東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結] 作:瀬本製作所 小説部
あいつの帰りを待っていた、私。
だけど、それは一瞬にして消えてしまった。
卯月Side
私の目の前に起きた出来事は突然でした。
それは同じく346プロダクションのアイドルの楓さんがあんていくに訪れてきたのです。
「楓さんもあんていくに来ていたんですね!」
「まさか卯月ちゃんがここにくるとは思いませんでした」
楓さんは346プロダクションのアイドルで初代シンデレラガールズの一人です。
楓さんとは私が活動を休止以来初めて出会いました。
「楓さんはたまたまここに訪れたのですか?」
「いえ、違うんです。ここだけの話なんですが、昔ここでバイトをしてまして」
「え!?本当ですか!?」
楓さんは店長さんに「そうですよね?」と伝えると、店長さんはうんうんっと頷いた。
「本当だよ。楓ちゃんはここでコーヒーを淹れてたんだ」
店長さんは懐かしそうな顔をし、笑いました。
いつも見かける楓さんが店長の位置に立ち、お客さんにコーヒーを提供していたことに私は驚きました。
すると店長さんが『どうぞ』と注文していた飲み物がきました。
楓さんはあんていく特製のブレンドのコーヒーで私はカフェオレにしました。
楓さんが頼んでいたコーヒーを口にすると『やっぱりこの味ですね』と店長さんに顔を向け、笑顔になりました。
「どうして卯月さんが一人で来たのですか?」
「私ですか?実はトーカさんとお会いしに来たのですが…」
「トーカさん?看板娘さんですか?」
「え?もしかしてお会いを?」
「実は一度もお会いしたことがなくて..いつも私が来るときはいらっしゃらないんですよ」
しばらくお話をするとどうやらトーカさんとは本当に一度もお会いをしたことがないそうです。
店長さん曰く、『楓ちゃんが来るときはいつもトーカちゃんは休んでいる』とのこと。
「そういえば卯月ちゃん」
「はい?」
「もしかしてあんていくには結構訪れていますか?」
「そうですね。私があんていくにきたのは去年ぐらいですね」
「去年ですか!随分と来てますね!もしかして雰囲気が気に入ったんですか?」
「それもそうですが..以前ここで働いていました"金木さん"と会うために来たんですね」
「金木さんですか…」
すると楓さんは少し顔を変えました。
その顔は何かわかったような顔で、声のトーンを聞く感じだと”知らない人”と感じられない。
「え?楓さんは金木さんをご存知ですか?」
「はい。一度だけお会いをしたことがあります。眼帯をつけた男性ですよね?」
楓さんはそう言うと、左目をぐるぐると指を指しました。
金木さんがつけていた眼帯の位置は左目です。
「金木さんはなんだか"最初の私"に似てましたね」
「似ている?」
「ええ、私はあんていくに当初はあまり人と話すことは好きじゃくて、少々笑顔が下手でして…」
「え、ええ!?それは本当なんですか?」
私が言うと楓さんは店長に「そうですよね?」と聞くと、店長さんは笑いました。
「ははは、それも本当だよ。あのときの楓ちゃんはなんだか金木くんに似ていたね。そういえば久しぶりにここで働かないかな?」
「いえ、今はアイドルをしてますから大丈夫です」
楓さんが笑いながらそう言うと私に視線を再び向け、
「それで金木さんとお会いしたとき、私とどこか似ていると感じてお話をしたんですよ。そしたら楽しくお話をすることができてよかったです」
楓さんはどこか嬉しそうに話してました。
「もっとお話をしたかったのですが...今はいらっしゃらないんですよね...」
「...そうなんですよ。金木さんは去年の12月に行方不明になって...」
「え?行方不明に?」
「金木さんは今いないんですよ」
楓さんは私の言葉に目を開き驚きました。
金木さんは12月から姿を消している。
「金木さんが行方不明って..?」
「いなくなった理由が思い当たらなくて...」
「そうなんですか...本当にわからない?」
「..はい。でも最後に金木さんに会った時、"何か"を抱えていたのはわかります」
「抱えていた?」
その抱えていたことはわかりませんでしたが、まるで誰にでも言えない悩みとわかります。
でも私はそれを伝えることはできず、金木さんが行方不明となってしまいました。
あの時の私が気づけば..
「私がそれに気づいていたら金木さんは...」
「今、後悔してもダメですよ、卯月ちゃん」
すると楓さんは私の手の甲に手を添えました。
「前に進めばいいんのです。起こってしまったことをただ後悔するのではなく、アイドルもそうではないでしょうか?」
「そうですよね..ただ後悔してもダメですね」
楓さんの言う通り。
暗いことを考えちゃダメだ。
ただ後悔しても意味はない。
「そういえば、金木さんが淹れたコーヒを飲んだことがありませんでしたね。卯月ちゃんはどうですか?」
「ありますが...まだ私はコーヒーの苦さが慣れてなくて...」
あの時の私は何度も砂糖が入っていないブラックコーヒーを頼んでいましたが、
コーヒーの味わいを感じる前の苦さが口に広がり、味わう余裕がなくなる。
「別に急ぐ必要はありませんよ。人はそれぞれ違いますから、自分のペースで慣れればいいんです」
楓さんはにこりっと微笑みました。
「金木さんは今は行方不明ですが、いつかきっと卯月さんの前に現れますよ」
私は楓さんの言葉に少し勇気づけられました。
窓を見ると外の景色は綺麗な夕焼けに染まっていました。
空の青に夕焼けの赤が程よく合っています。
もし再び会えるならーー
その時はどこで会うのだろう?
ーーーーーーーーーーーーーーー
凛Side
夏の夕日がくる公園。
鳴り止むことのない蝉の声。
普通ならばただうるさいと聞こえるしれない。
でも今の私にはそうは聞こえず、どこか悲しく感じる。
自分が死が近づくと知り、最後まで力を振りしぼって鳴いているように聞こえる。
「…金木なの?」
「久しぶりだね、凛ちゃん」
金木は私の名前を言うと微笑んだ。
その顔は嬉しそうというより、”悲しそう”と言ったほうがぐらい明るさはなかった。
前会ったときは黒髪で左目に眼帯を付けどこか頼りなさがあった男性だったけど、今は白く染まった髪に赤黒い爪、そして肌から感じる感情の冷たさがくる。
「…」
話したいことがたくさんあったにも関わらず、私の口は自然と止まってしまった。
金木としばらく離れて聞きたいことや話したいことがたくさん生まれた。
だけど久しぶりに会うのになぜか言葉がでない。
一つに絞れないんじゃなくて、なんだかどの話もふさわしくないと感じてしまう。
どれも金木に伝えるには何かが足りない。
「..急にいなくなってごめん」
なんて言えばいいのか考えていると金木が先に口を開いた。
「みんなに心配をかけたと思う」
「...うん」
私は小さく頷いた。
久しぶりに金木の声を聞いたせいかどこか安心感を得た。
やっぱりその人は金木。
ほっとした気持ちを抱えた私は金木にあることを話した。
「...戻ってくれるよね、金木?」
金木に伝えたは私の願い。
今は怒るとか心配したとかではなくただ戻って欲しかった。
そして"前のよう"に過ごしたい。
私は金木が戻って来れると思っていた。
だけど、そうはいかなかった。
「…わからない」
「....え?」
返ってきた答えは"わからない"。
戻るとか戻らないではなく"わからない"。
私は金木の言葉に理解できない。
ただ戻ってこればいいのに、なぜ"わからない"と返事したのか理解できない。
「...わからないってどうしてなの?」
「僕はみんなを守らないといけない」
そして金木はそう言うと、親指で人差し指を鳴らす。
指を鳴らしたとき、私は不気味さを感じた。
「守る?何から守るの?」
「…言えない」
「言えない?」
「凛ちゃんたちを危険な目に遭わせたくない」
「...」
たんだんと嬉しさが消えていく。
わからない答え。
あいまいな理由。
あいつは”何か”隠している。
「…なんなの、あんた」
嬉しさに代わり、苛立ちが生まれ始めた。
「あんたに守られるだなんて信用できない。さんざん心配させて、私たちの元に帰ってこないとか意味わからない」
「....」
「それに私たちから何から守るの?言えないとかバカみたい。本当に守る気あるの?」
「....」
何から守るのかわからない。
悪の組織から?どこかの国から?それともとある人物から?
何から守るの?
「それにあんたが私たちの前から消えて卯月と文香がどれほど悲しんだなんて知らないでしょ?それなのになんでそんな馬鹿げた話をするの?」
「....」
今のあいつの言葉に卯月と文香に失礼だ。
悲しんだことが"無駄"のように聞こえてしまう。
「そんなんで私たちを守るとか信用できない」
「...否定をするんだね。凛ちゃん」
あいつの顔は最初に出会った時から変わっていなかった。
まるで感情を失ったように表情を変えない。
「それでもいいよ、僕は守るから」
あいつが顎を触った瞬間、私は怒りが頂点に達した。
感情的になった私はあいつに近づき、
「っ!!」
私はあいつの頰を叩いた。
「…バカじゃないの....あんた...」
その同時にあいつの胸元を両手で掴むが、視線が上がらない。
私は泣いていた。
声が震え始め、感情が不安定なったせいか自然と涙が流れる。
怒りなのか悲しみなのかわからない。
だけどあいつは頰を打たれたにも関わらず、何も言わなかった。
「それだったら…もう私たちの前で現れないで」
あいつにそう伝えた私は掴んでいた両手を離し、背中を向け離れていった。
だんだんと離れていく私をあいつは追いかけはしなかった。
でもその時の私はもう二度とあいつの顔を見たくなかった。
だけどその感情が後悔へと変わっていく。
家に帰り、自分の部屋のドアを閉めた直後、胸の中から後悔がにじみ出た。
本当は喜ぶべき出来事なのに、私は感情的になってしまい、ついには手を出してしまった。
そして私は二度と私たちの前に現れるなと言ってしまった。
もうあいつは私たちの前には現れない。
「…っ」
私は再び涙を流した。
胸に留まる感情をどこに当てればいいのかわからず、ただ泣いた。
私のせいだ。
カッとなってしまった私のせいだ。
あいつはもう私たちの元に帰らないんだ。
私のせいで帰る場所を壊してしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
カネキSide
凛ちゃんが去った後でも僕はしばらく動かなかった。
彼女にうまく言葉を伝えることができなかった。
僕は彼女とは違い”喰種の世界”にいる。
“喰種の世界”に関わってほしくない。
だから僕は彼女に真実を伝えなかった。
その結果凛ちゃんから前に現れるなと言われてしまった。
僕が彼女の元に来たのは理由があった。
それはあんていくに久しぶりに訪れた時だった。
僕はただ訪れたのではなく、僕が対立しているアオギリの樹を生んだ一つが店長にあったからだ。
店長の子が隻眼の王だとわかったのだが、しばらく話をしていると店長からこんな話があった。
『カネキくんには”二つの道”が残されている。決して”喰種という道”だけは考えないでくれ。"卯月ちゃん"が君の帰りを待っているよ』
卯月ちゃんは僕のことを忘れておらず、今もあんていくに来ているのだ。
それで僕は直接卯月ちゃんではなく、凛ちゃんの元へと向かった。
以前図書館に訪れた時、凛ちゃんは僕の存在に気が付いたから。
直接卯月ちゃんの元に訪れるよりはいいと思った。
だけど僕は凛ちゃんの一言で一瞬にして道が消えてしまった。
もう僕には新たに"ヒト"と言う居場所を失ってしまったのだ。
僕はなんのための生き続けるだろうか?