東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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雨雲

 

 

暗い雲から降る雨のように、徐々に思い出したくない記憶が溢れて来る。

 

 

 

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 夕方 ーーー 喫茶店

 

 

金木Side

 

 

「たく、なんで未央ちゃんがやめると言ったんだ?」

 

「さぁね...」

 

ぼくはため息をつき、ヒデに言葉を返した。

大学の講義が終わり、ぼくたちは喫茶店にいる。

梅雨の雨のせいか、ぼくの気分が曇っていた。

 

(未央ちゃんが.....やめるなんて....)

 

ライブ終了後、卯月ちゃんからサイン入りCDを受けた時に聞いた。

未央ちゃんが"アイドルをやめる"と発言したと。

CDをもらった時、ぼくは複雑な気持ちになった。

もしかしたらこれが"最後のCD"なのかと。

 

『今日、11区で"喰種”(グール)の捕食事件がありました』

 

ヒデは「また"喰種”(グール)か」と呟く。

ニュースがまるでぼくの気分を追い討ちをかけているように思えた。

 

(....どうして...未央ちゃん?)

 

あの失望した顔が頭に浮かぶ。

期待を裏切られたような顔が。

凛さんも卯月ちゃんもしていたが、未央ちゃんはもっとひどかった。

一体彼女たちに何があったのか知りたい。

 

「カネキ」

 

そんな時、ヒデがぼくに声をかけた。

 

「どうしたの?」

 

「コーヒー冷めるぞ」

 

ヒデがぼくの手前にあるコーヒーに指を差す。

ふと思えば、頼んでいたコーヒーをまだ一口も飲んでいなかった。

しかもだいぶ時間が経っていた。

ぼくはコーヒカップを取り、口に注ぐ。

コーヒーは想像していた以上に冷たく感じた。

感覚ではぬるいが、なぜか感じた。

 

 

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 朝 ーーー 13区

 

 

ぼくは13区に訪れていた。

読んでいた本を切らしたため、本を探しに来たのだ。

 

(.........)

 

今日もまた雨だ。

気分が晴れていなかった。

多分いい本を見つけても、ただ文字を読むだけになりそうだ。

 

(....あれは?)

 

ある人物を見かける。

ロングヘアーに制服姿の女子高生。

ぼくはその人に声をかける。

 

「"凛さん"」

 

凛さんがぼくの声に気づいて足を止めるが、顔は向けなかった。

 

「金木さん...?」

 

驚いているように見えたが、何か機嫌が悪いように見える。

 

「どうしてこの時間に?」

 

「........」

 

彼女は何も口に出さなかった。

 

「ところで、未央ちゃんは...?」

 

ぼくは言ってはならなかった。

未央ちゃんと聞いた瞬間、凛さんの態度が悪化した。

 

「"あんた"には関係ない」

 

「え..?」

 

「邪魔しないでくれる?」

 

とても不機嫌であった。

 

「え...どうして?」

 

ぼくが理由を聞こうとする前に、凛さんはここから去って行った。

 

「..........」

 

ぼくはなにもできず、ここから去っていく凛さんの姿を見ることしかできなかった。

気がつくと、雨が強くなっていた。

 

 

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 朝 ーーー 事務所

 

 

また逃げてしまった。

彼はそう思い、拳を握り締める。

彼女らの気持ちを知らずに、出て行ってしまった。

 

(.....)

 

彼はどうすればいいのかわからず、下を向く。

また失う怖さと嫌な記憶が徐々に溢れて来る。

外の雨のように。

 

(.....)

 

彼は後ろの窓を見て心に呟く。

 

 

『"あの時"の天気と同じだ』

 

 

自分が彼女たちを導けなくて....起きてしまったんだ。

それがきっかけで彼は、シンデレラをお城に送る、無口な車輪へと変えてしまった。

 

(......)

 

 

もし"あの時"に....

 

 

 

"シンデレラ"を失わなかったら...

 

 

 

 

 

"喰種”(グール)に襲われることなんてなかった。

 

 

 

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夕方頃 ーーー 金木の自宅

 

 

金木Side

 

 

渋谷さんに出会った後、自宅に帰った。

本屋に寄ったが、考えていた通りに文字を読むだけであった。

それで結局は本は買わなかった。

 

(今度また文香さんに本を借りるか...)

 

まだ雨が降っていた。

 

(.......)

 

ぼくは椅子に座り、考えていた。

しばらく凛さんの先ほどの行動を考えていた。

どうして未央ちゃんと聞いた瞬間、不機嫌になったのかわからない。

もしかすると、本当にやめるのか?

 

(.....寂しいな)

 

あの時助けた子が、アイドルを志望した未央ちゃんと聞いたときはとても驚いた。

それと同時になんだか嬉しく感じた。

ぼくとは性格が反対だが、彼女はぼくを接してくれた。

ミニライブ前日に急に電話かけて来た時、ぼくは嬉しく感じた。

数秒の会話だったけれど、ぼくは満足だった。

 

 

 

でも....彼女は"アイドルをやめる"と言ったんだ。

 

 

 

あの性格でそんな発言するなんて、ぼくには考えれなかった。

 

(やめてほしくないな....)

 

ぼくは胸をぎゅっと握りしめた。

悔しいのか、ぼくは強く握った。

 

そんな状況を打ち壊すみたいに、ぼくの携帯が鳴った。

 

(...電話?)

 

ぼくは携帯を取り、開いて見ると、

卯月ちゃんからの電話であった。

 

(どうしたんだろう..?)

 

携帯を耳に当てる。

 

「もしもし?」

 

『こんにちは、金木さん』

 

熱のせいか、いつもより声が小さい。

朝に送られたのメールで"熱になりました”と言っていた。

それにしても卯月ちゃんが電話をするなんて、とてもめずらしかった。

 

「どうしたの、卯月ちゃん?」

 

『金木さん。お願いがあります』

 

「?」

 

『"           "』

 

ぼくはえ?と小さく驚いた。

なぜそのようなことを聞くのかと。

 

『            』

 

「......わかったよ」

 

ぼくはそれを聞いた後、携帯を切り、すぐに外でに出た。

 

外は雨が止んでいた。

 

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夕方頃 ーーー 凛の自宅

   

 

凛Side

 

 

帰った後、私はしばらくベットでぼーとしていた。

あのプロデューサーの何かに逃げている姿に私は出ていった。

未央をどうして連れも出さないのかわからない。

しかも住所すら教えてくれないところが嫌になった。

それとあの"文系男子"。

家に帰っていく時に、ちょうど出会った。

やはりあの頼りなさが余計に機嫌が悪くなった。

もう"会いたくない"。

 

(晴れている...)

 

ちらっと窓を見ると、雲の隙間から陽が差し込んでいた。

 

(気分転換にハナコと散歩しよ...)

 

私は立ち上がり、部屋に出て行く。

まだ胸は晴れないが、散歩すれば少しぐらいは晴れそう。

ハナコを呼び、首にリードをつける。

付けている時ハナコはなんだか寂しそうな感じがあった。

どうしてなのかわからないけど、梅雨のせいかもしれない。

 

(....行こう)

 

靴を履き、お店から出た。

外は雨が降っておらず、久しぶりに青空が見えていた。

地面は少し濡れていて、陽の光が綺麗に映した。

それを見た私は、胸の中にあった異物が軽くなったような気がした。

 

(....いい)

 

少し足を動かした瞬間、後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

 

「"凛ちゃん"」

 

 

 

 

私は聞き覚えのある声に、足を止める。

そう、あの"地味なやつ"の声。

 

「......なんで来たの?"あんた"」

 

私は振り向かず、訊く。

先ほどまでのすっきりした気分が、一気に苛立ちへと変わった。

 

 

"あいつ”(金木)がやってきた。

 

 

 


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