翌日、イーグルジャンプ。ゆんが呼んだのか、はじめの席の周りにはひふみだけではなく、りんとコウもいた。
「お、来たなはじめ」
「昨日、どうだったん?」
「………電話が終わった頃にはいなくなってた」
「………………」
全員仕事に戻った。
*
学校。時間とか全部すっ飛ばして放課後になった。シュウはいつもの流れで美術室へ向かう。
美術室の扉の前から10メートルほど、ディケイドライバーを腰に巻いた。
そして、クラウチングスタートの姿勢をとった。タンッ、と床を蹴ると、腰のディケイドライバーの正面にカードを差し込んだ。
『ファイナルアタックライド……ディッケェイドゥッ‼︎』
そうベルトから電子音が聞こえた直後、軽くジャンプし、左足を折り曲げて右足を真っ直ぐ伸ばした。
そのまま扉にライダーキックをブチかまし、美術室にダイナミック入室した。
直後、ほたると並んで絵を描いてる青葉と目が合った。
一発で顔が真っ赤になるシュウに、ほたるが慣れた様子で言った。
「あーもうっ、だからいつもいつもライダーキックで入って来るなって言ってるじゃん」
「あの……なんで、昨日の方々が……?」
「入部したんだよ。昨日から」
「す、涼風青葉、です。よろしくね……豊田くん……」
「桜ねねだよ」
「………ちょっとトイレ行ってくる」
数秒後、トイレから「あああああ‼︎」という絶叫が校内中に響いた。
*
30分後、トイレからシュウが帰って来た。
「あ、おかえりー」
「………お、おう」
ちなつの緩い挨拶を軽く返して、シュウは自分の席に着いた。もう落ち着いてるのか、そのまま机の上に伏せて腕を枕にし、携帯をいじり始めた。
「………あの、ほたる。豊田くんは描かないの?」
「うん。いつもああしてボンヤリしてるよ。コンテストの前だけ、サラッと絵を描いて賞取って来て終わり」
「し、賞取ったの⁉︎」
「うん。高校三年間、オリジナルのMS描いて応募してるよ。職員室の前に飾られてる奴」
「……ああ、あの『Ζガンダムファンネル装備』って奴?」
ねねが会話に参加した。
「へぇ、あれか……てっきり誰かが悪戯で置いたのかと思ってた」
「でも上手だよねーあれ!」
「うん。あれだけ描けて将来の夢が公務員なんだよなぁ…不思議」
「あ、あはは……」
褒められるたびに、ソワソワしながらチラチラと女子組を見るシュウ。それに気付いたほたるはニヤニヤしながら続けた。
「そうなんだよー。すごいでしょ、うちのシュウ」
「うん。ホントすごい」
「よくこんな細かい線とかも描けるよねー」
「ほら、ここの目とかほんとに光ってるみたいじゃない?」
「わっ、ほんとだ」
「すごーい……」
「……ふへ、ふへへ」
嬉しそうにはにかむシュウは、気分が良くなったのか立ち上がった。
そして、シュウはチラチラと女子組を見ながら、絵を描く準備を始める。
「あ、豊田くん絵描くみたいだよ。私達もやろっか」
「あ、じゃあ私も」
「………わかりやすい……」
一人、ふるふると震えて笑いを堪えているほたるだった。
絵を描き始める女子3人と、少し離れた場所の男子一人、その様子をちなつは暇そうに見ていた。
「……………」
こういう時は、四人の様子を見てれば割と退屈しない。特に、コミュ障のシュウがどう動くかを見ていれば、アリの観察してる感覚で面白いものだ。
今も、シュウはチラチラと3人の様子を見ては、自分の絵を描いていた。
(ホンット、わっかりやすいなー。教えてあげたいなら自分から言えばいいのに……まぁ、見てるぶんには面白いからいいけど♪)
「えーっと、エクシアリペアの画像は、っと……」
(プフッ、普段独り言なんて言わないくせに……‼︎)
一方、ほたるはその様子を少し見ていられなくなった。
情けない……と、心底思いつつも、隣の青葉の肩を突いた。
「? どうしたの?」
「……あの、悪いんだけど、シュウに何か質問してあげてくれない?(小声)」
「………なんで?」
「さっきから質問して欲しそうにソワソワしてるし、それを見てちなつ先生が笑ってるの(小声)」
「……日高先生って、本当に先生?」
「………とにかく、お願い」
「………わかった」
立ち上がり、青葉はシュウの隣に立った。
「あのー……豊田くん?」
「……………」
「豊田くん?」
「あ、な、何?」
「あの像の鼻の描き方なんだけど……」
「え?は、鼻?」
「う、うん……鼻っていうか、鼻の下の溝の描き方を」
「え、えと……ほたるに聞いた方が良いと、思うけど……」
青葉はチラッとほたるを見た。ほたるからLINEが届いた。
『聞いて欲しいくせに最初は嫌がるんだよそれ』
め、面倒臭ェ……と、思わざるを得ない青葉だった。
「ほ、ほたるは集中してて声掛けにくくて……」
「……………」
「ダメ、かな……」
「……わかったよ」
ため息をつきながらも、シュウは嬉しそうな顔で説明を始めた。
*
イーグルジャンプ社内。休憩中のはじめに、ゆんが声をかけた。
「で、はじめ。実際のところどうするん?」
「何がー?」
「その男の子や。昨日会えたのはハッキリ言って奇跡やと思うし、これからは会えるかどうかすら分からんよ?」
「うっ……で、でも0%じゃないし!」
「その子の学年にもよるけど、三年生なら今年で卒業かもしれんよ?」
「うぐっ……!」
「はじめがどうしてもって言うなら、うちも探すの手伝ってやってもええで?」
「い、いや〜……でも、正直ノーヒント過ぎるよ?外見しか覚えてないし、服装も学ランだったし……。そんなウォーリーを探せ、より難しいことに付き合わせるのは……」
「じゃ、諦めるんやな」
「うっ……。そ、それは……」
「うち、今日はもう仕事終わりそうなんやけどな〜」
「うぐっ……」
ちなみに、ゆんはただはじめの惚れた男が見たいだけだった。
「じ、じゃあ……外見だけ教えとくから……」
「よしきたっ」
「えーっと……身長は170cmくらい、青色のイヤホンしてて、髪の毛はボサボサの茶髪、半開きした目、鞄はスクールバッグ、声は若干高め、耳にピアスはなくて、ケツポケットに突っ込んでた財布は深緑、だったかな?」
「……よくそんな細かく覚えとるなぁ」
「そりゃまぁ……色々あったし……カッコよかったし」
「聞こえとるで?なんや、そういう子が好みなんか?」
「ち、違う!ていうか、別にカッコよかっただけで惚れてないから!」
「じゃあ、なんで探そうとしてるん?」
「そ、それは……!さ、そうお礼、お礼が言いたいだけなの!」
「や、それ昨日うちが言った奴やん」
「と、とにかくお礼言いたいだけだから!」
「はいはいわかったわかった。じゃ、うちも少しだけ探してみるわ」
「違うからね‼︎」
「さっきから何騒いでんの?」
「「何でもありません」」
顔を出したリンにビビって、二人とも仕事に戻った。
*
美術室。青葉は自分の絵に少しビビっていた。鼻の下の溝なんて、別に描けない訳ではなかったが、何か聞けというのでとりあえず聞いてみたら、思いの外わかりやすく、尚且つ格段に上達した。
「す、すごい……」
「ま、まぁ……俺は独学だけど、こんな感じ」
「独学⁉︎それでこんなに上手くなったの⁉︎」
「えっ?ご、ごめん……」
「い、いや怒ってないけど……。ねぇ、良かったらもっと教えてよ」
「えっ………」
「絵の描き方とかさ、ダメ?」
「いやっ、あのっ……ダメっていうか……」
「お願い。私、絵が上手くなりたいの」
「や、あのっ……別に、いいですけど……」
「本当に⁉︎」
「は、はい……だから、今日はちょっと……僕もう帰りますんで」
「うん。じゃあ明日からよろしくお願いします!豊田先生」
「っ⁉︎ や、あのっ……すいませんでした」
「?」
謝りながら帰ってしまった。