東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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かつて"あいつ"が過ごしていた場所。





私はそこに歩きながら考えるんだ。




"あいつ"はどのように日々を過ごしていたんだろうと。










Dry Field

凛Side

 

 

(なんなの…この暑さ..)

 

電車から出た瞬間、蒸し暑い夏の空気が私を襲う。

電車の中ではエアコンが来ていたのだけど、外は容赦ない日差しに道路から伝わる熱気が

その同時に鳴り止まない蝉の鳴き声が耳に入り、まるで地獄にやって来ているようだ。

テレビでは毎年記録的な猛暑と言うけれど、なんだか毎年ずつ気温が上がっていると思ってしまう。

本当は家で過ごしたかったけれど、私が今日外に出るのは理由があった。

 

(あれは…文香かな?)

 

見えてきたのは上井大学の校門前。

そこに文香はきょろきょろと周りを見渡していた。

今日は私は上井大学のオープンキャンパスに来ている。

そのきっかけは文香の誘いであった。

学校から出された課題に夏休み期間中に開催される大学のオープンキャンパスに行って、

その行ったオープンキャンパスの感想を書く宿題がある。

私がそれに悩んでいた時、文香がやって来たのだ。

それで文香が自分の大学もオープンキャンパスをやると言ったから、私は上井大学にやってきた。

 

「凛さん、おはようございます」

 

「おはよう文香」

 

校門で待っていた文香は私を笑顔で迎えてくれた。

ここ最近笑顔を見せるようになった。

 

「文香よく私をわかったね」

 

「ええ、よく見たら凛さんだとわかりました」

 

私は少し変装をしている。

帽子を被り、伊達眼鏡をし、少しでも"渋谷凛"だとバレないようにする。

私は世間で知られているからすぐに気づかれないように変装しないといけない。

 

「でも凛さん」

 

「ん?」

 

「さすがに暑くないですか?」

 

「そりゃわかってるけど...」

 

帽子を被っているせいで頭が蒸れている。

でもさすがに取ったらバレてしまう。

バレるより我慢を選んだ方が身のためだ。

文香は私を心配しつつ、とりあえず私たちは大学内に歩き始めた。

 

「上井って理系が有名だよね?」

 

「ええ、特に薬学部は難関だと言われてますね」

 

「薬学部ね….」

 

私は同じ理系とはいえ、獣医学のほうが興味がある。

薬学と聞くと私はある人物が浮かんだ。

 

「薬学と聞くと、志希を思い浮かぶんだよね」

 

「志希さんですか?」

 

「うん。志希って結構化学が好きで、変な薬だったり香水を作ったりしてるじゃん。もしかしたら志希が入ったら正解じゃないかなって」

 

志希とは頻繁に会うことはないが、会うたびにいつも私に近づき『いい香り〜』と言う。

いつも他の子とは行動が違うから、クセが強い。

 

「そうですよね..実は志希さんは上井大学を候補にあったのですが…」

 

「え?そうなの?」

 

「でも志希さんは進学するのを辞退しましたね」

 

「やめたの?どうして?」

 

「私は行った方がいいと伝えましたが…志希さん曰く、『日本の大学は資金不足のところが多いから、自分でやったほうがいい』とか『研究内容が絞られるのが嫌だから、自由にやりたい』と言ってました」

 

「そうなんだね...」

 

一つは志希らしい答えだけどもう一つは真面目な答え。

志希はいつも行動が子供っぽいが頭がいい。

そう思うと私は志希に少し見習うところがあると感じさせる。

 

「文香」

 

「はい?」

 

「一人で歩いていいかな?」

 

「凛さんだけですか?」

 

「うん。さすがにずっと一緒だと目立つかなと」

 

別に文香と一緒にいるのが嫌ではなく、お互いアイドルだからだ。

少しは変装をしているけど二人で歩くと目立ってしまう。

それに今日のオープンキャンパスで文香に会いに行くためにやってきている人がいるはず。

仮に今日のオープンキャンパスで私がいると知られてしまえば、厄介ごとが避けられない。

 

「そうですよね。ちょっとしたら離れた方がいいですよね。もし合流する時、連絡を....あ、そういえば凛さんの連絡先持っていませんでしたね」

 

「そうだったね。文香の連絡先を持ってなかったね」

 

今更だけどお互いの連絡先を知らなかった。

今まで何度か顔を合わせたけど、なぜ連絡先を交換しなかったんだろう?

私たちはお互いの連絡先を交換し、

 

「ではまた会いましょう」

 

「またね文香」

 

私は文香と別れてた。

文香は校舎の中へと入って行った。

 

(さてと、歩いて行こう)

 

私は大学の入り口でもらった地図を手にし、歩き出した。

 

(...高校と全然違うね)

 

歩いてみるとわかる。

高校とは違う建物があり、中も違う。

高校じゃある程度規律はあるのだけど、大学は本当に自由だ。

寝るのも自由だし、携帯をいじっても自由。

だけど真剣にやるのも自由。

何をやっても最終的に自分に責任が来る。

ある程度保証されている高校とは違い、まさに社会の一歩と言える。

私は大学を見ていると、ふとあることが浮かんだ。

 

("あいつ"はどう過ごしてたんだろう?)

 

今はいない"あいつ"。

もし今いたなら大学二年生。

もしかしたらベンチに座り、一人で読書をしていたのかもしれない。

私が会うたびに読んでいた本はよくわからない難しい本だった。

名前は難しかったのかそれとも興味がなかったせいか思い出せない。

"あいつ"は私とは真逆の文系男子。

もし今日大学にいたなら、一人で本を読んでいるに違いない。

 

「....?」

 

私はふいに足を止めてしまった。

一人読書をしている男性を見かけたのだ。

その人は"黒髪の男性"。

まるで"あいつ"に似ている。

 

(ーーもしかして)

 

私は自然と近づいてしまった。

まさか”あいつ"ではないかと足を前に出す。

 

「..."金木"?」

 

私は無意識に口を開いてしまった。

その人は私の呼びかけに気がつき、振り向いた。

 

「...はい?」

 

その振り向いた男性は”あいつ”ではなく、"全く知らない男性"であった。

 

「あっ....え、えっと..」

 

私は動揺してしまった。

人違いだ。

 

「あ、あ、あの!理学部の校舎はどこですか?」

 

「理学部?校舎はあちらですよ」

 

「ありがとうございます!」

 

私はお礼をした後、すぐにその場から退散をした。

恥ずかしい思いを味わったのだ。

私はその思いをかき消すよう早歩きをした。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「...はい?」

 

誰かが僕に何かを言っている気がした。

一体なんだろうかと思い振り向くと、一人の女子高生が立っていた。

 

「あ、あ、あの!理学部の校舎はどこですか?」

 

「理学部?校舎はあちらですよ」

 

「ありがとうございます!」

 

その女子高生はすぐにこの場から立ち去った。

 

(高校生かな..?)

 

読書をしていた僕に高校生から声をかけられた。

人から声をかけられるのはそんなにない僕。

もしかしたらオープンキャンパスで道を迷っていたのかもしれない。

 

(さて...なぜ"彼の名前"を呟いたのだろう?)

 

それにしてもどうしてだろうか。

あの高校生は普通にいる代わり映えしない人ではなく、あの346プロダクションのアイドル"渋谷凛"だった。

帽子を被ってメガネをし、バレないように変装をしていたが、僕はすぐにわかった。

いわゆる”職業柄”で判断できたと言えばいいだろう。

 

 

どうして"彼の名前"を言ったんだろうか?

 

 

確か上井大学はかつて”彼”が通っていた大学。

 

 

彼の苗字と同じくかぶる人物は"カネキケン"。

 

 

ただの偶然?

 

 

 

いや、どうだろうか?

 

 

 

仮に渋谷凛が"彼"と関係があると言うならば...

 

 

 

 

 

 

 

(まぁ、そんなことはないな...)

 

少し考えすぎた。

あまりにも空想すぎる。

空想を追求しても仕方ない。

僕は気を取り直し、再び読書をした。

 

 

これはあくまで僕が考え出した空想に過ぎない。

 

 

 

そう言うヤツだからね、僕は。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

文香Side

 

 

凛さんと離れた私は一人、冷房が効いた図書館にいました。

私は外の暑さに耐えきれず、ここに足を運び読書をしています。

 

(凛さんが興味を持ってくれてよかったです)

 

いつも凛さんは愛想を顔に出すことがないので今回のオープンキャンパスを興味を抱いてくれるか少々心配でしたが、喜んでくれてよかった。

でも私がさらに安心したのは"彼"の話題が出なかったことだ。

もしかすると私のことを気を使っているのかもしれない。

 

(......)

 

私は自然と本を読むのを止めてしまった。

妙に引っかかる。

まるで何かをやり残してしまい、手放してしまった感覚。

 

 

 

 

 

 

 

今のままでいいだろうか?

 

 

 

 

 

 

私は"彼"を失ったことに悲しんだはずなのに、"彼"と言うものから逃げている。

 

 

 

 

それに"彼"の名前を言えずに日々を過ごしている。

 

 

 

 

 

 

 

私は臆病者だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それとも過去に引きずり込まず、前に進む善人なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

凛Side

 

 

("あいつ"は今、ここにいるわけないよね)

 

しばらく大学内に歩いていた私。

先ほど赤の他人を"あいつ"だと言ってしまったことが頭から離れられない。

なんで声をかけてしまったのだろうか。

“あいつ”去年から姿を消していると知っているはずなのに。

一体どう言う理由でいなくなったのかわからない。

 

「......」

 

しばらく歩いていると私は"あるもの"を見つけ、立ち止まった。

それは大学の掲示板に貼られている"あいつ"が行方不明の張り紙だ。

去年の冬に携帯の画面で見たものと同じだ。

 

(..."あいつ"だ)

 

黒髪の男性。

写真では止まっているけど、動いている姿が頭に流れる。

"あいつ"のことを知らない人はこの張り紙を見ることなく去ってしまうかもしれない。

だけど私は"あいつ"を知っている。

これを携帯から見た時、何も言えなくなった。

まるで当たり前のことが一瞬にして消えてしまったように。

文香がこれを見て無意識のうちに涙がこみ上げる姿が想像がつく。

 

「....いつになったら帰ってくるんだよ」

 

あの頼りない姿が思い浮かぶ。

男のくせに女々しさがあって、私はいつもイラついてしまった。

今では懐かしく感じてしまう。

たくさん迷惑をかけている。

私もそうだし文香、未央、美嘉、志希、そして卯月にも心配させている。

 

 

 

 

 

 

 

 

もし仮に私の目の前に現れたらーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ここにすっか!」

 

すると、"ある男性"が私の横に現れた。

なんだろと思い振り向くと、

その男は掲示板に貼ってあった“あいつ”の行方不明の張り紙を剥がそうとしていた。

 

「ちょっと、何して!!」

 

私はその人の手首をとっさに掴んだ。

勝手に掲示板に貼ってあるものを剥がすだなんて不審にしか思えない。

 

「って!おい!何す.......えっ?」

 

「...え?」

 

何事だとその人は私の顔を見ると、ピタリと止まってしまった。

私も同じくその人の顔を見て止まってしまった。

私はその人一体誰なのかわかったのだ。

 

「…凛ちゃん?」

 

その男性は一度出会ったことのある人で、"あいつ"の友達"ヒデさん"だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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