東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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もう会えないと悲しんだ、私




そんな時ある人と出会いました




笑顔が素晴らしい人に








my dear

卯月Side

 

 

久しぶりに事務所に訪れた、私。

長く事務所に来なかったせいか、とても重圧感と言うものが身に染みるほど感じる。

この場から引きたくなる恐れが胸の中にひっそりと現れていた。

でもここから逃げては、ダメ。

そうしたら私は何も変わらない。

私は事務所の入り口で、一人躊躇をしていた。

誰もいない空間の中で止まっていたんだ。

まさに今の心を表しているように。

 

 

 

 

 

「あの...卯月さん?」

 

 

 

 

緊張で何も聞こえなかった、私。

そんな時に私に声を掛ける人がいた。

その人に振り向いた私は、思わず小さく驚いてしまった。

 

「文香さん...?」

 

私に声を掛けて来たのは鷺沢文香さんでした。

金木さんが行方不明と皆さんに知らせてくれた方です。

 

 

 

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文香さんに連れられ、オープンテラスのカフェに移動した私。

私はカフェオレを頼み、文香さんはコーヒーを頼みました。

 

「「........」」

 

でもお互い口を開こうとはしませんでした。

別に話したいことがあるのだけれど、行動を起こす勇気がない。

簡単のように、難題に感じる。

 

「....すみません」

 

そんな重かった空気の中、

先に口を開いたのは文香さんでした。

 

「...金木さんに何もすることができなくて...ごめんなさい」

 

「...え?」

 

文香さんは視線を下に向けたまま、急に私に謝ったのだ。

その手はぎゅっと握りしめたまま。

 

「ど、どうして私に...謝るんですか?」

 

「........」

 

文香さんは何かを言おうと口をかすかに動かす。

まるで怯えているように見えたんだ。

 

「...卯月さん」

 

そして文香さんはあることに伝えたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私....金木さんのことが好きだったんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え...?」

 

その事実に私は、胸に槍が貫いたような衝撃。

カフェテラスから聞こえる全ての音が一瞬に消え去り、

無の空間にいるように感じたんだ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

文香Side

 

 

言ってしまった胸の中に秘めていた言葉。

私の心の中で実ってしまった、触れてはならない禁断の果実。

その存在を卯月さんに打ち上げた。

 

「金木さんが好きって....?」

 

「はい....私は金木さんのことが好きだったんです」

 

すらっと言ってしまった。

他人に言えない秘密をあっさりと言ってしまった。

今までの硬かった口は一体どこか行ってしまっただろう。

 

「それで...金木さんに...その思いを告げたのですが......」

 

でもそれは思い通りにならなかった。

 

「....彼は私がアイドルと言うことでお断りしたんです」

 

「え...?金木さんが文香さんの告白を?」

 

「..はい。告白と聞くと男性が女性に告白をするのが浮かぶかもしれません。

 でも私は金木さんに告白をしたんですよ...なんだか私はおかしいですね....」

 

私はそう言うと哀れさと悲しみが混じった笑いをしました。

心が空っぽになり、何もかもを失った人のようです。

金木さんがいなくなる前の私が"今の私”を見たら驚くに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"金木さんと出会う前の私"が見たらの方がより驚くに違いない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きっと金木さんが行方不明なったのは、私のせいです.....私がアイドルになったから、金木さんは...」

 

そう伝えた私は、両手を握りしめる。

私がアイドルになった時の彼の姿が思い出す。

あのどこか悲しそうな横顔。

思い出すだけでも心に苦痛が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「文香さん....っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時でした。

卯月さんが私を叱るように名前を呼びました。

声はそんなに大きくないものの、どんな音よりも大きく聞こえました。

私はその卯月さんの声に伏せていた顔を上げました。

 

「一人で抱えないでください...っ!!」

 

涙がこもった声。

涙を流すのを堪え、私を叱るように目をまっすぐに見てました。

 

「今の文香さんの姿を見ると、金木さんを思い出すんですよ...一人で抱え込む姿をっ!!」

 

一人で抱え込む。

私がアイドルをやる時も、大学で会うときも、そして思いを告げたときも、

彼は一人抱えていた。

それが私も同じくしてしまったのだ。

 

「金木さんは...生きているんですよ....文香さんは何も悪くないのです...っ!」

 

そう伝えた卯月さんは涙が流れていました。

堪えた涙を流したのだ。

 

「........卯月さんっ」

 

そして私の瞳に自然と涙を流した。

その涙は一滴ほどの雫からだんだんと量が増していった。

 

 

 

 

 

なんだろう

 

 

 

 

 

今、私が流している涙は暖かい

 

 

 

 

 

喉を縛り付けたものが消え去り、息苦しさがない

 

 

 

 

 

なんでこんなに気持ちがいいんだろう

 

 

 

 

 

これが隠さずに言うすばらしさなんだ

 

 

 

 

 

私と卯月さんは涙を流した後、自然と心から笑ったんだ

 

 

 

 

 

不気味に感じるかもしれません

 

 

 

 

 

でもお互い悲しみから一変して、気が楽になったんだ

 

 

 

 

 

言えなかったことが言えたことに

 

 

 

 

 

金木さんのことは暗くなってしまうのは仕方がありません

 

 

 

 

 

 

でも彼のことを忘れてはならない

 

 

 

 

 

 

今日卯月さんとお話しできてよかった

 

 

 

 

 

まるで私を苦しめていた鎖が緩められたかのように、心が軽くなったんだ

 

 

 

 

 

 

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卯月Side

 

 

黒く染まった空。

私は事務所から出て、家に帰っていました。

今日の事務所にいた時間があったと言う間に終わったように感じた。

たくさんの人から声をもらいました。

 

(....もう夜なんだね)

 

街中に歩けば綺麗なイルミネーションが 輝き、

冷たい風が雰囲気をより表していました。

 

(文香さんっていい方でした...)

 

初めは文香さんが抱える姿が金木さんと似ていて、涙が混じった叱りでしたが、

だんだんと時間を空いていたら、なんだか笑っちゃったんだ。

お互いに言えなかったことを打ち明けたからです。

文香さんは金木さんのことをたくさん私に伝えてびっくりしました。

やはり同じ大学に通っているからたくさん言えると思います。

私も金木さんと過ごしたことを伝えました。

あんていくにいた時も、最後に出会った時もね。

それで文香さんと別れる時、連絡先を交換しようと思いましたけど、文香さんはまさかの私の連絡先を知っていました。

理由は志希さんから勝手に連絡先をもらっていたからでした。

一体どうして知っていたのかはわかりません....

 

(....やっぱり金木さんのことが離れない)

 

でもそのいい話とは裏腹に次に私の頭に浮かんだのは心に悲痛を感じた金木さんの行方不明のことだ。

それは文香さんとのお話で最初に上がった話題でもある。

金木さんのことを思い出すだけでどこか心が暗くなる。

でもそれじゃあ金木さんは行方不明ではなく、亡くなってしまったとなってしまう。

だから私は金木さんは"どこか”で生きていると信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たとえ本当にいなくなっていても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(...ん?)

 

夜の歩道橋の真ん中まで踏み出した途端、携帯が鳴り出した。

私は携帯の画面を見ると、志希さんが電話をかけてきたのでした。

 

「もしも」

 

「やっほー卯月ちゃん♪」

 

あの気楽な志希さんの声が久しぶりに聞いたように思えた。

 

「....えっと」

 

でも私も気楽に話せるかと言うとそうではなかった。

金木さんがいなくなった知らせを聞いた時、私は不安定だったせいか志希さんの言葉を信じれなかった。

その後私は志希さんにひどいことを言ってしまったと気づき、

志希さんとは話すのを避けてました。

それがまさか今、話すなんて。

 

「いやー卯月ちゃんと話せて、あたしは嬉しいよ」

 

「そ、そうなんですね...」

 

私は嬉しい気持ちより、気まずさが優っている。

 

「....もしかしてこの前のことで気まずいかな?」

 

「え?い、いや...そうじゃないですよっ!」

 

志希さんは気づいたのか私にそう指摘すると、

私は慌てて否定した。

本当は違うのだけれど、本人の前では言えない。

そうなると今日の文香さんの会話はどこへいってしまっただろう。

 

「......本当に?」

 

「....はい」

 

何も聞こえない間が緊張を増していきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時でした。

 

 

 

 

 

 

『後ろに向いてくれる?』

 

「...え?」

 

私はその言葉に後ろを振り向くと、ある人物が立っていました。

 

 

 

 

 

 

「どうもー♪卯月ちゃん♪」

 

 

 

 

 

 

そこに立っていた人は、にっこりと笑う志希さんでした。

 

 

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夜に照らす街灯

 

 

 

 

渋滞に止まる車

 

 

 

 

ビルの谷間から吹く肌寒い風

 

 

 

 

 

僕は人混みの中に歩いていた

 

 

 

 

皆が歩いている中、僕は立ち止まった

 

 

 

 

ある一人を見ていたんだ

 

 

 

 

 

歩道橋で一人立ち止まる少女、島村卯月

 

 

 

 

僕が最後に出会った"人"だ

 

 

 

 

 

皆はアイドルとしての彼女を知ってるが、僕は本当の彼女を知っている

 

 

 

 

 

そう言えば今週にニュージェネレーションズのクリスマスライブがある

 

 

 

 

 

きっと彼女もその舞台に立つに違いない

 

 

 

 

 

でも僕は彼女が立つ舞台には行かない

 

 

 

 

 

どこか嫉妬に似た感情が胸の中にあった、僕

 

 

 

 

 

彼女たちの光に僕はどこかそらしたくなる

 

 

 

 

 

輝く姿を見るのは大切なのはわかるけど

 

 

 

 

 

僕の心の奥底にある"感情"が無意識にそうさせるんだ

 

 

 

 

 

 

そして僕は夜の街に消え去ったんだ

 

 

 

 

 

彼女が僕に気づかないようにそっと街に行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は彼女と違って、喰種なのだから

 

 

 

 

 

 


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