東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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私が一人だった時、彼が再び私の前に現れてたんだ。



その人はまるで王子様みたいだった。








My dear prince

卯月Side

 

 

「だ....れ..?」

 

私は小さな声でその人に声をかけた。

街灯の逆光で見えない。

私の呼びかけに応じたのかその人が一歩前に進んだ。

その人が私に近づくと姿がはっきりと見えた。

 

「っ!!」

 

その姿を見た私は胸の中で消えていた恐怖を再び現した。

黒いマスクに歯茎がむき出し、赤く光る目。

道で倒れていた遺体と同じ怖いマスクだ。

 

「こ、来ないで...」

 

私は声を震わせながら足を引きずりながら後ろに進む。

必死に逃げてきて生まれた疲れが私の体を重くさせる。

だけど今は生きるか死ぬかの状況。

その化け物は私に近づく。

もしかしたら私を殺すかもしれない。

足がうまく使えない今、私の腕で体を後ろに動かす。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーだけど

 

 

 

 

 

 

「....っ!!」

 

すると後ろに進んでいた私に硬い壁が動きと止めた。

背中から伝わる壁の冷たい温度。

それを感じた瞬間、絶望を感じてしまった。

もう逃げる場所ない。

止まることなく私に近づくバケモノ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、

 

 

 

 

 

 

 

私は死ぬんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ないで....来ないでっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

必死に叫んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

私は死にたくない

 

 

 

 

 

 

 

まだ生きたい

 

 

 

 

 

 

まだ私にはたくさんやることがあるんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生きたいと言う望みを抱えながら死ぬ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなの、嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....?」

 

しばらくしても、私の身に何も起こらなかった。

絞め殺されることや刃物で殺傷されることはなく、私の肌に触れることはなかった。

一体何が起きたのだろうかとゆっくりと目を開くと、その人は私の前に片膝をつきマスクを外していた。

その人の顔を見ると、私はハッと驚いてしまった。

 

「か、か......ねき....さん?」

 

私が口にした名前。

その人は私より2つ上の男性でお友達です。

私がアイドルになれると知った当日、凛ちゃんのお家のお花屋さんで出会った。

その出会いがきっかけで仲がよくなり、たくさん思い出を作りました。

だけどある日突然、私の前から消えてしまったんだ。

それでどうしてかはわからず日々を過ごしてしまった。

その金木さんが私の前に現れていたのだ。

 

「...久しぶり」

 

金木さんは目を細め、寂しそうに微笑んだ。

肌と髪は真っ白な雪のように白く、爪は赤黒く染まっていた。

一見、見知らぬ人だと感じてしまうが、瞳と声は間違いなく金木さんだった。

 

「か、か...金木...さんっ!!」

 

私はすぐに金木さんの胸に飛び込んだ。

 

「金木さん...なんで急にいなくなったんですか....」

 

安心感を得た瞬間、私は解放されたかのようにいっぱい泣いた。

一人でいるのが怖かったこともあるし、何より金木さんにこうして再び会えたのが嬉しかった。

今まで行方不明だった彼と会えたんだ。

 

「....ごめんね、卯月ちゃん」

 

私の頭を撫でた。

金木さんの手は肌の色とは違い暖かい。

真っ白で冷たい色をした肌から伝わる温度が心地いい。

ずっとこのままして欲しいほど。

 

「私....怖かった...怖かったんです....街が突然変わってしまって...」

 

「うん...」

 

「それで私は一人で...死ぬんじゃないかなって怖かった....だけど、まさかここで金木さんに会えるだなんて...」

 

「...急にいなくなってごめん」

 

片耳から聞こえる金木さんの声は久しぶりに聞いた。

最後聞いた時は明るかった声が、今聞いた声は静か。

 

「卯月ちゃん、もしかして学校帰りだったのかな?」

 

「いえ...志希さんのお家にいたんです」

 

「そうなんだ...志希ちゃんのお家だから結構歩いたね」

 

「あれ..?金木さんは志希さんのお家を知っているんですか?」

 

「うん、志希ちゃんの家には一回行ったことがあるよ」

 

「一回...あ、そうでした」

 

「ん?」

 

「志希さんが言ってましたね」

 

「まったく...志希ちゃんは」

 

金木さんはそう言うと頭を抱えました。

志希さんの行動には困ったと思います。

 

「ここまで逃げてきて、制服は汚れちゃいました..」

 

這いつくばるように逃げたせいか綺麗だったシャツとスカート、それとベストは汚れてしまった。

 

「....卯月ちゃん、これを着て」

 

金木さんはそう言うと着ていたパーカーを私に着させた。

そのパーカーは私には少し大きかったのだけど、今の私には十分だった。

 

「少しは暖かくなると思うよ」

 

「...ありがとうございます」

 

私はそう言うと自然を笑顔になった。

なんだか久しぶりに笑顔になったみたい。

 

「立ち上がれる?」

 

「....いえ」

 

私は首を横に降った。

 

「私..足を挫いてしまって...」

 

立つだけでも苦痛。

それに長く歩いたせいか、体に疲労が蓄積されていた。

 

「...じゃあ」

 

「え?」

 

すると突然金木さんは動けなかった私を持ち上げたのだ。

 

「これでいいかな?」

 

「は、はい..」

 

私は一体何か起きたのか分からず動揺をしてしまった。

まるで王子様に抱っこされているみたい。

そして金木さんは私を抱え、走っていく。

 

 

 

 

 

誰もいない街の中で一緒に駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

孤独だった私を助けてくれた金木さん。

 

 

 

 

 

 

 

まるでお姫様を助けた王子様のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は至福の時を感じているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっとこの人といたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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カネキSide

 

 

 

 

 

それは思わぬ出来事だった。

 

 

 

 

 

僕があんていくに向かっていた時であった。

捜査官を何十人も無力化をし、

ビルの間の谷間から誰かの声が聞こえた。

動物のような鳴き声や物が自然と壊れる音ではなかった。

そこにいたのは喰種ではなく人間だった。

近づいてみるとその人は僕のかつての友人卯月ちゃんだった。

彼女は僕とは違い、表に立ち輝くアイドルだ。

だけど路地裏にいた卯月ちゃんはその面影もなく一人ひどく怯えていた。

学校帰りだったのか制服姿で一人隠れていて、最初僕の姿に恐ろしく感じていた。その時僕はマスクを外し、彼女の前に立つと、涙を流し抱きしめた。彼女が怖がるのは分からなくもない。大通りにたくさんの死体が転がっていて、断末魔や銃の発砲音に慣れているはずがない。僕はその光景や音に慣れてしまっているのだから怖さなんてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいない街の中、僕は彼女を抱えたまま走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胸の中で懐かしさと嬉しさが生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

喰種の世界にずっといた僕がかつていた世界。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喰種になる前に出会った彼女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は笑顔が素晴らしい女の子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は僕にとって希望だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人であった僕が決して失ってはならない存在

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして彼女と再び会えたのは奇跡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卯月ちゃんともう一度会えたことになんとも言えないほど嬉しかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど彼女に危険を犯させてまであんていくに向かうなんてできない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はあと少しで彼女と離れなければならない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女とこうして近くにいるのはあと数分しかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて辛いことなんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが"本当の最後"かもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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亜門Side

 

 

東京都20区

今現在は我々CCGと喰種の交戦地と化してしまった。

俺は部隊の隊長として主力部隊に横槍を加えられないように喰種を戦っていた。

今回の作戦は20区にアオギリの樹と繋がる喫茶店がターゲットだ。

その喫茶店に喰種が働いていたのだ。

 

(ターゲットの排除もそうだが...)

 

つい先ほど司令部から二つの情報を耳にした。

一つはある勢力が次々と無力化している。

おそらく今回殲滅対象の喰種の仲間だと思われる。

二つ目はアイドルの島村卯月がここ20区に取り残されていると言う情報だ。

346プロには突然と言う形で作戦前に実行すると報告をした。

今回の作戦は重要な戦いであり、最後まで伝えなかった。

だが島村卯月が20区内にいると同じアイドルの一ノ瀬志希の口から発覚したのだ。

作戦終了後、346プロから批判を受けるのは間違いないが、島村卯月が作戦中死亡となると346プロだけではなく世間に批判を受けることになる。

 

「現れました!!」

 

すると部隊の一人が何かに指をさした。

 

「っ!」

 

人の気配がしなかった大通りに一人現れた。

それは俺が見たことのある眼帯の喰種だった。

片目を隠し歯がむき出しのデザインをしたマスクをした喰種で、過去に俺と何度も戦った。

我々は近づいてくる奴に身を構えた。

何も言わず、武器を構えている俺たちに近づくなど喰種以外考えられない。

 

(...ん?)

 

だが眼帯の喰種が近づいてくると何か異変を感じた。

それは誰かを持っていたのだ。

フードで顔が隠されて確認ができない。

おそらくは味方の喰種を抱えているのか?

 

「っ!?」

 

すると突然強い風が吹き、眼帯の喰種が抱えていた人物の頭を隠していたフードから長い髪が現れた。

 

「...あれはっ!」

 

目を疑うような光景が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼帯の喰種が、島村卯月を抱えていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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