東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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二つの場


一つは輝ける舞台



二つは生死の舞台






Disappearance

凛Side

 

 

あっという間に過ぎていった時間

 

別に心の底から楽しみと言うわけでもないのに、

1週間前に金木がバイトしている所に訪れたことがまるで昨日のような出来事に思えた。

 

「どうしたの凛?」

 

ふと気がつけば隣に加蓮が座っていた。

 

「あ、加蓮」

 

「なんだかどこか寂しそうな顔つきに見えたけど...?」

 

「ちょっと緊張してたね...」

 

私はそう嘘をついた。

実際は何か覚束ない感情を抱いているのだからなんて言い表せばいいのかわからなかったから。

 

「そうなんだ....私ちょっと楽屋に出るよ」

 

「出る?」

 

「なんだかここにいるのが落ち着かなくて....凛が言っていた緊張かも」

 

「わかった、いってらっしゃい」

 

「行ってくるよ」

 

そう言うと加蓮は楽屋に出ていった。

 

(なんか考えちゃうな....)

 

先ほどの加蓮との会話があまりにもぎこちなく感じてしまった、私。

まだ迷っているかもしれない。

金木と話したことがまるで...

 

 

(...ん?)

 

 

そんな私に"ある人物"に目がついた。

 

 

(....確かあの人って)

 

迷いに似た感情を持っていた私がある人に目を向けた。

偶然に視線を向けたのは、同じプロジェクトクローネに参加しているアイドル"鷺沢文香"。

金木の口から出た名前で、金木とは同じ大学に通う人らしい。

 

(....話しかけてみようかな)

 

緊張で落ち着きが治らない私に、よくわからない探究心と言うものが私の胸にこっそりと生まれていた。

私はその文香に声をかけることにした。

 

「....あの」

 

「....はい?」

 

文香は私が声をかけると振り向き、こちらの目を見つめた。

髪で隠れた瞳は青くて綺麗で、

どこか私と似ているように感じた。

 

「......えっと」

 

文香に声をかけたのはいいのだけど、

私は何か話そうかは全く考えてはいなかった。

数十秒の空白の時間を作ってしまい、周りが静かに感じてしまった。

そんな時、文香は口を開いた。

 

「....渋谷さんですよね?」

 

「えっ?あ、そ、そうだね...」

 

あちらから声をかけられたことに私は驚いてしまった。

 

「...金木さんから凛さんのことを耳にしております」

 

「金木から...?」

 

「ええ、いい人だと金木さんは私に伝えてくださいました」

 

文香は純粋といってもいいほどの笑顔で私に伝えた。

 

(変なこと伝えてないよね...?)

 

仮にそうだったら、今すぐ殴りに行きたい。

 

「....そういえば、金木さんは今回のライブに来られないそうです」

 

「えっ、来ない?」

 

「美嘉さんから体調が悪いと耳にしました」

 

「そうなんだ...」

 

今初めて知った。

 

よく考えてみればあいつ(金木)はいろんな人と関わりすぎだ。

一体どんな"運命"をもってるのやら。

 

「....そうなんだ」

 

前回も今回もあいつは来なかった。

私の新たな姿を生で見てもらえない残念さと、

いらいらが生まれた。

理由は事故の影響はあるかもしれないけど、

せめて今回は足を運んで欲しかった。

 

「....金木さん」

 

するとなぜか文香はあいつの名前を口した瞬間、

どこか悲しそうな顔つきになった。

 

「え?」

 

「...あ、い、いや...なんでもありません」

 

文香ははっと気づいた様子でそう言うと席を外し、

楽屋から出て行ってしまった。

妙に行動がおかしく感じた。

髪で隠れた瞳はどこか悲しそうだった。

まるで“あいつ”のような顔つきが私の頭に映った。

 

(....どうしたんだろう?)

 

私の予想だけど金木が来なかったことに悲しくなったかもしれない。

でもこれは私の予想。

“別の理由”があるのだと思う。

 

(....なんだか落ち着かないな)

 

誰もいない楽屋にいた私は少し気分を和らげるために廊下に出ることにした。

自分で言うのはあれだけど、

楽屋に止まるのがなんだか嫌に感じたらしい。

私は机から立ち上がり、楽屋に出た。

 

(....全然落ち着けるような感じじゃないね...)

 

廊下ではライブが始まったおかげで慌ただしい状況だった。

 

(これじゃあ気分転換にならないな....)

 

私はため息をつき、楽屋に戻ろうとした。

 

 

 

 

その時であった。

 

 

 

 

「会場に“ハト”が紛れてるらしいな」

 

「ああ、そうだな」

 

(...ハト?)

 

慌ただしい空気の中、スタッフの会話から耳にした単語。

それを聞いた私の胸にふと疑問が生まれた。

流石に動物が今回のライブで使うわけない。

何か意味する言葉だろう?

 

「こんなところで"喰種"が潜むだなんて考えられるか?」

 

「さぁな、何も知らないアホな喰種はくるだろうな」

 

(え?....“グール”?)

 

それを聞いた瞬間、さらに疑問を生んだ。

なぜ喰種の話題が“ライブ”(ここ)で話されてるのか。

私はそのスタッフの会話が普通のことではなく、

不愉快に感じ始めた。

どうしてここで話されてるのかわからない。

 

「どうしましたか、渋谷さん?」

 

すると誰かが私の名前を呼んだ。

振り向くと、その人は

 

「あ、プロデューサー」

 

プロデューサーとバッタリと会ったのだ。

 

「ちょっと気分転換にここにいて」

 

「そうですか....」

 

やはりプロデューサーもどこか不安そうに見えた。

前までは感情を顔に表すことはなかったけど、

今は前よりは表すことが多くなった。

 

(....聞いてみようかな?)

 

私はさっきスタッフ同士の会話から出た話題をプロデューサーに伝えることにした。

 

「さっきスタッフの会話から”ハト“とか"喰種"とか口に出たのだけど..どうしたの?」

 

「えっ?」

 

するとプロデューサーは私の言葉に驚いたのだ

まるで思っていなかった言葉を伝えられて、

驚いたような様子であった。

 

「それは....おそらくセキュリティのことだと思います」

 

「セキュリティ?別に喰種にそんなことするの?」

 

「いや....それに関してはあまり詳しくはわかりません」

 

そういうとプロデューサは首に手を置き、目をそらした。

 

「わからない?」

 

「はい。おそらく情報」

 

「プロデューサーさん!こちらに来てください!」

 

プロデューサーが話している途中、

会場スタッフがプロデューサーを呼んだ。

 

「すみません渋谷さん。話の途中ですが、行きます」

 

「う、うん..いいよ....」

 

私はそう答えるとプロデューサーはここから去ってしまった。

気のせいかわからないけど、文香もプロデューサーも何か隠しているように見えた。

その後私は他のところを回ることなく、楽屋に戻ってしまった。

気分転換に出たつもりが、結局できなかった。

 

 

 

 

 

 

その時に私は楽屋に出て得たものは、"疑問"だった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

卯月Side

 

 

「始まっちゃいますね.....」

 

「うんっ、始まるね〜」

 

私は志希さんと一緒に他のスタッフさんが邪魔にならないように通路から離れた長椅子に座ってました。

未央ちゃんは『美嘉姉に会いに行ってくる』といい、私たちの元から去ってしまいました。

先ほどから舞台裏では慌ただしくなり、もうそろそろ始まる感じになっていきました。

 

(凛ちゃんやシンデレラプロジェクトの皆さんが問題なく行えたらいいのですが....)

 

今回は凛ちゃんはプロジェクトクローネのトライアドプリムスに参加していて、

私と未央ちゃんとは一緒にステージには立ちません。

 

「卯月ちゃんは凛ちゃんのことが心配?」

 

「え?」

 

突然志希さんの質問に私は一瞬、茫然してしまいました。

 

「ど、どうしてその質問を?」

 

「だって、同じユニットで今回は別々じゃん?」

 

「た、確かに心配です...」

 

今回はニュージェネレーションズはライブには立たず、凛ちゃんが別ユニットに所属してでのライブですので、

未央ちゃんと私はステージの裏にいます。

特に凛ちゃんは新しい世界にいるので、もしかするとどこか不安を抱えているかもしれません。

 

「あたしも"同じ"だよ」

 

「同じ?」

 

「"大切なお友達"がステージに立つからね」

 

志希さんはそう言うと、にゃははっと笑いました。

でもその笑いとは裏腹に志希さんの顔はどこか心配そうな雰囲気がありました。

 

「志希さんの大切なお友達とは誰でしょうか?」

 

「美嘉ちゃんと文香ちゃんだよ」

 

「そうなんですかっ!確かにお二人はステージに立ちますよね」

 

美嘉さんの口から聞いてたのありませんでしたので、

美嘉さんとは仲がいいとは初めて知りました。

文香さんは金木さんから聞いていますが、直接会ったことはありません。

でも金木さんからは『とても優しい人だよ』と聞きました。

 

「うんっ、二人とはサマーフェスで仲良くなったよ♪」

 

志希さんはそう言うと、にゃははっと笑いました。

ふと思い出すとサマーフェスに志希さんと文香さんの姿を見たような気がします。

 

 

 

でもそんな志希さんの陽気な雰囲気が、少し鈍るようなことがありました。

 

 

「...特に文香ちゃんは心配だよ」

 

「えっ?どうしてですか?」

 

「美嘉ちゃんほどステージには慣れてないし、....そう思うとなんだか不安に感じるよ...」

 

志希さんらしくない不安な顔つきになっていました。

私はその姿に驚いてしまいました。

確かに文香さんは今回のライブでは初めての大舞台に立つと金木さんの耳にしました。

私も初めてステージに立つ前は、とても緊張をしてました。

失敗するではないかと言う恐れと、うまくいけるかの不安が胸にありました。

そのことを心配する志希さんはどこか不安そうな目でした。

 

「...大丈夫ですよ!」

 

「...ん?」

 

「私も凛ちゃんのことが心配ですが、成功できると信じてます!」

 

 

 

 

信じることが大切。

 

 

 

 

同じ仲間が辛い状況に立たされても、お互いの心は繋がっている。

 

 

 

 

未央ちゃんも凛ちゃんのことが成功すると言ってました。

 

 

 

 

「.....ふふっ」

 

「...?」

 

すると志希さんは少しずつ笑顔になり、

 

 

「ありがとう卯月ちゃん〜!!!!」

 

「う"っ!?」

 

思いっきり私を抱きしめました。

当たりの強いもので、私の頭をなでなでと撫でました。

 

「いや〜あたしの妹みたいでかわいい〜」

 

「え、え?妹ですか!?」

 

私は志希さんの言葉に困惑してしまいました。

やはり志希さんはまだよくわからない人です。

 

 

 

そういえば今日の東京は一時的に“雨”が降ると聞きました。

 

 

 

ステージは室内ですが、その雨が"残念な雨"にならないよう、

 

 

私は皆さんが成功することに祈っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは表だけではなく、裏側の人も伝わるだなんて

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

未央Side

 

 

私はしまむー(卯月)しきにゃん(志希)と別れ、ある人の元に来た。

 

(あれ...?美嘉姉はどこだろう?)

 

私が会おうとしたのは"美嘉姉"だ。

今回は私はステージに立たないため応援に来たんだけど、

美嘉姉の姿が見当たらない。

私はしばらく周りを見渡していると、

 

「何してるの〜?未央?」

 

美嘉姉が私の後ろから肩をポンと叩き、声をかけて来た。

 

「あ、美嘉姉!」

 

私はそれに驚いてしまい、美嘉姉はその私の姿にえへへっと笑った。

 

「どうしたの?未央?」

 

「応援しに来たんだっ!」

 

「応援?ちょうどいいタイミングにに来てありががとう★ちょうど気分転換に誰かと話ししたかったんだよね♪」

 

ちょうどいいタイミングと聞いた私は、来てよかったと心の中が嬉しく感じた。

 

「今日のライブはどう?」

 

「アタシは今回もうまくいけると信じてるよ」

 

美嘉姉も今回のライブに出る。

私はステージには立てないけど、みんなに何か応援することや助けれることをする。

私にも役割があるのだから。

 

 

 

 

 

 

そんな自信を持っていた美嘉姉だったのだけど、

 

 

 

 

 

 

"あること"を私に話した時、

 

 

 

 

 

 

 

美嘉姉の様子が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「でも....少し"心配なこと"あるんだよね....」

 

「え?”心配なこと”?」

 

私は美嘉姉からそんな言葉が出たことに少し驚いた、

美嘉姉が心配するようなことがあるなんて、

それはなんだろう?

 

「心配なことって?」

 

「それは....文香さんなんだよね..」

 

「文香さん?もしかしてしぶりんと同じく所属しているプロジェクトクローネの人?」

 

「うん、そうだよ。アタシとはいい友達なんだけど....」

 

確か大学生で、本を読むのが好きな人だ。

話したことないけど、優しい人だと耳にしている。

 

「どうして心配なの?」

 

「......それはアタシが文香さんに金木さんはライブに来ないことを伝えた時に感じたんだよね...」

 

 

 

美嘉姉によると、会場に入って文香さんに会った時だった。

金木さんが来ないと伝えたところ、文香さんの行動が変に感じたのだと。

それは視線も向けず、寂しそうな目をしていた。

 

 

 

その文香さんのことを私に話していた美嘉姉の顔はどこか不安で心配な顔つきだった。

 

「アタシが伝えた時、どこか"悲しそう"だったんだよね」

 

「"悲しそう"?」

 

「うん....なんだろ....何かを失って悲しんでいるように見えたんだよね」

 

 

 

それはおそらくステージに立つことの不安ではなく、何か"他の理由"があるかもしれない。

文香さんの身に一体何があったんだろう...?

私はそう考え出した瞬間、美嘉姉は私の肩をポンっと叩き、

 

「まぁ、そんな心配ごとあまり考えちゃダメだし、今日のライブは楽しんでいかなきゃ」

 

そう言った美嘉姉の顔は先ほどの不安そうな顔ではなく、自信にありふれた顔に戻っていた。

 

 

 

確かに私も不安なことはある。

 

しぶりんが今回のライブで成功するか心の奥底で心配している。

 

 

 

でも美嘉姉の言葉の通りに心配ごとではなくて、ポジティブに行かなきゃダメ。

 

 

 

 

 

それが"信じること"だと、私は自分に聞かせるよう胸につぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

金木Side

 

 

(どこ行ったんだろう...?)

 

 

僕は先ほどまでトーカちゃんとヒナミちゃんを探しに、町中に探し回った。

思いたある場所に行ったが、ヒナミちゃんの姿はなかった。

その後僕とトーカちゃんはそれぞれ別の場所に探すことになり、今に至る。

 

 

空は暗い雲に包まれ、秋の終わり頃と言うせいか暗くなり始めた。

暗くなるに連れて不気味な風の音が耳に入る。

僕の胸に中に"想像はしたくはないこと"が徐々に浮かび上がる。

まるで風が僕を不安に落としいれようとしているみたいだ。

 

(ヒナミちゃん.....どこなんだ....)

 

 

 

 

そんな焦りつつある僕に、"ある人物"を見つけた。

 

「ラビットですね!?」

 

それは橋の下にいた男性であった。

 

(...あれはっ!)

 

その男性は見知らぬ人物ではなく、見覚えのある人物であった。

それはヒナミちゃんのお母さんリョーコさんが殺された現場にいた捜査官(ハト)だった。

もしかするとヒナミちゃんの元に行くつもりだ。

 

 

 

(.......)

 

 

 

 

 

 

 

僕はふとあることを思い出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

それはリョーコさんが殺された時であった。

 

 

 

 

 

 

 

あの時の僕は何もできず、ただ見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この今も僕はただ見て過ごすだけでいいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの時の悲劇をもう一度起こさせてしまうのか?

 

 

 

 

 

 

いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことはさせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、嫌なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(...っ!)

 

僕は覚悟を決め、持っていたマスクをつけた。

歯がむき出したような口元、赫眼(かくがん)を表すため反対の目を隠す眼帯のマスクだ。

 

 

「っ!!」

 

 

僕はその捜査官(ハト)に道を塞ぐように前に現れた。

捜査官(ハト)は僕が現れた瞬間、足を止めた。

 

 

「.....誰だ貴様?」

 

 

 

僕は胸にこうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう、あの時と同じ思いをしたくはない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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