東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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あいつ


いつのまにか名前で言わなくなってしまった、自分


再び名前で言う機会が、まさか現れるだなんて









Scheme

卯月Side

 

 

梅雨に雨が終わり、

私は学校の友達に連れられ、図書館で受験勉強をしていました。

入試までの時間がだんだんと短くなり、まさに自分は本当に受験生だと自覚する。

外は夏の日差しに全く涼しさがない熱風がある中、今いる図書館はエアコンが効いて過ごしやすいです。

でも冷え性なのか少し上着が欲しいほど寒いです。 

 

「卯月ちゃんは今苦手な教科はある?」

 

「現代文が苦手なんだよね...」

 

古典は言葉の意味を知ればわかるのだけど、

現代文は中々苦手が克服ができない。

特に"説明しなさい"という問題に関しては一番苦戦をしてしまう。

私が好きな教科といえば音楽なのだけど、

受験科目には当然入っているわけがない。

とりあえず私は分厚い受験対策の問題集を解いていると、

 

「そういえば卯月ちゃん?」

 

「ん?」

 

「卯月ちゃんって好きな人いる?」

 

「え?」

 

突然友達がその質問をし、答えを書いていたシャーペンが止まってしまった。

 

「す、好きな人?」

 

「ほら、この前にリリースしたラブレターがあるじゃん。ラブレターといえば好きな人に渡すものじゃん」

 

「確かにそうだけど...」

 

確かにラブレターは告白する時に渡すものだけど、

それで好きなタイプはいるかと聞かれても簡単には答えれない。

好きな人と言っても....

 

「やっほー!しまむー!」

 

思い悩んでいた私に久しぶりに聞き慣れた声が耳に入った。

 

「え?嘘っ!?」

 

勉強を共にしていた友達が動揺し始めた。

一体誰が来たのか振り向くと、

 

「えっ!?凛ちゃん、未央ちゃん!?」

 

後ろに現れたのは、凛ちゃんと未央ちゃんがいました。

 

「久しぶりだね、卯月」

 

「お、お、お久しぶりです!!皆さん!」

 

突然現れたせいか私は思わず驚いてしまい、硬くなってしまった。

 

「ちょっと、アタシたちのことも忘れないでね」

 

凛ちゃんの後ろから加蓮ちゃんと奈緒ちゃんの姿が現れました。

 

「しまむー、どう?受験勉強は?」

 

「ええ、頑張ってますよ。ちょっと苦戦しているところもありますが...」

 

アイドル活動を休止にしたとはいえ、苦手な科目が大きく伸びることはありません。

挫折したくなる気持ちは最初はありましたが、アイドル活動のことを考えてみればまだこれからだとポジティブな気持ちになれます。

 

「卯月ちゃん」

 

「ん?」

 

すると学校の友達が私の肩をポンポンと叩き、声をかけました。

 

「席外したらいいんじゃない?少し息抜きしてきなよ」

 

「そうだね。じゃあちょっとお話ししてくるよ」

 

さすがにこの場にいると注目の的になってしまうので、学校の友達の元から離れました。

勉強は大切ですが、そればかりだと集中が切れ、疲れてしまいます。

なので私は一度勉強をやめ、目立たない場所に向かいました。そこは階段近くのベンチです。

 

「図書館内でもみんな結構私たちを見ていたね」

 

「さすがに前のように自由に行動はできるわけないよ」

 

以前とは違い、私たちは世間に多く知られています。

そうなれば日常生活に支障がくるのは避けられない。

しかも5人揃えばさらに目立ってしまう。

 

「あたしちょっと自販機に行くよ。喉が乾いてしょうがないからさー」

 

「私の分もお願いね、奈緒」

 

「アタシもお願い」

 

「えーまじかよ!」

 

でも奈緒ちゃんは嫌々に言うけど、凛ちゃんと加蓮ちゃんの分も買うと言い、そのまま行きました。

 

「そういえば、今度しきにゃんが来るんだって」

 

「志希さんですか?」

 

「なんか久しぶりにしまむーに会いたいからって」

 

確かに未央ちゃんの言う通り、ここ最近志希さんに会ってない。

私は文系に専攻していますので、理系の志希さんは手伝えるところは少ないと思います。

だけどお話しができるなら来て欲しいです、

 

「さっきしまむーが苦戦しているって言ったけど、それって何かな?」

 

「それは現代文です....回答が間違っている時が多くて、中々点数が上がらないんですよ」

 

「んー現代文かー。あっ!現代文だったら、ふーみんがいるよ!」

 

「文香さんのことですか?」

 

「そう!だって文学部だからね。もしかしたら手伝ってくれるんじゃないかな?」

 

文香さんは金木さんと同じ大学に通い、同じ学部にいます。

文香さんはあれからどうしているんだろう。

たまに寂しそうな顔をする姿が浮かんでしまう。

誰よりも金木さんをがいなくなったことに悲しんでいました。

 

 

 

 

 

そういえば、さっき友達から言われたことがいつまでたっても消えないんだ。

 

 

 

 

 

 

それに以前話したCCGの人から言われた話も頭の片隅に残っていた。

 

 

 

 

 

どうも彼が頭から離れられない。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「7月に入って早速こんな暑さかよ...」

 

着ていた服をパタパタと仰ぎならが歩いていた、神谷奈緒。

彼女の長く癖のある髪がくるくると回っていた梅雨が終わると、蒸し暑さが漂う7月の夏が始まった。

先程は卯月たちの元にいたのだが、夏の暑さに喉の渇きを覚え、ここにやってきたのだ。

そして自分のポケットから財布を取り出し、硬貨を取ろうとしたその時、

 

「こんにちは」

 

「?」

 

すると誰かが挨拶をしてきた。

それは明らかに他の人に声をではなく、奈緒の方に声をかけていた。

いったい誰だろうかと奈緒は振り返ると、

 

「...え?」

 

振り返ると、思わず驚いてしまった。

その人はただの見知らぬ人ではなく、どこかで見たことのある人だ。

 

「君は奈緒ちゃんだよね?」

 

「え、ま、まぁそうだけど...」

 

あまりにも驚いてしまい、返しがぎこちない。

急に人から声をかけられて驚いたこともあるが、

奈緒はその人をどこか一度会った記憶がかすかにあった。

その男性の特徴は左目に眼帯を付けていて、髪は真っ白な髪だ。

一見見知らぬ人のだと思うかもしれないが、話し声は一度耳にしたことのある声だ。

 

「これを卯月ちゃんに渡してくれる?」

 

その男性は小さな紙袋を奈緒に渡す。

その紙袋を少し触るとキーホルダーのような形が手に伝わる。

 

「これを卯月に...あれ?」

 

奈緒が顔を上げた時、その人はすでにいなくなった。

足音を立てず、いったいどこに行ったのかわからないぐらいすぐに消えたのだ。

 

(....まさか)

 

ある人物が浮かび上がる。

前に会った時と比べて大きく容姿は変わっているものの、

雰囲気と声が同じく共通している人物が"一人"上がった。

奈緒はすぐにその場から立ち去り、卯月たちの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

凛から聞いた今行方不明のはずの彼が目の前に現れたのだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

凛Side

 

卯月と出会えた、私。

仕事で事務所内で会うことが少なく、しかも休止という発表を受け、さらに会う機会を失った。

でも今は未央が機会を作ってくれ、久しぶりに会えて嬉しい。

そんな時、卯月はあることを話し始めた。

 

「私、不思議な体験をしたんですよ?」

 

「不思議な体験?」

 

「はい、私が誕生日の時に自分の部屋に凛ちゃんの家のお花が置いてあったんですよ」

 

「お花?もしかして卯月のお母さんが」

 

「いや、違うんですよ」

 

「えっ?」

 

「誰が買ったのか今でもわからないんですよ。ママもパパもそのお花を見て、何も隠さずに驚いたんです。私の部屋は二階にありまして、誰も上に上がってはないのに、ぽんっと置いてあったんです」

 

「それでその花は?」

 

「初めて凛ちゃんに出会った時に買ったお花"アネモネ"なんですよ」

 

「アネモネ....」

 

アネモネは私たちにとって思い出深い花だ。

その花を買い時、初めて卯月と出会った。

それは卯月と同じく“あいつ”も買った。

でもその卯月の話は別だけど、私も同じ"不思議なこと"に出会っていた。

 

「まさかだけど...」

 

私が考えた推測を言おうとしたその時だった。

 

「卯月っ!」

 

奈緒が突然大声で卯月の名前を呼んだ。

急いで来たのか、息が切れていた。

さっき自販機でジュースを頼んだはずが、

なぜか小さな紙袋を持っていたのだ。

 

「どうしたの?奈緒」

 

「さっきこれを卯月に渡してくれって」

 

「何?もしかしてファンからもらったの?」

 

「違うんだよ!ただのファンなんかじゃない!」

 

「え?ただファンじゃない?」

 

「左目に眼帯をしている白髪の男が現れたんだ!その人の声は凛が、前に紹介した喫茶店で働いていた眼帯の人と全く同じなんだよ!!」

 

「っ!」

 

奈緒の言葉に私は動揺してしまった。

嘘だ。

まさかあいつが奈緒の前に現れた?

ありえない。

だってあいつは今“行方不明”だ。

 

「...ねき」

 

一人ある名前を呟くように言う、私。

間違いない。

そいつは私の家に訪れたお客さんだ。

 

「どこで会った?」

 

「さっき自販機の前で...」

 

「.......っ」

 

私はすぐに椅子から立ち上がり、走って行く。

 

「待って凛!」

 

加蓮は走って行く私を呼びかけが、

わたしには聞こえなかった。

すぐさま図書館から出て、奈緒が行った自販機の元に行く。あいつが離れる前に。

 

(....どこ?)

 

だけど着いた時には誰もいなかった。

奈緒が言った通り、白髪の眼帯の男性はどこにもいない。

 

(まだ遠くには行っていないはず...)

 

私は再び走り出す。

図書館の周りを探し出す。

広場、公園、手洗い、道路沿い。

私は隈なく探した。

 

 

 

 

 

 

だけど、その人を見つけることができなかった。

 

 

 

 

 

 

(....どこなの?)

 

どこを見渡しても見つからない。

それらしき人が私の前に現れることはなかった。

私は探し回ったせいか息が切れて、肌に現れた汗が地面に落ちていた。

 

「どうしたのしぶりん?急に探し回って?」

 

ふと後ろを振り向くと未央が私の後について来た。

 

「....あいつだよ」

 

「あいつ?」

 

「.....やっぱり生きているんだよ、未央」

 

「まさか....」

 

「“金木”だよ。あいつは死んでなんかいない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり“あいつ”はどこかにいるんだ。

 

 

 

この街に。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

建物の屋上にいた、僕。

 

 

 

夕日の日差しで生まれた影からある人物の姿を見ていた。

 

 

 

 

 

渋谷凛と本田未央

 

 

 

 

久しぶりに目にした、かつての僕の友だち

 

 

 

最初に出会った時よりも成長していて、とても輝いていた。

 

 

 

 

 

 

今の僕は彼女たちの前に現れてはならない。

 

 

 

 

そっと影の中に潜むように、僕は静かに姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

僕はこの後、ある重要なことをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕を化け物にさせた嘉納の元に行くのだ。

 

 

 

 


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