東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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密かに胸に隠していた思い


それが毒になるとは






Hidden Sword

 

亜門Side

 

 

「誰だ、貴様は」

 

真戸さんのところに向かおうとした時、

ある人物が道を塞いだ。

それはマスクをつけた人物であった。

 

「 .....」

 

その人物は何も答えず、ただ俺を行かせないよう立っていた。

 

俺は警戒し、奴が動き出すのを待った。

一体どういった行動に出るか待つと、ポツポツと雨が降り出した。

それはまるで今の俺の心理を表現しているかのようだった。

 

 

 

 

その瞬間であった。

 

 

 

 

「っ!」

 

突然奴は俺に殴りつけた。

その動きはむやみに突っ込んできたように見えた。

拳で攻撃してきたが、

俺には通用しないと言ってもいいほどの力だった。

 

「邪魔するなっ!!」

 

俺は奴の服を掴み、地面にひれ伏せさせた。

奴は俺の攻撃に何も手を出さずに、攻撃を受けた。

 

(いたずらか...?)

 

稀なのかわからないが、

こんな忙しい時に妨害を受けたことに変に感じた。

あまりにもタイミングが悪すぎる。

 

 

苛立ちし始めたその時、

 

 

(っ!!)

 

その瞬間、邪魔してしたマスクした人物の目が赤く染まった。

 

(“赫眼”....っ!!)

 

その目は喰種の特徴でもある瞳。

奴は人間(ヒト)ではない。

 

(...っ!?)

 

一瞬俺は油断を作ってしまい奴は俺に蹴りを入れられ、

すぐ様、俺から離れた。

その動きは人の速さではないほど早かった。

 

「てっきり人間だと思ったが..........」

 

単なる不良の人間の悪戯だと感じてしまい、

喰種だと頭に浮かばなかったが、

 

 

 

 

 

相手が"喰種"となれば、駆逐するしかない。

 

 

 

 

俺は持っていたアタッシュケースにスイッチを入れる。

そのアタッシュケースはただの物ではない。

 

 

それは喰種を駆逐するための道具“クインケ”が入っている。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

金木Side

 

 

(なんだ...あれは?)

 

突然捜査官(ハト)が出した武器。

"金棒状の武器"で、赤く危ない気配が感じる。

今わかることは、"ただの武器"ではないことだ。

 

(..くるっ!)

 

捜査官(ハト)は僕に近づき、武器を僕に向けた。

 

(...っ!)

 

僕はすぐに姿勢を低くし、

その武器に間一髪に避けたのだが、頰に傷を負ってしまった。

 

(キ....キズ?)

 

普通ならすぐに治るのだが、傷が塞がずに血が流れた。

やはり喰種捜査官(ハト)が持っている武器は、

 

 

 

 

"ただの武器"ではない。

 

 

 

 

(でも僕が止めなければ..........)

 

 

 

 

 

この人を行かせるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

もし行かせてしまえば、ヒナミちゃんが危ない。

 

 

 

 

 

 

そう

 

 

 

 

 

 

"僕しか"できないんだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

プロデューサーSide

 

 

順調に進んでいる秋の定例ライブ。

これは私にとって今後を左右するライブでもありました。

美城常務の改革により、私がプロデュースするシンデレラプロジェクトの存続に影響が出ていた。

なので今回の定期ライブに良い成績がでないといけない。

 

(...今回は"喰種のトラブル"は起きては欲しくないな)

 

でも私がこの定期ライブでもう一つ思っていたことがあった。

それは喰種のことだ。

私がそう感じたのは理由があった。

それは先ほど渋谷さんから出た言葉であった。

 

 

『さっきスタッフの会話から”ハト“とか"喰種"とか口に出たのだけど..どうしたの?』

 

 

それを聞いた私は驚いてしまい、喰種のことは口にはしなかった。

なぜなら今回から喰種対策をすると言うことで、保安上それ以上は言ってはならない。

今の所、喰種と思われる人を発見された情報は耳にしてないが、

私は喰種が発見されたと言う情報は耳にしたくはない。

 

「あの...すみません」

 

すると、現場スタッフが私の元にやって来た。

 

「どうしましたか?」

 

私がそう言うと、そのスタッフは私の耳にある伝えた。

 

 

 

そのスタッフから出た言葉は、

 

 

 

 

衝撃が走る驚くことだった。

 

 

 

 

『......鷺沢さんが倒れた?』

 

 

 

それはいつ起こるかわからなかったトラブルが、この舞台裏で起きてしまった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

志希Side

 

 

「いや〜美嘉ちゃんの歌声いいね〜」

 

「そ、そうですね....」

 

あたしたちは他の子のサポートと言うことで、長椅子に座っている。

あたしは足を伸ばし気分良く鼻歌を歌っていた。

今は美嘉ちゃんがステージに立っている。

美嘉ちゃんが終われば、今度は文香ちゃんとありすちゃんだ。

 

「いつかあたしも自分の持ち歌でも欲しいな〜♪」

 

「持ち歌ですか....」

 

(なんか反応があれだねー?)

 

妙に卯月ちゃんの反応が鈍いような気がした。

あたしは卯月ちゃんに視線を向けると、

どこか緊張しているようで、不安そうな顔つきでいたのだ。

 

(卯月ちゃん緊張しているみたいだね〜)

 

その姿を見たあたしは何もせずにただ見ることはせず、

卯月ちゃんに"ある言葉"をかけることにした。

あたしのいつものの適当なポジティブが働き始めた。

 

「ねぇ、卯月ちゃん」

 

「..はいっ!?」

 

変な力が入っていたせいか驚いて変な声出ちゃったみたい。

相変わらず可愛いな〜♪

 

「ど、どうしましたか?」

 

「えっとね....」

 

伝える言葉があったのだが、わざとあたしは指を顎につけ、考えているような仕草をした。

それを見た卯月ちゃんはどんな言葉が出るのか待っているように見えた。

 

 

 

 

 

あたしが卯月ちゃんに伝える言葉

 

 

 

 

 

それはただ突然に頭に浮かんだことである。

 

 

 

 

 

「今度、カネケンさんとデートしたら?」

 

「えっ!?」

 

卯月ちゃんはあたしの言葉にすごく驚いた。

それは言ったあたしでも驚いちゃうような言葉だからだ。

 

「ど、どうして金木さんとデートを!?」

 

「だって〜あたしより結構会ってるじゃん〜?」

 

あたしはちょっといやらしい目つきで卯月ちゃんの両肩に手を置き、

耳元で『そうでしょ?』と小さな声で言った。

卯月ちゃんがカネケンさんのバイト先に誰よりも多く来ていることを耳にした。

もちろんその情報は卯月ちゃんが言ったのではなくカネケンさんが言ったのだ。

 

「確かにそうですけれどっ!!」

 

「恋せよ乙女ってきな!にゃははっ!」

 

あたしはすぐに卯月ちゃんの肩から手を離し、

にゃははっといつもの笑いをした。

その会話をしたせいか卯月ちゃんの顔は不安そうな顔が消え、

顔は赤く染まって恥ずかしそうな感じになった。

別に先ほどよりは結構いいとあたしは思う。

 

「卯月ちゃんもカネケンさんのこと好きってあたしの前に言ったら〜?」

 

「さ、流石に好きだなんて...」

 

「あたしも好きだよ?」

 

「...え!?」

 

あたしの言葉を耳をした卯月ちゃんは結構すごく驚いた。

とても顔が驚いて、面白かった。

 

「ほ、本当ですかっ!?」

 

「別に恋愛的にどうなの?と言ってないから問題ないよ〜♩」

 

「恋愛的に...?」

 

「うん、別にカネケンさんはお友達的に好きだからね〜♪」

 

「そ、そうなんですか....」

 

どうやら卯月ちゃんはあたしの発言を勘違いしていたらしい。

でも卯月ちゃんの心配は晴れたみたいでよかった。

 

(まぁ、心配していることは"あたしも"そうだけれどね)

 

さっき卯月ちゃんに聞かれちゃったため、自分で口にしちゃダメだと感じ、人前に言わないことにした。

"一部の人"を除いてね。

そんな陽気にしていたあたしと可愛いあたしの妹みたいな卯月ちゃんに、

 

 

 

 

"ある出来事"に出会う。

 

 

 

 

「あれ?どうしたんでしょうか?」

 

すると卯月ちゃんが何か気づいた。

 

「ん?どうしたの?」

 

「さっきからあそこが慌ただしい状況に見えますが...」

 

卯月ちゃんが指した先を見ると、何かスタッフが慌ただしい光景があった。

それはトラブルが起こったような慌ただしさに見える。

 

「何か機械的なトラブルかも?」

 

「そうでしょうか..?」

 

あたしは楽観的な言葉を返したのだけど、卯月ちゃんの顔はどこか納得してなかった。

確かによく見れば機械に問題あったような言動は耳にはしなかった。

とりあえず何かいい言葉が何か考えていると、

タイミングよく"卯月ちゃんのプロデューサー"があたしたちの元にやって来た。

相変わらず仏頂面みたいに表情があまり変わることのない人だけど、

卯月ちゃんから聞いた話だと『良い方です!』と。

とりあえず、卯月ちゃんが言うならあたしはその言葉を信じることにした。

 

「どうしたのですか...?」

 

あたしは別に大したことじゃないと感じ、耳を傾けなかった。

 

 

 

 

しかし、さっき考えていたことが現実に起きるだなんて、

 

 

 

想像はしなかった。

 

 

 

 

 

 

『...鷺沢さんが倒れました』

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

「...っ!!」

 

あたしはそれを聞いた瞬間、目が大きく開き、胸の中に衝撃が走った。

それは最悪なことが本当に起きてしまったことの驚きと焦りが表に現れたのだった。

 

「っ!」

 

「志希さん!」

 

衝動に似た感情ですぐに立ち上がり、廊下に向かった。

その時のアタシは卯月ちゃんの言葉を聞くことなく、

ただ文香ちゃんの元に急いで向かった。

一歩でも早く足を前に出す。

誰よりも早く、文香ちゃんの元に行きたかった。

 

(嘘だ嘘だ嘘だっ!!)

 

 

 

 

 

 

何度も心の中に願うように言った言葉。

 

 

 

 

 

信じたくない事実。

 

 

 

 

 

考えてしまった後悔。

 

 

 

 

 

 

そして、乱れ狂うあたしの胸の中。

 

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

 

文香ちゃんが倒れている姿があたしの目に映った。

それはまるで被害者の親族が事件現場に来た時の心情みたいに恐ろしく感じた。

 

 

「文香ちゃん!!」

 

 

あたしは不安と悲しみ、焦りが混ざった声で名前を呼んだ。

 

 

 

 

 

その時のあたしは感情が乱れていた。

 

 

 

 

それは一瞬にしてパリンっと結晶が散らばった宝石のように儚く割れたように

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

美嘉Side

 

 

歌い終わった、アタシ。

先ほどのアタシの番が終わり、ステージから降りていた。

ファンのみんなのコールや演技、そして終わって得られる達成感を感じられる喜びを、

アタシはこの今、得たのだ。

 

(今度は文香さんとありすちゃんだね〜♩)

 

アタシがそう考えていると、ちょうどよく卯月がアタシの元にやってきてくれた。

 

「お疲れ様です....美嘉さん」

 

「お疲れ様★」

 

気分良く挨拶のしたのだけど、

なぜか卯月は元気なさそうな顔つきをしていた。

どうしたの?と言おうとしたのだけれど、

アタシはもう一つあることに気づいた。

 

「..あれ?」

 

「...どうしました?」

 

「志希はどこに行った?」

 

卯月と一緒にいたはずの志希がいなかった。

周りを見ても、それらしき姿はどこにもなかった。

 

(もしかして、いつもの失踪かな?)

 

あたしはそう思っていると、

とある光景を目を止めてしまった。

 

「...卯月?」

 

「...はい?」

 

「あそこ、どうしたの?」

 

アタシが指を指した先、

それは廊下に続くドアの方であった。

なぜかやけに慌ただしかった。

 

「...えっとですね」

 

卯月が少し言うのをためらい、

数秒後その理由を口にした。

 

 

 

 

 

その内容はアタシにとって、疑いたくなるようなものだった。

 

 

 

 

 

『文香さんが倒れました...』

 

 

 

 

「....えっ?」

 

それを聞いた瞬間、一瞬疑ってしまった。

アタシの次に出るはずなのに、文香さんは倒れていると卯月が言ったのだ。

 

「文香さんが倒れた!?」

 

「はい...それで志希さんがすぐに....」

 

志希がここにいないのは、文香さんの元に間違いなく行った。

 

「ちょっとアタシ文香さんのところに行ってくる!」

 

アタシは卯月にそう伝え、急いで文香さんの元に駆けつける。

次にステージに立つ時間は大分空いているため、

アタシは楽屋には戻らずすぐに文香さんの元に向かった。

成功すると期待していたのに、

どうして倒れてしまったのかわからない。

でもアタシの胸の中に心当たりがあった。

 

あのどこか悲しそうな顔をした理由が、

倒れた理由に結んでいるかもしれない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

文香Side

 

 

「..........」

 

 

一歩踏み出した、私。

目の前には、美嘉さんが立っているステージがあります。

もうそろそろ私たちの出番。

美嘉さんの次はありすちゃんと私の二人のユニットです。

 

 

 

本当ならばこのまま前に進み、ステージに立てばいいのでした。

 

 

 

でも私の体に"異変"がありました。

 

 

 

 

「....っ」

 

 

 

気がつけば周りの音が聞こえない。

 

スピーカーから流れる音、お客さんの声、美嘉さんのマイクの声、

それらが一瞬にして遮断された。

私はありすちゃんを見ましたが、何も異変に気づいておらず、

緊張をしていました。

 

 

 

波のように歪む視界。

 

まっすぐに立っている柱や、床の板、

ステージを照らすライトがとても歪んでいるように見えました。

 

 

 

手先の感覚が麻痺しているかのように動かない。

 

 

まるで鎖で繋がれて動けず、何もないただ青い海に孤独にいるかのように、

私は怖い思いを抱いていた。

 

 

(.......っ)

 

その状態を作っていたのは、私の隠していた思い。

それは原因とは言いたくない出来事。

 

 

(.....金木さん)

 

 

私が胸の中につぶやいた人物の名。

その人は昨日、私がお会いした人。

私にとって大切なお友達です。

 

 

 

彼と共に幸せな日に私は望みたかった、昨日。

 

 

 

心の奥に秘めていた思いを言葉にして伝えたのだけれど、

 

 

 

 

幸せな日とは全くの別の答えが私の耳に入りました。

 

 

 

 

『文香さんは“アイドル”ですから』

 

 

 

 

あの時、金木さんが伝えたお言葉が頭に蘇る。

 

 

私は今すぐその言葉を忘れたかった。

 

 

騒音より、悲鳴よりも聞きたくない言葉。

 

 

それは私がアイドルになったことへの"後悔"を感じられてしまう言葉からでした。

 

 

(......っ.....っ)

 

 

治る気配がしない心臓の拍動の音。

 

 

緊張と後悔で生まれた震えが私を襲う。

 

 

「鷺沢さんっ!!」

 

 

今、何が起きたのかわからない。

 

 

まるで内の心が体から離れられているように一体何があったかわからない。

 

 

頭が床に叩きつけられたような音が、鐘のように私の頭の中に響いた。

私の視線は気がつけば会場の天井に向けていた。

それで私は倒れているのに気が付いた。

 

 

ありすちゃんが私に何度も呼んでいるのに、

声が程遠く聞こえる。

 

 

 

 

それはまるで深い海へと沈んでいくように聞こえなくて、

 

 

 

 

 

とても怖い。

 

 

 

 

 

 

ああ

 

 

 

 

 

 

なんで こうなったんだろう 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

 

「........」

 

私は一人、長椅子に座っていました。

先ほどまで志希さんといたのでしたが、

文香さんが倒れたと耳に入った瞬間、志希さんは急いでこの場から離れて行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何もできなかった、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美嘉さんや志希さんの姿をただ見ていた私。

一瞬にして笑顔が消え去ったお二人の顔を思い出すと、

とにかく辛さと申し訳ない思いが湧きあがります。

何もしてあげられなかった悔しさが私の胸に大きく占めているようでした。

 

 

 

 

 

 

 

私は服をぎゅっと握りしめました。

 

 

 

 

 

 

 

二人ともに何もしてあげられなかったことへの悔しさでした。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

金木Sdie

 

 

夜の雨の川沿い。

僕は捜査官(ハト)と戦っていた。

ヒナミちゃんの元へと行かせないよう、攻撃をするのだが...

 

(....強いッ!)

 

赫子(かぐね)を使用しても、僕は苦戦していた。

おそらくこの捜査官(ハト)は僕よりも多く喰種と戦っていて、歯が立たなかった。

 

「ぐはっ....!」

 

僕は避けようとしたが、疲れてしまったせいかそのまま攻撃を受けてしまった。

吹き飛ばされた僕は雨で濡れた地面に叩きつけられるように倒れた。

その濡れた地面はとても冷たく感じた。

それは心の奥底から感じられるほど冷たいものだった。

その後、僕に攻撃が来るのだと思ったが、

なぜか捜査官は僕に攻撃しなかった。

 

 

「.....貴様に聞いてみたかった」

 

 

すると捜査官は攻撃を止め、僕に何かを問いただすように話しかけた。

 

「なぜ罪のない人を平気で殺め、己の欲望で喰らう」

 

「貴様らはなぜ存在している?」

 

彼の顔は先ほどのごわついた硬い顔よりも、憎しみと悲しさが混じった顔であった。

なぜ彼が僕にそのようなことを話し始めたのかわからなかった。

 

 

 

 

でもその理由が後からわかるんだ

 

 

 

 

「貴様らの手で親を失った子も大勢いる、残された者の気持ち...悲しみ...孤独...空虚..」

 

「貴様考えたことはあるか?」

 

彼の声は震えていた。

悔しさと憎しみ込められたような力のこもった声であった。

 

「...私の仲間はほんの数日前に貴様らの仲間の"ラビット"に殺されてしまった...」

 

「..彼はなぜ殺された...?」

 

「....捜査官だから?人間だから?...ふざけるな...っ!!」

 

彼はそう言うと涙を流した。

それは雨と共に流れた悔しさのこもった涙。

まるでこの強く降る雨が彼の心を表しているように思えた。

 

(......)

 

僕はそんな彼のことを何も言えなかった。

それは怪我で何も言えないのではなく、

あまりにも正しいだからだ。

僕は今の立場では"喰種"。

人から見ればただの人殺ししか見えないと思う。

 

 

 

でもそんな正しいこと言っていた彼の言葉は、

 

 

 

 

 

次の言葉で僕のイメージが変わってしまった。

 

 

 

 

 

彼は歯を食いしばり、僕にこう言ったんだ。

 

 

 

 

「この世界は間違ってる....」

 

 

 

『歪めているのは、貴様(喰種)らだ!!』

 

 

 

 

僕はその捜査官の言葉に、正しいとは感じられなかった。

喰種だって優しい人や、悪い人だっている。

だから全ての喰種が殺される理由なんてない。

 

 

 

(...あ..)

 

 

 

 

僕は気が付いてしまった。

 

 

 

 

人の良さと悪さ、喰種の良さと悪さ。

 

 

 

 

 

 

それを伝えられるのは、

 

 

 

 

 

 

"僕だけだ"

 

 

 

 

 

それは人であり、喰種である僕だけしか伝えられない。

 

 

 

 

 

そう胸につぶやいた時、締め付けられるように苦しく感じられた。

 

 

「....確かに多くの喰種(グール)は間違ってます....ラビットと言う喰種もその一人だと思います....」

 

僕は目の前で見てきた。

人が無残に殺される場面、

喰種が殺される場面もこの目で見てきた。

でも僕はそれだけを見たのではない。

喰種も人のように優しさや暖かさを持っている。

 

「そんなの正しいとは、僕は思えない」

 

僕はなんとか立ち上がろうと、怪我を負った足に力を入れる。

体中に滲みでる痛みが、僕を立つことを拒ませるが、僕には感じない。

何せ僕に今、"役割"ができたのだから。

 

「....何を言っているか分からん」

 

捜査官(ハト)は僕の言葉を全く理解をしようとはしなかった。

彼が今わからないのは、当然だ。

"こちら"の身になったことがないからだ。

 

「そうですか....」

 

 

 

 

 

僕が伝えなきゃ....

 

 

 

 

 

「だったら...."わからせます"」

 

 

 

 

 

これは僕しかできないんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

"人間"(ヒト)"喰種"(グール)の狭間にいる僕しかわからない、"見えなかった世界"を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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