東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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キミと一緒にいたほのかに香る匂いのような懐かしの記憶



みんなは口には出さず、まるで忘れられたかみたいに日々を過ごしてしまったんだ




だけどあたしは呼び起こすんだ



キミをね















proust

亜門Side

 

張り詰めた空気が漂う部屋。

今回我々が事情聴取をする人物は一ノ瀬志希だが、

アキラは前回の島村卯月と鷺沢文香よりも冷たく接していたのだ。

 

「アキラ..さすがにその態度は」

 

「気遣いありがとう。でもあたし的には必要ないかな」

 

すると一ノ瀬志希は俺に手を上げ、止めた。

 

「それでどうしてあたしが言った"K・Kさん"が金木研だと言えるの?」

 

「これは私の勘だが、カネキケンとお前は同じ20区に住んでいる。そこで何らかの交流があったはずだ」

 

「わお、さすが科学的に証明が難しい勘だね」

 

一ノ瀬志希はアキラの答えに何も隠すことなく、俺はまたもや驚いた。

やはり今回もアキラの勘は当たっていた。

 

「こりゃ、隠しても仕方ないかな。それでしつこいメディアさんに売りつけるバカな真似はしない?」

 

「そんな真似はしない。情報の保持は保証はする」

 

「あと敬語で言うのめんどくさいから、いつも通りにタメでいい?」

 

「それは構わない。その代わり我々が欲しい情報を言ってくれればいい」

 

アキラがそう言うと一ノ瀬志希は「そうこなくちゃね」とにゃははっと笑った。

 

「では改めて、あたしが金木研と交流があったのは、嘘ではなく本当だよ」

 

「それでお前はなぜ番組であの意味深い回答をしたんだ?」

 

「簡単だよ。キミたちCCGのような鋭い人に気が付いて欲しかったから。ただ話題に上がって欲しかったんじゃないよ。みんなネットで候補を上げていたのだけど、ぜんぜん違うし、ある人はK・Kは俺だと言うバカを見かけたけど」

 

彼女の話を耳にして我々が声をかけて正解だったのかもしれない。

彼女はアイドルと言うことで世間に知られてため、そう簡単に名前を出せば大問題だ。

だから回りくどく、簡単に悟られないイニシャルを言ったのだと思われる。

 

「今キミたちが探している金木研はなんだけど、あたしはカネケンさんと呼んでたよ。今こうして言うのも、懐かしく感じちゃうほど言う機会がなくなったね」

 

そう言うとにゃははっと笑った。

だが“その笑い方はいつも世間で見る姿とは”どこか違う。

 

「そのカネキケンは一体どんな人物だ?」

 

「あたしとは正反対で文系の人間だね。まるで"文香ちゃん"のように本を読むのが好きな一つ上の男性ね」

 

「一つ上ならどうやって知り合った?少なくとも同じ大学ではありえないな」

 

「うん、後をついて行った。別の言い方だったらストーカーかな?」

 

さすがに一ノ瀬志希と言えるほど普通じゃない行動だ。

よく失踪するといい、発想も思想も普通でない。

彼女の口から出た"文香"と聞くと前回出会ったことを思い出す。

そう考えていたときだった。

 

「もしかして、他の子に話をしているでしょ?」

 

「ああ、そうだが?」

 

アキラは何も動揺もすることなく答える。

 

「誰?少なくとも文香ちゃんはあるでしょ」

 

俺は思わず彼女の洞察力に驚いてしまった。

 

「彼女とは話したのだが、詳しくは話さなかった」

 

「文香ちゃんはダメだよ。だってカネケンさんがいなくなって一番悲しく感じた一人だもん。そう簡単に口を開くことはできないはず」

 

「なぜそう言える?」

 

「だって二人ともは結構仲よかったよ。別々に話を聞いてたよ。でも文香ちゃんがスカウトされてアイドルになって以降、関係がね...」

 

そう言うと長い髪をくるくるっと指で巻く。

 

「その後アイドルになってから会う時間もなくなって...そして今、行方不明となってしまったね」

 

「そうか...その行方不明になったとされるきっかけに何か心当たりはあるか?」

 

「なんだろうね、でも流石に文香ちゃんが悪いなんてないよ」

 

「悪い?」

 

「あたし的には少なくとも自殺はないね。だってカネケンさんは"いっぱい友達"いたんだもん。死んで得することはないよ」

 

「いっぱい?どのぐらいだ?」

 

「少なくともあたしと文香ちゃん、卯月ちゃんを含めて6人だね。みんな346プロのアイドルだよ」

 

「っ!?」

 

一ノ瀬志希の言葉に目を疑ってしまった。

想定して数より多く、その6人は346のアイドルだ。

しかも彼女の口から以前話した島村卯月の名が出ていた。

俺は「なぜ卯月を」と聞こうとした瞬間、

 

「卯月ちゃんと話したんだよね?」

 

まさに俺たちが言う前に知っているような感じがある。

もしかしたら島村卯月が一ノ瀬志希に伝えたのではないかと頭に浮かんだが、

 

「あー勘違いしないでね。卯月ちゃんはあたしに一切伝えてないよ。卯月ちゃんはいい子だから」

 

それを耳にした俺は少しほっとした。

あまり多くの人に広めてしまうと、影響が出てしまい、

捜査に支障が出てしまう。

 

「カネケンさんと交流のあったみんなはどこか寂しがっていると思うよ」

 

いつもメディアで映る一ノ瀬志希ではない。

面に映る彼女はポジティブで暗い一面を見せることないが、

今は悲しそうに、儚い顔を見せている。

 

「あ!そういえば、あるものを渡したいんだよね♪」

 

「あるもの?」

 

一ノ瀬志希はそう言うとポケットに手を入れ、何かを取り出した。

 

「これなんだけど」

 

渡してきたのは、ブリスターパックされた錠剤。

 

「これがなんだ?」

 

「これ、カネケンさんが事故の後に飲んでいたお薬。"嘉納"と言う医者からもらっていたらしい」

 

「嘉納から.....?」

 

彼女の口から出た“嘉納”と言う人物。

今我々が探しているカネキケンを臓器移植させた医者。

過去の経歴ではCCGに所属した記録があり、現在行方をくらましている。

今我々が捜査対象の人物である。

 

「”免疫抑制剤”というものらしいけど、どうも違うんだよね」

 

「違う?」

 

「うん、明らかに人が飲むのがおかしい薬だよ」

 

「おかしい?じゃあなんなんだ?」

 

「これ、“喰種”が飲むのに適している薬だよ」

 

「っ!?」

 

彼女が言った瞬間、俺たちに衝撃が走った。

 

「それはどこで入手した?」

「カネケンさんが入院している時にゲットしたよ。ちょうどその時食事をしていて、おそらく食後に飲むために置いてあったね」

 

普通喰種は人間の肉以外口にすることはできないとされている。

 

「安心して、あたしは喰種じゃないから。決して試しに口にしてみる真似はしてないよ」

 

そう言うとポケットから飴玉を取り出し、自分の舌に置いた。

おそらく喰種なら拷問に等しい行為であろう。

 

「なぜこの薬が喰種に飲むに適してると言える?」

 

「あたし結構薬品を扱いになれているから、不思議な薬だなーと思って取っちゃったんだよね。そして成分を調べてみたらね、なんか人間のヘモグロビンが出てきたんだよね」

 

「つまり"血"か」

 

喰種は人しか口にはできない。

仮に人間が食べるものを口にすれば嘔吐する。

だとすればその薬は人間が飲むようではない。

 

「カネケンさんが巻き込まれてしまった"あの事件"って勝手に臓器移植したんでしょ?もしその臓器が喰種の臓器だったら、まるで人に近いチンパンジーの臓器を移植するものでしょ?」

 

「.....」

 

その言葉は島村卯月も同じく言っていた。

だが今の我々には簡単に答えることができない。

確実な情報を掴んでいないため、口にすることができない。

 

「もしカネケンさんが喰種の臓器を本当に移植されてたら、あの嘉納と言う医者を恨むよ。ヤブ医者以上のクソ野郎。でもあたしはカネケンさんを初めから"喰種"だなんて考えてはないよ」

 

一ノ瀬志希は軽そうな口ではなく、言葉に力が入っていた。

 

「それはなぜだ?」

 

「カネケンさんは事件に会う前は普通に食べてたんだけど、事件の巻き込まれた後、食べているものがコーヒーと水ぐらいしか口にしてないんだよね」

 

一ノ瀬志希の情報で、我々が最初上がっていた彼を初めから喰種だと言う仮説が撃ち砕かれる。

そう考えると彼は喰種の臓器を移植されてしまったと考えが結びつける。

 

「.....私はカネケンさんにもう一度会いたいんだよね」

 

「っ?」

 

一ノ瀬志希は誰かに伝えるように言ったのではなく、一人呟くように言った。

 

「カネケンさんは、こんなあたしを普通に接してくれた大切な人。今までギフテッドと言うことでみんなはあたしを普通には接してくれなかった。だけどカネケンさんは違った。カネケンさんはあたしを特別扱いはしなくて、普通にしてくれた。だからあたしは消えてしまったカネケンさんを見つけたいんだ」

 

確かにアイドルになる以前は飛び級でアメリカの大学にいた経歴を持っている。

だが大学にいることにつまらなくなり日本に帰国し、今に至る。

 

「あたしからは以上だね。いい情報をもらったでしょう」

 

「ああ、参考になる情報を得てよかった。ちなみに今回の話はプロデューサーに伝えるなよ」

 

「わかってるよ。でも卯月ちゃんと文香ちゃんはいい?」

 

「それはあまり詳しく言わないでくれ」

 

「うんっ、わかった。キミたちとお話できてよかったよ。ちょうど心に穴が空いていたしね」

 

そう言うと、どこか寂しそうに笑う彼女。

テレビとステージと言う表に見せることのない本当の顔。

 

 

 

俺は今回の捜査に改めて重さを知った。

 

 

 

 

 

その重要さに

 

 

 

 

 

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卯月Side

 

 

ぽつぽつと雨が降る昼。

傘に当たる雨の音。

ピシャリっと濡れた地面。

雨の日は家にいるにが適切だと言う人はいるけど、

私は外にいるのがいいと感じる。

 

(なんだかあっという間だな...)

 

今日は学校終わり、あんていくに向かっていました。

いつもならそのまま事務所に向かうのですが、今回は違う。

今日から私はアイドル活動を休止をしたのだ。

その理由は大学受験。

私は勉強に集中をしたいということでお仕事を休み、本格的に受験勉強に入る。

そう想っていると、あんていくの前にたどり着きました。

私はそのドアを押しました。

 

「こんにちは」

 

カランっと響くドアの音。

 

「いらっしゃい」

 

「いらっしゃい、うづき」

 

出迎えてくれたのは店長さんとトーカさん。

しかし私はふとある人がいないことに気がつく。

 

「あれ...?ヒナミちゃんは?」

 

いつもならカウンターに待ってくれているのに、今日は姿がなかった。

 

「ヒナミは...親の元に帰ったんだ」

 

「親の元?」

 

「うん、今までうちで預かっていたから、もうここにはいないよ」

 

そう耳にした私は「そうなんですか...」とテンションが下がってしまった。

ひとつ、楽しみが失ってしまった。

 

「大丈夫だよ。ヒナミちゃんはうづきちゃんのことは気に入っていたからね」

 

「そうなんですか、とても嬉しいです」

 

店長さんの言葉に私の胸の中にあった寂しさが、

嬉しさに変わった。

こっそりと見ていたヒナミちゃんが、時間が経つにつれて私のことを好きになってくれて嬉しい。

 

「それで卯月、今日もコーヒーなの?」

 

「え、きょ、今日はコーヒーじゃなくて、カプチーノでお願いします」

 

「おや?いつも卯月ちゃんはコーヒーを飲むのかい?」

 

「店長。卯月はいつも無理してブラックを飲んでるんですよ」

 

「そうなんだ。あまり無理しないでね」

 

ヒナミちゃんがいなくなっても、楽しいです。

ヒナミちゃんはもしかしたら今、お父さんとお母さんの元で楽しくしているはず。

 

 

 

 

 

 

外から見る雨はどこか綺麗で、かすかに悲しい。

 

 

 

雨ってどうして悲しいイメージが定着してしまうだろう?

 

 

 

私はそう思い、苦いコーヒーではなくカプチーノを口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

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雨が降る東京。

 

 

 

 

夜に降る雨。

 

 

 

 

梅雨真っ盛りの季節

 

 

 

 

 

雨で打ち付けられるビルの上

 

 

 

 

 

僕はそこに立っていた

 

 

 

 

 

 

 

あれからどのぐらいたったのだろうか

 

 

 

 

 

人と言う世界を離れていった、僕

 

 

 

 

 

 

 

僕は人の肉を口にすることなく、喰種の赫子や肉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

腐った肉のような味をした喰種の肉で僕の体内を作り出す。

 

 

 

 

 

 

 

だけどそうしないと強くなれない。

 

 

 

 

 

 

強くなければ、僕はみんなを守れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......」

 

 

 

 

 

 

 

 

雨に打たれる僕は立ち止まった。

 

 

 

 

 

 

 

僕の目に映ったのは"彼女"だ。

 

 

 

 

 

 

 

広告で輝く彼女、島村卯月だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その広告はラブレターと言う新曲を宣伝する広告で、彼女が活動休止前最後の仕事だと言われる。

 

 

 

 

 

 

 

島村卯月

 

 

 

 

 

 

 

彼女は笑顔がステキな女の子で、こんな僕に優しく接してた

 

 

 

 

 

 

 

だけど“今の僕”には相応しくはない。

 

 

 

 

 

 

会ってはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな“バケモノ”と化した僕が彼女と会うだなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう胸に呟いた僕は、街の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

誰にも気づかれないように

 

 

 

 

 

 

 


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