東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

8 / 84

彼とまた出会ったんだ、再び―――





匂先

 

 

 

金木Side

 

 

「「.........」」

 

お互い何も言わず、ただ黙っていた。

周りは風の音がするだけで、とても静かであった。

 

(何か言わないと....)

 

さすがにこんな状況が続いたらまずい...

ぼくは勇気を振り絞り、声をかける。

 

「あ、あの.....」

 

「そ、そういえば...今日のライブどうだった?」

 

「え?」

 

突然彼女はぎこちなく口を動かす。

ぼくはそれに驚き、言葉が詰まってしまった。

 

「...と、とても良かったです」

 

「そ、そう....あ、ありがとう!」

 

彼女は大雑把にリアクションをする。

照れを隠しているように見えた。

 

「「............」」

 

周りのみんなは空気を読んでいるせいか黙っていた。

ぼくたちのこの気まずい雰囲気を見るためか。

 

「やっぱり....あの時出会ったんだよね?」

 

「ははは....ど、どこで?」

 

「"13区駅"で...」

 

「................」

 

彼女はその言葉を聞いた瞬間、口が動かなかくなった。

だんだんと顔が赤くなり、ゆっくり頷く。

 

「そうなんだ.....うん...」

 

本当だった。

あのときに出会ったのが"本人"だと言うことを。

 

(何話せばいいんだ...?)

 

またしても言葉が詰まる。

なんて言えば.....

 

「じゃあ...私は帰る...うん...またね.....えっと...名前は?....」

 

ぼくはさりげなく「金木です」とぼそっと言った。

 

「そ、そうなんだ!.....じゃあまたね....」

 

彼女はものすごい速さでこの場から去る。

 

「あ!待ってお姉ちゃん!」

 

「みりあたちを置いて行かないで!」

 

みりあちゃんと莉嘉ちゃんは彼女を追いかける。

とても可哀想に見えた。

 

「どうしたんでしょうか...?」

 

卯月ちゃんは少し状況が読み込めず、漠然していた。

 

「そういえば金木さん。美嘉に会ったって....」

 

凛さんがぼくの方に顔を向ける。

 

「本当だよ...」

 

さすがにこれが嘘なんて言えない。

 

「「え?」」

 

卯月ちゃんたちはそれを聞いた瞬間、大きく驚いた。

 

「13区駅で美嘉姉と....?」

 

「うん...たまたま彼女に会ったんだ。変装してたんだ」

 

すると未央ちゃんは人差し指を顎に当て、おぼつかない顔をした。

 

「おかしいな...美嘉姉ってそんな人じゃないんだけどな...」

 

「多分疲れているんだよ。そう、ライブをやったから」

 

未央ちゃんは「うん...」と先ほどと変わらず納得のいかない表情でぼくに返事を返す。

ぼくは手をおでこに当て、ため息をする。

 

 

ああ、やってしまった。

 

彼女の"踏んではいけないもの"を、ぼくは踏んでしまった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

美嘉Side

 

 

(ヤバい.....なんであんなに緊張したんだろう...)

 

まさかの"彼"がいた。

しかも建物から出た瞬間にいたのだ。

 

「おねーちゃん?」

 

「...え!?」

 

「どうしたの、さっきの?」

 

莉嘉が心配そうな顔つきでアタシに聞く。

先ほど逃げるように去ったため、莉嘉たちを置いてしまった。

もちろんその後すぐに謝った。

 

「調子でも悪いの?」

 

みりあちゃんも同じく心配そうに言う。

 

「あれだよ!カリスマJKが教える、間違ったやり方をしないようするために、ああやったんだよ!」

 

アタシは慌てててさっきの行動の理由を口にする。

もちろん言っていることは"嘘"。

 

「確かにさっきのようにやったら、ダメだよねー。お姉ちゃんだったら"違うこと"してるね」

 

「なにがだめなのー?みりあも知りたーい」

 

なんとかうまく隠せたかも。

 

「ははは....」

 

アタシは違和感のある笑いをした。

 

(........なんで名前聞いたんだろう?)

 

今思えばアタシは不思議な行動をしていた。

確か彼は"金木"という名前だったね。

 

(でもどうして彼がいたのだろう...?)

 

一瞬しか見てなかったけど、卯月たちは動かなかった。

もしかして....彼は卯月たちとは知り合いなのかな?

 

 

 

 

 

 

.......今度卯月に聞いてみよ、"彼”(金木)について

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

彼から匂いがしたんだ

 

"運命"という匂いが

 

だからあたしは彼を追いかけることにした

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

卯月ちゃんたちの初ライブから数日が経った平日の朝。

ぼくは普通に登校をしていた。

人だかりの中、ぼくは大学を目指すべく、歩いていた。

 

(....違和感あるな...)

 

今日は少し違う。

いつもとは違い、爽やかな匂いを出す香水をつけてきたのだ。

香水をつけたきっかけは、この前のライブが終わった後に、卯月ちゃんが"あるもの"を渡したのだ。

 

『金木さん!これどうぞ!』

 

渡して来たのは、男性用の香水であった。

 

『これは...?』

 

『先週デパートでくじを引いたら、当たった景品です!』

 

見た感じとても高級感があって、外国製だ。

でもどうしてぼくに渡すの?と聞くと、

 

『わたしのパパが好きじゃないと言っていたので...金木さんにプレゼントします!』

 

満面の笑みでその返事が来た。

さすがに断れなかったため、結局もらうことにした。

 

(....本当にいいのかな?)

 

明らかに数万円しそうな香水で、貰い物にしては高すぎる。

 

(今度何かお返しをしないと...)

 

そんな爽やかな気分と裏腹に、今日はそんな爽やかではなかった。

 

(ん?)

 

人だかりから何か視線が感じた。

ぼくは後ろを振り向き、周りを見渡す。

人混みの中とはいえ、僕を見つめる人は見当たらない。

 

(...気のせいかな?)

 

気を取り直して前を向き、歩く。

 

(........)

 

ぼくは足を動かすのをやめ、止まる。

何か変な感じがする。

明らかに気のせいではなかった。

 

 

 

 

"誰か"がぼくを見ている。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

???Side

 

 

今日から"この地”(20区)に住むことになった。

前までアメリカの大学に行ったんだけど、つまんないから日本に帰ってきた。

今日から初めて高校に行くのだけど..

 

「なんか気分が上がらないなー」

 

家から出て3秒後、学校をサボることにした。

理由は簡単、つまんないから。

今日の予定だと化学が入っていない。

学校で寝るのはいいかもしれないけど、それだったら学校をサボった方がマシだ。

 

とりあえず今日の予定は学校に行くのではなく、20区を探検することに決まった。

 

(何かあるかな〜♪)

 

学校へ行く道を外れ、商店街に向かう。

何か美味しそうなもの売ってそうだから。

 

「....ん?」

 

ふと、アタシの鼻に"ある匂い"が入った。

 

「フンフン.....何かいい"匂い"が.....」

 

その香りは爽やかで、おそらく男性向けの香水。

これはとてもいいやつだ。

匂いをする方に行くと、"ある男性"にたどり着く。

見た目は地味で人との交流があまり好きではなさそう。

でも何やっても"怒らなそう"。

 

「もしかして.....その匂いを出しているのは"彼"かな?」

 

あたしはポンっと手を打った。

 

彼について行こう。

 

そしたら、何か面白いことが起きそう。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

「........」

 

午前の講義が終わり、ぼくはキャンパス内のベンチで読書をしていた。

 

「........」

 

しかし中々集中ができない。

なにか変な気分がする。

 

朝の通学の時、大学に入った時、講義が終わった時、誰かがぼくを見てような気がする。

 

「こんにちは、金木さん」

 

そんな落ち着かない雰囲気の中、文香さんがぼくに声をかけて来た。

 

ぼくは「こんにちは」と言うと、文香さんは隣に座ったのだ。

その時、僕はどきっとした。

急に隣に座ってきたのだから。

 

「どうしました?」

 

「い、いえ......なんでもありません」

 

文香さんは「?」という顔つきをし、少し頭を傾けた。

卯月ちゃんと接する時より無駄に緊張がする。

 

「今日はどんな本を読んでいらっしゃるのですか?」

 

いつも文香さんとの会話はそれで始まる。

お互い本を読むのが好きだから。

 

「えっと...."高槻作品"の本ですね」

 

「 "高槻作品"...ですか」

 

文香さんは何かおぼつかない表情をした。

 

「文香さんは読みますか?」

 

「読みますが....私は少し苦手ですね」

 

「...え?」

 

ぼくは小さく驚いた。

好きそうなイメージを持っていたが、まさか違うとは。

 

「どうしてですか....?」

 

ぼくは理由を聞く。

 

「彼女が書く作品は...短編以外必ず『大事な人』か『主人公自身』が死ぬところがあって....苦手です」

 

彼女は視線を落とし、寂しそうに喋る。

なんだか悲しそうに見える。

 

「そうですか...」

 

ぼくも彼女と同じく視線を下に向く。

もし文香さんが好きなら、もっと語り合えたのだが、少し残念。

すると彼女はぼくの姿を見て、

 

「あ....申し訳ございません....金木さん」

 

文香さんは頭を下げる。

 

「い、いえ、人は好き嫌いはありますから...謝らなくてもいいですよ?」

 

ぼくはその姿を見て、慌ててしまった。

 

「…すみません。…あ、つい…謝るのが癖で…すみません」

 

「そうですか......でも、文香さんは優しい方ですね」

 

「そうでしょうか...?」

 

そんな会話の中、また感じた。

 

(....ん?)

 

また"あの感覚"がした。

 

「どうしたんですか?金木さん?」

 

「...誰かがぼくを見ているような気がするんですよ」

 

どこなのかははっきりわからないが、ぼくを見ていることは間違いなかった。

だとすれば、どうして"ぼく"を見るのだろうか?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

???Side

 

 

(おやおや?ばれたかな?)

 

建物や電柱などの隠れることができるものに隠れ続けて彼を追ったが、どうやら彼は警戒心が強いらしい。

気がつけば大学のキャンパスにいる。

この大学の名は...."上井大学"だっけ?

 

(しかも、見た目の割に女の子のお友達がいるねー)

 

とりあえず彼はどう言った者なのかわかった。

一つは大学生。

二つは女子友達がいること。

三つは本が好きな青年。

そして最後は、いい匂いだからいい人(多分)。

 

(でも"志希ちゃん"はそう簡単に諦めないよ~♪)

 

ますます興味が湧き出た。

 

まだ追いかけるつもり。

 

その彼に。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

(.......まだする)

 

今文香さんと一緒に帰っているのだが、まだ視線が感じる。

 

「...まだいますね」

 

文香さんも気づいたらしく、歩いている時に何度か後ろを向いていた。

この後の予定では文香さんと別れ、家に帰るつもりだが...

 

「あの、今日は文香さんのところに行ってもいいでしょうか?」

 

ぼくは文香さんの古書店に行く。

このまま家に行くと、何かトラブルに巻き込まれそうな気がした。

 

「...そうですね。一度私の書店にいらっしゃってください」

 

彼女は寂しそうな笑顔で答える。

 

「先ほど申し訳ないことを言ってしまいましたので...」

 

「別にさっきのは気にしてませんよ、文香さん」

 

「すみません....」

 

またしてもすみませんと文香さんは言う。

でもぼくはそんな彼女を悪くとも思わない。

そんな彼女と一緒いるのは、ぼくは嬉しかった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

 

(金木さんのあとを追ったのは誰なんでしょうか...?)

 

金木さんと私の古書店に入り、読書をしています。

理由は金木さんを守るためです。

朝から誰かに見られていると金木さんは言っておりました。

私も気づきましたが、一体誰なのかわかりません。

身長から見ると、おそらく"女性"だと思います。

 

(本当に好きですね....)

 

私は彼の姿をじっと見つめる。

自分で言ってみるのはあれですが、金木さんは本が読むのが好きです。

古書店にもかかわらず、いろんな本を手に取り、読んでいます。

多分、私と同じ年頃の人はこの古書店に訪れないでしょう。

でも金木さんはここに訪れて、楽しんでいます。

 

(しかし...先ほど金木さんに申し訳ないことをしてしまいました...)

 

それは高槻作品が好きではないということを言ってしまったのです。

私は好きではないということは本当ですが...

金木さんはとても残念そうに落ち込んでしまいました。

 

彼女の作品に初めて触れたのは、作者高槻泉の処女作"拝啓カフカ"。

読んだのですが、少し気に入りませんでした。

あの"独特の感じ"が好きではなかったのです。

 

(......すみません...金木さん)

 

私の癖のせいか、謝りたい気分が湧き上がります。

 

「あの...文香さん」

 

「...はい?」

 

「もうそろそろ帰ります」

 

時間を見ると、もう2時間経っていました。

 

「そうですか....まだここにいてもいいですが...」

 

「さすがにそれだと閉店時間が...」

 

「.......そうですね」

 

心の中になぜか寂しい気持ちが湧き上がった。

もっと一緒にいたいのでしょうか?

それとも私が一人になりたくないのでしょうか?

 

「帰るときは..お気をつけて」

 

私は金木さんに手を振り、寂しく言う。

 

 

 

 

ごめんなさい...金木さん。

 

先ほど申し訳ないことを言いまして。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

 

「ではありがとうございます」

 

彼女はなんだか寂しそうだ。

やはりさっきのこと引きずっていたのかな...?

ぼくは彼女にまた口を開く。

 

 

 

「また"来ます"」

 

 

 

彼女はその言葉を聞いた瞬間、寂しそうな顔から、

 

 

「またいらっしゃってください」

 

 

寂しそうな笑いではなく、嬉しそうな微笑みに変わった。

ぼくはそれを見て、心から嬉しかった。

ぼくはぺこりと頭を下げ、お店から出ようとすると...

 

ドォン!と大きな音がした。

 

突然お店のドアが大きな音を立てて開いたのだ。

 

「こんばんはー♪」

 

「!?」

 

「やっとみつけたよー♪」

 

満面の笑みでぼくにこえをかけてきた。

その子は"女子高校生"であった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。