですね⁉︎………そ、その……先ほど絡まれたばかり、なので……一応、家まで送った方がいいのかな……なんて思ってみたり……」
「……………」
クスッとゆんは微笑んだ。これははじめが惚れるのも頷ける、そう思いながら言った。
「じゃあ、駅までお願いします」
「わ、分かりました……」
そんなわけで、一緒に歩き始めた。
「……あ、うちは飯島ゆん。よろしゅうな」
「………あ、あと……俺は、あれ……なんだっけ、豊田シュウです」
「ふふっ、なんだっけって……自分の名前やん。面白い子やなぁ」
「うっ……す、すみません」
「別に悪い事したわけじゃあらへんし、謝らんでええよ」
なんかひふみ先輩と話してるみたいだな、と、思いながら続けた。
「でも、強いんやね。何か武道でもやってるん?」
「あ、いえ……部活も美術部ですし……」
「へぇ〜、美術部。意外やな。どんな絵を描くん?」
「あー、えっと……そんなに上手くないんですけど……」
言いながら、スマホの画像を出して見せた。
「一応、去年のコンクールで金賞をもらいました」
「あははっ、まぁ高校の部活やし……え?金賞?」
笑いながらスマホを見ると、Ζガンダムがファンネルを飛ばしてる絵が描かれていた。
「う、上手っ⁉︎何やこれ……ジャンルが違うとはいえ……下手したらプロのうちよりも……」
「ま、まぁ……こんなの一般技術ですから」
「や、それはあらへんと思う。しかし、高校の美術部もバカに出来へんなぁ……どこの高校なん?」
「あー……まぁここから電車で何駅か行った辺りの○○高校ってとこです」
「へぇ〜。そこの美術部って有名なん?」
「美術部っていうか、その……俺が有名です……」
「ふふ、言うなぁ」
「あ、いえ、自信過剰ですみません……」
「ええって、それだけ実力もあるんやし。将来は何かやりたいことあるん?」
「公務員です」
「………えっ?なんで?」
「安定、してるからです………」
「そ、そか……。あ、もう駅着いたし、ここまででええよ」
「あ、はい」
「今日は助けてくれてありがとうな。今度お礼させてくれへん?」
「あ、いえ!全然、そんなつもりないですから!」
「ええからええから。うちからの気持ちや。……あ、じゃあ、LINE交換しとこか」
「え?で、でも……」
「ほら、携帯出して」
「は、はぁ……」
「QRでええ?」
「は、はい」
「………うん、よし。じゃ、また今度会えたらな」
「さ、さよなら……」
連絡先を交換して、別れた。