東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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言の葉は増えて、秘めたる真意を伝える秘術はないものか...


邪眼

 

 

 

 12時 ーーー 13区

 

 

「な、なぜ我が名を知っている....!?」

 

彼女はとても驚いた。

まるで私しか知らない秘密が漏れてしまい、なんで知っているのかと言うような感じに。

リアクションがすごい。

 

「えっと....."シンデレラプロジェクトの人"だよね...?」

 

ぼくはそんな彼女に恐る恐る尋ねるように話しかける。

彼女はまだCDデビューはしていないため、あまり知名度はない。

彼女がどうして驚くのかわからなくもない。

 

「ふふふ.....我を覚えているとは、嬉しきこと」

 

右手で手を顔を隠し、ポーズを決める。

 

「我が名は神崎蘭子。しかと覚えよ…!」

 

手を前に出し、ビシッとポーズを決める。

 

「ク、ククク。こ、この私の心結界を破るとはアナタの力もなかなかのようね……フフ、ハハハハ!」

 

高笑いが周りにだいぶ響く。

何人かの人は、こちらをちらっと見たような気がする。

なんだか見ているこっちが恥ずかしく感じてしまう。

 

「我が"グリモワール"を見た、愚かな者よ....」

 

「う、うん....」

 

いけなかったと思う。

改めてノートを見てはいけなかったと心から思う。

 

「我に"禁断の果実"を求めんとする!」

 

「"禁断の果実"...?」

 

"禁断の果実"といえば、旧約聖書の創世記に出てくる"りんご"のことだよね....?

まさか"りんご"を求めているのかな?

 

「もしかして....りんごが欲しいのかな?」

 

「ふふふ.....わからぬか....」

 

どうやら違うらしい。

 

(なんだろう.....)

 

ぼくは腕を組み、考える。

りんごじゃなければなんだろうか?

イチジクでもなさそうだし、ブドウじゃなさそう...

[旧約聖書では禁断の果実は"りんご"とは書かれてはない]

 

(ん...?)

 

気がつくと蘭子ちゃんは何か見ていた。

見ていた先は、"ある飲食店"だ。

確かちょうどお昼の時間帯だ。

 

「日時計が、新たな贄をと囁いている…」

 

蘭子ちゃんはそれを見て、呟くように言う。

 

("禁断の果実って".....まさかーーーー)

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

12時頃 ーーー ハンバーグ専門店

 

 

「ふふふ....さすが罪を犯しき者...」

 

「その言い方やめてくれないかな.....」

 

"禁断の果実"が合っていたことにほっとしたが、

蘭子ちゃんの服装がかなり目立っているせいか、席の周りから視線が感じる。

 

(ちゃんとお金払ってくれるかな....)

 

別にお金に余裕はあるが、彼女は持っているかどうかはわからない。

 

「蘭子ちゃんって、普段からそういう喋りなの?」

 

さすがにそんな感じ喋ると、どこか休みが欲しくなると思うが....

 

「我が言霊は読み解けぬと…?」

 

「......う、うん。そうだね....」

 

多分、『私の言っていることわからないの?』と言っているように思うが...

よくわからない。

 

「ハンバーグを禁断の果実じゃなくて、もっと...何かわかりやすいものしたらいいんじゃないかな?」

 

「他にふさわしき言の葉があるのか?」

 

「別の言い方でたとえば..."聖なる肉"とかハンブルクの....なにかとか」

 

「我がふさわしくない」

 

蘭子ちゃんは即答で返す。

 

「ダメなんだね...」

 

そう会話していると鉄板に乗ったハンバーグが、ぼくたちが座る席にきた。

肉の焼ける音が響き、食欲がそそる。

蘭子ちゃんはそれをみて、かなり喜んでいた。

 

「これこそ.....我が求めていた...."禁断の果実"!」

 

ポーズを決める。

本当に普段からこんなキャラクターなのかと疑ってしまう。

 

(まぁ、今日は気分転換でハンバーグを食べるか....)

 

ぼくも同じくハンバーグを頼んだ。

本来ならハンバーグは特別な日にしか食べないが、今回は頼んだ。

ナイフでハンバーグを切る。

そしたらハンバーグの中から肉汁が溢れるように現れた。

 

(おお....)

 

ぼくはそれ見て感動をしてしまった。

いい光景だと心の中から呟く。

そして切ったハンバーグをフォークで刺し、口に運ぶ。

 

(おいしい.... )

 

ここのハンバーグは美味しい。

いい火加減に肉の旨味がうまく伝わっている。

 

「薔薇にも、潤いを…」

 

蘭子ちゃんは食べるたびにコメントを口にする。

彼女も美味しそうに味わっている。

そんな彼女を見ていると、食レポ番組に出れるんじゃないか思った。

 

(......そういえば)

 

そんな蘭子ちゃんにずっと気になることがあった。

 

「ところで....そのノートって..」

 

蘭子ちゃんはびくっと体を動かした。

多分『え?』と驚いてしまっただろう。

 

「ぐ、グリモワールは禁断の書よ....」

 

「うん...まぁそうだよね...」

 

『このノートは魔法書よ』と言っていると思う。

蘭子ちゃんは隠しているように見えた。

グリモワールはフランス語で言うと魔法書だ。

 

「でも中身みたら、衣装についてのイラストみたいだったよ?」

 

魔法書と聞くと文字ばっかりのイメージがあったが、蘭子ちゃんのノートの場合"絵"がメインだ。

 

「えっと...確か...傷ついた悪姫、我が名はぶりゅ」

 

「あ、言わないでください!!」

 

「...え?」

 

ぼくは彼女の声に留まってしまった。

彼女の声から聞くのことのない言葉を聞いたからだ。

蘭子ちゃんは「うぅ、恥ずかしい」と呟く。

 

(....自覚はあるんだ)

 

少しほっとした。

彼女もONとOFFがあるんだなと。

 

「もしかして、誰かに見せる予定だった?」

 

「........」

 

先ほどの堂々とした態度とは違い、恥ずかしそうであった。

そしてゆっくりと口を動かす。

 

「ぷろ....でゅー....さー」

 

「ん?プロデューサー...?」

 

誰だろうと思ったが、彼女が所属しているところを考えたらすぐにわかった。

 

「ああ、"シンデレラプロジェクトのプロデューサーさん"のことね」

 

「なぜその名を!?」

 

迫力のある感じで聞く。

 

「確かこれだよね?」

 

ぼくは財布から"あるもの"を出した。

彼からもらった物だ。

 

「これは...!」

 

蘭子ちゃんに渡したのはプロデューサーさんの名刺だ。

 

「名前は間違っていないよね?」

 

蘭子ちゃんはうんうんと頷く。

 

「そのノートをプロデューサーさんに見せるのかな?」

 

「ま、まだその時ではないわね。今しばらく、無垢なる語らいを…」

 

どうやら彼女はまだ見せないらしい。

 

「すぐに見せたほうがいいと思うけどな...」

 

ぼくはそう呟くように言うと、蘭子ちゃんはそんなぼくに「なぜだ?」と聞く

 

「自分の考えを相手に見せるのはいいと思うよ」

 

「...考え?」

 

「蘭子ちゃんの場合絵が上手いから、もしかしたらそれがステージ衣装になるかもしれないよ」

 

あのノートには絵が書いてあった。

顔は簡単に書かれていたが服装については上手く書かれていた。

そんなのを見せなかったらもったいない。

 

「だから、そのノートをプロデューサーさんに見せたほうがいいと思うよ」

 

「....そうですか」

 

「....え?」

 

普通に言葉を返したことに驚いてしまった。

蘭子ちゃんは自分の言った言葉にはっと気づき、言葉を直す。

 

「ウ、ウンディーネの壺をここへ」

 

「......ああ、水のことね」

 

ぼくは蘭子ちゃんのコープに水を注ぐ。

ウンディーネは四大精霊の水を司る精霊のこと。

蘭子ちゃんは何か疑問を持ったような顔をした。

 

「なぜ我の言葉を読み解けた?」

 

「昔から本を読むことが好きだから、本に出てくる伝説とか専門用語ならなんとなくわかるよ」

 

父さんが残してくれた本を読んだきっかけで、ぼくは本が好きだ。

本に関する知識ならなんとなく行ける。

 

「例えばさっき蘭子ちゃんが言ってた"禁断の果実"は旧約聖書の創世記に出てくるアダムとエバが食べたものだよね」

 

おお、と目が輝いていた。

 

「フフフ、波動が伝わったようね」

 

蘭子ちゃんは手を顔を当て、ポーズを決める。

多分「わかってくれたようね」と言っていると思う。

 

「ところでお金ある?」

 

「.....え?」

 

蘭子ちゃんは輝いていた顔から、呆然とした顔へと変わった。。

そしてすぐにバックに調べる。

 

「..........」

 

そして何も言わず、こちらに顔を向ける。

 

「.........」

 

「え?」

 

まさか....

 

「........忘....れた....」

 

「ないんだね....」

 

少し涙ぶんだ目をし、こくりを頷く。

 

「まぁ...大丈夫だよ...とりあえずぼくが払うよ」

 

財布を確認をする。

あるのかなと思ったが、蘭子ちゃんの分も問題なく払える。

 

「....ありが...とう..」

 

本当ならばここでは『ありがたきなんとか』と言う場面だと思うが、蘭子ちゃんは言わなかった。

ここで見ると蘭子ちゃんは優しい子だと感じた。

 

「確か....島村卯月ちゃんと同じ部署にいるよね...?」

 

「なぜそれを聞く?」

 

「卯月ちゃんとはお友達だから...その経由で返してもらうつもり」

 

蘭子ちゃんはそれを聞いた瞬間、「友なのか!?」大きく驚いた。

 

「...う、うん..」と小さく頷く。

なんだか蘭子ちゃんのテンションについていけない。

 

「.....そなたの名は?」

 

「ぼくは、金木研」

 

そう言うと、蘭子ちゃんは手を前に出し、

 

「我が友、カネキ。感謝をする!」

 

またしてもポーズを決める。

さっきまで普通の感じとは違い、迫力のあるテンションが戻った。

 

「ちゃんと返してね?」

 

蘭子ちゃんの姿にちょっと不安を感じた。

真面目にやっているのかふざけてやっているのかよくわからなくなったからだ。

それからしばらく話し合った後(だいたいは聞くのが苦戦したが)、蘭子ちゃんとは仲良くなり、彼女は帰って行った。

彼女は難しい言葉やわかったことは、いい子だと言うことだ。

一瞬だったけれど、普通に喋った。

そっちの方で活躍すればいいのにのに....と思ったが、

あの彼女の迫力のあるテンションは個性だ。

別にあのテンションを否定するつもりはない。

 

(....伝えてくれるかな?)

 

この後問題なのは、お金が帰って来てくれるかどうかだ。

蘭子ちゃんが喋る言葉は難しいため、伝わるかどうか不安。

ちゃんと卯月ちゃんのところに伝わればいいのだが.....

 

(まぁ..."我が友、カネキ"と言ってくれているから....なんとか伝わりそう)

 

蘭子ちゃんがちゃんと卯月ちゃんのところに伝わることを信じて、ぼくは13区を後にした。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 後日 ーーー 上井大学

 

 

講義が終わった後、ぼくはベンチで一人読書をしていた。

本来なら文香さんが来るのだが、今日は来ていなかった。

おそらく346プロでのお仕事で大学に来ていないかもしれない。

そんな読書している時、ぼくの名前を呼ぶ声がした。

 

「カネキー!」

 

ヒデの声だった。

 

ぼくが「どうしたの?」と聞くと、ヒデは雑誌を渡してきた。

 

「いやー蘭子ちゃんの曲最高だわー」

 

雑誌の表紙には蘭子ちゃんの姿があった。

ぼくはそれを見た瞬間、小さく驚いてしまった。

 

「あのゴスドリチックな感じも最高。実に蘭子ちゃんらしい!」

 

「そ、そうなんだ.....」

 

ぼくは少し違和感を抱えた感じに言葉を返す。

理由があったから。

 

「どうしたんだ、金木?」

 

「い、いや...なんでも....」

 

ぼくは困惑した感じに返す。

さすがに蘭子ちゃんと食事に行ったとは言えない。

そんな姿を見たヒデは、良からぬ顔をし、

 

「最近卯月ちゃんと話してるか?」

 

「いや...最近忙しいって」

 

「いや、実は最近デートとかし」

 

「そんなことしないよ...卯月ちゃんはアイドルだからそんなの無理だよ」

 

さすがに卯月ちゃん以外にも交流しているアイドルがいるとは言えない。

そう会話していると、ヒデがあることを思いついたような仕草をした。

 

「あ、先輩のところに行かねえと」

 

「え?どうして?」

 

「ちょっと頼まれたことがあって」

 

ヒデは「じゃあ、またなカネキ!」と言い、去って行った。

 

(まぁ...蘭子ちゃんとは出会ったと言わずに済んだ...)

 

そしたらもっとめんどくさくなったと思う。

そう安心していると、携帯が鳴った。

画面を見ると未央ちゃんから電話があった。

 

(...未央ちゃん?)

 

なんでだろうと思い、電話をかける。

 

「もしもし...」

 

『やっほー金木さーん』

 

未央ちゃんの声が聞こえた。

相変わらず元気だ。

 

「どうしたの...?」

 

『金木さん、らんらんと食事に行ったんだー』

 

先ほどのヒデと同じく、良からぬ感じにぼくに聞く。

 

「どうしてわかるの?」

 

『らんらんが言ってたよ』

 

(え?未央ちゃんわかるの..?)

 

ぼくでも理解できないのに、どうやって理解できたのだろう...?

 

「未央ちゃんって...蘭子ちゃんの言葉わかるの..?」

 

『え?いやいや、私じゃなくて"みりあちゃん"がそう言ってたから』

 

「......え?みりあちゃんが?」

 

一瞬、疑ってしまった。

あの小学生のみりあちゃんがわかっていることを。

 

「みりあちゃんってわかるの...?」

 

『なんかわかるらしいんだよねー』

 

疑ってしまう。

難しい文学的な言葉を理解することできるなんて.....

 

「すごいね.....ははは....」

 

まさか将来蘭子ちゃんのようにならないだろうか....

少し心配してしまった。

 

(あ、そういえば...)

 

あることを思いついた。

 

「あの、蘭子ちゃんに伝えて欲しいことがあるんだけど....」

 

「ん?」

 

「お金....」

 

『お金?らんらんのですか?』

 

「いつもらえばいいかな?」

 

彼女はCDデビューを果たし、人気が出て来ているため、

会えそうにない。

 

『んー確かにらんらんはしばらく忙しいよね.....あ!』

 

すると未央ちゃんが何か思いついたような声を出した。

 

『じゃあ、金木さん』

 

未央ちゃんがあることを提案した。

 

 

 

『"ブレインズキャッスル"の収録で会いませんか?』

 

 

 


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