はじめさんが可愛いと思います   作:杉山杉崎杉田

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始まりは原作5巻あたりからです。


第1話

ある日の夜、新入社員歓迎会の帰り、篠田はじめは思いっきり酔っ払いながら帰っていた。顔を真っ赤にして、足元をふらつかせながら歩いていた。

「ち、ちょ〜っと、飲み過ぎたかなあ〜……」

 

幸いというか何というか、一人暮らししている部屋の近くで飲んでいたので、歩いて帰れる距離だ。

家まで、あと100メートルもない。だが、酔っ払いにとってその距離はかなり長かった。

すると、ガッと誰かと肩と肩がぶつかった。

 

「あっ、すいませ」

 

「おい、どこ見て歩いてんの?姉ちゃん」

 

「えっ」

 

明らかにメンドくさそうな奴とぶつかった。髪の毛を黄色に染め、耳にピアスを開けている、いわゆるヤンキーという奴だろう。それが3人。

 

「………あっ」

 

「あっ、じゃなくて。どこ見て歩いてんのって聞いてんの」

 

「って、おいおい。こいつかなり良い女じゃん!」

 

「ダメだよ、こんなエロい身体した子がこんな時間にこんなんなるまで飲み歩いてちゃ」

 

絡まれてる、と理解するのにそう時間は掛からなかった。それと共に、逃げなきゃと判断するのも。何より、酔いが覚めるのが一番早かった。

すぐに家の方に走ろうとした。が、自分の目の前を何かが通り過ぎた。自分を逃さないように、ヤンキーの腕が伸びていた。

 

「ひっ……⁉︎」

 

「ははっ、『ひっ……⁉︎』だってよ。かーわいっ」

 

「まぁ、人にぶつかっといて何も無しにってわけにもいかねえしな」

 

「ここは、金……と言いたいところだが、せっかくだ。身体で払ってもらおうか」

 

さらにタチの悪いタイプのヤンキーだった。逃げられない、戦う?それもありえない、いくら普段から運動してても男と女、それも3対1だ。敵うはずもないどころか火に油をぶっ掛けるようなもんだ。

どうしようか考えてるうちに、腕を掴まれた。

 

「さて、じゃあとりあえずホテル行こうか」

 

「やだ!離せ!」

 

「離すわけねーだろバーカ」

 

「ホテル代は奢ってやるからよ」

 

「や、やめて……!」

 

声を出してはみたものの、この時間だ。叫んでも助けは来ないだろう。

思わず目に涙を浮かべた直後、「おい」と声がした。目の前の3人の声ではない。別の男の声だ。

 

「何やってんの?あんたら」

 

「あ?何だテメエ。もっかい聞くわ。なんだテメエ?」

 

「いや何でお前もっかい聞いたんだよ。そして俺もなんだテメエ?」

 

「さらに追撃のなんだテメエ?」

 

一人の学生服を着た男に、3人のなんだテメエヤンキーが眉を釣り上げた。

 

「通りすがりの高校生だよ。その人困ってんじゃん。離しなよ、手」

 

「お?ヒーロー様か?かっこいー」

 

「ヒーローなんて照れるからやめてよ」

 

「いや褒めてねえからな。皮肉だからな」

 

「つか何、この女の方からぶつかって来たんだけど?」

 

「ぶつかって来たって……ぶつかっちゃった、の間違いでしょ。わざとじゃないんだからそんな怒らなくても」

 

「わざとかどうかなんてそんなのわかんねえだろ」

 

「いやいや、あんたらみたいな怖い顔面の人達にわざとぶつかる人はボクサーかレスラーかヤ○ザくらいしかいないでしょ」

 

「てめっ、どういう意味だコラァッ‼︎」

 

「………悪意はないよ」

 

「あるだろ絶対‼︎」

 

なんか穏便に済ませたいのか相手を煽ってるのかわからない奴だった。今のうちに逃げたいはじめだったが、このまま逃げるのはいちおう助けに来てくれた目の前の学生に悪い気もした。

どうしようか困ってると、目の前のヤンキーはさらにヒートアップしていた。

 

「テメッ何、何なの?ホントさっきからナメてんの?」

 

「いやそんなつもりは……ただナンパにせよカツアゲにせよ女の子に男3人は情けないなーって」

 

「やっぱナメてるだろテメェ‼︎」

 

「ええ……なんでよ」

 

女の子、と言われ少しはじめが舞い上がった時だ。ヤンキーの一人が学生の胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、何しに出てきたか知らねーがお前ホントいい加減にしろよ。人を煽るにも限度額あんだろ」

 

「だから煽ってないって……あ、じぶんがイラっとしたら全部煽られてると思っちゃう人?」

 

「そういう所だよ‼︎テメェ友達いねえだろ‼︎」

 

「うん。1人しかいない。しかも女の子」

 

「〜〜〜ッ‼︎お前本当に人をイライラさせる天才だな‼︎」

 

「そんな迷惑な才能いらないんだけど……」

 

もはや、当人であるはじめも少し面白くなってきた時だ。ヤンキーが真面目な顔に変えて言った。

 

「とにかく、テメェもちょっとこっち来い」

 

「え、こっちって?」

 

「今から連れてくんだよ!それくらい分かれ‼︎」

 

「なら、まず手離してくんない?」

 

「あ?逃すわけねーだろ」

 

「いや離せって言ったんだけど……その耳は飾りですか?」

 

「あーもうダメだ。殴る」

 

はじめがその一言に冷やっとした直後、バゴッと鈍い音がした。学生の顔面に拳が直撃していた。漫画のように殴り飛ばされる事はなかったものの、後ろに大きく仰け反る学生。

 

「き、きゃあぁああっ⁉︎」

 

自分でも驚くほどに、女の子らしい悲鳴が出た。

学生は仰け反ったまま動かない。ヤンキーはニヤリと口を歪ませた。

 

「はっ、人をあんまバカにしてっとそういうことになんだよ」

 

「おい、次俺の番な。俺も殴りたい」

 

「おお、やっちまえ」

 

別のヤンキーが学生の前に立った。ハラハラしているものの、身体が動かないはじめ。

すると、ヤンキーは軽くジャンプした。空中で一回転すると、学生の顔面に蹴りを入れた。今度は蹴り飛ばされ、後ろに倒れ込む学生。

 

「ぶはっ‼︎カッケーなお前‼︎」

 

「つーかクリティカルヒットしてんじゃん‼︎」

 

「は、はは、よし次お前やれよ」

 

学生をサンドバッグにし始めたヤンキー達。

 

「も、もうやめてっ」

 

震えた声でそう言うと、ヤンキー達ははじめを睨んだ。

 

「………あ?」

 

「今何つったおい」

 

「怪我したくなけりゃ黙ってろよ」

 

「………うっ」

 

睨まれて、すぐに萎縮してしまうはじめ。正直、超怖かった。だが、目の前で学生が倒されてしまった今、自分の身も学生もはじめが守るしかなかった。

 

「だ、だから……やめてって、言ってるの……‼︎」

 

涙目で震えた声でそう言うと、ヤンキーの一人がはじめの前に一歩出た。何をされるのか、殴られるか蹴られるか投げられるか、考えれば考えるほど、身体が動かなかった。

そんなはじめの気を知ってか知らずか、ヤンキーは冷たい目で言った。

 

「じゃ、お前が代わりな」

 

「えっ?」

 

拳を引くヤンキー。殴られるっ、と、目を瞑った時だ。

ゴガッと別の音がした。反射的に目を開くと、学生が自分の目の前のヤンキーを殴り飛ばしていた。

ヤンキーは電柱に頭をぶつけて失神する。

 

「ったく……俺に手を出させるなよ。いつもやり過ぎちゃうんだから」

 

「なっ……て、てめえ⁉︎」

 

「ほんとは穏便に済ます予定だったんだけど、仕方ないか」

 

「上等だよボケがァッ‼︎」

 

別の不良の一人が学生に殴りかかった。それを躱すと、学生はつぶやいた。

 

「お前は確か、跳び廻し蹴りだったな」

 

「あ?」

 

直後、学生は軽く跳んで身体を空中で回転させると、足を思いっきり振り抜いた。蹴り飛ばされ、地面に倒れ込むヤンキー。

残り一人のヤンキーを睨む学生。

 

「………で、お前もやる?俺、暴力は嫌いなんだけど」

 

「ッ……!こ、この野郎……!さてはてめえ、俺たちを最初から殴るつもりで煽りやがったな……‼︎」

 

「え?いや全然そんなつもりは」

 

「ならこっちだってやられっぱなしじゃねえんだよ‼︎」

 

ヤンキーが懐から出したのはナイフだった。チャキンと変形させ刀身を出すと、学生に向かって振り回した。

 

「うおっ」

 

後ろに仰け反って避ける学生。鼻の頭からピッと血が吹き出た。

 

「わっ、鼻から血が……なあ、これも鼻血って言うなと思う?」

 

「知るかクソボケェッ‼︎」

 

さらに顔をナイフで突き込む。それを首を横に捻って躱すと、反対側の手で拳を振り回してきた。それを左手でガードし、後ろに下がる。

ナイフは囮、それによって作った隙を拳で追い詰める、それがヤンキーの戦い方だった。予想以上に喧嘩慣れしてる相手に、一瞬関心した学生だった。

 

「…………」

 

「オラ、どうした?ナイフが怖くて近付いて来れねえか?」

 

「よっと、」

 

「ビビるくらいなら最初から……え?」

 

ポケットから取り出したウォークマンを、学生はヤンキーに投げ付けた。

目と眉毛の間に直撃し、ヤンキーが怯んだ直後にナイフを持つ手を払い、腹に拳を叩き込んだ。ガクッと膝をついて倒れるヤンキーに目を落とすと、学生はウォークマンを拾い上げた。

 

「………あーあ、画面割れちゃったよ」

 

「あ、あのっ……」

 

声がして、振り向くとはじめがこっちを見ていた。

 

「す、すみません……ありがとうございます……。助かりました」

 

「……………」

 

頭を下げてお礼を言うはじめ。返事は返ってこなかった。

 

「……………」

 

「……………」

 

「…………家」

 

「えっ?」

 

「……家、ここから近い…んですか?」

 

「え、は、はぁ、まぁ。そこのマンションですけど」

 

「……じゃあ、一人で帰れ、ますよね?」

 

「は、はい」

 

「…………なら、その、失礼します」

 

早足で帰ってしまった。何か怒らせたのかなあ、と少しシュンッとしながらも、はじめは倒れてるヤンキーを見て、自分も早足で帰った。

 

 


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