東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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帰り道


あの時の出来事が、


{僕・私}にとって大切なことなんだ





precious

金木Side

 

 

 

「........そう...なんだ....」

 

 

僕は卯月ちゃんの言葉に、自然と涙が流れ始めた

 

 

別に明るい話なのに、なんだか不安が僕の胸に現れたんだ

 

 

それはまるで日が沈み、闇が生まれたように

 

 

僕は恵まれてないんだ

 

 

みんなと違って、先が真っ暗で見えない

 

 

ただ闇が広がる世界しか見えないんだ

 

 

「...怖いんだ...みんなが........輝くことが.......」

 

 

僕は怖い

 

 

みんなに置いてかれて、見捨てられることが怖いんだ

 

 

凛ちゃんや未央ちゃん、志希ちゃん、文香さんに美嘉ちゃんを見るとわかるんだ

 

 

自分は"影"の存在だと

 

 

みんなが輝けば輝くほど僕は彼女たちとは距離ができてしまう

 

 

そんなの嫌だ

 

 

「.....僕を......忘れられることが......怖いんだ......」

 

 

出会ってしまったことに嬉しさと失ってしまう恐怖が、日に日に大きくなっていたんだ

 

 

輝くみんなの背中を見る影の僕

 

 

それを見た僕は胸の中に孤独、不安、恐怖、嫉妬、そして悲しみが不意に現れたんだ

 

 

僕も同じく輝けたいいなと

 

 

それに僕は"喰種"だ

 

 

僕はみんなに嘘をついて生きなければならない

 

 

その嘘が気づかれないように、日々怯えながらね

 

 

もし嘘がバレてしまったら、僕は本当に一人になる

 

 

二度といつもの日常に戻ってはこれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人になるなんて、嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金木さん」

 

 

 

 

 

何も聞こえなかった僕に、卯月ちゃんの声が頭の中に響いたんだ。

 

 

それはまるで闇に現れた小さな光のように

 

 

目を隠していた左手を離し顔をあげると、

 

 

隣に座っていたはずの卯月ちゃんはベンチに座っている僕に合わせてしゃがみ、

 

 

僕の右手を握ってくれたんだ

 

 

「!!」

 

 

何も見えなかった目に映ったのは、卯月ちゃんの微笑む顔

 

 

そしてまっすぐ僕の目を見る卯月ちゃんの瞳

 

 

僕はハッとしたんだ

 

 

「...金木さんは一人じゃありませんよ」

 

 

とても暖かい

 

 

冷え切った僕の手に卯月ちゃんはぎゅっと握り締めてくれた

 

 

それを見た僕は温もりが胸の中にふわっと現れたんだ

 

 

「.....本当に?」

 

 

「はい!例え皆さんが金木さんのことを忘れていても、私は覚えていますから」

 

 

卯月ちゃんはそう言うと微笑んだ

 

 

可愛らしく、笑顔が素晴らしい彼女

 

 

どこか心が明るくなるんだ

 

 

そして卯月ちゃんはこう言ったんだ

 

 

 

 

 

 

『金木研さん。私は何があっても忘れません』

 

 

 

 

 

僕はその言葉に勇気をもらった

 

 

不安というものに捕らわれていた僕に、安らぎを与えてくれたんだ

 

 

「...うん。ありがとう」

 

 

僕は涙を拭った

 

 

寄り添ってくれたことに僕は嬉しかった

 

 

卯月ちゃんがそう言ってくれたことに何より嬉しい

 

 

孤独の僕を一人でしないでくれることに、安心したんだ

 

 

「さぁ、一緒に帰りましょ?暗くなっちゃいましたし」

 

 

「そうだね....帰ろう」

 

 

僕たちは立ち上がり、遊園地から出た

 

 

イルミネーションに照らされた中で僕たちは帰って行ったんだ

 

 

それから卯月ちゃんとは駅で別れた

 

 

卯月ちゃんは「また、会いましょう。金木さん」と笑顔で小さく手を振り、改札口に行ったんだ

 

 

それが彼女との最後の言葉だった

 

 

でも遊園地から駅までの間は満足だった

 

 

その時お互い何も言うことなく、ただ駅に向かっていた

 

 

だけど卯月ちゃんは僕の手を握って、寄り添って一緒に歩いてくれた

 

 

悲しみと不安を負った僕を知ってくれたことに、

 

 

僕は卯月ちゃんと一緒にいてよかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもその時、時計の針が12時を過ぎていったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"人間"と言う魔法を途切れたことを知らせる鐘が響いてしまったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

帰りの電車に乗っている、私

 

 

夜の景色を見ながら私は立っている

 

 

でもただ景色を見ているだけではありません

 

 

数十分前の出来事が頭に焼きついたままでした

 

 

それは金木さんが私の前で泣いていました

 

 

悲しく、怯えた様子で一人泣いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿はどこか似ていた

 

 

 

心の中の"私"に似ていたんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は泣いていた金木さんの手を握りました

 

 

その手はとても冷たかった

 

 

まるで金木さんが抱えていた感情を表しているように冷たかった

 

 

でも私は手を繋ぎ続けました

 

 

それは金木さんが一人にならないように

 

 

私はこの人を見捨てるだなんて、嫌

 

 

助けられたこともいくつあったのだから

 

 

忘れるだなんて、考えられないんだ

 

 

 

私が金木さんと別れる前、こんな会話をしたんだ

 

 

『もう駅に着きましたね』

 

『.......』

 

『金木さん?』

 

『...ああ、そうだね』

 

 

その時の金木さんは別れを惜しむようにどこか寂しそうな顔で私を見てました

 

 

もしかすると一人になるのが怖かったかもしれません

 

 

『大丈夫ですよ?』

 

『....うん。わかってる...』

 

 

私はそう言いましたが、表情は変わることはありません

 

 

"本当に"別れてしまうのが怖かったかもしれない

 

 

そんな金木さんに私は思い切って、ある行動に出ました

 

 

『....金木さん』

 

『...ん?』

 

 

金木さんが私の方に振り向いた瞬間、

 

 

私は金木さんの左の頰に、右手を添えました

 

 

『また会えますよ』

 

『......!』

 

 

金木さんは突然の行動に静かに驚きました

 

 

そして私は笑ったんだ

 

 

また会えるよと言ったんだ

 

 

そしたら金木さんは寂しそうな顔から、微笑みました

 

 

私はそれを見て安心したんだ

 

 

安心した金木さんが見れてよかったと心から感じ取れたんだ

 

 

『....ありがとう、卯月ちゃん』

 

『いえ、今日金木さんがお誘いをしてもらったお返しです』

 

 

金木さんと別れた後、やっぱり恥ずかしくなりました

 

 

私が金木さんの頰をそっと添えたことに、

 

 

なんでやっちゃったんだろうと

 

 

でもよく考えたら笑えてくる

 

 

私がやることのないことを行動に起こしたことが

 

 

今の私の心は恥ずかしさと面白さが変に混ざっちゃったみたい

 

 

頰に手を添えたことは絶対正解だと私はわかるんだ

 

 

『またね、卯月ちゃん』

 

『また、会いましょう。金木さん』

 

 

それが金木さんと最後に交わした会話

 

 

その言葉は今でも頭に残ってるんだ

 

 

あの金木さんの声がまるで今でも聞こえるように

 

 

 

私たちは約束をしました

 

 

"再び"お互い出会うことを

 

 

(......今、何しているのかな?)

 

 

電車で揺られながら思ったんだ

 

 

また金木さんと出会えるかな?

 

 

その時も同じく話し合いたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

{金木さん・私}が一人にならないように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

 

 

 

 

会えないだなんて考えてはなかった、私

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの駅の別れが最後だなんて、後から知るんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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