東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

65 / 84


前に踏み出せない



そうさせているのはもう一人の自分


無力で過去を背ける自分だ








ゆれる

文香Side

 

 

「す、すみません....」

 

震える声で二人に謝る、私。

突然"彼"の名を耳にし、心が乱れた。

前を見上げるだけでも辛く、下を向ける。

胸の中に溢れる悲しみと後悔。

 

「いえ、突然名前を出してすまない」

 

「.....はい。少し時間をください」

 

今の私は動揺したせいで、うまく話せない。

少し時間を経ち、再び顔を上げ話を聞く。

 

「そのカネキケンだが、一体どう言った人物だ?」

 

「彼は....」

 

彼の名前を口から言おうとした、私。

その時、口を閉ざしてしまう。

 

「彼は?」

 

「彼は....彼は...」

 

震えてしまう。

 

言えない。

 

その先を言えない。

 

何度も言おうとするが、彼の名前が言えない。

 

震えだけではなく焦り、不安、恐怖に似た怖さが私を抑制する。

 

まるで誰かが私の口を閉ざすように。

 

「...大丈夫か?」

 

私の行動に心配したのか暁さんが声をかける。

 

「すみません....私は彼のことを思い出すだけで...彼が行方不明になって以降...」

 

「すまないな、辛いことを聞いて」

 

暁さんはそう言うと、どこか悲しそうな顔をしました。

その顔は私に遠慮をしている顔立ちではなく、

私と"同じ出来事"を受けたような感じでした。

 

「それで、”彼”とは知り合っていたんだな?」

 

そう言われると私はこくりっと小さく頷きました。

 

「大学内で知り合った?」

 

「...はい」

 

「行方不明という知らせは大学内で知ったか?」

 

「...はい」

 

はいしか言えない。

あまりにも弱々しくなっている、私。

このままではいけないと私は勇気を振り絞る様に、彼らに質問をした。

 

「あの...なぜ"彼"を知っているのですか?」

 

「それなのだが...辛くなることだが話してはいいか?」

 

「.......」

 

辛くなるお話を耳にして、口と再び閉ざしてしまった。

知りたいと言う気持ちよりも、知りたくないと言う感情と恐怖が強くなってしまった。

 

「すみません....それでしたら...またの機会でお願いします」

 

「そうか....」

 

今の私は耐えきれない。

彼のことを聞くだけでも辛い。

喰種捜査官の方々に迷惑をかけてしまった。

その後二人の名刺を頂き、私の元から立ち去った喰種捜査官。

一人部屋から取り残された、私。

 

 

 

 

 

逃げてしまった。

 

 

 

 

 

真実を背けるそうに逃げたんだ

 

 

 

 

 

今更ながら気が付いたこと

 

 

 

 

それは彼の名前が自分の口から言えない

 

 

 

 

 

まるで言ってはならない言葉のように

 

 

 

 

 

 

忘れたくないのに、忘れさせようとしている自分がいる

 

 

 

 

 

 

彼を考えてようとしたら苦しむ

 

 

 

 

 

その苦しみを消すために"彼"の存在を忘れさせる

 

 

 

 

 

私は、もう一人の自分と戦う様にしているみたい

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ヒナミSide

 

 

雲から雨が降る夕暮れ。

 

傘をさし、ぴしゃりっと聞こえる濡れた道路。

 

漂う雨の香り。

 

そんな中、私は一人あるところに向かっていたんだ。

いつもなら外に出ることない私が今外にいるのだけど。

今はあんていくから離れ、6区にいる。

私は決めたんだ。

"お兄ちゃん"の元に行くってね。

それをトーカお姉ちゃんに伝えたのだけれど、

うづきちゃんには一切言わずに勝手に離れてしまった。

 

 

 

 

 

だけど、うづきちゃんにはそうするしかない。

 

 

 

 

 

今いなくなってしまった人に会うなんて言えない。

 

 

 

 

 

 

そう思うと一軒の家についた。

私はドアの横のインターホンに押す。

しばらくすると、閉じていたドアが動き出す。

ガチャっとドアが開くと、ある人が出迎えてくれた。

 

「お兄ちゃん!!」

 

姿を見た私はすぐ様、何も躊躇なく抱きついた。

そこに出迎えてくれた人は、

 

「ヒナミちゃん...?」

 

とても白くて、寂しそうにしていた人。

 

 

 

 

 

 

金木研(カネキケン)

 

 

 

 

 

 

トーカお姉ちゃん、あんていくのみんな、そしてうづきちゃんが会いたがっている人。

 

 

 

 

 

 

私は、お兄ちゃんの元にたどり着いたんだ。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

志希Side

 

 

朝。

ジメジメと湿気が漂う雨の季節。

建物から聞こえる雨の音。

アタシはめずらしくどこにも失踪はせず、部屋の中にあるソファーにじっとしていた。

いつもならここに止まることが嫌いなアタシが、今回は変に静か。

今日はCCGから何か大事なことがあるらしい。

プロデューサーに聞いてみたけど、明確な理由がわからないらしく、どうも何か臭う。

それは普通に鼻に嗅げるような匂いではなく、様々な匂いが混ざり合った複雑な匂い。

感情と言う名前の匂いが重なり合っている。

 

「っ!」

 

するとガチャっとドアノブが動く音が耳に入った。

二人の人物が部屋から入って来た。

 

「突然、時間を頂いてすまない」

 

「うんいいよー♪ちょうどヒマだったし♪」

 

あたしはそう言うと笑顔で迎えた。

入ってきたのは346プロの人ではなく外部の人。

喰種捜査官だ。

346プロと連携しているけれど、なぜ彼らがアイドルに会うことになっているのか不思議だ。

一人は亜門と言う背の高い男性。

二人目は暁というあたしと同じ身長の女性。

二人がソファーに座ると、あたしはさっそく口を開く。

 

「喰種捜査官があたしに用があるなんてめずらしいね。もしかして、薬品の関係?」

 

「そんなことを聞くと思うのか? 我々が今話すことをわかっているはずだ」

 

あたしに冷たく接する暁。

どうやらあたしの不自然な対応に暁と言う人は真っ先に気づいたらしい。

さすがプロ。

 

「ふーん。じゃあ、あたしが知っていることは何かな?」

 

「この前のK・Kと言うイニシャル、"カネキケン"だろ」

 

 

 

 

 

 

暁が言った言葉。

 

 

 

 

 

 

 

わたしは思わず、にやりっと右の口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ついに、動いた。

 

 

 

 

 

止まっていたあたしが望んでいたことが動き出したんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。