東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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"彼らの声"が少しずつ聞こえていく。








周声

 

 

 

 

 

 

「おーいカネキ?」

 

「...え?」

 

「どうしたんだ?」

 

「.....いや、なんでも」

 

しばらく時が過ぎたのだが、

"この前"のことが少し頭に引っかかる。

今日はヒデと喫茶店にいるのだが、

僕は何度も止まっていた。

 

(さすがにこのような状況じゃまずい....)

 

おそらくヒデから見れば、僕の顔は曇っているように見えるかもしれない。

僕が少しそう感じた時、

ヒデはあることを口に出す。

 

「そういえばさ、カネキの同じ学部に"可愛い先輩"がいるらしいな?」

 

「可愛い先輩...?」

 

そんな先輩いるだろうか?

僕はあまり大学の人を見ないため、

見過ごしているかもしれない。

 

「誰だろう?」

 

「知らないか....この前に目にしたんだよなー」

 

「見たことあるの..?」

 

「そうだな。ロングヘアーで、目が隠れてて、めっちゃ可愛いくてさ!」

 

僕は「そうなんだ...」とヒデに言葉を返した。

なかなか思い当たる人物が浮かばない。

ロングヘアーだったら"卯月ちゃん"か"凛さん"ならわかるが、

目が隠れているとなると、全く思い当たる人物は浮かばない。

 

「じゃあ、今度俺に会った時に名前とか教えろよ?」

 

「....え?さすがにそれは...」

 

「ついでにこの前にあったアイドルになる子もな!」

 

「そ、それは....」

 

ヒデにはまだ"卯月ちゃん"の名を伝えていないため、

日に日に興味が増していた。

さすがに"卯月ちゃん"の名を出すと申し訳ないので、僕は名前を教えてない。

そんな会話の中、お店のテレビにあるニュースを耳にする。

 

『――....区で再び"喰種”(グール)のものと思われる事件が―――』

 

ニュースを聞いて、ヒデが「また"喰種”(グール)かぁ」と呟く。

この世界には、"喰種”(グール)と呼ばれる人間を喰らう生きものがいるが、

情報として流れてはくるものの、お目にかかる機会はない。

 

「それを退治する組織があるのに、なんでなくならないんだ?」

 

そんな恐ろしい生き物がいるにも関わらず、なかなか消えないことに疑問が感じる。

その怪物を倒す"プロ"がいると聞いたことがあるが.....

やはり困難な問題だろうか?

 

「まぁ、もしも楓さんが"喰種"(グール)に襲われそうになったら、俺がすぐに駆けつけてやる....」

 

ここでヒデのアイドル愛が現れた。

僕は「....まずは居場所知らないとだめじゃない?」と突っ込んだ。

 

「だよな。なにかきっかけがあれば.....楓さんと会える....」

 

やっぱりヒデは楓さんに対しての愛が強い。

僕はいつも通りにその姿に呆れていた。

"アイドル"と出会う.....か....

 

(また会えないかな...?)

 

凛さんはあの花屋に会えるが、卯月ちゃんに関しては不明。

 

(....賭けてみるか)

 

「ヒデ」

 

「ん?」

 

おそらくまた卯月ちゃんに会える場所は...

 

「行って見ない?僕が"その子"に出会ったお花屋さんに」

 

あくまで前にあった場所であるため、

彼女がそこにいるとは限らない。

 

「おー!この前カネキが会ったアイドルか?」

 

「そうだね」

 

しかし、とりあえず僕は賭けてみる。

そこに"卯月ちゃん"がいるかどうか。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「えっと...こっちだっけ...」

 

「おいおい、ここで道を忘れるとかないだろ?」

 

とりあえず、あの時にお花を買った場所に向かっているが、

この前に来たより時間が空いたため、記憶が曖昧だ。

 

(...さすがに凛さんとは出会うのはちょっと...)

 

彼女の場合、まだアイドルになるとはいえないため、

会っても無意味だ。

まず卯月ちゃんと会わないと話にならない。

そんな不安が重なるなか、僕は足を止めた。

"とある二人"を目にしたのだ。

 

「...あれ?」

 

「どうした?カネキ?」

 

何か見覚えあるような二人が花屋の近くにいた。

以前に出会ったことのある人物だ。

一人は女子高校生で、もう一人はスーツ姿の目つきが怖い人。

 

「あ!あなたは...!」

 

すると女子高校生の方が僕がいることに反応した。

間違いない。

あの時に出会った女子高校生だ。

 

「う、卯月ちゃん..!?」

 

しかもその隣には、13区に出会った346プロのプロデューサーさんがいた。

 

「え?つまり...」

 

まさか...卯月ちゃんが入った事務所って...

 

「346プロに....入ったんだ...」

 

「へーあの女子高校生が346プロか.......え?346プロ!?」

 

ヒデがそれを聞いて、ひどく驚嘆した。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「まさか...またあなたに会えるなんて...」

 

僕たちはプロデューサーさんと公園のベンチに座った。

卯月ちゃんと凛さん二人は違う方に座ったけど。

 

「そうですね」

 

13区の時と変わらずに表情は変わらなかった。

ちなみに凛さんは、僕たちが驚いた声に気づき、花屋から顔を出して現れた。

 

「あなたが...卯月ちゃんを採用したのも」

 

「はい」

 

まさか彼が卯月ちゃんを採用したなんて...

そう感じたその時であった。

 

「あの!346プロのプロデューサーさん!高垣楓さんとは会ったことあるんですか?」

 

ヒデは彼が346プロの関係者であることに興奮し、

プロデューサーさんにいろいろ聞いている。

 

「はい。一昨日に顔を合わせましたね」

 

「マジすか!!めっちゃ憧れます!」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

ヒデにも顔を変えず、無表情で答えていた。

ヒデの態度にはどう思っているだろうか?

初対面でこうされたら辛いだろうが、

彼の顔は変わらなかった。

この無表情は昔からだろうか?

プロデューサーさんの謎が深まる.....

 

(まず"以前"はどうなんだろう......)

 

少し腕を組み、考えるが.....

 

「あの楓さんのライブって今度はどこでやるんスか!?」

 

「高垣さんについては....担当の人が違うので詳しくわかりません」

 

「マジすか!?やっぱそういう情報は無理スか....」

 

「すみません」

 

相変わらずのアイドル愛に僕は呆れていた。

もはや考える空気を与えてくれない。

 

(あ、そういえば、卯月ちゃんたちは何をやっているんだろう?)

 

二人が座っているベンチに目を向けると、何か話している。

彼女たちは何を話しているのだろうか?

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛Side

 

 

(あ、こっちを見た)

 

金木さんが視線をこっちに向いていた。

 

(........会話から外れたかな?)

 

金髪の人とプロデューサーとの会話する光景が続いていた。

彼の顔は、退屈そうであった。

 

「...."あの人"ってなんだろう」

 

「え?"金木さん"のことですか?」

 

「知ってるの?」

 

「はい。私と同じく花を買いに行った方ですよね」

 

卯月が指したのはプロデューサーと金髪の人の会話から外れている青年だ。

確かに名前は合っているが...

 

「なんで卯月が金木さんの名前を知っているの?」

 

私が知ったのはこの前に駅で会った時に、彼が緊張していたせいか口に出したことだ。

 

「お花を買ったあとに一緒に帰ったんですよ。その時に自己紹介をして知りました」

 

それで卯月は金木さんの名前を知っている。

私は、はいはいと納得した。

見た目は文系男子で、あまり人とは話すのは得意ではない感じがあった。

 

「それでなんで凛さんが知っているのですか?」

 

「なんか...この前に13区にたまたま会って...」

 

「え!?会ったんですか!?」

 

「少し助けてもらったけど...」

 

結局はプロデューサーが入ったことで、金木さんの行動が無意味になってしまった。

それにしてもあのプロデューサーは一体何を考えているだろう?

私を選んだ理由は"笑顔"と言ったのだ。

しかも卯月も同じく言われたとか....

なんだか不安に感じる。

 

(プロデューサーの次に謎に感じる人物は....金木さんだね...)

 

プロデューサーとは違い、普通にいそうな男性だ。

しかも話すのはあまり得意ではない文系男子。

別に嫌とは感じないが、気を使わないといけないのが少し苦手。

でもプロデューサーのように毎回私のところへ来るのではなく、偶然に再び出会うことだ。

 

「卯月は....金木さんとは何回か会ったの?」

 

私の場合は今回で3回しか会っていないため、詳しくはわからない。

卯月なら何回か会ってそうだが....

 

「いえ、これで"2回目"ですね」

 

「え...?」

 

思わず卯月の言ったことに疑ってしまった。

 

「そうですね...確かに言われてみれば....少なすぎですよね」

 

だいぶ会ってそうな感じがしたが、実際は2回しか会ってない。

 

「でも」

 

「でも?」

 

「金木さんとは少しぐらいしか話したことしかないけど...彼はきっと優しい方だと私は思います」

 

卯月は笑顔でそう口にした。

確かに彼は頼りない感じがあり、話すことが不得意かもしれない。

でも優しいと言うことは変わりないかもしれない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

(ん?なんか僕のこと言ったのか?)

 

ふと僕の名前が聞こえたような気がした。

何を言ったのか気になる....

 

(さすがに陰口じゃ....)

 

「おい、カネキ」

 

「どうしたの?ヒデ?」

 

「俺トイレ行ってくるわ」

 

「え?...う、うん」

 

僕はこくんと頭を盾に振った。

ふと気がつけばヒデとプロデューサーさんの会話は終わっていた。

ヒデは「じゃあ、行ってくるわ」と言い、すぐにこの場から去ってしまった。

 

「........」

 

今思えば話す話題はまったくない。

 

(ど、どうしよう....)

 

何か言いたいことがあったが思い出せない....

 

「....金木さんですよね?」

 

突然プロデューサーさんが僕の名を言った。

 

「え?...は、はい...そうですけど」

 

「先ほど永近さんがあなたの名前を言ってくれました」

 

どうやら先ほどの会話の時にヒデが伝えたかもしれない。

 

(...あ)

 

ふと思えば、少し疑問に思っていたことがあった。

 

「あのプロデューサーさん」

 

「はい?」

 

「どうして"彼女”(渋谷さん)にスカウトを?」

 

13区の時にプロデューサーさんに一度聞いた言葉。

しかしそれだけではおそらく彼の口から"笑顔"としか言わない。

 

「あと少し思ったのですが....笑顔以外何か目的があるのではないでしょうか?」

 

「目的ですか?」

 

中身を知りたい。

彼女をどう言ったアイドルにするのか。

僕は"13区の時"から疑問に思っていたことだった。

 

 

「彼女を"別の世界"に踏み込ませた方がいいのではないかと」

 

 

「別の世界...?」

 

彼が言う別の世界はおそらく"アイドルという世界"。

 

「彼女がシンデレラのように、普通の日常から別の日常へと変われたらいいと、私は"彼女”(渋谷さん)を声をかけたのです」

 

「.....そうなんですか」

 

彼が考えるアイドルは"笑顔"だけではない。

普通の日常から別の日常へと変えていく。

まるで"シンデレラ"のようなことだ。

 

「...まるでシンデレラですね」

 

「はい」

 

僕がそう告げると、あることが思い出した。

 

(....ん?"シンデレラ"..."プロジェクト"...)

 

13区にもらったプロデューサーさんの名刺に書いてあった言葉。

なぜ"それ"を気づかなかっただろうか?

つまり、彼はシンデレラのようなアイドルを求めていたことになる。

 

「....おもしろいですね」

 

「はい?」

 

「もしかして...プロデューサーさんは彼女を導く"魔法使い"でしょうか?」

 

「....そうなりますね」

 

顔は変わらなかったが、少し困惑していたような感じがあった。

プロデューサーと言う仕事はある意味裏方の仕事だ。

しかしその担当しているアイドルをトップへと導く大事な仕事でもある。

 

「行きますか?」

 

「え?」

 

「彼女の元に」

 

プロデューサーさんがそう言うと立ち上がった。

 

「は、はい。行きます」

 

僕はそう言い、彼の背中に続き、歩いていく。

きっとこれが最後のチャンスだ。

彼女が舞台と言うお城に導く最後のチャンス。

 

 

(僕も"彼女"に何か言えることがあるかな....)

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛Side

 

 

"本当にいいのかな....?"

 

 

「少しでも、あなたが夢中になれることがあるのなら、一度踏み込んでみませんか?」

 

「......」

 

確かに今の自分は何も決めてはなく、夢中になってるものはない。

しかしアイドルという仕事に対して、私は躊躇ってしまう。

かと言って嫌とは言えない。

先ほどの卯月の言葉、この前に喫茶店でプロデューサーが言った言葉。

私の胸の中に思い出す。

これはなんて言えばいいのかな....?

気持ちが纏まらない.......

 

 

「....自分の知らない世界に行くのはいいんじゃないかな?」

 

 

するとプロデューサーの後ろにいた金木さんが口を開く。

なぜか金木さんの"その一言"が大きく耳に届いた。

 

「普通に日常に過ごすことはいいと思うけど....何か新しいものを見つけられたらいいんじゃないかな.....?」

 

「..........」

 

「確かに知らない世界に行くのは誰でも不安がある。けど、その不安を取り除けばきっと自分にとって最高な世界になると思う」

 

「...........」

 

私は金木さんの言葉に何も口を開くことがなかった。

すると金木さんの後ろに誰かがやってくる気配が感じた。

 

「たく、お前いいこと言うじゃねえかよ!」

 

突然金木さんの背中を手で叩きつけた。

金木さんは、「ぐはっ!」と声を上げ、攻撃を食らった。

 

「え...?」

 

そして金木さんは倒れこんでしまった。

 

「あれ...?ちょっとタイミング悪かったか...?」

 

「だ、大丈夫ですか!?金木さん!?」

 

卯月が不安そうに金木さんの顔を見る。

 

「....大丈夫」と金木さんは立ち上がる。

 

(...やっぱり文系男子)

 

私はその金木さんの姿にため息が吐きたかった。

"いい言葉を言うのに"、と。

金木はヒデに「やりすぎだよ..."ヒデ"」と小さく呟く。

 

「悪い、悪い」

 

(ヒデというんだね...)

 

きっと名前を呼ぶことはないが、

私はその名を頭の片隅に置いとく。

 

「あの、お怪我は?」

 

「このぐらい平気ですよ....ハハハ」

 

しかもプロデューサーまでも心配かけてる。

この文系男子、と私は再び心に呟く。

金木さんは立ち上がり、服についた砂を払う。

あんなみっともない姿を出したにもかかわらず、

金木さんは"笑顔"でいたのだ。

他の二人は先ほどの心配から笑いに変わっていた。

プロデューサーは何も顔は変わっていなかったが、

笑っていると思う....多分...

そしてなぜか私はその状況で「....ふふ」と笑ってしまった。

 

(アイドルか......)

 

私は小さくそう呟いた。

私にとって知らない世界。

どんな仕事をやるのかよくわかんない。

でも、一つだけ言えることがある。

それは、私は普通の世界に過ごすのではなく、

 

 

 

 

知らない世界に過ごしたほうがいいんじゃないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言った"本人"も同じ行動を出すなんて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いやーなんだかんだ、あの子たちがアイドルになるのか」

 

「そうだね...」

 

僕は彼女らと話して、今帰っている。

先ほどの凛さんの顔は何か迷いがある顔から、笑顔に変わっていた。

凛さんはプロデューサーさんの言葉と卯月ちゃんの言葉を聞いて、

考えが変わるかな...?

 

「それにしてもお前、"連絡先"もらってラッキーじゃん」

 

「あれは..ヒデが言ったやつじゃ」

 

つい先ほど、ヒデは"とんでもないこと"を言ったのだ。

 

 

 

 

 

『あ、そうそう。カネキが、卯月ちゃんの連絡先を知りたいってさ』

 

 

 

 

 

あの時は思いによらないことであったため、とても驚いてしまった。

これはヒデが勝手に考えた言葉であった。

将来彼女はアイドルになるということで、一般人とはプライベートで話すなんてとんでもない。

さすがに無理じゃないかなと僕は思った。

もし下手したら変人扱いにされ、二度と彼女の前に立てなくなるかもしれない....

そんな恐れが僕の体を襲った。

しかし、卯月ちゃんは意外な言葉を口にした...

 

『えっと....あの、"スマホ"ありますか?』

 

『え?』

 

まさかの言葉に少し時が止まったような感覚がした。

 

『アイドルになりますが....少しぐらいの連絡なら...』

 

 

 

 

.......という感じに連絡先をもらってしまった....

 

「俺はもらいたい気持ちはあるけど..やっぱお前だけが持つべきだと俺はそう思うぜ!」

 

もし僕がヒデなら、楓さんの連絡先を知りたいと言うだろう。

 

「そうだけど...」

 

「別にためらう必要はないだろ?」

 

連絡先を知ったのだが、一体どういった返事を出そうか全く考えてない。

メールとかで話したことがあるのはヒデぐらいしかない....

 

 

 

 

 

しかし、これが後に"多くの人との出会い"があるとは考えもしなかった。

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ、明日よろしくな」

 

「...え?何が?」

 

「あれだよ、カフェでいた時に言った"可愛い人"」

 

「....いるかな?」

 

僕はヒデが言ったことを受け答えたが、

なかなか思い当たる人物が浮かばない。

それにしてもそれ人は誰だろうか?

まず可愛いと言ってもどう言った可愛いだろうか?

僕はそれが知りたい.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"ん?"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...!」

 

ふと僕の記憶の中から"とある人物"が浮かんだ。

 

「どうした?カネキ?」

 

「その人....もしかして..」

 

ヒデから見れば"可愛い"と思うかもしれない。

 

でも僕から見れば"美しい"と思う――――――

 

 

 

つまり――――――

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

13区に凛さんと再び出会った後のことである。

僕は20区の古書店に尋ねていた。

 

「どうも....」

 

僕は少し頭を下げ、挨拶をした。

彼女はあまり人接することが苦手なのか、こちらに視線を向けない。

 

「えっと...」

 

なんと言えばいいだろうか、と口が止まる。

僕はおそらく彼女の美しさに、緊張していたと思う。

 

「古書がたくさんありますね....」

 

「........はい」

 

彼女はまだ僕の方に視線を向かない。

一生懸命考えた結果、そう言う答えしか出なかった。

 

(何当たり前のこと言っているんだ....僕っ!)

 

何かいい言葉があるだろうか、と僕は考えた。

 

「..........」

 

そんな僕に彼女は口を開いた。

 

「.....本は....お好きですか?」

 

「...え?」

 

急に彼女から来たため、

びくっと体が動いた。

 

「は、はい...好きですね」

 

僕は照れながら彼女に言葉を返した。

 

「そうなんですか.....」

 

彼女は少しこちらを向いて来た。

 

「どう言った....本が好きですか...?」

 

「えっと...小説が特に好きですね」

 

彼女は何か興味を示したのか、質問をする。

 

「大学生の......方...ですか?」

 

「はい。そうですね..."上井大学"の一年生ですね」

 

すると彼女は何か反応した。

 

「"上井大学"...私も....同じ大学で.....通ってます...」

 

「同じ大学ですか?僕は文学部の国文科です」

 

まさかの同じ大学の人だ。

 

僕はそれに驚いた。

 

「同じ学部....」

 

「ん?」

 

「私と....同じ学部ですね...」

 

「え!?ほんとですか?」

 

彼女は本で口を隠し、照れているようであった。

なんで僕は気づかなかったんだろう。

こんな"綺麗な人"が僕と同じ学部にいることを。

 

「ところで......お名前は...?」

 

「僕ですか?金木研です」

 

「金木......研.......なんて....書きますか?」

 

「カネキは曜日の金と木、ケンは研究の研です」

 

先ほどまで静かであった古書店。

今は二人だけの声が聞こえる。

 

「金木......太宰治の出身地の.....町の名前ですよね?」

 

「はい、そうです」

 

「おもしろいですね....」

 

彼女は少し微笑んだ。

僕はそれを見て、胸がどきっとした。

 

「....緊張してますね」

 

「そ、そうですね...ははは...」

 

気が合うところがいくつかある。

彼女は会った当初よりも明るく見えた。

 

「えっと....名前は?」

 

僕は彼女に続いて、名前を聞く。

 

"鷺沢文香"(さぎさわ ふみか)....です』

 

"鷺沢文香"(さぎさわ ふみか).....さんですか」

 

可愛い名前だーーーーー

 

僕は心の中でそう呟いた。

 

「なんて描きますか?」

 

「鷺は鳥のサギで、沢は小さな川の沢。文は文章で、香は香りです....」

 

「いい名前ですね」

 

「ありがとうございます」

 

彼女は再び僕の顔を見て微笑んだ。

 

 

 

 

そう――――――――――

 

 

 

 

彼女の名は―――――――

 

 

 

 

"鷺沢文香"(さぎさわ ふみか)

 

 

 

 

 


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