東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

74 / 84



あいつは幸せだ



なぜって心配してくれる友達がいるのだから








友達

 

凛Side

 

 

私たちは人目があまり通らない場所に写り、テラス席に座っていた。

永近さんは私の飲み物を奢ると席を外し、今私は待っている。

それにしても永近さんが私を渋谷凛だとわかったのは、アイドルが好きだからすぐに顔がわかったらしい。

 

「お待たせ!凛ちゃん」

 

「ありがとうございます」

 

私は永近さんからアイスティーをを受け取った。

缶なのか受け取った瞬間、冷たさが腕に伝わった。

永近さんの方はアイスコーヒだった。

 

「しかしまさか上井で凛ちゃんに出会うなんてね」

 

「文香にオープンキャンパスを誘われて来たんですよ」

 

「そうなんだな。じゃあ今日は大学のどこかに文香ちゃんはどこかにいるんだ」

 

「はい、そうですね」

 

文香と離れたのはあまり目立たないようにするためだ。

決して文香と一緒にいるのが嫌だからではない。

 

「「…….」」

 

しばらくすると私たちは口を自然と閉ざしてしまった。

やはりお互い交流がないせいか沈黙が生まれた。

まず私はヒデさんとは去年の春以来であり、じっくり話した記憶がない。

私は何か思い切って「あ、あの!」と声をかけると、同時に永近さんも「あのさ!」と言い声が重なった。

 

「あ、すみませ」

 

「レディーファーストっつー事で」

 

永近さんは私に会話を譲った。

私が永近さんに話すことはただ一つしかなかった。

 

「..金木さんはまだ見つからないんですね」

 

「....だね」

 

「早く見つかるといいですね..」

 

永近さんはそう言うとアイスコーヒーを口に運んだ。

"あいつ"は未だに見つかっておらず行方不明だ。

どうして消えたのかわからない。

私たちは"あいつ"がいない日々を過ごしている。

探したい気持ちがあるがアイドルということがあり、全然動き出すことができない。

 

「あの永近さん?」

 

「ん?」

 

「金木さんはどんなや...人ですか?」

 

「カネキ?」

 

危うく"やつ"と言うところだった。

いつも私は"あいつ"のことをタメで喋っていた。

最初は敬語だったけど未央がニュージェネレーションズに戻ってきてからタメで会話をしていた。

"あいつ"は私がタメで話していたことには指摘はしなかったが、そのおかげか"あいつ"と話す時はどこか気が楽になる。

 

「んー今とはあんまり変わんねえかなー。休み時間も放課後も、ヒマさえありゃ本を読んでいたな」

 

「そうなんですか...」

 

"あいつ"のイメージはいつもどこかで本を読んでいるイメージがつく。

 

「カネキは本をいつも読んでいた原因でクラスのヤツにからかわれたりもしてたな。それで俺はいつも助けてたんだ。だけどカネキはなにされてもやり返さないでいつも困った顔で笑ってたんだよな」

 

確かに"あいつ"は喧嘩は苦手そうだし、避けるイメージが浮かぶ。

ちゃんと伝えてくれることはあるけど、やはりどこか困った顔で笑う。

特に私との会話だとよくそんな顔をしていた。

 

(永近さんは"あいつ"とは性格が違う)

 

ふと気が付いたことが永近さんはあいつとは性格が反対だ。

とても社交的で陽気だ。

性格が逆とはいえ"あいつ"とは親友。

明るく話していた永近さんだが、

 

「そんで、小学校の高学年くらいまではフツーの内気な読書家って感じだったけど、母ちゃんが亡くなってからちょっと変わったな....あれ以来いつもどっか寂しそうでさ」

 

「え?金木さんの親って..」

 

「...両方ともね」

 

再び永近さんはどこか暗くなってしまった。

 

「カネキの親は二人ともなくなっていて父ちゃんは小さい頃に、母さんは過労で」

 

「過労…?」

 

私は初めて知った。

"あいつ"の両親はどちらも亡くなっていたことを。

"あいつ"はそんなことを抱えていただなんて....

 

「そーいえば!!」

 

すると暗い話から一変するように永近さんは元気よく大きく話した。

 

「よーく覚えているんだけどさ、あんな引っ込み思案ボーイが劇の主役をやった事があったんだ!!」

 

「金木が...劇の主役?」

 

いつも内気なあいつが舞台の主役になっていたことに意外に感じた。

私たちのように表に立ち上がっていた経験があるんだ。

 

「半分押し付けられたカタチだったけど、意外に演技が良くてさ、舞台上では堂々としたもんだったよ」

 

「へぇ...」

 

「もしかしたら346プロにスカウトされてもよかったんじゃね?」

 

「そ、そうでしょうか...?」

 

私は永近さんの冗談に苦笑いを作った。

さすがに"あいつ"が346に行くのは考えられない。

 

「まぁそれは冗談だけど...カネキはなにかを演じるっつーか、仮面かぶるっつーか....一人で抱え込んじまうとこがあってさ。今回も"色々”抱えきれなくなって、どっか行っちまったんじゃねーかなぁと思ったり...」

 

振り返ってみれば”あいつ"が私に悩みを伝えたことがない。

だいたいは私の悩みを"あいつ"に伝えることばかりで、聞くと言うのは今までなかった。

 

「そうですよね...いつも悩みとか聞いてくれましたよ」

 

「悩み?」

 

「はい。金木さんは私が抱えていた悩みとかを聞いて、その解決方法を考えてくれるんですよ」

 

関係なくても、他人事でも”あいつ”は考えてくれる。

いつも私は"あいつ"に相談や悩みを嫌な顔をせずに聞いてくれた。

 

「それだったら、私にも悩みを言って欲しかった...」

 

私は自然と手を握った。

別に私に抱えていたことを伝えてくれればよかったの....

 

「...凛ちゃんもカネキを心配してくれてるんだな。そういえば前に未央ちゃんに会ってさ、結構積極的にカネキを探したがってたな。もしかして卯月ちゃんもそう?」

 

「はい、金木さんが行方不明と聞いた時に泣いて...」

 

「....そっか」

 

その顔はものさびしそうに見えるけど、どこかしら嬉しそうだった。

 

「文香ちゃんもそうだったな。行方不明の張り紙が貼られた時、何かを失ったように落ち込んでいた姿をしていたな」

 

「...そうなんですか」

 

「きっとカネキがいなくなって悲しんだと思う。文香ちゃんが有名になる前は一緒にいたからさ」

 

先ほどの文香の顔が頭に浮かぶ。

"あいつ"がいなくなったと知った時とは比べてだいぶ明るくなっている。

もし再び悲しみに暮れる時が現れるのは......

 

「たく、カネキは俺以外にも"いい友達"を持っていてよかった...凛ちゃんは知ってっかなァ...?」

 

「?」

 

「あいつには一個クセがあるんだ」

 

「クセ?」

 

「そ。アイツはいつも何か隠すとき、こーやってアゴをさわんの」

 

永近さんはそういうと左手で顎をこするように触った。

今まで"あいつ"と一緒にいたのだけど、私はそのクセには初めて知った。

 

「...これはカネキには内緒な!」

 

永近さんは小さくコソコソっと私に話した。

 

「ま...アイツがもし現れたらさ、抱え込んでいることを吐き出させてくれよな!」

 

「...はい」

 

永近さんはそう言うと椅子から立ち上がり「じゃあね、凛ちゃん!」と言い、去ってしまった。

私は去って行く永近さんに「さよなら」と伝えた。

"あいつ"は幸せだ。

いなくなって心配してくれる人がいる。

親がいなくても友達がいる。

永近さんだけではなく、私、卯月、未央、文香、志希、美嘉も心配している。

それに未だに"トーカさんの言葉"が頭に残っている。

 

『何もできなくてごめん』

 

トーカさんが震えた声で私に伝えた言葉。

どうしてそんな言葉を伝えたのかわからない。

同じく働いているからそう伝えたとはなぜか感じられない。

一体なんだろうーーーーー

 

「あ、凛さん」

 

すると後ろを振り返ると文香が立っていた。

 

「文香。あ、もしかして連絡してた?」

 

「いえ、たまたま歩いていたら凛さんを見つけられたので連絡はしてせんよ...そういえば、先ほどの方は?」

 

「え?あ、ああ、あの人は私がデビューした時に出会ったファンだよ」

 

「ファンですか?」

 

「うん。初めてニュージェネとして出たライブにきてくれた人だよ」

 

「そうなんですか...」

 

さすがに"あいつ"のことを言うのは避ける。

永近さんは"あいつ"の友達。

連想させないように"ファン"だと伝えた。

再び文香を悲しませないようにね。

私はしばらく文香と大学内を回った後、文香と別れどこに寄ることなく家に帰ったのだけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、来るなんてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"あいつ"が

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

太陽が眩しく照らす下で一人歩く、私。

金木さんと思われる人からもらったお守りを携帯につけ、とあるところに向かっていました。

しばらく勉強だけでは体に毒ということで、トーカさんが働いているあんていくです。

何度か訪れているせいか駅からあんていくまでの道のりが最初に一人できた時よりも短く感じます。

そしてお店の前に着いた私は気持ちを切り替えるため深呼吸し、お店のドアを開きました。

 

「いらっしゃいませ」

 

優しく迎えてくれたのはトーカさんと思いきや店長さんだけでした。

 

(あ、あれ...?)

 

予想もしてなかったことに出会ったせいか思わず数秒立ち止まってしまいました。

さすがにずっと立ち止まっていけないと感じた私は「こんにちは...」と違和感を持ちながら、

そのままカウンター席に座りました。

 

「あの...」

 

「どうかしました?」

 

「今日、トーカさんはいらっしゃいますか?」

 

「今日はトーカちゃんは来ないよ。ごめんね」

 

「そうなんですか…」

 

私は店長さん少し落ち込みました。

店長さんは優しいおじいさんという感じの方で、トーカさんからは店長が淹れるコーヒーはおいしいと耳にしてます。

私はまだコーヒーの美味しさを感じることはできず、ただ苦い飲み物と認識してしまいます。

私はその苦いとしか感じ取れないコーヒーを店長さんに頼みました。

店長さんは「わかりました」といい、棚からコーヒー豆が入っている缶を取り出しました。

店長さんがコーヒー豆をコーヒーミルで挽いている時、あることに気がつきました。

店内を見渡す限り他の店員さんの姿はなく、私と店長さんだけです。

 

「そういえば、他の人来ませんね」

 

「確かに来ないね。もしかしたら"ある人"が来るかな」

 

「ある人...?」

 

誰なのか聞こうとしたその時、カランっとドアが開いた。

 

「遅れてすみません、芳村さん」

 

急いで来たのか息が切れたような声。

その声は事務所でよく耳にする女性の声。

 

「いらっしゃい、"楓ちゃん"」

 

店長さんはそのお客さんの名前を言いました。

 

「あれ?....卯月ちゃん?」

 

私は入り口に顔を振り向くと、一人の女性が立っていた。

 

「か、楓さん..?」

 

その女性は346プロダクションで何度かお会いし、同じくお仕事を共にするアイドル。

"高垣楓さん"があんていくにやってきたのだ。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

プロデューサーSide

 

 

私は次の現場に向かおうとしていた。

今年の仕事は去年よりも多忙だと断言できるぐらい状況が違う。

シンデレラプロジェクトは去年よりも知名度が上がり、活動範囲が広くなった。

そのおかげか私は2代目シンデレラプロジェクトをプロデュースをすることができた。

その同時に13区の状況も変わった。

ここ最近、喰種関連の事件が少なくなっている。

それは激減と言ってもいいぐらいに。

一体どうしてなのかはわからないが、おそらくCCGの働きが反映したかもしれない。

 

(...ん?)

 

すると私は"ある光景"に目にし足を止めた。

 

(人だかり..?)

 

そこは玄関ホール。

普段は足を止める人が少ない場所なのだが、今回は何人かが足を止め、ある方向に目を向けていた。

その立ち止まっている一人に千川さんの姿があった。

 

「あの千川さん?」

 

「あ、プロデューサーさん」

 

「どうかされましたか?」

 

「ええ、実はある方が取材をしたいそうで...」

 

「取材?」

 

「事前に連絡もせず突然やってきたのですが...その依頼者がちょっとした有名人で」

 

「有名人?」

 

基本的には連絡せずに取材許可は断っているが、どうやらその依頼者に皆は驚いているようだった。

有名人と言っても普段仕事で芸能人と接することは多く、そんなに驚くことがないはずなのだが...

 

「その人物は一体?」

 

「...作家の"高槻泉"です」

 

「"高槻泉"?」

 

私は千川さんの言葉を耳にした後、皆が見ている先を見ると一人ソファーに座っている女性がいた。

 

「ここが346ッスかァ...写真はいい?あ、ダメ ?」

 

座っていた女性はメガネをかけ、カメラを持ちどこか興奮を隠しきれない様子であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。