東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

24 / 84

ぼくには友達がいるんだ

同じ状況で立つ友達を

だからその友達の元に駆けつけるんだ






信心

 

金木Side

 

「たく....なんで急に雨が降り出したんだ...」

 

「そうだね…」

 

本当ならばもう既に”New Generations”のライブをやっているはずだっだ。

しかし運が悪いせいか急に雨が降り出し、一時中止となってしまった。

ぼくたちは雨から逃れるため会場から離れ、屋根のある建物に入った。

そこには誰もいなく、ぼくとヒデが貸し切っているように思えた。

「今日の天気予報に雨降るなって、言ってねえよな?」

 

「確かにそんなこと言ってないし….これはもしかしてゲリラ豪雨かも」

 

初めは強く、すぐにずぶ濡れになるぐらいだったが、

今は雨が弱くなっており、ライブは中止にならそうだが....

 

(まさか….今回も失敗しないよね…?)

 

でも雨が降っていることには変わりがなく、

会場に戻ろうと思うなんて抵抗を感じてしまう。

きっとライブを始めても、人がたくさんいるとは言えない。

そう考えてみると、まるで”あの時”と同じような空気だと頭に過ぎった。

 

あの”失敗したライブ”を思い出したんだ

 

「ああああああ!!!!!!」

 

そんな思わしくないことを考えていたぼくに喝を入れるかのように、

ヒデの叫び声が耳に入った。

振り向くと突然ヒデが叫び出し、雨が降る外に走り出した。

 

「ちょっ!ヒデ!」

 

ぼくはその姿に驚きヒデの行動を止めようとしたが、

ヒデは声を聞く耳はなかった。

 

「はははっ!こっちも来いよ、カネキ!」

 

ヒデはこんな雨の中、傘もフードもせず楽しそうに浴びていた。

まるで荒地に何年かぶりの雨に喜ぶ農家のように

 

(もう…やめて…ヒデ)

 

ぼくはそんなヒデの姿に見てはいられなかった。

恥ずかしくて見ていられないのではなく、

ヒデの姿にあざ笑うのように見る人々の姿を見て苦しく感じていたんだ。

ぼくは見続けるなんてできない

友達がこんな姿に

だから、やめてほしかった

ぼくは再びやめるように呼びかけたその時だった。

 

「ヒデ!もうやめ」

 

「お前はこんな俺の姿にやめてほしいと思っただろ!!」

 

突如ヒデはぼくの声に反応し、怒りに似たような声でぼくに言葉を伝えた。

先ほど楽しそうにしていた顔は真剣そのものになった。

 

「なんでこんな雨になんで楽しそうに踊るのだろうと思っただろ!」

 

「…..」

 

ぼくはヒデの言葉に黙ってしまった

ぼくが考えていたことを見抜かれていたのだ

どうして返していいのかわからず黙り続けるとヒデはあることを口にした。

 

「もし俺が”卯月ちゃん達”だったらどうなんだ!!」

 

「…っ!」

 

ぼくが想像したくなかったことをヒデは口に出した。

それを聞いた瞬間、胸が締め付けられる感じがした。

なんだかミニライブの時の未央ちゃんの気持ちがよくわかるような気がした。

 

(これじゃあ….卯月ちゃんに申し訳ないな..)

 

そんなぼくにあることを思い出したんだ

 

“昨日の電話をこと”を

 

『卯月ちゃん大丈夫?』

 

あの時のぼくはヒデに『卯月ちゃんに何か言わないのか?』と言われ、

電話をかけたんだ

その時に聞いた彼女の声は、いつもより心地よく聞こえた

まるで鳥の声を聞いているかのように

何度も会って話しているのになぜかこの時はいつもより”特別な感じ”がしたんだ。

 

『…そうなんだ。大変だね』

 

しばらく話しているとぼくはわかったんだ

彼女は”やっぱり”そうだった

他の人よりもより感じていたんだ

 

『….卯月ちゃん』

 

それを聞いたぼくは彼女に、”励ましの言葉”を送った。

困難な状況でもがんばれる言葉を

 

そしてぼくは”約束”をしていたんだ

絶対に何があろうとも逃げ出さないと

 

「だからさ、カネキも同じくやろうぜ?」

 

ヒデは雨で濡れた手でぼくに差し伸べた。

ヒデの手は見るからに雨と土が混じっていて汚かった

でもぼくは、

 

「…うん、わかった」

 

汚れに躊躇することなく、ヒデの手を掴んだ。

ヒデの手は濡れていたのに、とても暖かく感じた。

ヒデはぼくをしっかり握り、ぼくを雨の降る外へと導いた。

 

「よし!卯月ちゃん達がいる会場へ行こうぜ!」

 

ぼくたちは雨が降る会場へと走り出した。

雨は弱く見えたのに、ぼくたちに嘘みたいに容赦なく襲いかかる

それと同時に他者からの目線を感じた

まるでぼくたちは敵がそこら中にいる土地に踏み出しように思えた

 

でもぼくとヒデには関係はなかった

 

ぼくたちみたいな同じ状況でもやろうとする”友達”がいるんだ

 

そんな友達を見捨てるだなんてできない

 

ぼくはヒデに何度も助けられたことがあった

 

今度はぼくが彼女たちを助ける番だ

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

「いやー急に暗くなったね〜♪」

 

「そ、そうですね….」

 

先ほど雷が鳴った瞬間、館内の電気が一気に消え去りました。

その時の私は驚いて、少し慌ててしまいました。

まるで闇の世界にいるようで廊下が一面真っ暗になってしまいました。

しかしそんな状況でも恐怖など感じていない人がいました。

その人は隣にいる”志希さん”でした。

 

「なんかお化け屋敷にありそうな展開みたいじゃない〜?」

 

志希さんは恐怖など感じておらず、

暗闇になっても彼女ははしゃぐように話をやめることなく楽しんでいました。

 

「お化け屋敷みたいでしょうか…?」

 

「うん、多分ありそうな展開だよ?行ったことない?」

 

私はそれを聞いた瞬間、躊躇ってしまいました。

そもそも私はテーマパークに行くようなことがなく、ずっと家にいるようなことが多かったです

 

「いえ、一度も…」

 

「そっか〜じゃあ、今度一緒に行こっか♪あたしも行ったことないし♪」

 

「え..え……」

 

志希さんの答えに困惑してしまいました。

なんだか本当に行きたがるような雰囲気を感じたからです。

 

「二人とも大丈夫?」

 

するとタイミングよく、救護室から美嘉さんが顔を出してきました。

美嘉さんの顔はとても心配そうでした。

 

「いや、別に問題ないよ?楽しく話せてるし」

 

こんな状況でも慌てることがない志希さんの姿に少し羨ましく感じました。

 

「とりあえず、二人とも入って?」

 

「え?」

 

私はその言葉に少し驚いてしまいました。

別に問題はないのですが….

 

「じゃあ、おじゃましま〜す♪」

 

志希さんは美嘉さんの言葉を聞いた瞬間すぐに答え、

部屋に入って行きました。

 

「おじゃま…します...」

 

私は断ることをやめ、志希さんに続き救護室に入って行きました。

少し申し訳ない気持ちは胸にありましたが、ありがたく感じました。

入ってみるとそこには元気を取り戻した美波さんの姿がありました。

先ほどは立ち上がることができなかったですが、今は少し立ち上がることができ、その姿に私はほっとしました。

すると美波さんが私たちの姿を見て「あ」と気づき、

 

「先ほどはありがとうございます!」

 

美波さんは私と志希さんの方に顔を向け、頭を下げました。

私はその姿を見て、慌ててしましました。

美波さんの声はなんだか悲しみに似た声に聞こえたからでした。

彼女は自分がステージに出れなかったことに悔しさと悲しみを抱えていたと思います。

 

「い、いえ…私は」

 

「いえいえ、別に大したことやっていないので〜」

 

私が言葉を返そうとした瞬間、志希さんが私の言葉を横槍しました。

 

「……..」

 

私は志希さんの行動に不満を感じましたが、志希さんがこういう人だということを思い出し、反論するのを諦めました。

そんな時、私はあることをふと思い出しました。

 

「そういえば…卯月さんたちは大丈夫でしょうか..?」

 

本当ならばすでにライブをやっているはずですが、

運が悪く雨が降ってしまい、一時中止となりました。

現在はライブは再開することはできるのですが…..

 

「いや、大丈夫だよ」

 

すると美嘉さんは力強く私にそう伝えました。

 

「あの子たちならできるよ」

 

私は彼女の顔の方に振り向くと、驚きに似た感情を抱いてしまいました。

彼女の目は本気でした。

どんな状況でも、必ず成功すると信じる心

これが本当に人を信じるっと言うことを私は初めて知ったように思えました。

そんな経験など感じたことがない私にとって憧れに近いものでした。

 

「あれ?なんか聞こえなかった?」

 

すると志希さんが何かに気がつきました。

 

「え?志希、聞こえたって…?」

 

「ほら、テレビから何か叫び声が聞こえない?文香ちゃんも聞いて?」

 

私は志希さんに言われるがまま、テレビに耳をしました。

 

(…あれ?)

 

テレビから聞こえる叫び声に何かに気づきました。

その声はどこかに耳にした声でした。

 

(…もしかして…っ!)

 

しばらく考えてると”ある人”が頭に浮かび、気づきました。

 

その声は”あの人”でした

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

卯月Side

 

「こんにちは!new generationsです!」

 

雨の降る会場、私たちはステージに立ちました。

会場にはお客さんは少ししかいなくて、再開するのには早すぎたと言ってもいいぐらいでした。

先ほどプロデューサーさんから『前回のライブと同じになるかもしれません』と聞きました。

でも私はもう恐れていませんでした。

あの時の私ではないからです。

一度はバラバラになってしまいましたが、

あの時がきっかけで再び私たちの心は一つの纏まりました。

 

「「いええええ!!!」」

 

すると"とある二人の叫び声"が私たちの耳に入りました。

声をした方を振り向くと、ちょうど真ん中に見慣れた方がいました。

 

「ニュージェネ最高!!!!」

 

そこに二人の男性の方がいました。

一人は金髪でハキハキした人"ヒデさん"と、

もう一人は黒髪の人"金木さん"がいました。

 

「ほら!カネキも声出せよ!」

 

ヒデさんはそう言うと金木さんの肩を叩きました。

二人ともカッパもせず、傘もささず、私たちと同じく濡れていました。

 

「う、卯月ちゃん!凛ちゃん!未央ちゃん!頑張って!!!」

 

金木さんは恥ずかしさを含んだ叫び声で私たちを応援しました。

 

「...金木さん」

 

私はそれを見て、なんだか緊張がなくなったように思えてしまいました。

私は昨日の出来事を思い出しました。

 

『あ、こんばんわ金木さん!』

 

あの時の私は驚きと嬉しさが混ざっていた気分でした。

なぜかって金木さんが電話をしてきたのです。

いつもならメールで連絡するのに、今回は違ったのでした。

 


『明日のライブは大丈夫?』

 

金木さんの口に出たのは、今回のライブの話でした。

 

『だ、大丈夫です!』

 

私は元気よく言葉を返しました。

その緊張を隠すように

あの時の私は緊張しておりました。

なぜってもう一度new Generationsのライブをやるからでした。

あの時は失敗してしまいましたが、今は違います。

みんなは気持ちが一つになり、成功すると信じていました。

でも心の隅には失敗を恐れてしまい、緊張をしてしまいました。

 

『…卯月ちゃん』

 

『はい..?』

 

『…….』

 

その時の金木さんは私の名前を言い、言葉を探していたのかしばらく黙ってしまいました。

 

『…….』

 

その時は何か言おうとしましたが、なぜか私もつられて黙ってしまいました。

金木さんが言うのを待つかのように

 

『…もし』

 

『卯月ちゃんたちにとって最悪なライブでも...ぼくは見続けるよ』

 

『え…?』

 

私はそれを聞いた時、小さな驚きをしました。

なぜそんなことを言うのかわかりませんでした。

でも、それが今の私に必要なことだと気付きました。

 

『だから卯月ちゃんたちだけじゃないから、頑張って!」

 

『は、はい..』

 

『じゃあ、おやすみ』

 

『おやすみ…なさい...』

 

私がそう言うと、電話が切れてしまいました。

私はいつももっと長く電話をするのですが、

あの時は珍しく”短い時間”で会話が終わってしまいました。

でもそんな短い時間でも満足でした。

 

(....よし!)

 

私は大きく息を吸い、気持ちを整えました。

 

「では!聞いてください!できたてEvo! Revo! Generation!」

 

私がそう言うと、タイミングよく音楽が流れました。

私たちがnew generationsの曲"できたてEvo! Revo! Generation!"

 

そして私たちはステージに輝いていました。

まるで舞台に立つお嬢様のように


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。