東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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この先のことを知る者は、いるだろうか。


拒否

 

 

 

 

後日、ヒデにこの前に出会った子について話した。

その子の名は島村卯月(しまむら うづき)

さすがに名前は出さなかったが...

ヒデはその話にだいぶ食いついていた。

 

「まじか!その子はアイドルになるのか!?」

 

「まぁね.....まだ始まったばかりだから有名になるかはわからないけど...」

 

アイドルになると言ってもトップアイドルになるとは限らない。

でもヒデはその子について、いろいろ聞いて来た。

何系、身長はどのぐらい、可愛いか、スリーサイズなど、

僕は答えるのが大変であった。

 

「たく....カネキは運があるな」

 

「別にそうじゃないかな....たまたま会っただけだよ....」

 

今日は早めに講義が終わったため、午後が空いていた。

もしかしたら"また"会えるではないかと、

 

「今日は時間空いているかな...?」

 

僕はヒデに誘いしたのだが...

 

「あー今日は無理だな」

 

「どうして?」

 

「ちょと"大学の先輩"に頼まれたことがあって...ワリィ!」

 

ヒデは申し訳なさそうに両手を合わせた。

 

「そうなんだ....ならしかたないね」

 

先輩のことなら仕方ない。

ちなみにその先輩は誰だろう?

 

「ちなみにそのアイドルちゃんはどこに所属するかわかる?」

 

「え...それは...」

 

今考えてみると名前は聞いたが、所属先のことを聞いていなかった。

 

「わかんねぇか...もし346プロだったら...」

 

「"346プロ"?」

 

「知らないのか?いろんな場所で広告を出しているぞ。例えば駅の広告やテレビCM、雑誌など最近有名なアイドルを出す事務所だぞ」

 

「そうなんだ...」

 

あまり聞き慣れてないが、かなり有名らしい。

その中にヒデが好きな"高垣楓"が所属していると。

 

「たく...まさかカネキがアイドルの卵を見つけたとは!」

 

「いや、別にアイドルが好きだから知ったんじゃ...」

 

おそらくあの子とは出会うことはないと思う...

会えたとしても、覚えているかどうか....

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ヒデと話した後、僕は13区の周辺に足を踏み入れた。

ここに来たのは最近読んでいた本を読み終えたからだ。

家にある本だけでは少々物足らない。

いつもは20区の本屋さんに寄るのだが、

昨日会った子が気になるせいか13区へやって来た。

 

(少しお金はかかったけど....まぁいいかな...)

 

普段は利用しないこの地に踏み入れるのは何か新鮮に感じる。

一人で利用するのはあまり物寂しく感じない。

 

 

 

 

 

 

 

(むかし)から僕はそうだから――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

(ん?なんだろう?)

 

駅から出ると人だかりができていた。

人々は足を止め、何かを見ている。

何があったんだろう?と僕はそう思い、人々が見ているものを目にする。

僕が人々が目にしている先を見ると、驚いてしまった。

 

(....あの人って!)

 

僕は目にしたのは、二人の人物だ。

しかもその一人は"見たことのある人物"だ。

 

(花屋の方だ...!)

 

驚いたのはそれだけではなく、

 

(....子供が泣いている)

 

子供の足元には壊れた戦隊モノのロボットが落ちていた。

この状況は誰もが"彼女”が子供のおもちゃを壊したと考えれる状況だ。

 

(しかし....本当に壊したのだろうか...?)

 

この人が子供のおもちゃを壊すなんて考えられない。

 

(なんとかしなきゃ...)

 

彼女は子供になにも言わず、見ていた。

顔の表情は変わらずただ、じっと。

 

「そこの君」

 

すると警察官が彼女の元に近寄っていく。

 

「少し話を聞かせてもらえるかな?」

 

「別に何もしてないよ」

 

「なんでもないことは...」

 

(まずい...)

 

このままでは...彼女が...壊したことに..

ここで声をかけるのはためらいが胸の中にあったが....

 

(やるしかない...)

 

気持ちを整理し、前に一歩踏み出した。

僕が前に出ると視線が感じる。

人前に出ることは、得意ではない。

 

(妙に緊張がする)

 

「あの...すみませんが...」

 

僕は恐る恐る警察の人に声をかける。

周りの視線が彼女から僕の方に向いていったような気がした。

 

「なんだね?君?」

 

警察官は少し険しい顔でこちらに視線を向けた。

 

「えっと..」

 

(話さなきゃ....)

 

あまりにも唐突に声をかけたため、言葉を詰まらせてしまった。

 

「....?」

 

彼女は僕を見て何か反応したような気がした。

 

「えっと..」

 

僕が口を開いた直後、後ろから「すみません」の声が聞こえた。

すると後ろからスーツ姿の男性が顔を近づいてきて、

 

「もう少し彼女の話を聞いては?」

 

「っ!」

 

突然来たため僕は思わず、「ひっ...!」と声を上げてしまった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

(大丈夫かな..?)

 

僕はしばらく二人の会話が終わるまで待った。

何を話してるのかは知らないが、

先ほどの二人は警察官に連れて行かれ、

なぜか僕は取り残されてしまった。

 

(少し...申し訳ないことしたな...)

 

なぜ僕も連れて行かなかったのか...

胸がモヤモヤする....

 

(あれ..?)

 

すると彼女は、なぜか不機嫌そうに立ち去ってしまった。

 

(どうしたのかな?)

 

彼は顔は変わらず、名刺をしまった。

 

(彼がここから去る前に....)

 

僕はその彼に近づき、声をかけた。

 

「あの!」

 

「はい?」

 

彼はこちらに顔を向けた。

すると僕は再び「ひっ...!」と声をあげてしまった。

彼の顔は先ほどと変わっていなく、怖い。

 

(と、とりあえずお礼を....)

 

「さ、先ほどは...あ、ありがとうございます」

 

少々口がぎこちなく動いてしまった。

彼のオーラに僕は完全に負けてしまっている。

 

「あ、いえ...」

 

彼はなぜか納得のいかないような言葉を返した。

 

「さ、先ほどの状況で....あなたが入ったので....た、助かりました」

 

「あ、先ほど彼女を救ってくださった方ですか」

 

彼は思い出し、「少しご迷惑をかけました」と一礼をする。

 

「いえいえ、謝ることなんて...」

 

僕は手を振って拒否をした。

確かにあれのおかげで助かったのだが、

逆に彼に対して申し訳ないことをした。

 

(....そういえば、この方は誰だろう?)

 

あの状況で声かけるなんて、ただ者じゃないはず。

 

「えっと...あなたは..?」

 

僕が質問すると、彼はスーツから何か取り出した。

 

「私、こう言う者です」

 

彼が持っていたもの。

それは名刺であった。

 

「346プロダクション..?」

 

「はい」

 

彼がそう言うと、僕に名刺を渡す。

 

(346プロって...)

 

ふと頭からある単語が浮かんだ。

 

『わかんねぇか...もし346プロだったら...』

 

僕はその名刺を受け取った。

ヒデの言ったことを思い出したせいか、少し緊張してきた。

彼の話によると、

結局彼女が壊してはいないと彼は無表情で答えた。

僕はそれを聞いてほっとした。

この方は346プロの方だということは....

 

「えっと...つまり、彼女をアイドルにしようとスカウトを...?」

 

高校時代にふと耳にしたことがあった。

 

違うクラスの人で街で歩いてたら、たまたまアイドルのスカウトが来た、と言うことを耳にしたことがある。

 

「そうです」

 

彼は無表情な顔で口を開く。

僕はヒデと高垣楓さんのライブに行った時を思い出した。

間違いなく"昨日横に通りすぎた人物"だ。

 

「私は彼女をアイドルにするため、声をかけたのです」

 

暗い感じで目つきが悪い。

 

これは怪しまれるのは仕方ないだろう。

 

「それであの状況の中で....」

 

「はい」

 

なかなか会話が弾まない。

あまり話すのが得意でない僕とあまり話さない346プロのプロデューサーさん。

少しも表情が変わってない。

僕は不気味な人だなと感じてしまった。

 

「では私はここで」

 

プロデューサーさんは一礼し、立ち去っていく。

 

(..ん?そういえば...)

 

僕はあることを思いついた。

 

「あの、プロデューサーさん」

 

彼は僕の呼ぶ声に気づき、再びこちらに顔を向けた。

 

「なぜ彼女をスカウトしようとしたのですか?」

 

可愛い人ならどこにでもいるのだが....

なぜ彼女を?

しかし彼はこう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「笑顔です」

 

 

 

 

 

 

 

 

「笑顔?」

 

「はい。彼女をアイドルにしたい理由はそれです」

 

とても単純な理由だ。

僕はそれに少し驚き、それと同時に納得感は感じられなかった。

こんな簡単な理由でいいだろうか...

 

「じゃあ、他の子を探すのですか?」

 

「いえ、私はまだ彼女をスカウトをし続けます」

 

「そ、そうなんですか....」

 

さすがに不審者扱いされる....

僕は少々心配に感じた。

 

(....大丈夫かな?)

 

するとプロデューサーさんはあることを口にした。

 

「ちなみに、彼女とはどんな関係でしょうか?」

 

「え?」

 

彼の言ったことに止まってしまった。

 

「どうしてそれを..?」

 

「先ほど彼女はあなたに少し反応したので....」

 

どうやら、"彼"も気づいてたらしい。

おそらくプロデューサーという仕事は人間と関わる仕事だと思う。

それで気がついたと思う。

 

「いえ...実は以前、たまたま花屋さんでお会いしたことぐらいしか....それで助けようと声をかけたのです」

 

「そうですか」

 

無表情のまま、ぺこりと頭を下げ、

 

「では、ありがとうございました」

 

プロデューサーさんはそう言い、ここから立ち去った。

 

(怖い人だな...)

 

僕は少し緊張を感じながら彼と話してた。

こんな怖い人と話すのは初めてだ。

 

 

 

 

 

 

もしかすると...ニュースで耳にする喰種(グール)だったりして....

 

 

 

 

 

(....さすがにないよね)

 

僕は気を取り直し、

家に帰るため足を動かした瞬間、

 

 

 

 

「あなただったんですね」

 

 

 

 

プロデューサさんが去った後、

突然後ろから女性の声がした。

誰だろうと僕は振り向くと、昨日出会った"彼女"の姿があった。

あの時とは違い制服姿で、クールな外見だ。

 

「あの時、お花を買ってくださった方ですよね?」

 

「あ...はい。そうですけど...」

 

どうやら本当に覚えてくれていたようだ。

僕が警察に声をかけた時になにか反応したような感じがあった。

 

「ですよね、ここで会うなんて少し驚きました」

 

「そうですよね...ははは....」

 

先ほどの緊張感がまだ残っている。

 

(ど、どうしよ....)

 

僕はあまり女の子と会話は....

 

「確か、あなたは大学生の方ですよね」

 

「は、はい。金木研です...そうです」

 

緊張したせいか自分の名前を言ってしまった。

彼女はその僕の姿に少し笑い「緊張してますね」と笑いながら言った。

 

「私は渋谷凛」

 

彼女も自分の名前を口にした。

なんか申し訳ないなぁと僕は心に呟いた。

 

「で、何を話してたのですか?」

 

「え?」

 

彼女は先ほど346プロのプロデューサーさんとの会話を見ていたらしい。

彼女が僕の前に現れたのだから、立ち去った後見ていたのだろう。

 

「えっと...先ほど346プロダクションのプロデューサーさんにスカウトを断ったんだね」

 

「...それを聞いたのですか」

 

彼女は少し冷たく言葉を返した。

少し触れてはいけないところを触れてしまった。

なんか気まずい....

僕はそれに気づき「...なんか悪いこと言ってごめん」と小さく呟くように返す。

彼女その姿を見て「いや...そこまで落ち込まないでください」と少し焦った様子で僕に言葉を返した。

 

「....断ったんですね」

 

「そ、そうですね....私...アイドルとか"あんまりわからないし"」

 

彼女はなぜか言いにくそうに口を開いていた。

 

「.....そうなんだね」

 

「じゃあ、ありがとう....」

 

彼女は何か違和感を感じたような笑いをし、帰っていく。

僕はその帰っていく彼女に手を振った。

 

 

彼女は本当にやらないのだろうか?

彼女の背を向く姿に僕は疑問を感じた。

彼女は先ほど言いにくそうに言葉を返した。

なにか気を使っているかもしれないけど、

はっきりとしてない。

あの時出会った時の"卯月ちゃん”と比べて反対のような気がする。

きっと彼女はアイドルという世界を知らないから、断ったと思う。

突然アイドルのスカウトに来る。

アイドルになれば普通の日常が変わる。

でも、その新たな道に進めば"わからないこと"、こわいこと、そしていやなことに出会うかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが後々、自分(ぼく)に普通の日常が一変するような"出来事"に出会うとは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

20区に戻り、僕は家まで歩いていく。

日は昼より下がりつつあるが、まだ夜ではない。

先ほどの違和感を感じている"凛さん"の姿が頭から離れなかった。

 

(...なんか申し訳ないことしたな...)

 

プロデューサーさんはまだ諦めないから....

また彼女の下に来る可能性が...

 

(あれ?ここに本屋さんがあったんだ...)

 

ふと気がつくと、道の先に本屋さんがあった。

正確には古書店だ。

 

(...あるかな?)

 

ふと思い出した、僕の部屋には父さんがかつて読んでいた本がある。

それは僕にとって大切な本で、父の形見といえる。

 

(...入ってみよう)

 

入っていくと、古い本の匂いが漂う。

父さんの本と似ている。

 

「すみません...」

 

声をかけたのだが...誰も声を返してこない。

というか誰かいるような気配がしない。

 

(奥に進めばいるかな..?)

 

先が暗く、誰もが踏みよりたがらないぐらい雰囲気が怖い。

ここの店主は誰だろうか?

謎が深まる...

 

(...進もう)

 

僕は古書店の奥に進む。

まるで先の見えない森を進むように。

 

(....あれは?)

 

暗く本棚に挟まれた通路に進むと、

一人の女性が本を読んでいた。

 

(........)

 

気がつくと僕は彼女を見とれていた。

彼女は髪はロングで、前髪が目を少し隠してあった。

彼女は本を読んでいるせいか、こちらに気づいていない。

実に知的な女性だ...

 

(....あ、いけない!)

 

やっと僕は我に帰り、ここに来た目的を思い出す。

 

(まずは声をかけないと..)

 

僕は本を読んでいる彼女に声をかけた。

 

「.....あの...」

 

恐る恐る声をかけたら.....

 

「.........っ!」

 

やっと気付いたらしい。

彼女はあわわとお客さんが来ていたことに慌てていた。

僕も驚いた彼女に体が動いてしまった。

 

「..い...いらっしゃいませ」

 

彼女はこちらに視線を向け、少し笑顔で口を開いた。

僕は彼女を見て、目がはっとした。

 

 

 

 

 

なんて美しい方だ――――――――

 

 

 

 

 

 

 


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