東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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夜明け



朝の日が夢から覚めたんだ







1220

董香Side

 

 

12月20日 早朝

 

 

長かった夜が、今明けようとしていた。

私たちあんていくは行ったんだ。

アオギリの樹に囚われていたあいつを助けるため、11区に行ったんだ。

 

あそこは"ハト"と喰種が戦っていたところで、血の気が激しい戦場と言ってもいいほどひどかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その激戦の中、私たちはあいつを助けたんだ。

あいつは白く変わり果て、ボロボロの姿に変わってしまったけど、

無事に生きているだけでも私は嬉しかった。

2度と会えなんじゃないかと不安がっていたんだ、私。

 

 

 

 

 

 

 

あいつを助けたのはよかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもその後は違ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま私たちの元には帰って来なかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつは"やること"があると言って、私たちの元に去って行ったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白く髪が染まり、ボロボロになった姿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう前のあいつとは違った

 

 

 

 

 

 

あいつは姿だけじゃなく、中も変わっていった

 

 

 

 

 

あのどこか頼りなさそうでヘタれていた姿は、もう目の前に映っていなかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どう伝えればいいんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"人間”(ヒト)である"卯月"に、"あいつ"がいなくなったことを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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文香Side

 

 

12月20日の朝

 

 

肌寒さを増してきたこの季節の中、私は今日も大学に向かっていました。

 

(今日ゆっくりは過ごせそうですね...)

 

なぜなら、今日は珍しくお仕事もレッスンもありません。

ここ最近はライブのおかげで私の知名度が上がり、

いろいろなお仕事を受けました。

そのためゆっくりと時間を過ごす時間が恋しくなる程、心淋しかったものです。

 

(...最近卯月さんの様子がよろしくないですね)

 

事務所内で聞く限り長く休んでいるらしく、

本来出るべきお仕事には出ていないそうです。

志希さん曰く、『基礎レッスンを一から学んでいる』とおっしゃっていました。

 

(....まだ時間がありますね)

 

私は授業の一時間前には大学に訪れております。

それはもちろん授業に遅れないためでもありますが、

一番大きいのは図書館に行くことです。

そこでは新しく入った本もあれば奥底に置いてある本があります。

その中で新たな物語が発見ができることが私の楽しみの一つ。

考えるだけでも幸せな気分になります。

少し上々な気分を抱えて歩いていた、私。

 

 

 

 

誰も目向きをしない掲示板に通った瞬間、私はピタリと足を止めました。

 

 

 

 

(...?)

 

横を通った時、胸の中に違和感をというものを抱きました。

ただ横を通り過ぎただけなのに、何かを感じたのでした。

 

(...なんでしょうか?)

 

その掲示板にはたくさんの張り紙が貼られていました。

部活の紹介、クラブの予定、授業の変更などのお知らせがありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その張り紙の数々の中に、私の目が止まったものがありました。

 

 

 

 

 

 

「....え?」

 

それはどの張り紙よりも大きく貼られているものでした。

ただ文字が書かれていたお知らせよりも目立つもので、"とある人"の写真が貼られていまいた。

 

「え、え、え、え.......」

 

それを見た瞬間、体が震えました。

まるで空想の話であった悪夢が、現実に現れたような疑いたくなる出来事。

その悪夢が私の瞳にはっきりと映りました。

 

「........っ!!」

 

私は走り出しました。

信じたくもない真実から離れるために、逃げるように走った。

そして私は誰も見られない建物の裏の影へと逃げて行きました。

 

(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!!)

 

誰にも声を聞かれないよう手で口を抑え、私は涙を流した。

私は見たものは信じがたいものでした。

頭に焼き付けるほどの信じたくない真実。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたは一体どうしたのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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未央Side

 

 

12月20日 夕方ごろ

 

 

学校は終わり、私は事務所に向かっていた。

今日は特に仕事やレッスンはないけれど、ただ事務所に訪れたかっただけかもしれない。

 

(昨日は11区と23区がとんでもないことだったらしいね...)

 

昨日突然テレビで11区の喰種アジトの駆除作戦がやっていた。

しかもせっかく見たかったテレビ番組がその中継のせいでなくなった。

それでその作戦は無事に終わったかと言うと、逆に悪化した。

23区にあった喰種収容所にいた大量の喰種が逃げ出したらしい。

何故なのかはわからないけど、クラス内で聞いた噂によると23区にいた喰種捜査官の多くが11区にいたおかげで23区の警備が薄くなり、別の喰種のグループが襲ったんじゃないかなって聞いた。

私が住んでいる千葉が23区と隣のせいか、今日先生から喰種に警戒するようにと耳にした。

 

(....しまむーは出ないかな)

 

クリスマスライブに出るのかと言うと、どうやらでないらしい。

本来しまむーが出るはずの仕事は他の子に代役として出ていて、

結構支障にきている。

そんなしまむーのことを考えていた私に、ある人が声をかけてきた。

 

「あ、未央」

 

振り向くとかれんとかみやんが私に声をかけて来たのだ。

 

「あれ?かれんとかみやん?」

 

私は二人が玄関元にいたことに不思議に感じた。

いつもよりレッスンが終わるのは早いような気がする。

 

「今日レッスンが早く終わったの?」

 

「さっき凛がプロデューサーの元に行ったよ」

 

「え?プロデューサーのところに?」

 

「うん。やっぱ卯月のことが頭から離れられなかったらしい」

 

詳しく聞くと、しぶりんはボイスレッスンに集中できずにミスが何度も起こって、

どうしてだろうと聞いたところ、しばらく仕事に出ていなかったしまむーのことが気になっていたと言う。

クリスマスライブに出ないのは私もいやだ。

きっとしぶりんもそうだ。

そんなことを考えていたら、かれんが私にあることを聞いた。

 

「未央も行ったら?」

 

「え?」

 

一瞬かれんの言葉に驚いた。

でも少しずつ時間が経つにつれて、

そのかれんの言葉が私を押したんだ。

 

 

 

「...じゃあ、プロデューサーの元に行ってくるよ!」

 

 

 

私は走り出した。

 

 

私たちの事務所部屋に向かったんだ。

 

 

その後、私はしぶりんとばったり廊下で会い、しまむーがいる養成場に向かったんだ。

 

 

 

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12月20日  夕暮れ

 

 

美嘉Side

 

 

レッスンが終わり更衣室から出た、アタシ。

今は事務所の玄関にあるソファーで考え事をしていた。

クリスマス関係の仕事を多く受けたせいか、どこかぼーとしていたい気分があった。

ちなみに先ほどレッスンと言っても一人だけ自主練に近いものだった。

 

(とりあえず、この後は何もないから帰ろっかな?)

 

レッスンも仕事もないから、今やるべきことはなくなった。

あとは家に帰って、明日に向けてすぐに寝ようと思う。

もしかしたら家に帰ったら、莉嘉がいつも通りに甘えてくるかも。

アタシはそう思い、事務所に出ようとしたその時だった。

 

(...あれは、文香さん?)

 

アタシは文香さんを見て、少し変に感じた。

確か文香さんは今日は仕事もレッスンもなく、事務所には来ないと聞いていたのだけど....

なのにどうして事務所に訪れていたんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

少し文香さんの姿を見ていると、"何か嫌な予感を察したんだ"

前髪で隠れた目がどうも不自然に見えてしまう。

 

 

 

 

 

 

「文香さん...?」

 

アタシは恐る恐ると文香さんに声を掛けた。

何かあるに違いないとアタシは文香さんに近づいたんだ。

文香さんはアタシに顔を向けた瞬間、

 

「.........っ」

 

「.....?」

 

アタシの顔を見た瞬間、突然文香さんがしゃくり上げ泣き出したのだ。

 

「え?....ど、どうしたんですか、文香さん!?」

 

ただ声を掛けたのに、突然泣き出した。

普通ならこの人前で泣くのは避けたくなるのだけど、

文香さんは人前を気にせずに泣きだした。

 

(さ、さすがにこのままじゃ....まずい)

 

周りの人の視線を肌に感じ、さすがに玄関の真ん中で泣いては不味いと思い、

アタシは文香さんをソファに座らせた。

 

(....どうしたんだろう?)

 

文香さんは両手で目を隠すように泣いていて、未だ泣き止むような感じがしなかった。

人前を気にせずに泣くだなんてただ事じゃない。

何か文香さんにひどいことされたのか、それとも悲しいことに出会ったのかもしれない。

 

「...すみません...美嘉さん」

 

考えていると、文香さんは呟くようにアタシに謝った。

 

「い、いいですよ!アタシはちょうど暇だったし...」

 

アタシはそう言うとカバンからタオルを取り出し、涙を流した文香さんに渡した。

本当ならレッスンで流れた汗を拭くつもりで取っといたタオルだけど、

今日はめずらしく汗はなかったため、未使用と言ってもいいぐらい綺麗なものだった。

文香さんは「すみません... 」と言い、涙を拭いた。

先ほどよりは落ち着いた様子だけど、文香さんの顔は何か失って悲しいようだった。

 

「それで....何かあったんですか?」

 

「........」

 

文香さんの口を閉ざし、何も言わなかった。

涙で拭いていたタオルを握りしめて、唇を少し噛み締めていた。

一体何があったんだろう?

 

「あれ?どうしたの〜?」

 

お互い沈黙があった中、志希がタイミングよくやってきた。

志希が文香さんの姿を見た瞬間、にゃははっと笑っていた顔が、

心配と驚きが混じった顔になった。

 

「.....どうしたの文香ちゃん?」

 

志希が文香さんの横にすぐに座り、肩に手を置いた。

今、志希は全くはふざけてはない。

いつもなら他のアイドルやアタシにはふざけた様子で揶揄うが、

今の志希のは違った。

まさに自分の身近な人を心配をするかのような目で文香さんの横にいるのだ。

 

「.....すみません。みなさんを心配させて...」

 

「大丈夫だよ?一人で悲しく泣いちゃ、あたしも悲しいよ」

 

「アタシたちが文香さんを心配するのは、当たり前ですよ」

 

そう言えばアタシ、文香さんと話せてよかった。

最近お仕事で出会うことはなく、話すことはなかった。

それは仕方ないと言ってもいいかもしれないけど、

アタシはどこか話したかった。

 

「ありがとうございます....みなさん...」

 

少し微笑んでくれた。

それを見たアタシはほっとした。

悲しく泣いていた文香さんが再び明るい姿を見れてよかった。

 

「それで.....文香さん、どうして泣いてたんですか?」

 

「......実は」

 

 

 

 

 

 

文香さんは泣いた理由を話したんだ。

泣き出した理由を耳にしたアタシたちは...

 

 

 

 

 

 

「...えっ?」

 

「..........え?」

 

アタシと志希はその理由に驚き、そして疑った。

それはにわかに信じたくなることで、すぐに受け入れられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもこれは決して夢ではない、現在であることは変わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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12月20日  逢魔時  公園

 

 

卯月Side

 

 

 

 

 

 

私は抱えていたんだ

 

 

 

 

 

 

人には言えずに、一人溜め込んでいたんだ

 

 

 

 

 

 

私は他の子と比べて輝いていなかった

 

 

 

 

 

 

 

みんなと違って私の取り柄は何もなかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笑顔は誰でもできること

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の取り柄じゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は何もなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、凛ちゃんと未央ちゃんはそんな私に感謝していたんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛ちゃんは私を怒ってくれました

 

 

 

 

 

 

 

 

アイドルになるきっかけを作ってくれたのは私のキラキラした笑顔でした

 

 

 

 

 

 

 

 

その私の笑顔が凛ちゃんは感謝をしていたのでした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未央ちゃんは最初のミニライブの後で抜け出した時、私が未央ちゃんの帰りを待っていたことに感謝をしてました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと私に理由のない安心を抱いていたことに謝ったんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして未央ちゃんは"もう一度友達になろう"と言ってくれました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..帰るね、しまむー」

 

「...待ってるから」

 

凛ちゃんと未央ちゃんは私に告げ、歩き出そうとしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"その時でした"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...?」

 

すると突然、ポケットにあった携帯が鳴りました。

私は鳴った電話に出てみると.....

 

「...もしもし?」

 

「...やぁ、卯月ちゃん」

 

「志希さん....?」

 

その電話を掛けてきたのは、志希さんでした。

志希さんとはメールのやり取りは何度もしてますが、

電話を掛けてくるのは初めてでした。

 

「.....落ち着いて聞いてくれるかな?」

 

その声はいつものとは違いました。

あの子供っぽくて陽気な声ではなく、

何一つもふざけてはなく、しっかりとした声でした。

 

「どうしたのですか...?」

 

「........」

 

数秒間、電話から声が消えました。

聞こえるのは何か躊躇っているような音がかすかに聞こえる。

 

 

 

「...あのね、卯月ちゃん」

 

 

 

私に告げられたのは....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『......今、カネケンさんが"行方不明"なの』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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