はじめさんが可愛いと思います   作:杉山杉崎杉田

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第2話

翌日、イーグルジャンプ。はじめは昨日のことが未だに頭から離れなかった。お陰で全然仕事が手につかなかった。

 

「………どうしたん?はじめ」

 

「…………」

 

「はじめ?」

 

「…………」

 

「はじめ!」

 

「うえっ⁉︎」

 

ようやく声が聞こえたのか、ビクッと肩を震わせるはじめ。同期の飯島ゆんが声を掛けてきた。

 

「………な、何?」

 

「今日1日全然、手動いてへんよ。どうかしたん?」

 

「い、いや全然……?昨日、飲みすぎちゃって……あはは」

 

「…………」

 

「何?」

 

「怪しい」

 

「や、何が⁉︎」

 

「男の匂いがする」

 

「どんな匂い⁉︎」

 

「昨日、何かあったん?」

 

「い、いや……何もないよ……」

 

「嘘だな!」

 

「八神さんまで⁉︎」

 

八神コウがいつの間にか顔を出していた。

 

「昨日、何かあっただろう」

 

「な、ないですよ!本当に!き、昨日はベロンベロンに酔っててあんま記憶ないんですから‼︎」

 

「はじめ、知ってる?はじめって嘘つくときは大体最初の一言目どもるんよ?」

 

「う、嘘⁉︎今どもってた⁉︎」

 

「嘘や」

 

「んなっ……⁉︎」

 

ニヤリと口を歪めるゆんとコウ。昨日とは別の意味で逃げられない、そう覚悟した時、別の声が割り込んできた。

 

「もう、二人とも。まだ就業時間よ?何してるの騒いでるの?」

 

と、遠山さん!と目を輝かせたはじめ。助かったーみたいな顔をしたのだが、

 

「いやあ、ごめんごめん。はじめに彼氏ができたみたいで」

 

というわざと話を大きくしようとしてるか、と思われても仕方ないレベルのコウの一言で遠山リンは話に参加した。

 

「詳しく」

 

「じゃないですよ!皆さん仕事しましょうよ‼︎」

 

「良いから話せって。良いだろ?減るもんじゃないし」

 

「……………」

 

「い、嫌です‼︎あと、ひふみ先輩!聞き耳立ててるの気付いてますからね‼︎」

 

「っ⁉︎」

 

嫌だ嫌だ、と思いつつも周りから責められ捻られ小突かれオモチャを弄られその他諸々散々色々された挙句、

 

「あーもう分かりましたよ!言えばいいんでしょ言えば‼︎」

 

と、なるのだった。

 

 

「ふぇっくし‼︎」

 

盛大にくしゃみをかましながら、美術部の部室に入ったのは、昨日はじめを助けた男子学生、豊田シュウだ、

 

「あ、シュウ。来たね……って、どうしたの顔の傷⁉︎」

 

出迎えたのは同学年の星川ほたるだ。

 

「何でもないよ……。昨日、転んじゃって……」

 

「転んでどうやって切り傷ができるの⁉︎」

 

「目の前にカッターがあったんじゃない?」

 

「いや、じゃない?って聞かれても……。また喧嘩したんでしょう……?」

 

「え、いや違」

 

「ん〜……」

 

ほたるはシュウの前に近付くと、傷をまじまじと眺めた。

 

「………パンチが一回、蹴りが一回、ナイフが一回」

 

「そこまでわかんの⁉︎」

 

「わかるよ……もう何年も怪我して帰ってきてるんだから。ほらそこ座って」

 

ほたるは鞄の中から救急箱を取り出す。もう何度も喧嘩して来てるので、持ち歩くようになった。

 

「この様子だと、帰って消毒もしてなかったでしょ」

 

「え、あ、うん」

 

「だめだよ。ばい菌入るよ?」

 

「ばい菌上等だよテメエコノヤロー」

 

「ばい菌と喧嘩する気?」

 

「やってやるですコノヤロー」

 

「馬鹿言ってないで大人しくして」

 

「ってぇ!」

 

「染みる?」

 

「………うっさい」

 

「じゃ、絆創膏貼るよー」

 

「いいよ、自分でやるから」

 

「だーめ。ほら、こっち見て」

 

「…………」

 

「………よし、オーケー。あとは頬だね」

 

「…………」

 

「? どうしたの?さっきから黙り込んで」

 

「…………」

 

「?」

 

シュウの視線の先を見ると、女子生徒が二人、顔を赤くしてこっちを見ていた。

改めて自分の現状を見る。両手を男子生徒の両頬に当てていて、キスしようとしてるように見えなくもなかった。

 

「わっ、違っ……これは……‼︎」

 

「「し、失礼しました〜……」」

 

「ま、待ってよ!違うんだってば〜‼︎」

 

気まずそうな顔をして出て行こうとする女子生徒を、顔を赤くして引き止めるほたるだった。

 

 

再び、イーグルジャンプ。全部話したはじめは、顔を真っ赤にして俯いていた。

 

「………なるほど、そりゃはじめが惚れるわけやな」

 

「べ、別に惚れてないし‼︎」

 

「いやいやいや、そんな修学旅行で好きな男子に告白されちゃいましたーみたいな顔で語っておきながらそんなん言っても説得力ないって」

 

「そ、そんな顔してましたか⁉︎」

 

「うん。はじめちゃん、すごい乙女の顔してた」

 

「………遠山さんが八神さんと接してる時みたいな?」

 

「何か言った?」

 

「何でもないです」

 

笑顔の威圧で黙らされながらも、「人のことは弄っといて……」と思わざるを得なかったのは言うまでもない。

 

「で、その学生くんはどこ校の制服だったの?」

 

「うーん……学ランだったので何とも」

 

「でも、平日の夜中にこの辺をうろついてるってことは、この辺に住んでるってことよね?」

 

「よし、みんなで探しましょう!」

 

「探さなくて良いよ‼︎」

 

「そしてはじめの実態を晒すんや!」

 

「ゆん、どういう意味⁉︎」

 

「そのまんまの意味や。そのフィギュアとオモチャだらけのデスクを見たらどう思うんやろうな」

 

「〜〜〜ッ‼︎ああもうっ、仕事しましょう仕事‼︎あの男の子に関しては自分で探します‼︎」

 

「お?探す気満々だね」

 

「ッッ‼︎怒りますよ‼︎」

 

「はいはい、そこまでよ。みんな、お仕事に戻りましょう」

 

リンの一言で、全員が「後でもう一回尋問しよう」みたいな顔をして自分のデスクに戻った。

一方のはじめは「仕事が終わり次第、ダッシュで逃げよう」と心の中で誓った。

 

 


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