東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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わからない

その道に本当に進んでいいのか

私はわからない


未開

 

 

 

 夕方ーーー公園

 

 

凛Side

 

 

私たちは公園のベンチに座り、しばらくお互い黙っていた。

あいつは何を思っているのかわからないけど、私は苛立っていた。

なんで来たのかと。

 

「どうして、私のところに?」

 

「卯月ちゃんから聞いたんだ」

 

「卯月から?」

 

「電話で『凛ちゃんのところに行ってください』と」

 

私は「そう」と"あいつ”(金木)の顔を向かずに言う。

ムカつく。

 

「だから朝に"事務所"から出たんだね」

 

「........」

 

イライラしているせいか私は何も言葉も返す気にはならなかった。

しかも"ちゃんづけ"とか。マジ、キモい。

 

「....どうしてな」

 

「関係ないでしょ、あんたに」

 

「.....」

 

私は口を尖らす。

それと同時に"あいつ”(金木)は口を閉ざす。

 

「未央が出た理由とか、私が出た理由とか知らなくてもいい。これは"こっち問題"だから」

 

ムカつく。

あの頼りなさがムカつくんだよ

 

「なのになんで関わろうとするの、"あんた”(金木)?」

 

私は手を強く握りしめる。

私は何もわからずやっている。

まるで真っ暗な世界にただ歩き続けているように。

そんなんだったら初めからしなくてもよかった。

 

「......"凛ちゃん"」

 

金木の声が大きく響いたような気がした。

弱々しいのになぜか耳に響いたんだ。

 

「確かに君の言う通り....ぼくは理由を知ろうとしていた」

 

「未央ちゃんがどうしてアイドルをやると言ったか知りたかったし、凛ちゃんが事務所から出たことも」

 

「.........」

 

「もしみんながやめたら、一番悲しくなるのは”卯月ちゃん”だと思う」

 

「”卯月”...?」

 

卯月に反応する。

プロデューサーだと思っていたが、なぜ卯月を?

 

「さっき卯月ちゃんと電話していて思ったんだ。卯月ちゃんだけはとても明るかった」

 

「何も暗いことも言わず、今度も凛ちゃんと未央ちゃんと一緒にライブなどに出演したいと言ってた」

 

なんで解散するかもしれない状況なのに、どうして明るい?

 

(......っ!)

 

私は思い出す。

春に出会った、卯月の笑顔が。

 

『私はこれから夢を叶えられるんだなって....それが嬉しくて!』

 

キラキラで眩しかった笑顔が頭に浮かぶ。

あの笑顔で私はアイドルと言う別の世界に歩めたんだ。

 

「....だからぼくは、諦めなかったんだ。もう一度みんなが一緒になれることを」

 

「.......」

 

"あいつ”(金木)は少し手を握り、こう言った。

 

 

 

「だからぼくも、凛ちゃんがやめたら......"悲しいよ"」

 

 

 

"寂しいそうな顔"で私に言う。

私はその顔を見て、気づく。

"あいつ”(金木)は卯月とは違い、笑顔ではなく寂しそうな顔。

心から悲しんでいるように見えた。

なぜそこまで悲しむ必要が...?

 

「しぶりん!!」

 

久しぶりに耳にすることが聞こえた。

前に向くと、未央の姿があった。

 

「未央ちゃん...!」

 

"あいつ”(金木)は未央の姿を見て、驚く。

未央だけではなく、プロデューサーもいた。

 

「しぶりん!私........ごめん!」

 

未央は頭を下げる。

 

「私...やめると言って、リーダなのに逃げ出しちゃって、迷惑かけてごめん!」

 

「アイドル、一緒に続けさせてほしい!」

 

「........」

 

なんて答えればいいのかわからず、言葉が出せない。

言えばいいのになぜか出なかったんだ。

するとプロデューサーは『渋谷さん』と私に呼び、近づく。

 

「私はあなたの言う通り、私は逃げていたかもしれません」

 

あの無表情か顔ではなく、真剣な眼差しで私を見る。

 

「あなたたちを混乱させて、傷つけてしまいました」

 

あの逃げているような感じではなかった。

 

「....嫌なんだよ。アイドルがなんなのかわかんなくて、わかんないまま初めて、よくわかんないままここまで来て...」

 

アイドルにスカウトしてからずっと思っていたんだ。

他の子よりも早くステージに立ち、早くCDデビューをして、本当にいいのか疑問を持ったまま過ごしたんだ、私。

 

「だからそう言うの、嫌なんだよ」

 

今まで心にあった疑問を口に出した。

胸のモヤモヤが少し軽くなったような気がした。

 

「努力します。もう一度、皆さんに信じてもらうために」

 

プロデューサーが手を差し伸べる。

私は手を置くのをためらう。

本当にいだろうかと。

すると未央が私の手とプロデューサーの手首を取り、繋ぐ。

 

「しぶりん...」

 

涙ぐんだ眼差しで私を見る。

 

「もう一度、一緒に見つけに行きましょう.....あなたが夢中になれる何かを」

 

「.........」

 

私は"あいつ”(金木)方に顔を向けた。

そしたら"あいつ”(金木)は寂しそうに微笑み、頷く。

"間違ってはいないよ"と言っているように見えた。

 

 

そして、私は立ち上がる。

 

 

それと同時に私を取り付いた迷いと不安が取り除かれた。

 

「明日からも、宜しくお願いします」

 

「「はい!」」

 

私たちは再び、一つになった。

今まで歩いて来た真っ暗な世界が明るくなった。

 

「.....っ」

 

"あいつ”(金木)は何も言わずに私たちをそっと座って見つめていた。

でもただ見ていただけじゃなかった。

寂しそうに微笑んでいた。

きっと心から喜んでいると思う。

とてもよかったと。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

ぼくはその光景をそっと見つめていた。

壊れていた関係が、元通りに戻った光景を。

 

「金木さん!」

 

すると未央ちゃんがぼくの呼び、ぼくの元に来る。

 

「あの時のミニライブ.......ごめん!」

 

そう言い、頭を下げる。

ぼくはその姿に見て、慌ててしまった。

 

「だ、大丈夫だよ..未央ちゃん。また今度、成功すればいいから」

 

「ありがとう....金木さんっ!」

 

彼女は飛びつき、ぼくに抱きつく。

あまりにも強く来たため、ぼくは「うぐっ」と声を上げてしまった。

 

(だ、抱きつかれている....!)

 

ぼくは顔が赤くなる。

腕に抱きつかれることは何回かあったが、真正面に抱きつかれるのは初めてだ。

 

「あの時は....ごめん....ごめん...」

 

未央ちゃんは泣きながらに言い、しばらく離れない。

ぼくはそんな姿を見て、恥ずかしさがなぜかなくなってきた。

 

(未央ちゃん...そんなに謝りたかったんだね...)

 

よく考えてみれば彼女はぼくに申し訳ないことをしてしまったと思う。

前日にぼくにわざわざ電話で報告をしてくれたり、

サイン入りCDをもらう時に卯月ちゃんが

『私が金木さんにこのCDをあげますと言った時、未央ちゃんが「サイン書いた方がいいじゃない?」と提案したんですよ』など、

ぼくに期待させておいたライブを壊してしまって、謝りたかったと思う。

 

「...もう大丈夫かな?」

 

ぼくが言うと未央ちゃんは離れ、うんと頷く。

 

「ありがとう...金木さん」

 

未央ちゃんは震える声で言う。

いつものハキハキした感じとは違い、可愛く見えた。

 

「たく....なんで未央が"金木"に抱きつくの...」

 

凛ちゃんが少し呆れた感じにぼくを見る。

 

「ぼくに謝りたかったんだよ」

 

「そうなの?」

 

凛ちゃんが未央ちゃんに聞くと、こくりと頭を縦に振る。

 

「せっかくのミニライブを台無しにしちゃったから....」

 

「そういうことね」

 

うんうんと頷き、納得した。

 

「まぁ...さっきはありがとう、"金木"」

 

凛ちゃんはこちらを見て、微笑む。

先ほどのイライラした感じはなく明るかった。

 

「あの...そろそろ帰りませんか?」

 

プロデューサーさんがぼくたちに声をかける。

 

「そうだね....みんなで一緒に帰ろう」

 

未央ちゃんはぼくから離れ、立ち上がる。

その後凛ちゃんは「じゃあね」と言い、公園の近くの花屋さんに帰って行き、ぼくたち3人は駅まで道を歩いた。

 

「プロデューサーさん」

 

ぼくは隣のプロデューサーさんに声をかけた。

プロデューサーさんはぼくの声に気づき、こちらを向く。

 

「よかったですね」

 

ぼくがそう言うと、常に無表情だったプロデューサーさんが微笑んだ。

 

「はい。これからもよろしくお願いします」

 

彼はぼくに軽く頭を下げる。

ぼくは気づいた。

彼女だけではなく、"彼"も成長したことを。

よかった。

バラバラになった星が元通りに戻って。

そしたらもっと輝ける。

 

(あと卯月ちゃんに感謝をしなきゃ...)

 

忘れてならないなのが、卯月ちゃんだ。

みんなが落ち込んでいる中、彼女は明るかった。

そしてみんなが仲直りにすることを信じていた。

とても偉い子だと思う。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

昼下がり ーーー 大学

 

 

数日が経ち、梅雨が明けた。

それと同時に卯月ちゃんたちの問題もなくなった。

原因は未央ちゃんがお客さんがいなくて失敗だと感じたことだった。

それでプロデューサーさんが『当然の結果です』と言ってしまい、今回の問題が起きてしまった。

すると携帯が鳴った。

携帯を開くと、名前は書いていなかった。

 

『この前はありがとう、金木』

 

ぼくを"金木"と呼ぶ人は、あの人しかいなかった。

ぼくは文字を打ち、メールを送る。

 

『凛ちゃん?』

 

『そう』

 

いつの間にか"金木さん"から"金木"と呼び捨てになったが、ぼくは別に嫌だと感じなかった。

 

『卯月ちゃん元気?』

 

『元気だよ。マスクしてたけど』

 

無愛想な文章だけど、凛ちゃんらしくていい。

すると誰かがぼくの肩にとんとんと軽く叩いた。

振り向くと文香さんの姿があった。

 

「あの....金木さん?」

 

「どうしましたか?」

 

「お話したいことが.....」

 

文香さんの顔は"悩んでいた"。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ぼくと文香さんは場所を変え、いつもヒデと通う喫茶店にいる。

ぼくはコーヒを頼み、文香さんも同じく頼んだ。

文香さんとここに訪れることは始めてで、少し緊張がした。

 

「...ど、どうしましたか、文香さん?」

 

緊張していたせいか少しぎこちなく喋ってしまった。

一体僕に何話すのか知りたかった。

 

「.........」

 

文香さんはしばらく何か躊躇っているように見えたが、勇気を振り絞って口を開いた。

 

 

 

 

 

「私...."アイドル"をやってみようかなと.....思います」

 

 

 

 

 

 


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