東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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伝える



あなたにとって大切な事だから














Enlightenment

凛Side

 

 

ステージの裏にいた私たち。

美嘉のライブが終わり、次のライブが行われるはずだった。

 

 

「文香さんが倒れた...」

 

「...え?」

 

 

未央から聞かされた疑いたくなるような情報を耳をしたのだ。

それを耳にした私は衝撃のあまり、ライブ前から抱えていた緊張にさらに不安がのしかかった。

 

「次にステージに立つはずじゃ.....」

 

「嘘でしょ...?」

 

確か私たちより先にありすと文香がステージに立つはずなのだが、

文香が体調を崩したという言葉を耳にし、奈緒と加蓮は受け入れがたい様子だった。

 

 

 

 

 

でも私はそれよりも"気になること"が頭に浮かんでた。

 

 

 

 

(まさか...."あの時"....?)

 

ふと私の頭にあることが察した。

それは文香が急に楽屋に出た時に一瞬目にした顔。

 

 

 

 

 

あの時の顔は"とても悲しそうな顔"だった。

 

 

 

 

 

 

それはどうしてなのか、私にはわからない。

 

 

 

 

私はただ、それを考えていた。

 

 

 

 

 

何かあるのではないかと、中々頭から離れられなかった。

 

 

 

 

 

「あ、プロデューサー!」

 

ふと我に帰ると、未央が指を指した先から私たちの元にプロデューサーが来た。

 

「プロデューサー...」

 

「...状況はわかってます」

 

プロデューサーも想定外の状況でどこか慌てていた様子に見えた。この慌ただしい状況をなんとか収束しようとしているとわかる。

 

「私たちはどうすればいい?」

 

止まったままでは、ライブに支障は出かねない。

私はプロデューサーに何すればいいか聞いた。

 

「出演順を変えて.....トライアドプリムスが先に出ることは可能ですか?」

 

「「...え?」」

 

それを耳にした私たちは、プロデューサの言葉に驚いてしまった。

 

「....うん。できるよ」

 

私がそういうと奈緒と加蓮も同じく頷いた。

だけどプロデューサーの言葉に私と加蓮、奈緒は戸惑いは隠せなかった。

なにせ私たちが文香たちより先にステージに立つのだ。

 

(確かに最善な事だと思うけど....)

 

あまりにも突然ステージに立つことに、緊張がさらに高まった。

急に変わった状況に受け止めるのは難しい。

 

「それで調整できますか?」

 

「少し時間をいただければ」

 

プロデューサーは会場スタッフに演出の準備や変更を伝え、準備に取り掛かった。

この後の予定は他の人が時間を埋め、その次に私たちが出ることになった。

これ以上何もせず止まっては仕方ない。

緊張と不安が増えたのは事実だけれど、

こんな大変な状況ができたのは私たちにとって、

与えられた試練かもしれない。

 

 

(.......)

 

 

そんな状況なのに、私の胸の中にまだ残っていた。

皆が起こってしまったトラブルを埋めようとしているのに、

私はその起こってしまった原因の文香のことが気になっているせいか忘れられていなかった。

別に変わってしまったことへの恨みではなく、理由を知りたかった。

 

 

 

 

それはどこか、私にも関係するような空気に感じたから

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

 

 

真っ暗な世界。

私は一人、立っていました。

周りを見渡しても、何もないただの闇だけの世界で、

まるで死後の世界のように思いました。

不安を抱いた私はその世界に、一歩一歩と歩き出しました。

歩いた先に何かあるではないかと、踏み出しました。

 

 

 

 

 

 

そんな暗闇の中、ある人が立っていました。

 

 

 

『....っ!!』

 

それは“彼”でした。

 

今に私にとって唯一の男性の友人。

 

私が働いている書店で出会い、

 

一目惚れという一雫が私の心に響き渡ったきっかけを作った人です。

 

 

『.......』

 

 

しかしそんな彼を目にした私は、喜びの感情を抱きませんでした。

私が感じたのは、"恐ろしさ"でした。

会うことを望んだはずなのに、

出会ってしまった恐怖が胸に生まれていたのでした。

 

『........っ』

 

私は彼の名前を言おうとしましたが、口が思うように動きませんでした。

 

 

それは金縛りで動けなくなっているように、言葉が発することができません。

 

 

言いたくても開けない状態が私をさらに焦りと悔しさを生み出しました。

 

 

『....っ!!!』

 

しばらくすると彼は、私の方に顔を向けず、私からだんだんと離れ始めました。

 

 

 

 

 

離れないで、お願い。

 

 

 

私はあなたを嫌いにさせようと、アイドルをやったんじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

あなたの"喜ぶ顔"が見たかったの。

 

 

 

 

それなのに、なぜあの時に言ってくれなかったの?

 

 

 

 

 

 

私はあなたのことが好きなのに。

 

 

 

 

 

『金木さんっ!!!』

 

 

 

 

 

彼は振り向きはしませんでした。

 

 

 

彼の背中から伝わる孤独は、私が作ってしまった。

 

 

私がやってしまった過ち。

 

 

何もしてあげれなかった後悔。

 

 

そして、身に染みる無力感。

 

 

 

 

 

 

私は彼に見放されてしまったのでした。

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「....っ」

 

ゆっくりと瞼を開くと天井の光が目に映りました。

ここはどこだろうとしばらく考えていると、

私はソファーに横になっているのをふと気がつきました。

 

「....ここは?」

 

私が独り言のようにそう呟いた瞬間。

 

「文香ちゃん!!」

 

「文香さん!!」

 

私の名前を呼ぶ声がすぐに耳に伝わりました。

ふと気がつくと志希さんは私の手をぎゅっと握っていました。

 

「......え?」

 

一体どういう状況なのか私は掴めず、私の手を握っていた志希さんはすぐに私を抱きしめました。

 

「文香ちゃん.....よかった」

 

志希さんの涙声が混じった声で、私を強く抱きしめました。

それは心配と不安を抱え、体調が戻ったことに安心を誰よりも感じてました。

志希さんと美嘉さんの目は私のことを本当に心配していた瞳でした。

 

「文香さんが体調を取り戻してよかったよ..」

 

「本当に.....死んじゃうかもと思ってた...」

 

志希さんは抱きしめるのをやめ、涙が含んだ目で私を見ました。

私が驚いたのは志希さんの姿でした。

いつも陽気で明るい志希さんが、私に悲しい涙を見せたのでした。

 

「.......すみません」

 

そう言うと視線を逸らし、毛布を強く握りしめました。

今の状況を変えてしまったのは私のせい。

皆さんに大変な迷惑をかけたのです。

 

「大丈夫ですよ、文香さん」

 

美嘉さんがそう言うと私の肩に手を置きました。

 

「みんな文香さんのこと悪いとか考えてないよ」

 

「....で、でも....」

 

「むしろ、みんな心配してるよ。ありすちゃんも奏ちゃんとかもね」

 

二人のフォローが、弱きった私を暖かくしてくださいました。

 

「それで....緊張で気分が悪くなったのですか?」

 

「.....いえ」

 

「...え?」

 

緊張で体調が悪くなったとは言えません。

私にとって緊張よりもはるかに”大きなもの”を抱えていました。

それはステージに立つ前日に起こったものです。

 

「..........」

 

私は口を閉ざしてしまいました。

一体自分は何言ってしまったのだろうか

まるで金木さんのせいにするような理由を二人の前で言うなんてできない。

あの時の"私の選択"が悪かったのに。

 

 

 

「文香さん」

 

 

 

すると美嘉さんの私を呼ぶ声が、耳にすっと入りました。

心に響いたかのように大きく聞こえました。

 

「アタシたちに伝えて欲しい」

 

美嘉さん飲めはまっすぐと私の目に向いてました。

黄色く輝く瞳が私に答えを求めていました。

 

「文香さんの抱えていることも志希もアタシも知りたい。決して一人じゃないから」

 

友達に知ってもらう。

それは私が抱えていることを伝えること。

こんなの、初めてかもしれない。

心の中から嬉しく、安心感を得たようでした。

 

「...ありがとうございます」

 

「それで....どうして体調を?」

 

私は胸にあった"あの理由"を言うことを決心し、口を開きました。

 

「...私っ」

 

 

 

 

 

理由を言おうとしたその時でした。

 

 

 

 

「.....?」

 

さらに言葉を伝えようとした私は口を止めてしまいました。

それは見ていたものに気を取られていたからでした。

それはライブの様子が見れるテレビから、ある映像が映し出されてました。

 

「渋谷さん...?」

 

私とありすちゃんの次のはずなのに、

ライブには凛さんたちが立っていました。

 

「文香さん!大丈夫ですかっ!」

 

すると楽屋のドアが突然開き、そこからありすちゃんがまっすぐと私の元に来ました。

ありすちゃんは不安そうに、私を見ました。

 

「すみません...橘さん」

 

本当ならばありすちゃんと言いたいのですが、

彼女は『橘です』と言いましたのでありすちゃんではなく橘さんと呼んでいます。

しかし、ありあすちゃんは首を横に振り、

 

「...ありすでいいです」

 

ありすちゃんはそう言うと微笑みました。

先ほどよりも固そうな顔つきから、穏やかでした。

その瞬間志希さんが、

 

「さぁて二人とも、立ち上がって!」

 

志希さんが私とありすちゃんを立ち上がらせるよう手を取り、私を取り立ち上がりました。

 

「少し時間あるけど、プロジェクトクローネのみんなとすぐにステージに立つよ!」

 

「志希、流石に急ぎすぎじゃ..」

 

「ちょうど気持ちいい展開になったから、行かなきゃね♫」

 

「う、うん...わかった...」

 

美嘉さんは少し納得しない様子で志希さんと一緒に、私とありすちゃんを舞台裏に連れ出すよう出ました。

楽屋から出る前、志希さんと美嘉さんは私の両耳にそれぞれ小さな声でこう言いました。

 

「頑張って来て、文香さん」

 

「楽しんできてね、文香ちゃん♪」

 

二人に背中を押され、私は前に踏み出しました。

 

 

 

 

 

考えてはだめ。

 

 

 

後を考えては前に進めない。

 

 

 

今の私はそう過ごせばいいと、心に感じてしまいました。

 

 

 

 

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凛Side

 

 

 

ステージに立ち込める演出の煙

 

 

それが消えれば私たちの歌が始まる。

 

 

 

 

煙が消えるまで、私は考えたんだ。

 

 

本当にこの道を選んでよかったって。

 

 

いつもニュージェネレーションズとして卯月と未央と一緒に立ってきたのだけれど、

 

 

今回は二人とではなく、加蓮と奈緒とステージに立つ。

 

 

本当は卯月たちとずっと一緒にいたかった。

 

 

でもずっと一緒にいられるには新しいことに挑まなければならない。

 

 

未央がソロデビューをやっていくのもその一つだ。

 

 

一人で未知の世界に入るのは勇気はいる。

 

 

そんな不安が胸が胸にあった私がステージに立つ前、私は卯月と未央に励まされた。

 

 

そういえば金木は結局今回も私が立つステージには来なかった。

 

 

でも"あいつ”(金木)は私に大切なことを伝えてくれた。

 

 

『二人はきっと、凛ちゃんの答えに受け入れてくれるよ』

 

 

 

その言葉があの時迷いがあった私に背中を押してくれた。

 

 

 

 

きっと"あいつ”(金木)も応援してくれてるはず。

 

 

 

 

 

演出の煙が消え、観客席が見えた瞬間、私たちは口を開いた。

 

 

 

何度も練習を重ね、お互いを信じることを得たんだ。

 

 

 

失敗を恐れては進めない。

 

 

 

 

 

 

だから私たちは前に出る。

 

 

 

 

 

"新たな自分に出会うために"

 

 

 

 

 

 

 

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金木Side

 

 

 

 

 

雨で濡れていた僕ら

 

 

 

 

 

地面から伝わる雨の音

 

 

 

 

漂う雨の香り

 

 

 

 

雨で水の流れが激しい都会の川近くにて、

僕たちは戦っていた。

 

 

 

 

 

「......わからせます」

 

 

 

僕は彼をヒナミちゃんのところに行かせないよう戦っていた。

 

 

 

 

 

だけど彼と戦い、僕の胸の中に新たな使命が生まれた。

 

 

 

 

 

それは喰種というのは、ただの悪の存在でないことだ。

 

 

 

喰種に対して何も知らなかった僕が得た知識。

 

 

 

 

偏見でも偽りのない真実

 

 

 

その真実を喰種に対して憎しみしかない彼に伝えないといけない。

 

 

 

 

 

ここで僕は、死ぬわけにはいかない。

 

 

 

僕には“大切なもの”があるのだから。

 

 

「っ!!」

 

前に踏み出した僕、真っ先に捜査官に近づいた。

彼は突然動きが早くなったことに驚いた顔になり、すぐ様武器で僕の拳を防いだ。

 

「.....邪魔するなっ!!!」

 

捜査官は振り回した武器の隙を受けるためか、

右足で僕の腹部に蹴りを入れた。

 

「うっ....!」

 

蹴りを食らった僕はさらに攻撃を受けないよう、腹に食らった痛みを抱えながらすぐに下がった。

 

だけど僕はそれで項垂れるような体じゃない。

 

「....効かないな」

 

 

トーカちゃんの蹴りに比べてみれば、断然攻撃が軽い。

喰種が人よりも身体能力が優れていると言われる理由がわかった。

 

(....最初よりも彼の動きがよく見える)

 

何度も彼に近づいてわかった。

彼が振り回す武器の動きが、とても遅く見える。

先ほどのよりも冴えていると自覚できる。

 

(...でも今の僕じゃダメだ)

 

このまま攻撃を避け続けていたら、終わりが見えない。

彼を倒すにはただ一つ、"赫子"しかない。

 

 

 

 

でも僕にはそれを使うことへの恐怖があった。

 

 

 

自分を失いかねない欲求が、僕の胸に潜んでいた。

 

 

それは彼を殺してしまうではないかと。

 

 

 

 

 

 

だけど

 

 

 

 

これしかない

 

 

 

 

彼の攻撃を止める方法は

 

 

 

 

 

僕はマスクのチャックを開き、彼に突っ込むように急接近をした。

 

 

 

 

それは赫子での攻撃ではなく、"捕食"だ。

 

 

 

 

『いただきます』

 

 

 

僕は彼の肩に、勢いよく噛み付いた。

それはまるで肉食動物が獲物の肉を噛み引きちぎるように、

僕は彼の肩を噛み付いた。

 

 

 

 

「なっ....!!?」

 

 

彼は突然自らの肩を噛まれたことに止まってしまい、武器を両手に持ったまま抵抗はしなかった。

そんな彼に僕はすぐさま離れた。

 

(.....)

 

まだ慣れていないはずの人の肉が、人一倍心地よい味がした。

喰種が唯一、口にすることができるものであり、

または飢えた食欲を満たすことができるもの。

僕は食欲と快楽感を同時に得られた。

これが食した時に得られる快楽

 

僕の腰付近から再び現れた赫子は、先ほど出していた赫子がより丈夫で、強さを感じられる。

 

 

 

強さを得ることで自分が暴走をしてししまうではないかと恐れが胸の中で現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"僕は人間を失わない"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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