東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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今まで普通だった日常。





それが突然終わりを告げるだなんて







崩始

プロデューサーSide

 

日が沈みかけてていた夕方。

私はある喫茶店に足を踏み入れた。

 

(ここが....あんていく)

 

仕事終わりに私は20区に足を運び、ここにたどり着いた。

店内はコーヒーの香りが雰囲気を作り、喫茶店というにはふさわしい場所であった。

 

「どうぞ、好きな席にお座りください」

 

店内には初老の男性が私を笑顔で迎えてくれた。

おそらく彼はお店の店長だろう。

私はカウンター席に座り、メニューを手に取った。

メニュー表はいたってシンプルで一枚のプラスチック製のものであり、書かれているメニューは多くない。

その数あるメニューの中、私はあるものに目を向けた。

 

「オリジナルブレンド......?」

 

メニューの中で一番上に書かれた商品。

どうやらそのメニューはこのお店の看板メニューらしい。

 

「ええ、当店のおすすめです」

 

「そうなんですか。じゃあ、オリジナルブレンドのコーヒーをお願いします」

 

彼は「かしこまりました」と言うとコーヒーミルを棚から出し、コーヒー豆を入れた。私は初めからコーヒーポットなどで作れていたのかと考えていたのだが、

私はあることを思い出し、彼に声をかけた。

 

「あのすみません」

 

「どうなさいましたか?」

 

「少しお聞きしたいことがありますが」

 

「お聞きしたいこと?」

 

彼は私の言葉に頭を傾げた。

 

「以前高垣さんがここで働いていたのは本当でしょうか?」

 

それは以前346プロダクションに訪れた作家の高槻泉さんから耳にした情報。

私が今日あんていくに訪れた一番理由がそれだ。

 

「ええ、そうですよ」

 

彼は何も隠すことなく口にした。

 

「楓ちゃんは前までここで働いていました。今はご存知の通り、アイドルとして活躍してます」

 

この話をするまで私は彼はこの話題を振るかどうか疑問を抱いた。

なにせ現在トップアイドルであり、輝かしい存在である彼女がかつて働いていた場所なのだから、もしかしたら彼は知らぬ顔で「いえ、知りません」と言うと私は考えていた。

 

「お待たせしました」

 

ふと我に帰ると私の前に一杯のコーヒーが置かれていた。豆をコーヒーミルでする工程が気がつけばもうコーヒーカップに淹れられていた。おそらく私が考えすぎていたようだ。

 

(あれ..?なぜもう一つ?)

 

私の隣にもう一つコーヒーが置かれていた。だれか来るのだろうかと考えていると、

 

「隣に座ってもよろしいでしょうか?」

 

「隣にですか?....ええ、構いません」

 

周りを見渡す限り、私以外お客さんの姿はない。

別に私は嫌でもなく、彼の言葉に了承をした。

そう耳にした彼は私の隣の席に座った。

 

「ところでお仕事は何をなさっていますか?」

 

「お仕事ですか?私は346プロダクションでアイドルをプロデュースをしておりまして、高垣さんとは何度かお会いする機会があります」

 

「ああ、だから楓ちゃんのことを聞いたのですか。しかし楓ちゃん自身をプロデュースをしているわけではないんですね」

 

高垣さんは別の方がプロデュースをしているのだが、事務所内では何度かお会いすることがあり、今では知人以上の関係になっている。

 

「それで高垣さんはどんな方だったのでしょうか?」

 

「楓ちゃんは真面目でいい子でした。彼女がここに働き始めたきっかけは今でも思い出しますよ」

 

「きっかけ?」

 

彼はそう言うと懐かしそうに微笑んだ。

 

「あの時の楓ちゃんは確か...18歳だったね。今と比べると自信がなくてあの頃の楓ちゃんはまだ上京したばかりで、顔には不安がいっぱいだったよ」

 

高垣さんは以前からアイドルをしていたのではなく、モデルの仕事をしていた。しかしモデルをしたとは言えどアイドルになるまでは知名度は低く、いわゆる下積み時代と言ってもいいだろう。

 

「たまたま私のお店に訪れた楓ちゃんは私が淹れたコーヒーを飲んで、涙を静かに流して感動をしたんだよ。きっと上京して生まれた辛いことが溢れたんだ。何も知らない土地で女の子一人住むのは辛いことだからね。それで私は彼女に「ここに働いてみる?」と勧めるたら、働くことになりましたね」

 

「そうなんですか....だから楓さんはここで働いていたのですね」

 

「ええ、ところで話が変わりますが、なぜ楓ちゃんがここで働いていたことをご存知だったのでしょうか?」

 

「実は作家の高槻泉さんから耳にしまして」

 

「高槻泉?....ああ、そうなんですね。実は楓ちゃんがここに働いていたお話をするには滅多にないです」

 

「滅多にないのですか?」

 

「ええ、意外と知られていないお話になっていますね」

 

今の時代ならSNS内では特定されることがあるのだが、なぜ高垣さんの働いていた場所が話題に上がらないのかわからない。

 

「それで現在の高垣さんについてどう思われますか」

 

「楓ちゃんは立派な人です。テレビで見る彼女は高嶺の花のように見えますが、私は彼女とは特別に接するのではなく普通に接します。ある人は彼女をただの人と扱わずに特別な存在と捉えるかもしれません。しかし彼女は普通の女性と変わらない一面もあります。なので私は彼女がお店に訪れるたびに決して特別な扱うなどしません」

 

ここ最近では芸能人を一人の人として扱うことなく、プライバシーや人権を侵害する事例も何度か耳にする。

そう考えていると彼は「それよりもコーヒーが冷める前にお召し上がりください」と伝え、私はコーヒーを口にした。

 

「おいしいですね、コーヒー」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

いつも私はインスタントコーヒーや缶コーヒーなどの本格的なコーヒーとはかけ離れたものを取っていたのだが、今こうして口にしたコーヒーは非常に味わい深く、舌に染み込んでいく。ただのインスタントコーヒーが物足りなくなるほど美味しい。

 

「何か豆にこだわりを持っているのでしょうか?」

 

「いえ、けして特別な豆は使ってはいません」

 

「こだわっていない?」

 

「ええ、私が使っている豆は手軽に購入できる豆を使用しております。よく高級な豆や高品質の豆を使っているのではないかと声をかけられるお客さんがいますが、私は一切そのような豆を使用しておりません。私はその豆の本来の味をより表すために淹れ方や砕き具合をこだわっています。これはアイドルもそうじゃないでしょうか?」

 

彼の言う通りだ。

私はプロデューサーを務めており、スカウトの時やお仕事の時が一番重要である。

性格や容姿だけでは判断をせず、一人一人に持つ良いところを見つけ出す。

そう考えると初代シンデレラプロジェクトがふと頭に思い出す。あの時はいくつかの困難やすれ違いもあった。だがそれをどう乗り越えられるかは自分と彼女たち次第だ。

 

「実は今日でお店を閉めることになってしまいまして」

 

「え、今日が最後ですか?」

 

彼の言葉に私は驚いてしまった。

この味わい深いコーヒーがもう口にすることができないとなると、非常に惜しみ深い。

 

「でも安心してください」

 

「?」

 

「楓ちゃんの淹れたコーヒーも美味しいですよ。彼女は他の人よりも美味しいコーヒーを出しますので、もしお時間があれば頼んだらどうでしょうか?」

 

高垣さんはここあんていくに働いた経験があるせいか、コーヒーに対して特にこだわりがある。それはかつてここに立ち、お客さんに提供をしていたから学んだ腕だと。

 

「ありがとうございます。今度高垣さんにお会いしましたらお声をかけます。ではお会計を....」

 

私は財布を取り出そうとしたその時だった。

 

「いえ、お代はけっこうです」

 

「え?」

 

「いいのですよ。こうしてお話ができるだけでも私は満足です...あと」

 

「?」

 

「楓ちゃんに渡してもらいたいものがありまして、少しお待ちください」

 

そう言うと彼は棚の中からあるものを取り出した。

 

「こちらを楓ちゃんに渡してください」

 

それは白いコーヒーカップと高垣さんのサインが書かれた紅葉の形をしたうちわ。

特にそのうちわは私には見覚えがあった。

それは去年new generationsのミニライブの時だ。

同じく高垣さんとお仕事になり、その時楽屋にいた高垣さんは積み重なったうちわを一つ一つサインを書いていた。

 

「このうちわは楓ちゃんがお仕事終わりにお店に訪ねて来たときにもらいました。その時の彼女は初めてステージに立った時のように嬉しい表情でしたよ」

 

彼はそう言うとうちわとコーヒーカップを紙袋に入れ、私に渡してくれた。

 

「またどこかで会えましたら、声をかけます」

 

「ありがとうございます。お気をつけてください」

 

私は席から立ち上がり、あんていくから去っていった。

私は東京に何年か住んでいるのだが、まだ知らないところがあると再認識をした。まだ知らない場所が都内にいくつかある。私は時間があればそこに訪れようと胸の中に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ店長がこれを私に渡したのか、数時間後にわかってしまう。

 

 

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文香Side

 

日が沈み、夜空が現れつつあった頃。

私は今日のお仕事が終わり、346プロダクションから去ろうとしていた。新作の本を手に取りこのまま家に着き、じっくりと読めると考えていた。

すると私を担当するプロデューサーさんが「文香!」と急いで駆けつけました。

 

「どうしたのですか?」

 

「今日は俺が手配したホテルで泊まってくれ」

 

「えっ?」

 

プロデューサーさんはそう言うと携帯を取り出し、ホテルまでの地図を見せました

そのまま家に向かおうとしたのですが、なぜ私がホテルに止まらなければならないのかわかりません。

 

「なぜ私がホテルに?」

 

「もしかして、ニュースを見ていないのか?」

 

「ニュース?」

 

プロデューサーさんは携帯からとあるニュースを見せました。それを見た私は静かに驚いてしまいました。それは私が住んでいる区には戻れないニュースでした。

 

 

 

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未央Side

 

夜の渋谷。

夜の街は綺麗な光と車と人の声がガヤガヤと賑わっていた。街に行き交う多くの人は仕事や学校から帰っている人。その一人の私が街に歩いていた。

 

(結局金木さんにつながる情報は無しか...)

 

お仕事終わりにぶらりと一人訪れた、私。

本当ならば帰り道には地上に上がることのない渋谷。

だけど私は答えのない問題を抱えていたのか、地下から地上へと上がっていった。

今の所、しぶりんから聞いた話以外手がかりはなし。

今まで私たちの近くに現れた白髪の男性は、赤の他人ではなく金木さんだとしぶりんから耳にした。あの行方不明だった金木さんが生きていたことに私は嬉しく感じたのだけど、新たな問題が現れた。それは金木さんの口からよくわからない話が出たのだ。しぶりんから聞いたことによると、『僕はみんなを守らないといけない』と金木さんは言った。いくら東京や日本とはいえど、私たちを守るほど危ないことがあるのか疑問が生まれる。そのあとしぶりんは何から守るの?と金木さんに聞いたのだけど、金木さんの口からは何も教えてもらっていなかった。

直接私が本人に話を聞くにはいいかもしれない。だけど金木さんは神出鬼没と言ってもいいほどいつ現れるのかわからない。

そんな、もやもやとした感情を胸の中に抱えながら歩いていた、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった

 

 

 

 

 

 

 

(.....っ?)

 

私は立ち止まってしまった。

多くの人が行き交うスクランブル交差点である人が私の横に通った瞬間、何かを感じた。

その感覚は前にも同じく感じた。

 

(....まさか)

 

私は人混みの中、自分が歩いていた逆の方向に走っていった。

 

 

 

チャンスだ。

 

 

 

これはチャンスだ。

 

 

 

もう一度会えるチャンスだ。

 

 

 

私はそんな急かされた感情で人混みの中に進んでいく。

何度か誰かにぶつかり、舌打ちされた音は耳にした。だけど今の私には関係ない。もう一度彼に会えるのだからそんなことで気にしたら、前になんか進めない。

しばらく追いかけた先を進んでいると、ある男性が歩いていた。

多くの人が行き交う中で私はその人をすぐに見つけることができた。

私が見ていた男性はしぶりんが言っていた通り、白髪の人だ。

一目だと知らない男性だと思ってしまうけど、その人の顔を見ると見慣れ顔だった。

 

「...金木さん?」

 

私は呟くように言うと、タイミングよく白髪の人が止まった。

私の声に気が付いて止まったにしては考えにくかったが、止まったおかげで追いつくことができた。

私が声をかけようとしたその時、

 

「....!」

 

するとその人はあるものを見て、大きく目を開いて静かに驚いた顔になった。

一体なんだろうと思い、私はその人が見ている先を見た。

見ていたのはビルにある大型ビジョン。

いつもコマーシャルとか天気予報を表示するのだけど、今は違った。

 

「....え?」

 

映されていた映像に私は言葉を失った。

ビジョンにはニュース速報が放送されていて、とある場所を映していた。

中継で映されていた建物は、かつて金木さんが働いていた場所でもあり、私たちが行き来していた喫茶店あんていくが映っていた。

 

 

 

 

壊れ始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

日常が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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