東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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わたしは失望した

期待していたものとは違い、輝けなかった

なんで

なんで

あの時とは違うの?

まるで輝く星が消えた、真っ暗な夜空のように





初舞

 

 

 

 昼―――図書館

 

 

金木Side

 

 

CDデビューの報告を聞いて、何日か経った。

 

(.........)

 

図書室でギリシア悲劇について調べている。

授業の課題だ。

ギリシア悲劇は古代ギリシアのアテナイのディオニュシア祭に上映された劇。

 

「こんにちは、金木さん」

 

うしろから、聞こえた。

振り向くと文香さんの姿が見えた。

 

「進んでいます....でしょうか?」

 

「少しは進みました」

 

「そうですか」と文香さんは微笑んだ。

文香さんも同じく文学部なので、同じくギリシア悲劇を調べている。

 

「隣に座ってもいいでしょうか...?」

 

ぼくは迷いもなく「いいよ」と答えた。

そう言うと文香さんはぼくの隣に座った。

前よりは緊張はしなくなったが、まだする。

 

「この前の"金木さんの跡を追っていた人"はどうでしたか....?」

 

「この前...?ああ..」

 

この前の志希ちゃんのことだ。

実際は泊まらせてしまったが、さすがに言えない。

文香さんは不安そうにぼくを見る。

 

「ちゃんと...家に帰ってくれましたよ」

 

「そうですか.....よかったですね」

 

先ほどの不安そうな顔が徐々になくなり、再び明るくなった。

ぼくはそれを見てほっとした。

そんな会話の中、ぼくの携帯が鳴った。

 

「あ...」

 

マナーモードをし忘れたせいで、図書室中に音が響く。

その音に文香さんはびくっと体が動き、驚いた。

その姿にぼくも驚いてしまった。

 

「す...すみません」

 

「い、いいですよ...」

 

ぼくは少し頭を下げて謝り、携帯を開いてみると、そのメールは卯月ちゃんからだ。

内容は『衣装がでました!!』

 

(出たんだ...)

 

文章下には写真が貼ってあった。

卯月ちゃんたち三人が衣装を着て、ピースをしている。

 

(かわいい...)

 

その中で未央ちゃんは張り切っているように見える。

 

彼女たちのユニット名は"new generations(ニュージェネレーション)"

メンバーは卯月ちゃんと凛さん、未央ちゃんの三人ユニットだ。

名前を決めたのは彼女たちではなく、あの"顔が怖いプロデューサーさん"。

 

「誰でしょうか...?」

 

気がつくと文香さんが横で見ていた。

 

「っ!?」

 

ぼくは驚き、携帯が落としそうになった。

 

「友達....ですね」

 

ぼくは少し恥ずかしそうに答える。

 

「もしかして...彼女たちは...アイドルをやっていらっしゃるのでしょか?」

 

「は、はい...つい最近お友達になりました...」

 

文香さんは「そうですか」と少し驚いた顔をして、頷く。

 

「文香さんはアイドルに興味はありますか?」

 

ぼくが言った途端、文香さんは視線を下に向けた。

 

「私は....そんな華やかなお仕事は....」

 

文香さんは僕の質問を聞いた瞬間、先ほどの明るかった顔が消え、落ち込んでしまった。

 

(あ....)

 

ぼくはその姿に焦ってしまった。

言っていけなかったんだ。

 

(ど、どうしよう....)

 

とにかく謝らないと....

 

「金木さんはどう思いますか....?」

 

文香さんは下を向きながら、小さな声でぼくに聞く。

 

「私のような者が...アイドルを....」

 

文香さんの手は強く握っていた。

きっと自分のような人は無理だと言っているみたいに。

確かにアイドルと言う仕事は、人との交流があるため、内気の人は向いていないかもしれない......

 

でも....

 

 

 

だからと言って無理なんてだれも言ってない。

 

 

「別にやってもいいじゃないでしょうか?」

 

 

文香さんは「え?」と視線を上げ、ぼくを見る。

 

「先ほど見せたぼくのお友達は、どこでもいそうな普通の学生です。でも彼女はトップアイドルを目指しています。苦難とか辛いことがあるかもしれませんが、きっと彼女はトップアイドルになるとぼくは信じてます」

 

「.........」

 

「だから、文香さんでもできるんじゃないでしょうか?」

 

シンデレラだってぼろぼろの姿から、綺麗なドレスを着る。

そして、夢の舞台へと歩む。

だから、文香さんでもいけると思う、きっと。

 

「.......そうですね。私も同じく輝けますよね...」

 

先ほどの暗い表情がなくなり、雨上がりの太陽のようにだんだんと明るくなった。

 

ぼくは嬉しかった。

彼女の"優しい微笑み"が戻ってきたことが。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 夜―――自宅

 

 

家に帰り、ぼくはベットに寝転ぶ。

理由は疲れたから。

ギリシア悲劇を調べ続け、気がつけばもう日が沈んでいた。

 

(かわいかったな...)

 

ぼくは携帯を開き、卯月ちゃんから送られた写真を見る。

これで再び彼女たちはステージで輝く。

そう思うと、なんだか嬉しく思える。

 

(さてと...夕食作らないと)

 

ぼくは携帯をベットに置き、台所に向かう。

 

その時、携帯が鳴った。

 

(ん?)

 

携帯がいつもより長く鳴っている。

電話だ。

 

(誰だ..?)

 

電話で会話するのはヒデぐらいしかいない。

開いてみると発信者は"番号だけ"であった。

 

(間違い電話かな...?)

 

ぼくは耳に携帯を当て、

 

「もしもし...」

 

『どーも!かっねきさん!』

 

大きな声が携帯に響き、ぼくの声が消された。

その声は元気な女の子の声で、聞いたことがある。

もしや....

 

「.....未央ちゃん?」

 

『あったりー!未央ちゃんです!』

 

ぼくは驚いた。

まさか未央ちゃんから電話が来るなんて....

 

「どうしてぼくの連絡を?」

 

『しまむーから金木さんの連絡先を聞いて、今話してるよー』

 

「そ、そうなんだ...」

 

考えてみれば、勝手に連絡先を知られていた。

悪用されないことを願う...

 

『16区のショッピングモールでやりますから、来てください!金木さん!』

 

「く、来るよ...」

 

『待ったねー!!』

 

そして電話が途切れた。

 

(元気だね....)

 

ぼくは未央ちゃんの元気に負けてしまった。

 

(...まぁ、いいかな)

 

元気は彼女の良さの一つだ。

ぼくは気を取り直し、台所に向かう。

 

 

 

 

 

でもまさか彼女の笑顔が消えるなんて

 

 

 

 

ぼくは考えもしなかった。

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 当日―――16区

 

 

ぼくはミニライブが行われるショッピングモールに足を運んだ。

今日は卯月ちゃんたち"new generations"の初ライブ。

しかも新田美波とアナスタシアの"LOVE LAIKA"も登場する。

彼女たちの初舞台と言えばいいだろう。

 

(ん.....別にステージとか悪くないけど....)

 

今日は少し騒がしそうになりそうな気がした。

なぜなら"ヒデ"が隣にいるからだ、

 

「"LOVE LAIKA"に"new generations"、新人アイドルの初ライブだな!」

 

ヒデはアイドルのライブということで、ここに来る前から興奮していた。

前日に誘ってみたら、見事に誘いに乗ってくれた。

またしてもヒデの"アイドル愛"が出る。

 

「あんまり騒がないでね?」

 

「わかってるって!じゃあ、いい場所とってくるからなー」

 

そう言うとヒデは走り、行ってしまった。

 

(まだ30分早いのに...)

 

実はライブ終了後、サイン入りのCDをもらうことになっている。

卯月ちゃん曰く、『最初にサインをしたCDを金木さんに渡します!』と。

 

(なんだか申し訳ないな...)

 

するとぼくの右肩にとんとんと、誰かが叩いた。

 

(ん?)

 

振り向くと、"変装をしている女性"が立っていた。

それを見たぼくは、すぐにわかった。

 

「美嘉..ちゃん...?」

 

ぼくはそう言うと、彼女はこくりと頷く。

 

「き、来てたんだ..」

 

彼女はぎこちない感じに喋り、帽子のつばを少し内側に引っ張る。

少し恥ずかしそうに見える。

 

「うん。卯月ちゃんたちが出るから」

 

「そ、そうだよねー...あんたのお友達だしね..じゃあ」

 

彼女はそう言うと、ここから立ち去った。

数回の会話であった。

 

(....?)

 

またしても疑問が残る。

なんでぼくと話す時、恥ずかしそうにするだろう?

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

―――ステージ裏

 

 

「もうそろそろ出番ですね!」

 

「そうだね」

 

ライブ出演前、彼女たちは会話をしていた。"一人"を除いて。

 

「....」

 

未央は黙っていた。

理由は、先ほどおぼつかない顔でステージをこっそり見ていのだ。

 

(..........)

 

不安があった。

それは緊張ではなく、お客さんがあまりにも集まっていないのだ。

 

(大丈夫かな...?)

 

プロデューサーから『大丈夫だと思いますが』と言われたのだが、納得はいかなかった。

 

「では、スタンバイを!」

 

スタッフさんの声が聞こえ、彼女たちはステージへの入り口で待機する。

 

(......)

 

『では、"new generations"の登場です!』

 

アナウンサーが清々しく言うと、彼女たちの足が動く。

 

そして、ステージに出る。

 

 

 

 

(.....え...?)

 

 

 

 

ステージに踏み出した瞬間、

彼女は"失望"した。

 

(.....どうして...?)

 

この前のライブより人が少なく、全く輝いていなかった。

それを見た彼女の笑顔は消えた。

期待していたものとは違うと。

 

(....なんで....なんであの時と違うの....?)

 

彼女たちがステージの位置につき、曲が流れる。

 

 

ああ、始まってしまった。

 

 

"悪夢"が始まった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

金木Side

 

 

「お!この曲は!できたてEvo!Revo!Generation!」

 

新田さんとアナスタシアの"LOVE LAIKA"が終わり、今度は卯月ちゃんたちがステージに現れた。

 

「.......」

 

ぼくはヒデに言葉を返さなかった。

何か違う。

特に"未央ちゃん"が。

 

「曲いいし、振り付けもいいな。なあ、カネキ?」

 

「.......そうだね」

 

何か"違和感"を感じる。

踊りはいいが、何かぎこちない。

 

「どうしたんだ?カネキ?」

 

あまりにも黙ったいたせいか、ヒデはぼくに声をかける。

 

「..あ、いや、なんでもないよ」

 

"彼女たちは笑顔でなかった"

 

この前のライブと違い、"輝き"が見えなかった。

 

(.......なんでだ?)

 

特に未央ちゃんが目立つ。

いつも見る彼女の顔ではなかったのだ。

あの明るい表情がどこか消えて行ってしまったようであった。

 

(.......)

 

そんなライブが終わった。

ものすごく嫌な感じだった。

輝きをなくした星のように。

 

「「未央!!」」

 

何人かのグループがM・I・Oと書かれた横断幕を下ろしていた。

おそらく未央ちゃんの友達だろう。

未央ちゃんはそれを見た瞬間、顔が急変した。

 

「っ!!」

 

卯月ちゃんと凛さんを置いて、ステージから逃げるように去った。

 

「あれ?なんで行っちゃたんだ?」

 

「........」

 

彼女の顔は悲しかった。

あの時電話した時の声とは全く違った。

 

(未央ちゃん....)

 

ぼくはそんな彼女の姿を見て、胸騒ぎがした。

 

とても悪い影が、彼女から感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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