東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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監禁


自分を責める

責めれば責めるほど自分の殻に閉ざしてしまう

それはまるで檻にいるかのように





Confinement

 

金木Side

 

 

 

 

あの時の僕は、何も出来なかった。

 

 

 

 

目の前で愛する人を見殺しにしてしまった。

 

 

 

 

 

あの悲劇を止めることができなかった。

 

 

 

 

 

 

僕は

 

 

 

 

僕は

 

 

 

 

 

 

"何もできなかった"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....?」

 

僕は重いまぶたを開くと、携帯の音がなっていることに気がついた。

 

(....メール?)

 

その音は着信の音なのだが、

まるで目覚ましに音に聞こえた。

 

(...朝か)

 

窓に視線を向けると、

暗闇だった空がきれいな青空へと変わっていた。

どうやら僕は寝落ちしたようだった。

 

(誰かな...?)

 

携帯を開き、そのメールに目を通すと、それは"ある人物"からのメールであった。

 

 

 

 

 

 

(....志希ちゃん?)

 

 

 

 

 

それは"志希ちゃん"からのメールであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(ここが志希ちゃんのアパート...?)

 

僕は志希ちゃんから送られた地図を頼りに、

志希ちゃんが住んでいるとされるアパートに着いた。

なんかアパート言うより、マンションと言ってもいいぐらいに妙に大きく感じた。

僕は彼女が住んでいると思われるアパートの部屋まで足を運んだ。

踏み出すたび鳴り響く僕の足跡が、妙に気味が悪く聞こえた。

それは"昨日の悲劇"の影響かもしれない。

心がまだ安定していない。

 

(あ、ここかな..?)

 

メールに書かれていた部屋の番号に着いた、僕。

メールでは鍵はかかってないらしい。

 

(あ、確かに開いてる...)

 

メールの通り、ドアが開いていた。

さすがに昨日の夜からドアを開けてはないだろうと少し心配であった。

その同時に実際はもう既に起きているではないかと疑う。

 

(....あそこかな?)

 

ドアを開けると、まっすぐの廊下が僕の目の前に映る。

多分、このまま真っ直ぐに向かえば志希ちゃんが眠っているだろう。

 

(右のドアは...トイレかな?)

 

右にもドアがあるがアパートの外観を見れば、おそらくそこに志希ちゃんは眠ってないはず。

 

(それにしても....志希ちゃんは一体何したがってるだろう?)

 

彼女が家に呼ぶとすれば、きっと何か企んでるに違いない。

志希ちゃんならやりそう

 

 

 

いや、彼女なら絶対やる。

 

 

 

(まぁ...さっさと起こして大学に行かないと...)

 

今日は普通の平日であり、今の時間帯はもうそろそろ授業が始まってしまう。

というか高校だったらもう既に授業が始まっている。

志希ちゃんもさっさと起こさないとまずい。

 

「志希ちゃ.....」

 

ドアを開け声をかけた瞬間、僕は言葉を止めてしまった。

 

「....っ!!」

 

あることに異変に気づいた。

それは鼻に入った空気だ。

その空気を吸った僕に、

 

 

 

"吐き気"が襲いかかったのだ。

 

 

 

(.....!!)

 

僕は必死に口を抑え、部屋から出た。

先ほどトイレがあると思われるドアを開いた。

そのドアを開くと予想通りにトイレがあった。

 

「おえぇぇっ!!!!」

 

僕はトイレに向かい、腹にあった嘔吐物を吐き出した。

とてつもなく気持ち悪さが僕を襲った。

それは匂いを感じる前に、吐き気というものを頭に先に生まれた。

気分がとても悪くなった。

 

 

 

「大丈夫?カネケンさん?」

 

 

 

「...っ!」

 

歪んだ視界が徐々に回復すると、

志希ちゃんが僕の背中をさすっていた。

 

「やっほ〜カネケンさん」

 

志希ちゃんはこの無様な僕の姿でも気にせず、何もなかったような顔つきで挨拶をした。

 

「な...何この匂い...」

 

「匂い?あー、"試作品の香水"だよ?」

 

「香水...?」

 

香水にしてはとてもおかしい。

あの外国人がよくつける独特の甘い香水とは違い、

本当に拒絶したくなるような気持ち悪くなるものだった。

 

「やっぱ"試作品"だから、匂いはダメだったみたいね」

 

「う、うん.... 匂いがきつかった」

 

志希ちゃんはそういうと「やっぱりなんだ」とにゃははっと彼女らしく笑った。

 

「じゃあ換気するね〜」

 

志希ちゃんはそう言うと、部屋の窓を開く。

徐々に吐き気がする匂いが薄れていった。

 

「カネケンさん?」

 

「...ん?」

 

「立ち上がれそう?」

 

「......大丈夫だね」

 

お腹にあった嘔吐物が消えたせいか、ある程度体調が戻った。

と言っても僕が食べているものは、彼女には言えない。

 

「じゃあ、ここに座って〜」

 

志希ちゃんはそう言うと、ベットにパンパンっと叩く。

 

「う、うん...」

 

「ん?どうしたの?」

 

「い、いや...流石に人のベットの上に座るには...」

 

さすがに女の子のベットに座るのは抵抗があった。

だが彼女は....

 

「問題ないよ?この前あたしはカネケンさんのベットで寝たし、カネケンさんもあたしのベット座ってもいいじゃん」

 

「そ、そうだけど....」

 

そう言った僕は結局、志希ちゃんのベットに座った。

何しているんだろうか、僕。

 

「いや〜カネケンさん久しぶり〜」

 

「ひ、久しぶり...志希ちゃん」

 

相変わらず子供っぽい感じに、"悲劇“をみた後の僕に初めての安心感を得た。

 

「ど、どうして僕を呼んだの?」

 

「だってカネケンさんが働いているところで会話したら、カネケンさんは緊張で喋れないじゃん」

 

「ま、まぁね...」

 

確かにいつも卯月ちゃんや他の人が来ると緊張してしまう。

後からだんだん緊張は薄れていくけど、やっぱり初めは感じてしまう。ちなみに今も緊張はしている。

 

「それであたしの住んでいるところで呼んだらいいんじゃないかなって思ってカネケンさんを呼んだの」

 

「そうなんだ.....ところで志希ちゃんってやっぱり化学が好きなんだね」

 

ベットの隣には薬品が入った瓶がずらりと並んでいて、

机には調合したと思われる痕跡があった。

まるで研究室にいるように見えた。

 

「カネケンさんはあたしとは正反対で、本がいっぱいあるもんね」

 

「そ、そうだね....この前に僕のアパートに泊まったからね」

 

初めて志希ちゃんと出会った日、僕は彼女と一緒に僕の住んでいるアパートで一夜を得た。

決していやらしいことはやってないが、結構大変だった。

 

「本当にカネケンさんは"文香ちゃん"にそっくり〜」

 

「......文香さん」

 

僕はその言葉に"あること"を思い出してしまった。

それは目を背けたくなるような話題。

 

「あっ、そういえば文香ちゃんってプロジェクト・クローネに参加するよね〜」

 

「....そうだね」

 

最初それを耳にした時は嬉しかったのだが、

時間が経つにつれて、寂しさと孤独を一層感じるようになったんだ。

 

「それで...志希ちゃんも何かいいことあった?」

 

僕は胸の奥に彼女も同じく"文香さんのようなこと"がないことに密かに祈っていた。

凛ちゃんや未央ちゃん、美嘉ちゃんの同じようなことが口にでないことを。

僕は志希ちゃんからそのことを口から出ることに恐れていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、僕の望みは叶えられなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーなんか来年新しいユニットに入れるみたい」

 

「....新しいユニット?」

 

「うん。だからあたしは今、待機状態みたいなものかな?」

 

「..........そうなんだ」

 

志希ちゃんもいずれ“新しいこと”をやる。

そう思うとだんだん笑えなくなった。

 

「どうしたの?元気ないね?」

 

「え?」

 

嬉しそうな顔つきをしていた志希ちゃんが、いつの間にか疑問を持ったような顔つきになっていた。

 

「い、いや...別になんでもないよ...」

 

僕は最近、新しいことをやることに嬉しく感じられなくなっている。

文香さんや凛ちゃん、未央ちゃんのことを耳にしたせいか

 

 

 

それと"もう一つ"理由があったんだ

 

 

 

 

それはここでは言えないこと

 

 

 

 

昨日あった“悲劇”のことだ。

 

 

 

 

 

 

何もできなかった僕の"無力さ"

 

 

 

 

 

 

僕は助けることができなかった後悔を抱えていた。

 

 

 

 

 

「...ふーん」

 

何か企んでそうな目つきなっていた。

 

「"なんでもないか"...」

 

「.....え?」

 

僕は志希ちゃんの行動に不思議に感じたことがあった。

それは志希ちゃんはなぜか“顎をこするよな仕草”をしたのだ。

その仕草をわかりやすく堂々とやっていたのだ。

一見ただの仕草に見えるが、何かおかしく感じた。

どうしてかはわからないけれど。

 

「まぁ元気はないことは良くないしっ!」

 

志希ちゃんはそう言い、ベットから立ち上がった。

 

「今からコーヒー作るね〜♪特製志希ちゃんブレンド〜♩」

 

志希ちゃんはそう言うと、棚からあるものを出した。

出したのはどうみても市販のコーヒーだった。

彼女は何も他の豆を混ぜず、マグカップに入れた。

 

「志希ちゃん...?」

 

「ん?」

 

「それって...市販のヤツじゃ..」

 

「別にいいじゃん!あたしがコーヒーを淹れるのだから」

 

「う、うん...わかったよ」

 

彼女の見えない圧力のせいか、

僕は否定することはできなかった。

僕は志希ちゃんが何か変な薬品を入れるのかと不安そうに覗くよう見たが、

結局変な薬品は入れなかった。

マグカップに入れたのはコーヒーとお湯のみであった。

 

「はい、カネケンさん。志希ちゃん特製ブレンドコーヒ〜♪」

 

「あ、ありがとう...」

 

僕はコーヒーが入ったマグカップを受け取った。

コーヒーは唯一僕が口にすることができるもの。

喰種(グール)になった僕にとって"姿"を隠せる道具にも使える。

 

「えっと...志希ちゃん?」

 

「ん?」

 

「砂糖入ってないよね?」

 

「うん、入れてないよ?」

 

もしコーヒーに砂糖を入れてしまえば、

コーヒーが嘔吐した液体の味に変化してしまう。

たとえ"微糖のコーヒー"でも

 

「カネケンさんってブラック好きなの?」

 

「ま、まぁ..そうだね」

 

「ふーん....結構大人だね〜」

 

志希ちゃんはそう言うとにゃははっと笑った。

 

僕はこうして喰種(グール)だとバレてしまわないようたとえ嘘をついてでも回避しなければならない。

ヒデや卯月ちゃん、凛ちゃんなどの友達と”長く”過ごせるためにも

 

「そう言えば、カネケンさん?」

 

「ん?」

 

「最近卯月ちゃんとか会ってる?」

 

「卯月ちゃん?」

 

志希ちゃんが卯月ちゃんのことを聞くことに不思議に感じた。

 

「だいぶ会ってるよ...他の子よりも」

 

「ふーん、そうなんだ....」

 

「.....どうして卯月ちゃんのこと?」

 

「今度また会ってみたいなーって思って」

 

「会ってみたい?」

 

卯月ちゃんと志希ちゃんがお互いあったのは一度だけなのだが、

再び会いたくなったのはなぜだろうか?

 

「だって、卯月ちゃんも"いい匂い"がしたんだもん」

 

「"いい匂い"...?」

 

「なんかねーカネケンさんと同じ匂いっ!みたいなものを感じたの!」

 

そう言えば僕と初めて出会った時、志希ちゃんは僕を追いかけていた。

その理由は僕から"いい匂い"がするからであった。

あの時は卯月ちゃんからもらった香水を体につけていたのが原因であった。

 

「まさか、あの時つけた香水とか言ったり..」

 

「いや、そう言う"わかりやすい匂い"じゃないよ?」

 

「え?」

 

僕は志希ちゃんの言葉に変に感じてしまった。

もしかするとよく本である比喩表現なのだろうか?

もしそうなれば、一体どういう意味だろう?

 

「まぁ、カネケンさんは卯月ちゃんと同じ匂いがあるっと頭のどこかに置いといてね♪」

 

「う、うん....わかったよ...」

 

それを聞いた僕は答えがわからない時に現れるがモヤモヤが胸にこもった。

彼女は一体何を感じたのだろうか?

僕が腕を組んで考えてると、

 

 

 

 

 

 

 

 

"あること"を忘れていたことに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「....ねぇ志希ちゃん?」

 

「ん?」

 

 

 

 

『....学校行かないの?』

 

「あっ」

 

それを聞いた志希ちゃんは思い出したような顔つきなった。

完璧に忘れていた顔であった。

高校の時間的にはもうそろそろ二限が始まる時間帯であった。

 

それから僕は彼女が支度するのを少し手伝い、なんとか家から出させた。

いつもなら志希ちゃんは急ぐようなことをしないのだが、

今日はかなり支度に急いでいた。

なぜなら今日の二限は好きな化学の授業だったのだ。

志希ちゃん曰く、それがないと生きれないっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば僕は彼女の家から出るまで、"ある疑問"を持っていた。

 

 

 

 

それは最初に感じた"あの匂い"

 

 

 

 

嘔吐をしたくなるほどの気持ち悪い匂い

 

 

 

 

 

あの"匂い"は一体なんだろうか....?

 

 

 

 

 


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