はじめさんが可愛いと思います   作:杉山杉崎杉田

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第4話

翌日、イーグルジャンプ。ゆんが呼んだのか、はじめの席の周りにはひふみだけではなく、りんとコウもいた。

 

「お、来たなはじめ」

 

「昨日、どうだったん?」

 

「………電話が終わった頃にはいなくなってた」

 

「………………」

 

全員仕事に戻った。

 

 

学校。時間とか全部すっ飛ばして放課後になった。シュウはいつもの流れで美術室へ向かう。

美術室の扉の前から10メートルほど、ディケイドライバーを腰に巻いた。

そして、クラウチングスタートの姿勢をとった。タンッ、と床を蹴ると、腰のディケイドライバーの正面にカードを差し込んだ。

 

『ファイナルアタックライド……ディッケェイドゥッ‼︎』

 

そうベルトから電子音が聞こえた直後、軽くジャンプし、左足を折り曲げて右足を真っ直ぐ伸ばした。

そのまま扉にライダーキックをブチかまし、美術室にダイナミック入室した。

直後、ほたると並んで絵を描いてる青葉と目が合った。

一発で顔が真っ赤になるシュウに、ほたるが慣れた様子で言った。

 

「あーもうっ、だからいつもいつもライダーキックで入って来るなって言ってるじゃん」

 

「あの……なんで、昨日の方々が……?」

 

「入部したんだよ。昨日から」

 

「す、涼風青葉、です。よろしくね……豊田くん……」

 

「桜ねねだよ」

 

「………ちょっとトイレ行ってくる」

 

数秒後、トイレから「あああああ‼︎」という絶叫が校内中に響いた。

 

 

30分後、トイレからシュウが帰って来た。

 

「あ、おかえりー」

 

「………お、おう」

 

ちなつの緩い挨拶を軽く返して、シュウは自分の席に着いた。もう落ち着いてるのか、そのまま机の上に伏せて腕を枕にし、携帯をいじり始めた。

 

「………あの、ほたる。豊田くんは描かないの?」

 

「うん。いつもああしてボンヤリしてるよ。コンテストの前だけ、サラッと絵を描いて賞取って来て終わり」

 

「し、賞取ったの⁉︎」

 

「うん。高校三年間、オリジナルのMS描いて応募してるよ。職員室の前に飾られてる奴」

 

「……ああ、あの『Ζガンダムファンネル装備』って奴?」

 

ねねが会話に参加した。

 

「へぇ、あれか……てっきり誰かが悪戯で置いたのかと思ってた」

 

「でも上手だよねーあれ!」

 

「うん。あれだけ描けて将来の夢が公務員なんだよなぁ…不思議」

 

「あ、あはは……」

 

褒められるたびに、ソワソワしながらチラチラと女子組を見るシュウ。それに気付いたほたるはニヤニヤしながら続けた。

 

「そうなんだよー。すごいでしょ、うちのシュウ」

 

「うん。ホントすごい」

 

「よくこんな細かい線とかも描けるよねー」

 

「ほら、ここの目とかほんとに光ってるみたいじゃない?」

 

「わっ、ほんとだ」

 

「すごーい……」

 

「……ふへ、ふへへ」

 

嬉しそうにはにかむシュウは、気分が良くなったのか立ち上がった。

そして、シュウはチラチラと女子組を見ながら、絵を描く準備を始める。

 

「あ、豊田くん絵描くみたいだよ。私達もやろっか」

 

「あ、じゃあ私も」

 

「………わかりやすい……」

 

一人、ふるふると震えて笑いを堪えているほたるだった。

絵を描き始める女子3人と、少し離れた場所の男子一人、その様子をちなつは暇そうに見ていた。

 

「……………」

 

こういう時は、四人の様子を見てれば割と退屈しない。特に、コミュ障のシュウがどう動くかを見ていれば、アリの観察してる感覚で面白いものだ。

今も、シュウはチラチラと3人の様子を見ては、自分の絵を描いていた。

 

(ホンット、わっかりやすいなー。教えてあげたいなら自分から言えばいいのに……まぁ、見てるぶんには面白いからいいけど♪)

 

「えーっと、エクシアリペアの画像は、っと……」

 

(プフッ、普段独り言なんて言わないくせに……‼︎)

 

一方、ほたるはその様子を少し見ていられなくなった。

情けない……と、心底思いつつも、隣の青葉の肩を突いた。

 

「? どうしたの?」

 

「……あの、悪いんだけど、シュウに何か質問してあげてくれない?(小声)」

 

「………なんで?」

 

「さっきから質問して欲しそうにソワソワしてるし、それを見てちなつ先生が笑ってるの(小声)」

 

「……日高先生って、本当に先生?」

 

「………とにかく、お願い」

 

「………わかった」

 

立ち上がり、青葉はシュウの隣に立った。

 

「あのー……豊田くん?」

 

「……………」

 

「豊田くん?」

 

「あ、な、何?」

 

「あの像の鼻の描き方なんだけど……」

 

「え?は、鼻?」

 

「う、うん……鼻っていうか、鼻の下の溝の描き方を」

 

「え、えと……ほたるに聞いた方が良いと、思うけど……」

 

青葉はチラッとほたるを見た。ほたるからLINEが届いた。

 

『聞いて欲しいくせに最初は嫌がるんだよそれ』

 

め、面倒臭ェ……と、思わざるを得ない青葉だった。

 

「ほ、ほたるは集中してて声掛けにくくて……」

 

「……………」

 

「ダメ、かな……」

 

「……わかったよ」

 

ため息をつきながらも、シュウは嬉しそうな顔で説明を始めた。

 

 

イーグルジャンプ社内。休憩中のはじめに、ゆんが声をかけた。

 

「で、はじめ。実際のところどうするん?」

 

「何がー?」

 

「その男の子や。昨日会えたのはハッキリ言って奇跡やと思うし、これからは会えるかどうかすら分からんよ?」

 

「うっ……で、でも0%じゃないし!」

 

「その子の学年にもよるけど、三年生なら今年で卒業かもしれんよ?」

 

「うぐっ……!」

 

「はじめがどうしてもって言うなら、うちも探すの手伝ってやってもええで?」

 

「い、いや〜……でも、正直ノーヒント過ぎるよ?外見しか覚えてないし、服装も学ランだったし……。そんなウォーリーを探せ、より難しいことに付き合わせるのは……」

 

「じゃ、諦めるんやな」

 

「うっ……。そ、それは……」

 

「うち、今日はもう仕事終わりそうなんやけどな〜」

 

「うぐっ……」

 

ちなみに、ゆんはただはじめの惚れた男が見たいだけだった。

 

「じ、じゃあ……外見だけ教えとくから……」

 

「よしきたっ」

 

「えーっと……身長は170cmくらい、青色のイヤホンしてて、髪の毛はボサボサの茶髪、半開きした目、鞄はスクールバッグ、声は若干高め、耳にピアスはなくて、ケツポケットに突っ込んでた財布は深緑、だったかな?」

 

「……よくそんな細かく覚えとるなぁ」

 

「そりゃまぁ……色々あったし……カッコよかったし」

 

「聞こえとるで?なんや、そういう子が好みなんか?」

 

「ち、違う!ていうか、別にカッコよかっただけで惚れてないから!」

 

「じゃあ、なんで探そうとしてるん?」

 

「そ、それは……!さ、そうお礼、お礼が言いたいだけなの!」

 

「や、それ昨日うちが言った奴やん」

 

「と、とにかくお礼言いたいだけだから!」

 

「はいはいわかったわかった。じゃ、うちも少しだけ探してみるわ」

 

「違うからね‼︎」

 

「さっきから何騒いでんの?」

 

「「何でもありません」」

 

顔を出したリンにビビって、二人とも仕事に戻った。

 

 

美術室。青葉は自分の絵に少しビビっていた。鼻の下の溝なんて、別に描けない訳ではなかったが、何か聞けというのでとりあえず聞いてみたら、思いの外わかりやすく、尚且つ格段に上達した。

 

「す、すごい……」

 

「ま、まぁ……俺は独学だけど、こんな感じ」

 

「独学⁉︎それでこんなに上手くなったの⁉︎」

 

「えっ?ご、ごめん……」

 

「い、いや怒ってないけど……。ねぇ、良かったらもっと教えてよ」

 

「えっ………」

 

「絵の描き方とかさ、ダメ?」

 

「いやっ、あのっ……ダメっていうか……」

 

「お願い。私、絵が上手くなりたいの」

 

「や、あのっ……別に、いいですけど……」

 

「本当に⁉︎」

 

「は、はい……だから、今日はちょっと……僕もう帰りますんで」

 

「うん。じゃあ明日からよろしくお願いします!豊田先生」

 

「っ⁉︎ や、あのっ……すいませんでした」

 

「?」

 

謝りながら帰ってしまった。

 

 


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