東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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消せない想いが、なぜか消えない。






心残

 

 

 

「.............」

 

お互い何も話さず、目を合わせていた。

あまりにもホームが静かだ。

まるで僕と彼女しかいないだろうと感じてしまう。

 

(何か言わないと.....)

 

「....あの」と僕が声をかけた瞬間、電車がやって来た。

 

そしてドアが開いた瞬間、

 

「....っ!!!」

 

彼女は顔を赤くし、すぐに後ろを向き、電車の中に入っていく。

彼女が電車の中に入っていた後、タイミングよくドアが閉まり、行ってしまった。

 

「行っちゃった.....」

 

僕は彼女を乗せた電車をただ見るしかなかった。

なんだか僕の心は、誰もいない寂しいホームのようであった。

 

(.....城ヶ崎美嘉ってあんな人だっけ?)

 

よく考えてみれば、何かおかしいところがある。

彼女の顔は赤かったような...?

でも城ヶ崎美嘉はそんな人ではないはずだが.....?

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次の日ーーー喫茶店

 

 

「はっ?美嘉ちゃんに会った?」

 

後日、昨日ホームに出会った人のことをヒデに話した。

その人は顔を赤くし、電車に逃げたと。

 

「うん。少し変装していたけど、多分本人」

 

確かにあれは本物だと確信したが...

ヒデは何か納得していなかった。

 

「いや...おそらくその人は"美嘉ちゃんじゃない"」

 

「え?どうして?」

 

「だって、カリスマギャルだぜ?そんなことで顔を赤くすることはまずない」

 

「そうだよね...」

 

昨日駅とか街とかでも城ヶ崎美嘉の載っている広告を見たが、

確かにそんなことで顔を赤し、恥ずかしがるような人に見えない。

きっと彼女はそんなことをしない。

 

「悪いがカネキ。その人は美嘉ちゃんじゃなくて、"美嘉ちゃんに似ている人"だ」

 

ここは東京。多くの人が行き交う場所。

似ている人だって何人かいる。

よくテレビでそっくりさんコンテストもやっているから、多分昨日あった人がそれに出たら優勝するかな?

 

「うん....」

 

でもいまいち納得できない。

確かにあの顔はそっくりさんだとすれば、似すぎる。

 

「ところで話に戻るが、覚えて来たか?」

 

「え?...あ、ああ、覚えて来たよ」

 

「じゃあ、"Happy Princess"を組んでいるメンバーの名を言ってみろ」

 

「えっと...城ヶ崎美嘉、小日向美穂、川島瑞樹、日野茜、佐久間まゆ...っでいいかな?」

 

「お、正解」

 

そうだった。今日来たのは報告だけではなく、

シンデレラガールズのメンバーの名前やスリーサイズを言うために来たんだ。

...と思ったがどうやら今日はこれで終わりらしい....

 

「よーし、今度は346プロの主なユニット名やその所属しているアイドルの名前などを覚えてこい」

 

僕は「またやる?」と少し呆れて口に出した。

 

「そりゃー決まっているだろ!話の話題だ!」

 

「そ、そうだね....」

 

その時のぼくは多分嫌そうな顔をして返事を返したと思う。

....と言っても、僕は覚える。

昨日は嫌々で覚えていたが、今度は違う。

昨日城ヶ崎美嘉に似ている、いや、"本物の城ヶ崎美嘉"に出会ったことがきっかけか―――

覚える気が出てきたかもしれない。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉Side

 

 

『だ、大丈夫...?』

 

妙にあの言葉が頭で繰り返していた。

一昨日の電車のホームで"ある男性"に助けられた。

その時の私は仕事の疲れのせいか、妙に立ちくらみがあった。

もしあの時、彼がいなかったら....

 

「........」

 

「どうしたのお姉ちゃん?」

 

「...え?」

 

気がつけば、少しぼーとしていた。

その姿に莉嘉は少し心配していた。

 

「い、いや...今日は何かあるかなぁって考えてたよ」

 

今日は写真撮影だ。

今度のライブパンフ用の写真のための。

そんな中、"新しい人"が三人いた。

おそらく違う部署の子だと思う。

 

「美嘉ちゃんー撮影するよ」

 

カメラマンの人が私を呼びかける。

 

「はーい。莉嘉行ってくるね」

 

「撮影頑張ってね、お姉ちゃん!」

 

「うん」

 

私は返事をし、撮影するセットに向かう。

 

(なんで昨日のことが忘れられないかな...?)

 

昨日は恥ずかしいことをやってしまった。

助けられたのだ。

あの時はたまたま人がいなくてよかったけど....

 

(また"出会う"とかないよね...?)

 

世間でのわたしのイメージは、カリスマギャルで"恋愛経験"がありそうと思われているけど、

でも実際は違う。

実際は恋愛なんて全く経験していない。

ある意味誤解されている。

 

世間のイメージとは違う私を、"彼"が見たのだ。

 

「美嘉ちゃんー?」

 

「....え?」

 

またぼーとしてしまった。

 

「もうちょっと笑顔をお願いねー」

 

カメラさんに指摘されてしまった。

 

「あーごめん」と少し軽く返し、ポーズを決める。

 

今日はあまり仕事に集中ができない。

これは間違い無く"彼"のせいだ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

凛Side

 

(.....どうしたんだろう?)

 

先ほどから美嘉の顔がおかしい。

何か考えているような...?

 

「どうしたの?しぶりん?」

 

すると、未央が声をかけて来た。

 

私は「いや、別になんでもないよ」と返す。

先ほど宣材写真の撮影が終わり、今はフリータイムになっている。

私はとりあえず美嘉のところにを見ていた。

 

(....どういった行動すればいいかな)

 

みんなは楽しんでいるように見える。

でも私は少しその雰囲気になれない。

アイドルってまず何するのかわからない。

それで今ここにいる。

 

「ねえ、三人で写真を撮りませんか?」

 

卯月の手には携帯を持っていた。

どうやらそれで撮るようだ。

 

「おっ!いいね!しぶりんもやろうよ?」

 

「う、うん。いいよ」

 

三人一緒に横で並び、写真を撮る。

しかも自撮り。

まさに女子高校生がやる行動だ。

 

「ありがとうございます!」

 

「しまむー見せてー」

 

ちゃんと 綺麗に写っていた。

 

「あとでみんなに送りますので」

 

「お!ありがとう!」

 

「うん、ありがとう」

 

私はそう言って、少し微笑んだ。

ある意味いい思い出を作った。

最初に同じアイドルの子と楽しんでいることだ。

わたしは正面上では楽しんでいるというか、落ち着いて見ると思うけど、

内面は楽しめている。

 

(.........)

 

ふと、あることを思い出す。

 

(...."金木さん"に送るとか無いよね...?)

 

あの時確か....ヒデ?さんの口に『金木が卯月の連絡先を知りたい』ということを言ってた。

さすがに渡さないだろうと思ったけど、まさかのOKだった。

普通なら絶対渡さないところを卯月は渡したのだ。

 

(....私だったら絶対やらない)

 

普通何回か会ったことのある人物に渡せるはずがない。

いくら見た目が落ち着いている人でもさすがに...

 

「凛ちゃん?」

 

「ん?」

 

ふと気がつけば、今スタジオにいるのは私と卯月だけだった。

 

「もう行きますよ?」

 

みんなは帰る準備をしていったようだ。

 

「うん、わかった」

 

私は少しゆっくりと足を踏み出す。

 

 

中々好きになれない。

 

具体的な理由もなく、好きになれない。

 

多分、私は嫌っていると思う。

 

彼のこと。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

金木Side

 

 

 夜 ―――自宅

 

 

「......」

 

ぼくは静かに読書をしていた。

やっと面白い本を見つけたのだ。

高槻作品ではないが、結構面白い。

 

「.......」

 

妙に部屋は薄暗いけど、そんなの気にしなかった。

何せ本を読んでいるときは、その本の世界に入っているのだから、

部屋が暗くても、一人でいる時でも問題は無い。

そんな本の世界に入り込んでいるぼくに、"ある音"が聞こえた。

 

(....ん?)

 

本を読むのをやめると、携帯が鳴っていた。

 

(誰だろう...?)

 

ぼくはそれを開くと、卯月ちゃんからの返事であった。

 

 

『金木さん金木さん!』

 

 

(...ん?)

 

何かぼくに呼びかけている。

 

(どうしたのかな...?)

 

ぼくは『どうしたの?』と返事を返す。

するとすぐに返事が来た。

 

 

『今日はとってもいいことがありました!』

 

 

どうやら何かいいことがあったらしい。

それを表しているのか、絵文字が可愛いく表示してあった。

 

『どんなことかな?』と返事を再び返す。

 

(何がいいことあったのかな?)

 

いい仕事が見つかったのか....それとも...ライブか....?

 

 

『城ヶ崎美嘉さんと一緒にライブに出ることになりました!』

 

 

(美嘉さん....?)

 

一瞬誰だろうと思ったが、思い出した。

確かにシンデレラガールズの人気アイドルだ。

 

(結構すごい....)

 

まだ新人にもかかわらず、最初から一緒に出れるなんてすごい。

おそらく、城ヶ崎美嘉から声をかけられたのかな?

 

(さすがにこの前会ったことは言わないでおこう...)

 

そう思い、文字を打つ。

 

 

『そうなんだ、すごいね!卯月ちゃんと他に誰が出るの?』

 

 

しばらく待っていると.....

 

 

『このメンバーで出ることになりました』

 

 

その返事とある写真が送られた。

その写真には三人写っていた。

おそらく場所は....写真撮影をするスタジオ。

 

(....結構可愛く写っている)

 

一人は卯月ちゃん、二人目は凛さん、三人目は.......

 

 

ん?

 

 

(....あれ?)

 

ぼくは何か気づいた。

その三人目の子、"どこか"で見たことがあった。

 

(.......まさか)

 

急いで文字を打ち、メールを送る。

 

 

『卯月ちゃんと凛ちゃんと次の子は誰?』

 

『"本田未央"ちゃんです!何か気になることありましたか?』

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

(あれ...?早い?)

 

金木さんの返事は普通なら数分で来るのだけど、

なぜかこの返信だけは数十秒で来た。

わたしは少し疑問を持ちながらメールを打つ。

 

 

『"本田未央"ちゃんです!何か気になることありましたか?』

 

 

(どうしたんだろう...?)

 

もしかして金木さんの好みだとか...

そう思った瞬間、返事が来た。

 

「!」

 

わたしはその返事を見て、驚いた。

 

 

 

 

『多分、"その子"と出会ったことがある』

 

 

 

 

 

 


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