東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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彼女たちは輝いていた

魔法がかかったお姫様みたいに





星姫

 

 

 

金木Side

 

 

(もうそろそろ始まる...)

 

携帯の時間を見てみると、開始時間があと数分であった。

 

「楽しもうぜ?金木?」

 

ヒデの顔はだいぶニヤついていた。

もう待ちきれないらしい。

 

「う、うん...」

 

そんな姿にぼくは少し不安を感じた。

さすがにそんな顔したら不審者扱いされるのではないかと。

 

すると、ぼくの携帯が鳴った。

 

「?」

 

画面を見てみると、卯月ちゃんからのメールだった。

 

『頑張っていきます!!』

 

ぼくは妙に不安が胸に少しづつ湧き出る。

 

(本当に大丈夫かな...?)

 

彼女たちにとって、初めてのライブ。

初めてということで、もしかしたら緊張はしているかも....

 

(よし.....)

 

ぼくはメールを打ち始める。

きっと緊張しているだろう。

ぼくは何か励ましの言葉を作る。

 

(よし....これでよし)

 

出来上がったメールを卯月ちゃんに送る。

 

『初めてのライブ頑張って!緊張しても、"何か楽しいこと"を考えたらいいかも』

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月SIde

 

 

(どうしよう.....)

 

初ライブということでかなり緊張がする。

今日持ってきたサンドイッチが口に進まなかった。

 

「..........」

 

部屋の空気が重い。

みんなは黙っている。

 

(何かしなきゃ....)

 

そんな状況の中、携帯が鳴る。

まるでこの空気を壊すかのように。

 

(?)

 

音がなったのは、私の携帯であった。

 

(誰かな...?)

 

携帯の画面を見ると、金木さんからの返事だ。

 

『初めてのライブ頑張って!緊張しても、何か"楽しいこと"を考えたらいいかも』

 

金木さんからの応援メッセージだ。

先ほど私は金木さんに返事を出したのだ。

 

(楽しいこと....)

 

先ほどまでもし失敗したらなどの不安にさせるようなことしか考えてなかった。

するとまた、返事が来た。

 

『例えば、卯月ちゃんだったら"笑顔"をするとか』

 

(..."笑顔")

 

そうだった。

わたしはそれを忘れていた。

 

(そうでしたね...頑張っていきます!)

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

未央Side

 

 

とてつもない不安が私の体をのしかかった。

 

(.....)

 

わたしは緊張のせいか、ずっと黙ったままだ。

一言も言わず。

きっとみんなは今の私の姿にこう思うだろう。

 

いつもの未央じゃないことを。

 

「未央ちゃん!」

 

するとしまむーが私の肩を叩く。

 

「笑顔で行きましょ?」

 

しまむーが笑顔で私に言葉を

 

いつものしまむーの笑顔。

 

それのおかげか、わたしの体にのしかかった不安が少し和らいだような気がした。

 

「...そうだね」

 

自然と笑顔が溢れる。

 

「スタンバイお願いします」

 

ちょうどスタッフさんが部屋からやってきた。

 

「行くよ...」

 

しぶりんが私の方に顔を向けて、言葉を出す。

 

「う、うん...」

 

まだ不安が残っていたが、先ほどよりはだいぶ軽い。

 

ありがとう、しまむー。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

「お!美嘉ちゃんの登場だ!」

 

ヒデは大きく喜び、サイリウムを大きく振り回す。

ぼくは何か変な気持ちが湧き上がる。

 

(やっぱりこの前に会ったのは...間違い無く本人だ)

 

今、城ヶ崎美嘉をライブで見るのは初めてだ。

でも、妙に生で見るのは"初めてではない気がする"。

 

(確かこの曲は..."TOKIMEKIエスカレート")

 

確か城ヶ崎美嘉の持ち歌。

つまり、卯月ちゃんたちが出る番だ。

 

(出るタイミングはどこだ...?)

 

聞いたことがあるが、卯月ちゃんたちが現れるタイミングがわからない。

少しずつ焦りがくる。

その同時に彼女たちは失敗しないだろうかと言う心配が混ざる。

どこ出るのか。

早いか遅いか?

それに彼女たちはミスをしないだろうか?

 

 

そんな不安から、"ある声"が聞こえた。

 

 

 

 

「「フラ!イド!チキーン!!」」

 

 

 

 

 

彼女たちが現れた瞬間、ぼくの耳に聞こえていた観客の騒ぎ声、ステージの音が消えた。

 

(......!)

 

まるでスローモーションの映像を見えているかのように、動きが遅い。

彼女たちがよりキラキラと輝き、表情がより見える。

 

(...すごいっ!)

 

ぼくは彼女たちのようにどんどんと笑顔が現れた。

こんなに楽しいところなんだ。

ぼくはますます心が踊っていく。

 

そして彼女たちが地面に着地した瞬間。

 

 

 

 

「「おお!!!!!!!!!」」

 

 

 

 

聞こえていなかった観客の音が、ぼくの耳に一気に入って行った。

 

「.....え?」

 

ぼくはそれに驚いたのか動きが完全に止まり、呆然してしまった。

 

「なに黙っているんだよ!卯月ちゃんたちが出たぞ!」

 

ヒデはそんなぼくの姿に声をかける。

 

「.....あ、ごめん」

 

ぼくはみんなにつられてサイリウムをリズムよく振る。

 

「さっき、"フライドチキン"と言ってなかった...?」

 

「はぁ?金木、もしかして腹減っているのか?」

 

「え?」

 

なぜかヒデは聞こえなかったらしい。

もしかして、"僕しか"聞こえなかったのか?

 

(なんだろう、さっきの一瞬は)

 

周りの音が消え、彼女たちの動きが遅くなった。

しかも、彼女たちがよりキラキラしていた。

 

それにぼくは楽しく思えた。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛Side

 

 

ライブ終了後、わたしたちは誰もいないステージにいた。

まだ信じられなかったのだ。

 

「....本当にやったんだね」

 

未央が呟くように口を開く。

 

さっきまで私たちがこのステージに立っていたことが信じられなかった。

ライブに出る前は不安で仕方がなかった。

リハーサルがうまくいかず、本番を迎えてしまったのだ。

失敗するのではないか、初ライブがダメになってしまうのではないかなどのネガティブな単語が頭に現れ、私は黙ってしまった。

しかし実際出てみると、今まで見てきた世界ではなかった。

 

あの時一瞬時が止まっているように見え、別世界にいるようだった。

まるで夢の世界にいるように。

 

「...あ!」

 

急に卯月がなにか思い出したような仕草をした。

 

「どうしたの?」

 

「"金木さん"が」

 

「"金木さん"?」

 

卯月はだんだんと焦り始めた。

 

「え....来てるの?」

 

一瞬疑った。

まさかあの"文系男子"が来ていることを。

 

「だれ...?その人?」

 

もちろん未央が知らない人。

卯月と私しか会ったことがない。

 

時計を見るとライブが終わって一時間。

 

つまり、"1時間ぐらい"待たされてることになる。

 

「とにかく行かないと!」

 

卯月は急いで楽屋に戻る。

 

「あ!待ってしまむー。金木さんってだれ!?」

 

わたしもそれに釣られ、走る。

 

(事前に私たちに言ってくれればいいのに...)

 

私は"彼"(金木)は好きではない。

 

でも、さすがに忘れられるのはひどいと思う。

 

あとで謝ろうかな...?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

(まだかな....)

 

ぼくはライブが終わった後、しばらく外で待っている。

 

先ほどまで夕焼けが綺麗な空が、もう夜空になりかけている。

 

ライブ終了後、ヒデに「今日は先に帰って」と申し訳なさそうに言ったら、

「いいぜ。"楽しんでこいよ"」とニヤニヤしながら帰って行った。

ヒデの態度はぼくをからかっているように見えた。

つまり、気づかれたらしい。

 

(あれは間違い無く、明日聞かれるやつだ....)

 

でもどうして気づかれたのかわからない。

なぜ"隠し事"がバレたのか。

 

(それにしても遅いな....)

 

もしかしたら中で打ち上げ会みたいのがやっているかも。

そんなことならメールで連絡を...

 

「お兄ちゃん何しているの?」

 

「ん?」

 

声がした方に向くと二人の女の子がいた。

ずっと考えていたせいか、いたことに気づかなかった。

 

「誰か待っているの?」

 

一人は"金髪の子"で中学生ぐらいで、二人目は"黒髪の子"で小学生ぐらいの子達だ。

 

「えっと...そうだね」

 

気づくのが遅かったせいで言葉が詰まる。

それにしてもどこかで見たことのあるような...?

 

「待ってる?だれなの?」

 

「えっと...."島村卯月"って子を」

 

「「え!?」」

 

彼女たちはそれを聞いた瞬間、大きく驚いた。

 

「...え?」

 

ぼくはそんな彼女たちのリアクションが不思議に感じた。

なぜそんなに驚くのかわからなかった。

バックダンサーの子を知ってライブを来る人は本来いないはずだが...?

 

「なんで...知っているの!?」

 

金髪の子が近づき、ぼくに問いかける。

 

「えっと...それは..」

 

「金木さん!」

 

そんな状況の中、タイミングよく声がぼくの耳に入る。

 

「あ、卯月ちゃん」

 

卯月ちゃんは急いでぼくの元にやって来た。

 

「遅れてすみません!」

 

「いいよ。大丈夫だよ」

 

この状況で来てくれてありがたかった。

 

「卯月ちゃん、この人だれ?」

 

金髪の子は卯月ちゃんに聞き、ぼくに指を差す。

 

「あ...その人は..."わたしの友達"だよ、"莉嘉ちゃん"」

 

卯月ちゃんは少しぎこちなくその子に返事を返す。

 

「"莉嘉ちゃん"...?」

 

ぼくはその名前に何か思い出した。

 

(...."莉嘉"ってもしかして!)

 

確かこの前にヒデがある雑誌をぼくに渡した。

 

『"シンデレラプロジェクト"...?』

 

『ああ、卯月ちゃんたちが所属するプロジェクトだ。メンバー全員の名前を覚えてけよ』

 

なんで忘れていたんだろ。

卯月ちゃんたちと共に過ごすメンバーの名を。

 

「莉嘉って...確かシンデレラプロジェクトの子...?」

 

ぼくが呟くように話すと、

 

「え?もしかして、わたしのことわかるの....?」

 

彼女はそれに反応し、ぼくの方に顔を向ける。

 

「うん。城ヶ崎美嘉の妹だよね?」

 

「そうそう!カリスマギャルを目指してるの!」

 

彼女は食いつくように喋り続ける。

 

「そうなんだ。お姉さんと似ていて可愛いね」

 

「でしょでしょ!莉嘉も同じく可愛い☆」

 

彼女はとても嬉しくなっていた。

姉とは違い、幼さがあるが、

彼女のかわいさの一つかもしれない。

今の所"シンデレラプロジェクト"はまだ始まったばかりで、メンバーについてはあまり知られてないとこの前ヒデが言っていた。

 

「え!!もしかしてわたしの名前もわかるの?」

 

黒髮の子はぼくに近づき、返事を求めてきた。

 

「君の名前は赤城みりあちゃん...だよね?」

 

少し不安を抱きながら返事を返す。

まだみんなの名前を知っているのではなかったから。

 

「正解!正解!覚えてくれてありがとう!」

 

みりあちゃんは満面の笑顔でぼくに言葉を返す。

 

「金木さんアイドルの名前を覚えてくれたのですね」

 

卯月ちゃんはそんなぼくに少し驚いていた。

 

「さすがに卯月ちゃんたちと一緒にいるメンバーを知らないと可哀想から..」

 

これでヒデが毎回出しているテストのおかげだ。

帰ったらヒデに感謝しなきゃ。

 

すると、次に現れてきたのは凛さんだ。

 

「来てたんですね...」

 

「渋谷さん、こんにちは」

 

やっぱり彼女らしく落ち着いている。

 

「先ほど忘れてすみません」

 

凛さんが頭を下げる。

 

「い、いや..別に謝らなくてもいいよ」

 

ぼくはその姿を見て、動揺してしまった。

なんだか凛さんが謝るのが申し訳なかった。

 

「あれ?なんでみりあちゃんたちがいるの?」

 

凛さんはみりあちゃんの方に視線を向ける。

 

「お兄ちゃんが一人で寂しそうにしてたから、みりあたちも一緒に待ったよ」

 

そう言うとぼくの腕に抱きつく。

 

「そうそう、莉嘉も待ったよ」

 

莉嘉ちゃんもミリアちゃんと同じくぼくの腕に抱きつく。

それを見た凛さんは「金木さんって...."そういう人"?」と少し嫌な顔でぼくに視線を向け、口に出す。

 

「い、いや...違うよ!」

 

ぼくは激しく首を横に振る。

おそらく世間でいう"ロリコン"と間違われているかも...

 

「さ、さすがに金木さんはそういう人じゃないですよ」

 

卯月ちゃんはあわあわと焦りながら、ぼくにフォローをする。

すると、今度は"どこかで見たことのある人物"が建物から姿を表した。

 

「どうしたの?しまむー?わたしに会ってほしい人って?」

 

(あ...もしかして)

 

そう、卯月ちゃんの誕生日の時にぶつかった子。名前は"本田未央"(ほんだみお)

 

「!」

 

彼女はぼくを見て、驚いて口を開きっぱなしにする。

ぼくは顔を覚えているが、彼女はどうだろうか?

ぼくは少し不安を抱き、彼女の返事を待ったら...

 

「あなたって!確かあの時ぶつかった人!」

 

どうやら覚えていたらしい。

ぼくを取り付いた不安が消え、気分が和らいだ。

 

ほっとした瞬間、彼女はぼくの両肩に手を置き、

 

「あの時はありがとうございます!!えっと...しまむーのお友達.......さん?」

 

未央ちゃんは卯月ちゃんの方に顔を向け、返事を待つ。

 

「まぁ...そういう立場かな...?」

 

卯月ちゃんは少し首を傾け、苦笑いをした。

 

「そ、そうだね....ははは...」

 

ぼくは笑ってごまかす。

今の状態は友達なのかちょっとわからない。

 

「まさか、しまむーのお友達なんて!」

 

「そうですね...」

 

ぼくはぎこちなく喋る。

両腕に莉嘉ちゃんとみりあちゃんがいて、両肩に未央ちゃんの手が置いてあり、動けなかった。

 

「どうでした?わたしたちの初ライブは?」

 

卯月ちゃんは何か返事を欲しがっているような仕草をした。

 

「よかったよ。みんなが現れた瞬間、時間が"ゆっくり"に見えたよ」

 

「「ゆっくり...?」」

 

卯月ちゃんと凛さん、未央ちゃんの声が同時に重なった。

 

「その時、みんながキラキラしていて、まるで夢の中にいるみたいだったよ」

 

「まるでお姫様のように?」

 

みりあちゃんはさりげなくぼくに聞く。

 

「そうだね。卯月ちゃんたちはお姫様のようだったよ」

 

「そうなんですか!()()()()()感じてたんですか!」

 

「え?」

 

卯月ちゃんの言葉に、ぼくは疑った。

 

「実は私たちもそう感じたんですよ」

 

未央ちゃんはぼくの肩においていた手を離す。

 

「まさか、しまむーのお友達さんも感じたとは」

 

手を顎に当て、ふむふむと何か納得したような仕草をした。

 

「すごーい。みりあもやりたいなー」

 

みりあちゃんの瞳はとても輝いていた。

やはりステージに立つことは憧れるものなんだね。

 

「ところで、なんで"みりあちゃんたち"がここにいるの?」

 

凛ちゃんが疑問を持った感じにみりあちゃんに聞く。

このぐらいの時間だと帰るべきなのだが...

 

「"お姉ちゃん"を待ってたの」

 

「"お姉ちゃん"..?」

 

誰だろうと思ったが、すぐにわかった。

お姉ちゃんを待っていた。

つまり...

 

「お!美嘉姉!お疲れ様です!」

 

未央ちゃんが建物の入り口に、"誰か"にあいさつをしていた。

 

「お疲れ。なんだか騒がしいね」

 

「!」

 

僕はそのやって来た女性を見て、ぼくの体が石のように固まった。

その人の容姿は眼鏡をかけ、帽子をかぶっていて、きっと多くの人は誰なのかわからないと思う。

しかし、ぼくは"もう"わかっていた。

 

「お姉ちゃん!!」

 

莉嘉ちゃんはぼくの腕から離れ、出てきたばかりの"その人"に抱きしめた。

 

「まだ帰ってなかったの?莉嘉?」

 

彼女は莉嘉ちゃんの頭を撫でる。

 

「だって一緒に帰りたかったの!」

 

「そうなんだ。ありがとう」

 

彼女はにひひと笑い、言葉を返す。

 

「お疲れ!美嘉お姉ちゃん!」

 

みりあちゃんもぼくの腕から離れ、"その人"の元に行った。

 

「お!みりあちゃんもいるね」

 

莉嘉に続き、みりあちゃんにも頭を撫でる。

 

「みりあも美嘉お姉ちゃんを待ってたよ」

 

「そーか、えらいえらい」

 

その人の顔はだいぶ笑みが現れていた。

妙に莉嘉ちゃんとのテンションが違っているように見えた。

 

「まだ、帰ってなかったんですね」

 

そんな中、凛さんは"その人"に声をかける。

 

「うん。まぁ、みんなと話してたらつい....」

 

彼女がぼくに視線を向けた瞬間、言葉が失った。

 

「........」

 

「どうしたの?美嘉姉...?」

 

彼女は一言も言葉が出なかった。

ぼくも同じく、口が動かなかった。

 

間違いない。

 

あの時出会った"人"だ。

 

彼女の名は―――"城ヶ崎美嘉"(じょうがさきみか)

 


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