東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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僕はある女の子に出会った。


その子はまるで"彼女"に似ていた。










Peace

未央Side

 

 

夏の8月が終わり、秋の9月に入った。

秋と聞くと夏よりは涼しくなると思ってしまうけど、9月はまだ夏の暑さが残っている。

それに雨が降る日が夏より多くなる。

天気予報では秋雨前線が現れ、雨の日が増える見込みと言っていた。

そんな雨の日が続く知らせを聞いていた時、私はとある出来事に出会った。

そのきっかけはしぶりんからメールだ。

 

『ねえ、未央』

 

それはしぶりんが私を名前を呼ぶメールから始まった。

 

『どうしたのしぶりん?』

 

私は何気なく返信をしたのだけど、そしたら"すぐ"に返事が届いた。

いつもなら数時間ぐらい空いて返信するはずのしぶりんが、今回は違っていた。

 

『明日、会える?』

 

『明日?大丈夫だけど..どんなこと?』

 

『メールで話せない』

 

その返事を見た時、違和感を覚えた。

なんか普通ではない。

何か抱えているように見える。

翌日、待ち合わせの場所に事務所にあるカフェテラスに向かうと、背中を向け、椅子に座っているしぶりんの姿が見えた。

一見問題を抱えてなさそうに見え、私はしぶりんにそのまま挨拶をしようとしたら、口が止まってしまった。

 

(....どうしたんだろう?)

 

なんだか空気が重い。

いつもとは違い、どこか悲しく、暗い感情が覆い被っているように見える。

私はしぶりんの状態に困惑してしまったが、さすがに止まってばかりじゃだめだと思い、

私はしぶりんに近づいた。

 

「やっほー、しぶりん!」

 

「....っ!や、やぁ、未央。急に返事を出してごめんね」

 

「いいよ。別に遠慮する仲じゃないでしょ?」

 

私がそう言うと椅子に座った。

なんだかしぶりんの様子がおかしい。

自信と言うものをなくしたかのような様子でいつものしぶりんとは言えない。

 

「それで...しぶりんが私に話したいことって?」

 

「......」

 

私がそう聞くとしぶりんは視線を下に向き、口をつくんだ。

まるで本当に伝えていいのだろうかと迷っているように難しい顔をしていた。

しばらくその様子でいたしぶりんだったけど、言う覚悟を決めたかのように手を握り、硬かった口が開いた。

 

「昨日、”金木"に会ったんだ」

 

「えっ」

 

しぶりんの言葉に一瞬周りの音が消え去ったかのように衝撃が走った。

あの行方不明のはずの金木さんと会ったのだ。

 

「金木さんに会ったって…」

 

「…あいつはもう前とは違う。何もかもが変わっていた」

 

しぶりんの話によれば家に帰ってきたしぶりんがお父さんから『白髪の人がお店にやってきた』と聞き、その後追いかけるように公園に向かうと金木さんが待っていたかのようにベンチに座っていたのだと。

その時会った金木さんの姿は前とは違い白髪で暖かみがなかったと。

 

「それで金木さんはしぶりんになにか言った?」

 

「もちろん話したけど...全く意味がわからない」

 

「え?わからない?」

 

「『僕はみんなを守らないといけない』と言って、何から守るのと聞いたら『凛ちゃんたちを危険な目に遭わせたくない』と理由を伝えてくれなかった」

 

確かにしぶりんの言う通り、金木さんが言ったことはわからない。

別にここは日本だからそんな"物騒"なことはないはずなのだが...

 

「そんな意味わからないことを聞いた私はカッとなって、あいつに...あいつに...」

 

「しぶ...りん?」

 

するとしぶりんは『あいつに』と繰り返すように言葉が進まなくなった。

しぶりんの顔を見ると泣きそうな顔になっていた。

 

「だ、大丈夫..?」

 

「ごめん...未央...私は悪いことをしたんだ...」

 

「悪いこと?」

 

「私は...あいつに『もう二度と現れないで』と...言ったんだ」

 

しぶりんは震える声でいい、涙が流れる目元を手で隠す。

 

「だから...もうあいつは...」

 

「大丈夫だよ、しぶりん!」

 

私は椅子から立ち上がり、しぶりんの所に移動し背中に手を添えた。

 

「金木さんはまた私たちの元に現れるよ!しぶりんに会いにきたのはもう一度会いたいからきたんだと思うよ!」

 

しぶりんを落ち込んだままにさせたくない。

金木さんがしぶりんの前に現れたのは、何か理由があるはずだ。

きっとそれはいつか答えがわかるはず。

 

「ひとまず、しまむーとふみふみに話さな….あ、あと美嘉姉としきにゃんには話さないでおこう!」

 

なにせ消えたはずの人が再び現れたのだから混乱しかねない。

変にみんなに伝えちゃだめだ。

その後しぶりんの様子が落ち着くまで私は横にいた。

今日は私もしぶりんも予定も何もなかったから一時間以上いられた。

そんな時私はあることを考えた。

 

(…ヒデさんにも伝えとこうかな?)

 

私と同じく金木さんを探しているヒデさんに伝えた方がいいのかなと考えたのだ。

そう考えた私だけどそもそもヒデさんの連絡先は知らないし、どこで会えるのかわからない。

 

 

 

 

 

 

 

そう、ヒデさんとは"いつ"会えるのかわからない。

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

私は家の近くにあった図書館から出ていました。

今日は休日で学校はなく、家ではなく図書館で勉強をしていました。

 

(家で勉強だったらなぁ…)

 

私が図書館に出たのは集中力が切れてしまったからです。

それは単に飽きっぽいのではなく、何度も同じ場所で勉強するのが嫌だったかもしれません。

家だと逆に集中ができず、ゆったり時間を過ごしてしまいます。

次はどこにしようと私は考えていると..

 

「やっほ〜♪卯月ちゃん〜♪」

 

 

すると後ろから誰かが私を呼びました。

その声は聞き慣れた女性の声。

誰だろうと後ろに振り向くと"ある人"が立っていました。

 

「し、志希さん!?」

 

「どう?驚いたでしょ〜♪」

 

志希さんはそう言うと「にゃはは」と笑いました。

私が「どうしてここに?」と聞いたのですが、「さぁ、どうしてでしょう〜?」と理由を教えてくれませんでした。志希さんとはしばらく勉強でお会いしていなかったので、とても嬉しかったです。

 

「それで志希さん」

 

「ん?」

 

「どうして私に会いに?」

 

私がそう言うと志希さんは「あーそうだったね」と何か思い出したような仕草をし、

 

「明日、あたしのラボに来ない?」

 

「えっ!?明日ですか!?」

 

「うんっ、正確にはあたしの家だけどね〜♪あ、さすがに学校をサボってきてとかは言わないよ?」

 

明日は学校ですが、放課後は特に予定はありません。

 

「久しぶりに卯月ちゃんとじっくり話したいし、あと同じところでずっと勉強してたら退屈じゃない?」

 

「た、確かにそうですよね...」

 

ちょうど私が思っていたことが志希さんの口に出てきました。

まるで心を読まれているようの感じます。

 

「じゃあ...志希さんのお家に行きます」

 

志希さんは私の答えに「よかった〜♪じゃあ、きまり〜♪」と嬉しそうに喜び、私を抱きしめました。

それで私は明日、志希さんのお家がある20区に行くことになりました。

志希さんのお家に上がるのは初めてです。

そう考えるとなんだか心の底からわくわくしてきました。

私と考え方が大きく違う志希さんのお家は一体どんなんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"危険"が密かに忍び込んでいることを知らずにね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

僕は都内のとある公園にあるベンチに座っていた。

家にじっとしていると体に毒と言うことで外に出て、たどり着いた場所がここだ。

今日は休日なのだけど、公園は静まり返っていた。

おそらくみんなはどこか賑やかな場所にいると思う。

だけど今の僕にはこの静けさが十分だ。

今まで血の気の激しい日々を過ごしていたため、心が静かに安らげる場所が欲しかった。

それは家でもなく図書館でもなく、外の空気を吸える公園が今の自分にぴったりだった。

 

 

そんな時、僕は何気なく周りを見渡すと"ある子"に目を留めた。

一人の女の子が地面に降りていた一羽の鳩を優しく手に乗せ、優しく撫でていた。

年齢はおそらく9、10歳ほどの女の子。

周りの誰もいないせいか僕はその子に視線を向けていた。

 

「…..」

 

その女の子を見ていた僕は、しばらくすると前を見ていられなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

その女の子がまるで”彼女”を見ているかのようにそっくりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女と会えないと考えると自然と目元に涙が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

もう僕は彼女の前に現れることができないのか?

 

 

 

 

 

 

 

そう思うとなんだか悲しみが心の奥底から這い上がるように現れる。

 

 

 

 

 

 

ずっと胸の中にしまっていたことが、だんだんと表に出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?お兄さん?」

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

顔を上げると遠くにいたはずの女の子が、僕の目の前に立っていた。

 

「......あ、い、いや、な、なんでも....ないよ...」

 

動揺をしてしまった僕は涙をぬぐい、泣いた理由を隠そうとした。

でもその女の子は僕のうろたえる姿に流そうとはせず、

 

「何か"悲しいこと"でもあったの?」

 

「か、"悲しいこと"?」

 

「お兄さんの顔、とても悲しそう」

 

「…」

 

僕はその子に心の中にあった悲しみを隠せなかった。

 

「...うん、そうだね。悲しいことがあったからかな」

 

「そうなんだ!どんな悲しいことなのか聞くね!」

 

そう言うと女の子は僕の隣に座った。

 

「お兄さんが持っている悲しいことって?」

 

「…僕が"会いたい人"がもう会えないからかな」

 

「"会いたい人"と会えない?その人はどんな人?」

 

「その子は笑顔が素敵な優しい女の子。今は高校3年生だよ」

 

「こうこうせい?」

 

「えっと...今は18歳だね」

 

どうやらその女の子は高校を知らなかったみたいだったので、僕は年齢を伝えると『私よりお姉さん!』と驚いた。

 

「お兄さんはなんでその人と会えないの?」

 

「......」

 

僕は思わず口を閉ざしてしまった。

女の子は喰種ではなく人間だ。

僕が彼女と会えない大体の問題は喰種が絡んでしまう。

本当に言っていいのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"別の理由"もあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは"人間の時"から密かに感じていた理由だ。

 

 

 

 

 

 

 

「...彼女はきっと忘れていると思うんだ。しばらく離れていたのだから、きっと僕のことは忘れている」

 

彼女は今や世間に大きく知られているトップアイドル。

出会った当初は会える回数が多かったのだが、月日が経つごとにだんだんと離れていった。

それは喰種になってしまったからと言う理由も言えるが、仮に人間のままでも同じく言えるはずだ。

僕は昔から内気な人間だったから、輝き続ける彼女とは正反対。

きっと彼女は....

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん!」

 

するとその女の子は僕の手を握った。

 

「お兄ちゃんが会いたいと気持ちがあれば、そのお姉ちゃんともう一度会えるよ!」

 

「...っ」

 

僕はその女の子の言葉に再び涙を流した。

当たり前のように聞こえてしまう言葉が、今の僕の心に大きく響いている。

その子は『お兄さん、これで涙を拭いて』とポケットからハンカチを取り出し、僕に差し出した。

 

「お兄さんも鳩さんのように優しい気持ちを持っているね!」

 

「鳩..さん?」

 

「鳩さんはみんな優しいの!私がいつもここの公園にくると集まってくるんだ!学校のみんなからは『フンを出す迷惑な鳥』と言うんだけど、私がいつも近寄る鳩さんは優しい心を持っているんだから、そんな迷惑者のような言葉はとっても似合わないよ!」

 

「....ふふ」

 

「ん?どうしたの、お兄ちゃん?」

 

「優しいね、君」

 

僕はその女の子の言葉を聞いて、無意識に笑ってしまった。

それはバカにする意味ではなく、純粋で綺麗な心に微笑ましくなったからだ。

 

「ありがとう!お兄ちゃん!」

 

その子は元気よく僕に伝えた。

僕はあることに気が付いた。

それはその子の隣にいるだけで心か軽く感じることだ。

警戒心と言うものが最初からなかった。

まるで隣にいるだけで傷を負った心を癒すように心地よかったのだ。

 

「お兄さんの名前はなんて言うの?」

 

「僕の名前?僕は金木研。君は?」

 

僕は自然と自分の名前を伝えた。

 

「私は”     “!」

 

「”  ”ちゃんなんだね」

 

その子はベンチから立ち上がり、

 

「もうそろそろお母さんが帰ってくるの!」

 

「そうなんだ。それはよかったね」

 

「またね!お兄ちゃん!また会おうね!」

 

「うん、またね」

 

その子が僕に手を振り、公園から走って出て行った。

 

("  "ちゃんなんだね..)

 

公園に訪れて正解だ。

家にずっといた時よりも明るくなれた。

あの女の子のおかげで、孤独な心に安らぎを感じられた。

僕はベンチから立ち上がり、歩き始めた。

今度はどこに行こうか?

家からそんなに遠くはない場所に行こう。

僕はあの子の暖かさに前向きになった心を持ちながら、公園から静かに立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

でもそんな暖かい心に"冷たい風"がやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“終わり”がだんだんと近づいていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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