東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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私は抱えてました

心の奥底に隠していた、他人には言えない悩みごとを

その悩みごとは悲しく、儚いものでした




抱我

志希Side

 

 

(警戒してるね...)

 

やはり"カネケンさん"と関わったせいで、文香ちゃんは敵を見るような目で見ている。

やっぱあのベタベタに接したことが悪かった。

 

「なんのようですか....」

 

「ちょっと落ち着かない?いつまで警戒してもあれだしー?」

 

「.........」

 

とりあえずこの嫌な空気を変えようとしたけど、文香ちゃんは警戒をし続ける。

多分、あたしのことを本当に"敵"と認識していると思う。

 

(んー"話すこと"(カネケンさんの約束)があるのになー)

 

それをまず出さないとカネケンさんとの"約束"が果たせないし、

文香ちゃんにとって大切なことが伝わらない。

どうにか文香ちゃんの警戒を解かないと...

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

文香Side

 

 

私は一ノ瀬さんを警戒しておりました。

彼女は私と同じくスカウトで346プロダクションのアイドルになりました。

どうやら私に声をかけたプロデューサーがスカウトしたらしく、私と"同じ部署"に所属しています。

 

「文香ちゃんはカネケンさんと仲良しだよね?」

 

「"カネケン"...?」

 

聞きなれない名前に私は疑問を感じました。

 

「あーカネケンさんは文香ちゃんのお友達の"金木研”のことだよ?」

 

「金木さん...ですか....」

 

やはりストーカをしていたことで、おそらく金木さんにだいぶお近づきなっていると思います。

そう思うと、一ノ瀬さんは”簡単に信頼するような人物ではない”と私は感じました。

 

「一ノ瀬さんは金木さんとはどんな関係でしょうか?」

 

私がそう言うと一ノ瀬さんは「んーどうだろうー?」と軽く返しました。

 

「別に恋人関係でもないし、かと言って知り合いと言うほどでもないし......まぁ、仲良しだよ」

 

一ノ瀬さんの発言が実に不愉快に感じられました。

そんなに金木さんと仲良しなのかと。

 

「文香ちゃんってカネケンさんのこと、どう思っている?」

 

「私ですか....」

 

年齢的には後輩と言うべきと思いますが...

よく考えてみれば、今まで金木さんを後輩だとい感じたことも一度もなく、

先輩・後輩関係と言えないような気がします。

 

「....お友達...ですね...」

 

「へーそうなんだー」

 

そう言うとにやにやと何か考えているような顔をしました。

なんだかその姿に怖く感じました。

一ノ瀬さんは話を止めることなく、次の質問をしました。

 

「カネケンさんとは"仲良いの”?」

 

「...........」

 

普通に『仲良しです』と言えばいいのに、なぜか口に出ませんでした。

別に難しい質問ではありませんのに

 

 

 

 

 

『文香さんが変われたら、ぼくは"嬉しいよ"』

 

 

 

 

「....!」

 

あの言葉が突然頭に過りました。

何か隠しているかのような口で言った言葉。

そしてどこか悲しそうな顔。

私はそれを思い出した瞬間、なぜか体が震えました。

何か恐ろしいものに怯えるように。

 

「ん?どうしたの?」

 

一ノ瀬さんがそんな私の姿に変に感じたと思います。

 

「な....なんでも.....あ.....ありません....」

 

私は視線を下に向き、震える口で返しました。

 

「いや、文香ちゃん。なんかおかしいよ?」

 

一ノ瀬さんは私の横に座り、声をかける。

 

「なんでも....ないです.... 本当に....」

 

私はそう返しましたが一ノ瀬さんは辞めず私に声をかけました。

それがまずかったのです。

一ノ瀬さんは「いや、おかしい」と言おうとした瞬間、

私の心の中に抑えていた感情が爆発しました。

 

 

 

 

 

「本当になんでもないですっ!!」

 

 

 

 

まるで静かな場所に一つの大きな雷が落ちたかのように、

今まで出したことない大声で、周りの音が一瞬消え去りました。

 

 

「......あ...」

 

 

気がつくと私の頰に冷たい何かを感じました。

それに静かに触れますと、それは汗ではなく涙でした。

 

「す.......す、すみません....すみません....」

 

私は両手で目を隠し、ひたすら一ノ瀬さんに謝りました。

涙がとても溢れ出て、両手では抑えきれませんでした。

 

「..........」

 

一ノ瀬さんはしばらく何も言わずに見ていたと思います。

まさかそんな行動が起こすなんてと驚いていたと

 

 

「.....いいよ文香ちゃん」

 

 

志希さんは静かにそう言い、私を抱きしめました。

 

「.....っ」

 

その時の私は驚いてしまいました。

まさか急に抱きしめられるなんて。

 

「......っ」

 

志希さんの体温が心地よく感じました。

 

「...カネケンさんとは"仲良し"なんだよね?」

 

「..........はい..」

 

私は小さく言い、頷きました。

 

「...別にカネケンさんはいい人なのに、どうして言いづらいかな?」

 

「金木さんを思い出すと....本当にアイドルをやっていいのか...」

 

あの"どこか悲しい顔"が浮かぶ度、本当にアイドルをやっていいのかわからなくなります。

志希さんは「うんうん」と私のお話を聞いてくれました。

今の志希さんは先ほどの子供っぽい感じが嘘かのようでした。

志希さんは私を抱きつくのをやめ、私の顔を見ました。

 

「文香ちゃんはやりたい?アイドルを?」

 

「.......」

 

アイドルをやるのが日々疑問を感じる時があります。

まるで自分の意思でやっているわけではないような。

 

「私は...少しアイドルに不向きかもしれません...」

 

他にも理由はありました。

私は他の人とは違い、夢はアイドルではありませんでした。

なので、”卯月さん”のように養成所に行っていませんでした。

 

「この前に基礎レッスン後で...倒れまして...」

 

しばらく運動をしておりませんので、基礎レッスンがとてもきつく感じました。

 

「そうなんだ。あたしと"同じ"じゃん」

 

「え?」

 

私は志希さんの言うことに驚いてしまいました。

志希さんはそんな体つきには見えませんが...?

 

「私もレッスンの時で貧血で倒れちゃってー」

 

志希さんは笑い事のように話し、にゃははと笑いました。

 

「志希さんは運動できそうな体つきだと思いましたが...」

 

「そんなことないよ。あたしはしばらく試作品作ったりして」

 

「試作品?もしかして...志希さんは何か研究を?」

 

「まぁ、私は化学が好きなんだよねー」

 

「化学ですか...」

 

つまり志希さんは私とは反対の理系ということです。

 

「こう見えて大学に飛び級してね」

 

「飛び級...?」

 

でも今のお姿は"高校生"...ですが...

 

「でも、結局大学を辞めて、ここにいるわけ」

 

少しもったいないように思えますが....

よく考えましたら志希さんは私とは違い、周りに流されずに自分の意思で決めたと言えます。

 

「文香ちゃんは大学でお友達はいる?」

 

「今のところは....金木さん以外はいませんね..」

 

今のところ346プロダクション内だと、"奏さん"と"ありすちゃん"だけです。

 

「へー。じゃあ、あたしと友達にならない?」

 

「お友達ですか...?」

 

「あたし、まだ友達いなんだよねー。まぁ、原因は"癖"だけど」

 

「”癖"?」

 

「"失踪癖"があって、他のアイドルとは会う機会がないんだよねー」

 

そう言うと、志希さんはにゃははと笑いました。

確かに....346プロダクションで志希さんを見かけたことはあまりないような....

すると志希さんは『あ!そうだ!』と何かを思い出したような仕草を見せ、カバンの中から”あるもの”を私に渡しました。

 

「これは...?」

 

志希さんが渡したのは、引きちぎったルーズリーフでした。

表には何も書いてはいませんが...?

 

「”カネケンさん”の連絡先、持ってないでしょ?裏に書いてあるよ?」

 

私は志希さんに言われた通りに裏を見ますと、

そこに書いてあったのは、一つの電話番号。

つまり"金木さんの連絡先"でした。

 

「はい...連絡先は知らないです」

 

「じゃあこれで、カネケンさんと連絡したら?」

 

「金木さんと連絡...」

 

少し胸が複雑に感じました。

なんだか電話をかけるのが勇気がいるようでした。

そんなことを考えていた時、志希さんがあることを言いました。

 

「カネケンさんは"抱え込みやすい人"だよ」

 

「"抱え込みやすい"...?」

 

「だから、何か"おかしいこと"なかった?」

 

「おかしいこと...っ!」

 

すぐに頭に浮かびました。

あの”寂しそうな顔”。

見ているのが辛く感じてしまう顔が頭に浮かんできました。

 

「はい...私がアイドルをやると金木さんに伝えた時ですね...」

 

「やっぱりー」

 

私は『え?』と小さく驚きました。

 

「その文香ちゃんがアイドルをやると言った後、カネケンさんはどうなったかわかる?」

 

「...いえ、それ以降直接はあっていませんのでわかりません」

 

私がその報告をした後、金木さんとは一度も会っていないため、わかりませんでした。

 

 

「カネケンさんは、泣いたよ」

 

 

「....っ!?」

 

私はそれを聞いて衝撃を受けました。

まさか..そんなことがありましたとは.....

 

「でも」

 

「でも?」

 

「文香ちゃんがアイドルをやることに悲しかったんじゃないよ。カネケンさんは文香ちゃんと"別れるんじゃないか”と泣いたんだよね」

 

どこかで聞いたことがあります。

昔、仲がよかった友人が有名人となり、離れ離れになってしまうような本を読んだことがあります。

 

「だから、時間があったらカネケンさんに連絡したら?」

 

「...はい、そうでね」

 

ここ数ヶ月、金木さんとは会ってはいません。

おそらく金木さんは私に避けられているとお考え担っていると思います。

 

「あ、そういえば。"卯月ちゃん"の連絡あるけど....いる?」

 

「卯月さんの連絡先ですか?」

 

とても不思議に感じました。

なぜ他の人の連絡先を知っているのかを。

 

「同じアイドルですし...金木さんとはお友達でしたね...」

 

「あれ?どうして知っているの?」

 

志希さんは不思議そうな顔をし、頭を少し傾けた。

 

「以前、金木さんが卯月さんが参加している"new generations"の皆さんの写真を見せてもらいまして」

 

「へー意外とカネケンさんは他の人に言うんだね」

 

やは金木さんは親しい人には言う方だとわかります。

それにしてもどうして志希さんが卯月さんの連絡先を知っていたのかは知りませんが。

 

「とりあえず、卯月ちゃんの連絡先も書いてくよー♪」

 

そう言うと志希さんは私が持っていたルーズリーフを取り、ポケットから取り出しだしたペンで書きました。

 

「文香ちゃんって可愛いね」

 

「そ、そうでしょうか...」

 

私は読んでいた本で口を隠しました。

その私の姿に志希さんは「かわいい〜」とにゃははと笑いました。

 

「多分カネケンさんは文香ちゃんを可愛いと思っているよ」

 

「か、可愛いと...?」

 

妙に恥ずかしく感じました。

その恥ずかしさはただの恥ずかしさではなく、

"嬉しさ"が混じった恥ずかしさでした。

 

「て言うことで、あたしもうそろそろ、ここから去らないとー」

 

志希さんはルーズリーフを私に渡し、

ここから立ち去ろうとした時、

私は志希さんの行動にあることが浮かびました。

 

「"失踪"ですか?」

 

さすがに仕事に行くような空気がなく、

おそらくここから立ち去るつもりだと思いました。

 

「お?わかってるじゃんー♪」

 

見事に的中しました。

 

「あたし疾走するから、プロデューサーに内緒ね?」

 

「...はい。わかりました」

 

なぜか私は志希さんの言うことに同意してしまいました。

いけいないことですのに。

 

「じゃあ、バイバーイ」

 

志希さんはそう言いますと、ここから逃げ去るように去りました。

 

(...あ)

 

私は志希さんからもらったルーズリーフを見て、"あること"に気づきました。

 

(志希さんの連絡先もありますね...)

 

金木さんの連絡先の下に、大きなハートのマークの中に『志希』と書いてありました。

 

 

こうして、志希さんとお友達になりました。

彼女は見た目はマイペースで、どこか幼い感じがあるように見えますが、

実は周りのことをよく考えていまして、良い方でした。

 

 

志希さんは....よい友人になれそうです。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

志希Side

 

 

「あーよかった♪」

 

あたしは346プロから逃げ出し、街に歩いている。

さっき、カネケンさんとの約束を果たせた。

あとは文香ちゃんが行動を起こせばいい。

ちなみにあたしが友達はいないと言ったのは"嘘"。

本当は友達がいる。

例えば"フレちゃん”や”周子ちゃん"、あと文香ちゃんと知り合っている"奏ちゃん”三人だ。

文香ちゃんと友達になろうとしたかった理由は、カネケンさんになんとなく似ているからだ。

他に理由はあるけど、特に大きいのはそれだ。

あの本を読む姿を見ると、カネケンさんの姿を思い出してくるから。

あとは文香ちゃんはかわいいぐらいかな?

 

「ん?メール?」

 

すると、ポケットからメールの着信音がした。

スマホを開くと、意外な人物からのメールだった。

 

「あれ?カネケンさんじゃーん♪」

 

なんとも珍しい。

だいたいあたしからメールするだけど、今回はカネケンさん。

そのメールにはこう書いてあった。

 

『暇な日ある?』

 

これはもしかしてあたしに誘っているかも?

 

『いつでも暇だよー』

 

『また...失踪してるの?』

 

おそらくカネケンさんはため息をしていると思う。

あたしはいつでも失踪している。

 

『今度美嘉ちゃんと遊びに行くんことになったんだ』

 

「おーなかなかやるねー」

 

一体どこ経由で知り合ったかはわからないけど、

多分"卯月ちゃん経由"かな?

 

『だから、志希ちゃんも来ない?』

 

そこは二人っきりにしたほうがいいと思うけど、

最近カネケンさんに会っていないからお誘いに乗ろう〜♪

 

(あ、そうだ...!)

 

あたしはあることを思いつき、メールを打つ。

その打ったメールはこう書いた。

 

『友達連れてきていい?』

 

その書いたメールを送ると、

すぐに返信が来た。

 

『友達?別に連れてきてもいいけど...?』

 

あたしが連れてきたい理由は。346プロで出会ったアイドルをカネケンさんに合わせてみたいから。

そしたら"面白いこと”が起こるかも。

 

「誰にしようかなー?」

 

とは言ったものの、誰を誘うのかは決めてはない。

ちなみに文香ちゃんは誘わない。

先ほどカネケンさんの連絡先を教えたのだから、

あとは自分で誘えばいいと思う。

そうじゃないと、カネケンさんのためにもならないし、文香ちゃんのためにもならない。

 

「ーーーよし、決めた!」

 

しばらく考えた末、

今度カネケンさんに合わせてみたい友達を決めた。

 

これがあの"有名なユニット"が出来るきっかけだなんて、カネケンさんが"いい匂い"を出している証拠だよ。

 

 

 


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