東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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彼女の声







僕の耳からもう聞こえなくなった







ああ






もう聞くことができないんだ






彼女の声を















K

亜門Side

 

 

眼帯の喰種が346プロアイドル島村卯月を抱えたことが発覚すると、部隊内にざわつきが生まれた。

 

「嘘だろ...?」

 

「なんで島村卯月を....?」

 

「おいおい、まさか...殺したのか?」 

 

統制が取れ静かだった部隊が混乱していた。

このままだと眼帯に隙を見破られ突破されてしまう。

俺は大きく息を吸い、

 

「黙れっ!!!」

 

班長である俺が一喝すると、ざわついていた部隊は一斉に静まった。

 

「聞こう、眼帯。なぜ貴様は彼女を抱えている?」

 

眼帯の喰種と島村卯月。

俺は二人とは初対面ではなく以前に出会っていた。

眼帯の喰種は去年20区で初めて出会い、島村卯月は春の終わりごとに出会った。

眼帯の喰種は名の通り、右目と口を隠したマスクをつけており、俺が名をつけた。

歯茎が剝きだすようなマスクに、左目には喰種の特徴でもある赤黒い赫眼が現れている。

 

「そこを通してくれませんか?」

 

「ああ、ダメだ」

 

俺の役目は主力部隊に支障がでないよう、俺は絶対に守り通さなければならない。

もし仮に眼帯を通してしまえば主力部隊が崩れてしまう。

 

「ーーわかりました」

 

その瞬間眼帯の目が赤く光り、腰から4本の赫子が現れた。

 

「赫子..!?」

 

赫子は喰種の特徴に一つで、鋼のように頑丈で、液体のようにしなやかに動く、人間にはない武器だ。

俺が後ろを向くと部隊の何人かが銃口を向けた。

 

「銃を向けるな!!島村卯月がいる!!」

 

俺は怒号に似た声で指示をすると、銃を向けた隊員はゆっくりと銃口を下げた。

 

「貴様っ!!…まさか彼女を盾に」

 

「そんな愚かな真似はしません」

 

「っ!?」

 

眼帯から思わぬ言葉を耳にした。

 

「彼女は僕とは違い、生きなければなりません」

 

眼帯はそう言うと彼女を大通りの側に置き、俺の方に再び向けた。まるで最初に出会った時と同じだ。今まで喰種は非道な化け物だと考えていた俺だが、眼帯は違った。眼帯は戦闘不能だった俺を見逃したのだ。俺はそのぐらいの衝撃が今起きていた。

 

「...よければ、お尋ねしてもいいですか?..お名前」

 

眼帯はそう言うと目を細め、気味の悪い笑顔をした。

 

「...()れるな喰種(グール)め、貴様は()()()()()()だ」

 

 

 

 

 

もし仮にお前がここを抜けても、皆がお前を殺そうとするだろう

 

 

 

 

 

 

その上で無茶な頼みをしたい

 

 

 

 

 

「俺の名は、亜門鋼太郎だ!!」

 

 

 

 

俺はそう叫んだ瞬間、眼帯に攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

眼帯

 

 

 

どうか死ぬな

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉Side

 

 

志希から電話を受けあたしは傘をさし、今志希がいる場所に急いで向かっていた。

本当ならばそのまま家に帰る予定だったが、急遽志希の元に行くことになった。

 

(まさか...卯月が20区に!?)

 

今の所ニュースには出ていないため、もしかしたら何かの手違いかもしれない。

不安を胸に走っていくと、ある人がアタシの目に映った。

 

「志希!」

 

20区に続く道には多くの人たがりがあったが、アタシはすぐに志希を見つけることができた。

皆が傘をさしているのだけど、一人だけど傘など刺さず雨に濡れていた女子が道路の境界ブロックに呆然と座っていた。

 

「....美嘉ちゃん!」

 

アタシの声に気がついた志希は震えた声でアタシに飛びつくように抱きついた。

 

「あんた傘もささずにそこに座ってたの?」

 

「..卯月ちゃんが...卯月ちゃんが..」

 

「確かに卯月が20区にいるのは心配だけど...まずは自分を心配しなよ」

 

アタシはそう言うと志希を傘の中に入れ、バックの中にあったタオルで濡れていた志希を拭いた。

いつも志希はアタシに容赦ない絡みをしてくるのだが、今はその影もなく雨に濡れていた。

 

「このまま卯月ちゃんが...卯月ちゃんが...」

 

「大丈夫、まずは落ち着いて」

 

志希が落ち着きがないため、アタシは一緒に屋根がある建物の中に入った。

少し落ち着き始めた。

 

「何があったの?」

 

「あたしが外に出て....それから家に帰ろうとしたら....」

 

「もしかして卯月を置いて失踪?」

 

アタシがそう聞くと小さく頷いた。

 

「ああ...全く」

 

アタシは自分の額に手を置いた。

失踪は志希のいつもの癖だ。

それが運悪く、卯月を20区に置いてしまった。

 

「もし卯月ちゃんが....死んじゃったら」

 

「大丈夫、卯月はきっと助かる」

 

アタシは流石に卯月を助けることはできない。

アタシたちはただ喰種捜査官たちに任せるしかない。

 

「文香ちゃんも呼んでもいい?」

 

「文香さんも?」

 

確か文香さんは20区に住んでいるから、おそらく今日は都内のどこかのホテルに泊まっているはず。

 

「前にも文香ちゃんが倒れたことが重なってね..なんだろ、あたし」

 

前にも同じ出来事があった。

文香さんが初めて大舞台に立った時のことである。

 

「じゃあ、文香さんも呼ぶーーー」

 

「なんだと!?」

 

すると何か驚いた声を耳にした。

 

「島村卯月が見つかったそうです」

 

「っ!」

 

どうやら本当に見つかったらしい、それを耳にしたアタシは卯月が見つかったことに歓喜をあげようとした。だが報告をした捜査官の顔は険しくなった。

 

「ですが、島村卯月はムカデが...」

 

(ムカデ....?)

 

喰種捜査官の会話からよくわからない単語が聞こえた。

 

 

 

 

 

今、20区で何が起きているの?

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

亜門Side

 

 

眼帯に一撃を与えた時だった。

強力な一撃だったにも関わらず、倒れていた眼帯が立ち上がり、奴の体に異変が起きた。

赫子が体にまとい始めた。

 

半赫者。

 

喰種は本来ならば人間を口にしかできないのだが例外がある。それが共食いだ。喰種が同胞である喰種を喰うことで、通常よりも強力な赫子が作られ凶暴になる。だがその代償に理性が欠如し始め、自らを制御することができないと言われている。

 

「っ!」

 

すると眼帯は島村卯月に視線を向け、彼女を抱えた。

 

「待て!!眼帯!」

 

俺は島村卯月を抱えた眼帯を追いかけた。

ヤツに追いつき、たどり着いた先は人の気配を感じさせない橋脚の下。

 

「彼女はどこにやった?」

 

「......」

 

眼帯からは全く返事がない。

理性が制御できていないはずなのだが、島村卯月をどこかに隠したのだ。普通ならば人間である彼女を喰う可能性が高いはずだが、ヤツは彼女を捕食はしない。

 

 

 

 

眼帯と戦っている中、俺はあることが浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

島村卯月を抱えた眼帯

 

 

 

 

 

 

眼帯は喰種にも関わらず、人間である彼女を捕食しない

 

 

 

 

 

 

 

彼女を抱えた時の眼帯の目はどこか悲しそうな目つき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、眼帯は島村卯月と面識がある人物なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

カネキSide

 

 

僕を取り付いていた暴走が消え去った時、僕は自我を取り戻した。

後ろを振り向くと戦っていた亜門さんが片腕をなくし、倒れていた。

 

「亜門さん!!」

 

僕は自分の手でまた傷をつけてしまった。

彼の元に近づこうとすると、あることが気がついた。

 

「っ!!」

 

それは僕の体に異変が起こった。

 

「ぐはぁっ!!!」

 

口から大量の血が吐き出された。

横腹にできた傷がすぐに再生されない。

本来なら傷はすぐに治るはずが、再生が始まらない。

 

(あのクインケは-...!」)

 

亜門さんが使っていたクインケは先ほど使用したクインケではなく形状が違っていた。

喰種は人間とは違い肉体の再生は早いのだが、喰種同士の戦闘になると話が変わる。喰種にはそれぞれ相性がある。相性が悪いと再生する時間が大きくかかる。どうやらクインケとの相性が悪いらしい。

 

「っ....」

 

僕は傷を抑えながら高速道路の橋脚の下にいる彼女の元に必死に歩く。

僕は人間の肉を口にはせず、同種である喰種を喰らっていた。力を得た代わりに理性が効かなくなる。その結果守るべきはずの存在を摘もうとしてしまった。だが僕は彼女をどうか安全な場所に移した。食ってもおかしくはない状況なのに僕は彼女を抱え、隠したのだ。

 

 

 

 

 

 

僕は彼女の前に近づいた。

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと眠る彼女。

 

 

 

 

 

 

 

 

以前までは普通の女の子であった彼女は、今では高嶺の花であるアイドル。

 

 

 

「っ...っ...」

 

 

 

僕は彼女の頰に手を添える。

 

 

 

 

 

 

このまま彼女の肉を食えば僕は回復することができるが、そんな目先の利益を得たくない。

 

 

 

 

 

 

 

彼女から伝わる温度が痛みを和らいでくれる。

 

 

 

 

 

 

彼女とは別の生き物。

 

 

 

 

 

本来ならば会ってはならない存在同士。

 

 

 

 

 

 

僕はその理由でしばらく彼女の前に現れなかった。

 

 

 

 

 

 

だけど僕は彼女に会いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

もう一度話し合いたい。

 

 

 

 

 

何も怖がることなく、時間を気にせずに笑い合いたい。

 

 

 

 

「ムカデを探せ!!」

 

すると僕の耳に声が入った。

近くに喰種捜査官が僕を探し回っていた。

 

(逃げないと...!)

 

彼女を連れていくわけにはいかない。

僕は重い体を引きずるように動き、彼女から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうか死なないでくれ、卯月ちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

うすうすと意識を取り戻した、私。

さっきまでは顔から雫のような冷たさを感じていたのだけど、いつの間にかその感覚はしなくなった。

一体何が起こっているのだろうかと少し目を開けると、私は高速道路の橋脚の下にいた。

先ほどまで私は彼の腕に眠っていたのに、その彼がいつの間にかいなくなってしまった。

暖かった彼の腕が消え、私の体は冷えきっていた。

寒すぎて体が思うように動かない。

 

「有馬特等!!」

 

すると誰かが私を見つけたらしい。

 

「島村卯月を発見しました。おそらく”ヤツ”が隠したのかと」

 

どうやら私は低体温症になっていたらしい。

 

「彼女を今すぐ本部まで」

 

「わかりました」

 

私は誰かに抱えられ、雨が降る街の中に運ばれた。

体が思うように動けなく、口も開けなかった私は再び目を閉じてしまった。

 

 

 

 

 

 

私を抱える人の腕は冷たい。

 

 

 

 

 

 

 

私を助けてくれた王子様の腕は表面上の暖かさだけじゃなく、心も暖かくしてくれたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

 

 

 

 

20区の地下

 

 

 

 

 

地下にも関わらず、白い花が咲き誇っていた

 

 

 

 

 

その場所で無残にやられた僕

 

 

 

 

 

 

そこに死神と呼ばれる有馬貴将が立っていた

 

 

 

 

 

 

 

有馬貴将は喰種捜査官であり、一人で大量の喰種を倒したのだ

 

 

 

 

 

その彼に一撃を与える攻撃ができず、ズタズタにされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両目を潰され、何もできない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が薄れていった時、ふとあることを思い出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕には喰種だけではなく、人間にも大切な存在があった

 

 

 

 

 

 

 

それは僕が喰種になる以前にあった友達

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒデもそうだが、大学生になった時に出会った人がいた

 

 

 

 

 

 

彼女の出会いをきっかけにたくさんの友達が生まれた

 

 

 

 

 

 

だけど彼女たちはアイドル

 

 

 

 

 

 

僕は人間を糧にする喰種

 

 

 

 

 

僕は彼女たちの前に姿を消していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど彼女たちは影であった僕を忘れていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だんだんと意識が消えていく

 

 

 

 

 

 

 

 

これで最後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さよなら、僕の希望

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

陽の暖かさが肌に伝わり、目をゆっくりと開けた。

 

「...っ」

 

夜の冷たさと雨の冷たさがなく、私はふかふかなベットにいった。

 

「卯月ちゃん!!」

 

すると突然志希さんに抱きつかれました。

 

「し、志希さん...?」

 

「本当にごめん...ごめん...」

 

一体何が起きたのかわからなかった。

志希さんが泣きながら私に抱きつく。

志希さんに理由を聞こうとしたら、ドアが開く音がしました。

 

「しまむー!!」

 

ドアから現れたのは未央ちゃんと凛ちゃんでした。

二人は急いだ様子で私のものに駆けつけたようだった。

 

「しまむー、大丈夫だった?」

 

「怪我もなかった?」

 

「ええ..大丈夫です」

 

疲労や体の冷えで動けなかったのだけど、今は不自由なく動ける。

 

「あの志希さん....どうして泣くのですか?」

 

「卯月ちゃんをあたしの家に置いていって....ごめん」

 

志希さんは私を強く抱きしめ、頭を上げようとしません。

いつも自由奔放の志希さんがこうするなんて、本当に反省をしているとわかります。

 

「大丈夫ですよ、志希さん」

 

私がそう言うと志希さんは顔を上げました。

確かに私を20区に置いてきたのは事実です。

でも志希さんを嫌うなんて考えません。

特にある人に再び出会い、助けられたのだから。

 

「私、金木さんに助けられたんですよ」

 

「「え?」」

 

皆さんは私の言葉に口を揃い驚いた。

 

「しまむー、そんなまさか…」

 

「金木に出会っただなんて、冗談だよね?」

 

「え?」

 

皆さんは信じてくれない。

 

「病院にいるってことは...もしかして、金木さんはきっと同じく病院に..」

 

「いや、卯月。金木がこの病院に運ばれたなんて聞いてないよ?」

 

「えっ....?」

 

凛ちゃんの顔は微動もせずまっすぐな顔で私に伝えました。

 

「そんな...私を助けてくれたのは、金木さんでしたよ」

 

何度も皆さんの話しても一向に信じてくれない。

あの時、私を連れてくれたのは確かに金木さんだった。

姿は変わってしまったけど、あの人は間違いなく金木さんだった。

金木さんの腕の中にいたのも本当だった。

 

 

 

 

 

それが嘘なの?

 

 

 

 

 

そんなことはない。

 

 

 

 

 

あれが夢の中の話だなんてありえない。

 

 

 

 

 

 

「あれ?卯月ちゃん?」

 

「...?」

 

すると落ち着き始めた志希さんはあることに指摘しました。

 

「そのパーカーって?」

 

私は制服の上に少し大きめの黒のパーカを着ていました。

 

「これ金木さんから頂いたもので」

 

私がそう言うと志希さんは匂いを嗅ぎました。

 

「...やっぱりカネケンさんのだ」

 

「え..?しきにゃん、今なんて」

 

「このパーカー、カネケンさんのものだよ!!」

 

志希さんはそう言うと子供のようにはしゃぎました。

 

「え、ま、待って、志希。あんた何言ってんのよ?金木が20区にいたわけないでしょ?それにそのパーカーは志希の部屋にあったのじゃ」

 

「いや、このパーカーはあたしの部屋にないよ。しかもこのパーカーは明らかに男向けのだから卯月ちゃんには大きすぎない?」

 

「まぁ...確かに...それで、なんで金木の匂いだと言えるの?」

 

「根拠?ずっと前に嗅いだカネケンさんの匂いを思い出してそれが一致したから、それだけ♪」

 

志希さんはそう言うとにゃははっと笑いました。

 

「ちょっと待って、しきにゃん!だったらカネケンさんは20区に本当にいたの?私は13区で出会ったんだんだけど」

 

「金木が13区に?未央、それは本当?」

 

「うん、金木さんは髪が白かったってかみやんから言われて、それで13区の交差点で見つけたんだ」

 

未央ちゃんの話を繋げると、金木さんは13区から20区に移動したと考えられる。

 

「全くカネケンさんは知らないうちに髪が白く変わったんだね...あ、そういえば卯月ちゃんは知ってると思うけど、カネケンさんは喰種になったんじゃないかと喰種捜査官に言われたよね?」

 

「え!?し、志希さんも同じく聞かれたのですか!?」

 

私は志希さんの言葉に驚きました。

確か私だけ喰種捜査官の方に聞かれたのだと思いましたが...

そう驚いていると誰かが入ってきました。

 

「急に騒いで一体どうしたのみんな?」

 

すると美嘉さんと文香さんが入ってきました。

 

「おっと、ちょうどよかった♪美嘉ちゃんも文香ちゃんもこっちにきて、話したいコトがあるんだ♪」

 

志希さんは金木さんのことを伝えました。

金木さんは喰種ではないかとか私が助けたのは金木さんだったこと、などすべてが本当だと言い切れませんが、みんなが抱えていたもやもやが晴れたようにどこか部屋の中が明るかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちはその後、金木さんのことは秘密にするように約束をしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たち以外が知られないように、秘密にしなければなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

文香Side

 

 

私がお手洗いで部屋に離れていた時だった。

卯月さんは喰種捜査官の方々に無事に見つかり、病院へと運ばれました。

幸いにも大きな怪我はなく、命の別状はありません。

しかし意識はありませんでした。

いつまでも意識を取り戻さない卯月さんに志希さんはずっとそばにいました。

私と美嘉さんはちょうど病室から出ており、美嘉さんは仕事に遅れると伝えるため退出し、私はお手洗いにいっていました。

私が病室に入ろうとした時、部屋の中は騒がしい声がしました。

どうやら卯月さんが目を覚ましたようです。

私がそのまま入ろうとしたその時でした。

 

「私、金木さんに助けられたんですよ」

 

卯月さんがいらっしゃる病室から聞いた耳を疑う話。

金木さんが卯月さんを助けた?

一般人は立ち去り、喰種捜査官と喰種しかいなかった20区で現れたなんてありえない。これは偶然?何か仕組まれた運命?金木さんが現れたのはなぜ?私の前に消えてしまった金木さんがなぜ卯月さんの前で現れたの?どうして?どうして?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんであなたは私の前に現れなかったの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「文香さん..?」

 

ふと気がついくと誰かが私を呼んでいる。

美嘉さんが目の前にいました。

 

「あ...美嘉さん」

 

「なんかちょっと顔色が悪かったけど、大丈夫?」

 

「い、いえ..なんでもありません」

 

私がそう伝えると美嘉さんと一緒に、卯月さんたちがいる部屋に入って行きました。

中には志希さんだけではなく、凛さんと未央さんの姿がありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の胸の中に暗い色が生まれた。

まるで色とりどりの絵の具の中に黒色が投げ入れられるように、心が染まっていく。

ある出来事が思い出していく。

それは梅雨の時、私の元に二人の喰種捜査官がやってきた。喰種捜査官の方が私に金木さんのことを聞こうとした本当の理由。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて笑えない話。

 

 

 

 

 

 

 

 

後悔しても仕方がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自ら前に進むことができなかった私が悪い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駄々をこねる子供みたいだ、私

 

 

 

 

 

 

 

私は影だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光ではなく影

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて妬ましい

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

プロデューサーSide

 

 

20区での作戦が終了した翌日、私は高垣さんにお声をかけ、都内にある喫茶店にいました。

 

「突然、お声をかけ申し訳ございません」

 

「いえ、ちょうどお仕事が終わったので大丈夫ですよ」

 

高垣さんはそう言うと笑顔で返したのだが、どこか様子が暗い。

あの作戦後、高垣さんの様子が暗くなったと言う声を事務所内によく耳にする。

 

「久しぶりにお話をしますね」

 

「ええ、そうですね。こうして長く話すのはあまりないですね」

 

高垣さんとは同じ事務所にいるため昔から交流がある。

だが私は彼女をプロデュースをしていないため、こうして長く話すのはめずらしい。

 

「実は高垣さんに渡したいものがありまして」

 

「渡したいものですか...?」

 

私はそう言うとカバンから何かが入った袋を取り出し、高垣さんに渡した。

 

「袋ですか..?」

 

「...中身を見てください」

 

私はそう伝えると高垣さんを袋の中を見ました。

 

「コーヒーカップに私のサインが書かれたうちわ....プロデューサーさん、これは一体?」

 

「...」

 

私はしばらく口を閉ざしてしまった。

言うべきことがあったにも関わらず、口は硬くいえなかった。

彼女を悲しませたくない感情が芽生えてしまった。

だが起きてしまった現実を伝えなければならない。

 

「実は...高垣さんがかつて働いていた喫茶店の店長から頂いたものです」

 

「よ、芳村さんが…!?」

 

「高垣さんはあんていくに働いていらっしゃったんですね」

 

「...誰から聞いたのですか?」

 

「喫茶店の店長から聞きました。私が346プロダクションのプロデューサーと伝えましたら、お話が聞けました」

 

高垣さんがかつて働いていた喫茶店が今回CCGの殲滅対象であったでなると、あることが疑問に浮かんでいた。

 

「高垣さんは本当に店長が喰種だとご存知なかったのですか?」

 

それは高垣さんは働いていた時、同じく働いていた人が喰種だと気づかなかったのかと疑問に浮かんだ。

店長からは長く働いていたと耳にしたため、気がつくはずなのだが...

 

「いえ、全くと言ってもいいほど知らなかったです。まさか私が働いていた場所が…」

 

高垣さんは口を止めてしまった。

 

「すみません…あのショックが..」

 

高垣さんは口に手を当て、目を細めた。

そして静かに涙を流した。

 

「私をここまで育ててくださったあんていくの皆さんが...喰種だと信じられません....皆さんが人間を喰らう喰種だなんて....」

 

高垣さんはしゃくりながら私に伝えました。

彼女がショックを受けるのは当たり前だ。

アイドルになるまで支えてくれた場所が一夜にして消えてしまった。

これほど悲痛なものはない。

私も彼女と同じく失ったものがあった。

今回の作戦で喰種捜査官である亜門さんを失った。

彼の遺体は発見されず、消えてしまったと耳した。

 

「あの高垣さん」

 

「...はい」

 

私にはあんていくに訪れてわかったことがあった。

 

「...私も同じく彼らが高垣さんを..いや、人を食う喰種だなんて信じられません。店長はあなたと優しく接し、我が子のように見ていました」

 

それは店長とお話し、その後わかったことだ。

今まで喰種は非道で愚かな生き物だと認識したのだが、店長のような誰よりも高垣さんを知る人物がいたことに驚いた。人間を自らの糧とは考えず、人間とは変わらない考え方をしていた。

 

「この話は私たちだけの秘密です」

 

「...はい、わかりました...」

 

高垣さんは涙を拭き、小さくうなずきました。

この話は世間に知られてはならない。

彼女が喰種と合流があったとなれば、今後に影響しかねない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちは黙示するしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんていくと言う喫茶店のことを

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

私が退院した数日後、私は凛ちゃんと未央ちゃんと一緒にあるところに向かいました。

そこは20区にあった喫茶店あんていくです。

作戦後は解体作業が開始され、取り壊されていました。

 

「まさかここで働いていた人みんなが喰種だったの...?」

 

「...うん、そうらしい。今回の攻撃対象がここだったから...つまり働いていた人は喰種ってことになるよ」

 

まるで小学校の頃に読んだ注文の多い料理店を思い出します。

やってきたお客さんをだんだんと奥に引き連れ、最終的に訪れていたお客さんがメニューだとわかってしまう場面が頭に浮かぶ。

 

「...トーカさんが本当に喰種なんでしょうか」

 

「トーカさん?あの私たちと同じ女の子?」

 

「はい、トーカさんは私に優しく接したのですがーー」

 

私はさらに話そうとしたその時、

 

「...?」

 

後ろから何か視線を感じた。

誰かが私たちを見ていた。

 

「どうしたの卯月?」

 

「誰かが私たちを見ているような...」

 

「...そろそろ離れよ。もしかしたらファンかもね」

 

「...そうだね」

 

先ほどの視線はもしかしたらファンかもしれない。

しばらく壊されるあんていくの前に止まったら怪しまれてしまう。

私たちはあんていくから離れて行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はあんていくの皆さんが人間を喰らう喰種だとを考えられられません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんていくに働いていた皆さんは優しく接してくれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が見てきたものは悲劇は夢の中であってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬に崩れ去った居場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして再び姿を消してしまった私の王子様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はあなたを風のように忘れないよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっともう一度私たちの前に現れるのを信じるよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたが私たちの元に帰ってくるのを待ってるから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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