東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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その時に偶然出会った人が、またどこかで出会う―――






会再

 

 

 

 

 

4月24日 土曜日 朝

 

 

 

目覚ましの騒がしい音が耳に響く。

即座にアラームを止め、早々にベットから起き上がった。

カーテンの隙間から朝の日が入って来ているが、部屋はしん、としていた。

もうぼくは"あの家"にいるのではなく、一人暮らしだ。

物静かで寂しいけど、あの張り詰めた空気がないことがよかった。

この後朝食を食べ、行く支度をし、

いつもならこのまま大学に行くのだが、今日は違った。

 

しんとしている部屋に携帯の着信音がなった。

 

(....?)

 

こんな朝にもかかわらず、携帯が鳴った。

どうせヒデからの返事だろうと思い、携帯を開くと、

 

 

『おはようございます。カネキさん。島村卯月です』

 

 

「!?」

 

ぼくはその返事を見て驚いた。

まさかの卯月ちゃんからの返事だ。

あちらから来るのは全く予想はしてなかった。

 

(ほ、本当に来た....)

 

あまりにも驚いてしまい、なんて返せばいいのかわからなかった。

 

(とりあえず...あいさつを)

 

驚きの次に緊張がして、手が震える。

震える手でゆっくりと文字を打っていく。

ヒデ以外こうやって話すのは初めてだから。

 

『おはよう。卯月ちゃん』

 

一生懸命に動かしたが、返事は普通だ。

こう言う返事ならヒデであったらすぐに返すが、今回は卯月ちゃんだ。

本当にこの返事でいいのかとためらい、何分か思い悩んだ末送信した。

一先ずほっとしたが、

 

(次はどういった返事を....)

 

おそらく再び来る。

口ならまだいいのだが...

そう思った瞬間、返事がすぐ来た。

すぐさま携帯の画面を見ると、

 

 

『今日は私の誕生日です!カネキさんも祝ってください!』

 

 

(そ、そうなんだ....)

 

携帯のカレンダーを見ると、今日は4月24日の土曜日だ。

 

『誕生日おめでとう。卯月ちゃん』

 

(やっと送れた...)

 

緊張していたせいか、疲れが少し感じた。

こんな朝にも関わらず早速疲れた。

 

(まぁ...."あの家"にいたよりはいいかな...?)

 

恋愛はしたことないが、まるで恋人にメールを送るような緊張感であった。

一息つくと、再び携帯が鳴る。

 

 

『ありがとうございます。実は、凛ちゃんはアイドルになることになりました!』

 

 

(....よかった)

 

その返事を見てなんだかホッとした。

あの時に迷っていた凛さんが、最終的にアイドルになることを決めた。

ぼくはそのことを聞いて安心した。

 

『そうなんだ。それはよかったね』

 

そう返事を出して、数十秒後....

 

 

『今日も頑張っていましょう!』

 

 

実に卯月ちゃんのらしい返事だ。

その返事になんだか先ほどの疲れがなくなった気がする。

 

 

(さてと作らなきゃ...)

 

卯月ちゃんとやりとりしていたため、

まだ朝食は作っていなかった。

今日は大学の講義があるため、早く食べて行かないと時間が足りなくなる。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

土曜日の朝の大学。

 

 

平日よりも人波は少なく、歩きやすい。

本来なら一人で登校し、そのまま講義をする教室に行くのだが....

 

「おはようございます....金木さん」

 

誰かが僕に挨拶をしてくれた。

聞いたことのある声だ。

 

「あ、文香さん」

 

この前に古書店で出会った文香さん。

髪が目を少し隠し、暗い印象があるが、よく見れば美しい方だ。

 

「今日は....同じ講義でやりますよね....?」

 

「そうですね。そのまま行きます」

 

「じゃあ....一緒に行きましょう」

 

ぼくの横に近づき、共に歩く。

また緊張する。

 

「文香さんは他の人と話さないですか?」

 

「そうですね.....最近話したのは叔父ぐらいしか...」

 

「そうなんですか....」

 

文香さんの出身は長野県。

彼女は東京の大学に進学するため、叔父さんの家に住んでいる。

その叔父さんが経営していたのは、出会うきっかけになった古書店であった。

そこでバイトをしていたところ、ぼくと出会い、今に至っている。

 

「今の所....金木さんが初めてです」

 

「ぼくが初めてですか....」

 

なんだか少し恥ずかしい。

でもそれと同時に嬉しい感じがあった。

 

「金木さんは....普段話す方はいるのでしょうか?」

 

「はい、一人ぐらいしか....」

 

それはもちろんヒデだ。

....."今の所"は。

 

「そうですか.....でも、今お互いに新しく"お話ができる方"ができましたね」

 

文香さんはそう言い、少し笑った。

 

「....確かにお互いできましたね」

 

つまり今ここにいる"僕ら"だ。

 

「では....教室に入ってきましょう」

 

ぼくたちは今日講義する教室に入って行く。

今日はいつもとは違う日常がよく味わえているような気がする。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「え...?アイドルの名前を覚えろ?」

 

「そうだ!どうせカネキは卯月ちゃんの連絡をもらったから、覚えないとな」

 

午前の講義が終わった後、ヒデに話していた。

 

「なんか悪いか?どうせ卯月ちゃんと凛ちゃんが関わる人はまずアイドルだと思うから、もしお前が話題を出すとき使えばいいだろ?」

 

「い、いや.....」

 

確かに覚えないとけないかもしれないが、僕は別にアイドルが好きとは言えないのに覚えるのはどうかとためらっている。

 

「まずは伝説のシンデレラガールズのメンバーを知らないと」

 

ヒデはそう言い、カバンから雑誌を取り出し、僕に渡す。

 

「し、"シンデレラガールズ"...?」

 

全く聞きなれないアイドルグループの名が僕の耳に入る。

 

「まず知るべきアイドルは"シンデレラガールズ"。346プロのアイドルを知るならまずはこれだ」

 

一体なんだろう?と雑誌を見る。

 

「特にこの子はおすすめだ」

 

ヒデが指をさした人物は"城ヶ崎美嘉"(じょうがさき みか)と書かれた記事。

ピンクの髪が特徴で、"カリスマJKモデル"と書かれている。

 

(.........)

 

ぼくはその記事を見て、妙に苦手意識みたいな気持ちが出て来る。

というか無理なタイプだ。

 

「どうした?カネキ?」

 

「僕ちょっと....城ヶ崎さんは合わないかも...」

 

ヒデは「どうして!?」と僕に問いかける。

 

理由は"見た目"だ。

彼女は派手でセクシーなファッションをしており、

まさに社交的な女子高校生が好きっぽい。

別に関わるのは問題ないとおもうが、

話しかけるのを避けたくなる。

 

「別に彼女はかわいいと思うよ?でも....なんだか好きになれない」

 

彼女に申し訳ないが、ぼくは好きになれない。

 

「そっか...別に悪くねぇけどな」とヒデは残念そうに呟く。

 

なんだか申し訳ない気持ちが湧き上がる。

 

「あ、そういえば。名前は聞いたか?」

 

「名前?」

 

「この前俺がみた"可愛い子"」

 

その"可愛い子"と言う単語を聞いて思い出した。

今朝、出会って一緒に講義に参加した人。

 

「名前は...鷺沢文香さん」

 

「へー文香ちゃんか」

 

ヒデは何かもっと言いたそうな様子であった。

 

「どうやって知った?」

 

「えっと....古書店で出会って....そこで名前を聞いたよ」

 

さすがにその古書店の名前は出さなかった。

もし言えば、きっとヒデはそこに立ち寄る。

 

「そっか....確かにいつも文香ちゃんは本読んでいるもんな」

 

よく考えてみれば、いつも本を読んでいる姿をよく見かける。

 

「......もしかしたら、アイドルに向いてんじゃないか?」

 

「え?」

 

ぼくはヒデの言葉に一瞬止まった。

 

「あんな可愛かったらアイドル目指したらいいだろ」

 

「そ、そうかな...?」

 

確かに美しくて、アイドルに向いていそう。

でも彼女がアイドルになると言うだろうか?

ぼくは疑問に感じてしまう。

 

「まぁとりあえず、明日までにシンデレラガールズのメンバーの名前とプロフィールを覚えてこいよ」

 

ぼくは「わかったよ」と返した。

おそらく誕生日だけではなく、身長やスリーサイズ、出身地、血液型など聞くと思う.....

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ヒデと別れた後、

ぼくは再び13区に訪れていた。

最近行くことが多いような気がする。

 

(いい本ないかな.....?)

 

そう思い歩いていると、"何か"が接近して来る。

 

(ん?)

 

視点を向けた瞬間、何かにぶつかった。

 

「っ!」

 

ぶつかった衝撃で、後ろに倒れた。

その同時に紙が空に散らばる。

 

それは自らぶつかったのではなく、"何か”がぼくにぶつかって来た。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ぶつかる1分前。

 

 

(やばいやばいっ!!)

 

わたしはとにかく走って行く。

おそらく私は人生で大きな過ちをしていると思う。

時間を見れば、オーディションの時間まで残りわずかだ。

昨日弟とゲームした結果、寝坊をしてしまった。

 

(なんてことをしてしまったんだ...わたし...)

 

今更後悔しても、もう遅い。

とにかく早く走らないと遅れる。

風よりも早く。

 

(神様お願いっ!今日だけ間に合うようにっ!)

 

焦りのせいか、周りを見ていなかった。

それが悪かった。

 

「っ!」

 

突然何かにぶつかった。

それは柱のように硬い何かではなく、人だ。

ぶつかった後、私は後ろに倒れた。

 

「い、痛ったあ.....」

 

目を向けると、"男性"も私と同じく倒れていた。

間違いなく私がやってしまった。

 

「す、すみませんっ!」

 

わたしはすぐに立ち上がり、その当たった男性に頭を下げ、謝る。

 

「い、いいよ....大丈夫かな?」

 

男性はそう言い、自分で立ち上がる。

 

(....あっ!)

 

気がつくとぶつかった衝撃でカバンの中にあった書類が散らばっていた。

 

(まずい...散らばっている...!)

 

度重なるトラブルにさらに焦りが来る。

もう最悪。

 

あーなんでこうなるの...」と小さく呟いていると、

「手伝いますよ」と男性は拾うのを手伝ってくれた。

プロフィールが書かれた紙は広く散らばり、一人で集めるのは精一杯であった範囲を短時間で終わらせた。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

書類をカバンに入れ、再び頭を下げて急いで会場までダッシュをする。

とりあえずあの男性には感謝をしたつもり―――

 

(遅れる遅れるっ!)

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(結局いいものなかったな....)

 

本屋さんに行ったが、気に入った本は見つからず、

ぼくは帰っていた。

高槻作品ならすぐ買うが、残念ながら最新作はまだであった。

 

(そういえば、今日ぼくにぶつかった子はどうなったかな...?)

 

今日ぶつかった子の特徴は、ショートカットでハキハキしていそうな子だ。

ぶつかった衝撃で書類が地面に散らばり、ぼくは拾うのを手伝った。

うろ覚えだけど、"どこかのオーディション”に出すような紙だった。

 

(....あれ?なんでこんなに人が少ないんだろう?)

 

今日は土曜日なのだが、人が少ない。

普通ならこんな時間帯であれば多くの人がいるはずなのだが....

妙に人影がないような気がする。

 

(......ん?)

 

そんな人があまりいないホームで"ある人"に目をつけた。

"どこかで見たことのある人物"のような気がした。

 

(.....もしかして)

 

話しかけてみようと思ったが、もし間違ってしまったらとても恥ずかしい。

ぼくは声をかけようか躊躇う。

 

そんな状態の中、彼女に異変が―――

 

(......!)

 

彼女が少しふらついついている。

妙に意識が薄いような感じだ。

ふらつきが前に行く。

 

(まずい...!)

 

このままじゃホームに落ちる。

ぼくは咄嗟に体を動かし、彼女の肩を掴む。

 

「...っ!」

 

気がついたようだ。

彼女はぼくの方に顔を向ける。

 

「あ....えっと...」

 

なんて言おうか迷った。

 

「だ、大丈夫...?」

 

「あ、ありがとう...」

 

ぼくは彼女の肩から手を離し、少し離れた瞬間、

偶然に強い風が来る。

 

(......!)

 

彼女が被っていた帽子が取れた瞬間、髪がすっと出てくる。

ピンクの髪で滑らかだ。

ぼくは彼女は一体誰なのかわかった。

今日ぼくが好きではないと言ってしまったアイドル。

 

「城ヶ崎....美嘉...さん?」

 

彼女は"城ヶ崎美嘉"(じょうがさき みか)だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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