東京喰種 CINDERELLA GIRLS [完結]   作:瀬本製作所 小説部

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あの時の僕は、今後について何を考えていただろう。






普通に大学生活を過ごし、

普通に会社に着き、

普通に家族を持ち、

普通に老後を過ごし、

普通に人生を歩む、という誰もがこれから体験することだと思う。





僕はその中の"一人"(ひとり)だった。








そんな当たり前だったことが.....もし突然.....





王子様がお迎えに来て、





普通の生活とはかけ離れ、





立派な"シンデレラ"になれるのなら、





それはとても幸せな運命だ。












しかし、もし突然......







不運に"事故"に巻き込まれ、






"普通"(ふつう)ではない日々ではなく、






"苦悩"(くのう)"恐怖"(きょうふ)の日々を送るとなれば、





それは幸せとはかけ離れた"悲劇"の運命だ。









でもその"悲劇"(ひげき)例えは......








のちに"僕"(じぶん)に来るとは思わなかった。


第1章 人間
始まり 


 

 

「いやー今日から俺たちは、キャンパスライフかー。あの高校の受験勉強を乗り越えた甲斐があったなー」

 

「そうだけど....単位はちゃんと取れよ?」

 

 

僕たちは先ほど大学での入学式が終わり、

今は街に歩いている。

今日はどんな場所に行くのかわからないが、

ヒデが行きたがっている場所のようだが....

 

「わかってるって!俺はそこまで馬鹿じゃねぇよ!」

 

春。

この季節は新しい生活の始まりで、

心地よい風と日が肌に感じられ、

桜の花びらが散るところが美しく見える季節だ。

 

「そういえば、この前のライブでさー」

 

「またアイドルの話?」

 

「そうだが?なんか悪いか?」

 

確か冬ぐらいに行われたシンデレラガールズのライブを行った以降、

ヒデは"アイドル"にかなりハマっている。

 

「いやー"楓さん"マジ最高だわ〜」

 

「はいはい、わかったわかった」

 

「て、なんだよその返しは!?カネキ!?」

 

ヒデは"アイドル"にハマっているが、

僕はハマってはいない。

そもそもアイドルと僕たちの交流は握手会ぐらいしかないのにどうして好きになれるか...

 

「全く俺がアイドルの話をすると、いつもそうなるよな」

 

「そりゃ、毎回僕に会うたびに言うじゃないか」

 

すると、ヒデはなにか思いついたように手をポンと叩き、

 

「......あ、そういえばお前、好きな女性のタイプは?」

 

「僕?....."知的な女性"」

 

「知的な女性....やっぱ"楓さん"だな!」

 

「なんでそうなる...」

 

僕は少し呆れた様子で返した。

 

(確かにあの人は僕のタイプに入るけど....)

 

 

高垣楓――――

 

以前にモデルをやっていて、それからアイドルに変わった人であることを知っている。

でもあの人は現在では"トップアイドル"で、

好きになっても結局はファンであることは変わらない。

 

(付き合うということは、まさに天地の差といえばいいだろう...)

 

ヒデと会話している時、

"長身の人"が僕たちの横に通りかかった。

 

(なんだろう...あの人..?)

 

僕はその場に足を止めてしまった。

黒スーツに長身で、目つきが悪そうな男性が横に通りかかったのだ。

 

「どうした?カネキ?」

 

「....いや、なんでも....」

 

おそらく、あの人は"ヤクザ"の人だろうか...?

僕はあの人に対して違和感を感じた。

 

 

 

 

 

 

もしかして...........

 

 

 

 

 

 

「カネキ、今日の予定は"楓さん"のライブに行くぞ!」

 

「....え?」

 

「何って今日は楓さんがライブをするんだよ!」

 

「また楓さん....」

 

ヒデはやはり楓さん推しと言えばいいだろう。

 

「いいだろ!?あの楓さんのライブチケットがゲットしたんだぞ!」

 

ヒデが持っているものは、"二枚のチケット"であった。

 

「あれ?それって....」

 

「これか?これはな...この前カネキに金を貸してもらった時に買ったんだ」

 

3月ごろ、急にヒデが大慌てでお金を貸して欲しいと言ったので、

 

僕はその時に仕方なく貸した。

 

「え?つまり...」

 

ヒデにお金を出す→ヒデがそのお金でチケットを買う→しかも二枚

 

っていうことは....

 

「お前も行くんだよ!カネキ!」

 

「ぼ、僕も!?」

 

僕は驚いてしまった。

急にライブを行くことを。

 

「そうだよ!楓さんのライブに行こうぜ!」

 

「だったらこれで返すぞ」

 

ヒデはそのライブのチケットを僕に渡す。

現金から変わり果てたものに変わってしまった....

 

(さすがに行かないともったいないから...)

 

仕方なく僕は妥協し、

 

「仕方ない...行くよ...」

 

「よっしゃ!行こうぜ、カネキ!」

 

「お、おー...」

 

ヒデはだいぶ満足な感じに対して、

僕はやる気を落とした。

なんて日だ.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「じゃあな、カネキ」

 

(連れ出されたな....)

 

楓さんのライブに強引に連れ出され、

気がつけばもう日が沈みかけている。

会場はファンの人の声がうるさく、

しかもその"アイドル"までの距離がだいぶ離れていて見えず、

体はへとへとだ。

それに対してヒデは終わった後でも元気だ。

でも僕は楓さんの生の姿を見て少し満足した。

 

(とりあえず....帰ろう...)

 

僕は少しずつ足を動かし、新しく引っ越したマンションに向かう。

 

(家に帰ってすぐ寝......ん?)

 

すると、僕は道の先の花屋さんに目を留める。

 

(花か....)

 

花屋さんは普段は利用しないことが多いが....

 

(....入学祝いに買おうかな?)

 

別にこれは"デート"のための買い物ではなく、

自分への祝福と言うものだ。

 

(....寄ってみよう)

 

僕はその花屋さんに足を入れてみた。

 

(綺麗なお店だ...)

 

花屋さんに入るのは何年ぶりだろう...?

すごく空気の香りがいい。

花から出る香りは心を落ち着かせる....

 

「いらっしゃいませ」

 

すると、レジの方から店員さんがやって来た。

 

「あ、ど....も」

 

僕は少し言葉が詰まった。

なぜなら定員さんは思っていたより美しかったからだ。

髪はロングヘアーの黒で、とても美しい。

 

(まずい...まずは花を...)

 

あまり見とれてしまうと不自然に思われるので、

僕は花に目を向けた。

 

「?」

 

彼女は少し頭を傾けたような気がした。

少し怪しまれてしまった...

 

(.....意外と高い..)

 

目を向けた先はショーケースの中にあるバラだ。

入り口に置いていたバラよりも値段が違う。

入り口のバラより形がよく、花つきがよく見えるかも...

 

(あまりお金は使いたくないな..)

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんわ」

 

 

 

 

 

 

すると可愛らしい声がお店の入り口の方に聞こえた。

 

(...?)

 

少し振り向くと、"可愛らしい女子高生"の姿が見えた。

 

「はぁーどれにしようかな?」

 

彼女は元気がよく、どれにしようか迷っていた。

なにかいいことがあったのかな?

 

(あ、それより花を探さないと)

 

ふと気がつけば僕は彼女は少し見ていた。

僕はすぐに女子高生の彼女に向いていた目をそらそうとしたが....

 

「ん?どうしました?」

 

彼女に声をかけられてしまった。

 

「いえ....なにも...」

 

僕はそう答えたが....

 

「そうですか。どんなお花を買われるのですか?」

 

彼女は話を止めようとしなかった。

 

「えっと.....ん....」

 

僕は思い悩んでしまった。

このお花屋さんに訪れたのは具体的に決めて来たのではないため、

何て答えればいいのかわからなかった。

 

「なにかお探しですか?」

 

すると店員さんが僕たちに声をかけてくれた。

 

「あ、すみません。中々見つからなくて」

 

「あ、ぼくもそうです...」

 

彼女がそう言うと僕もそれに続いて言葉を返した。

 

「どなたへの贈り物でしょうか?」

 

「いえ、自分は今日大学に入学したのでその....自分へのご褒美、というものです」

 

彼女も続いて、

 

「へぇ、大学に入られたのですか。私は...この人と同じく"自分用"で....]

 

偶然、彼女も同じ目的で来たことに僕は少し驚いた。

さすがにこれは現実だ。

よく恋愛物語である展開だ。

僕は彼女に惚れないよう視線をそらす。

 

「でも、私にとってすっごく嬉しい"記念日"です」

 

(記念日...?)

 

彼氏に対してと思ったが、

彼女は自分用と言ったのでさすがにない。

多分、入学記念日かな?

 

「じゃあ、これはどうです?」

 

店員さんが手をさしたところに花があった。

 

「アネモネです」

 

紫に白い花びらを咲く花だ。

花の単語を聞くのはあまりなく、

初めて聞く。

 

「花言葉はえっと..."期待"、"希望"」

 

「期待....希望...」

 

彼女はふと口に出してしまった。

この言葉はまさに今の自分にぴったりな花だ。

 

「じゃあ、僕はこれにします」

 

「私もお願いします」

 

彼女と僕はアネモネを買うことに決めた。

 

「かしこまりました」

 

店員さんはアネモネをとり、

レジの方に持って行った。

 

「大学生なんですね」

 

「え?...う、うん...そうだよ」

 

彼女はまだ僕に声をかけたがっているようだ。

僕は少し照れていた。

女子と話すのはあまりなかったのだ。

 

(とりあえず...理由を聞こうかな..?)

 

僕は少し勇気を振り絞り、口を開いた。

 

「なんで花を買おうと?」

 

「私ですか?」

 

彼女は何もためわらず、元気良く口を開いた。

 

「私は"アイドルのオーディション"に受かったので、そのご褒美として買いました!」

 

「そうなんだ。アイドルにな....え?」

 

僕は言葉を止めてしまった。

 

「アイドルに...?」

 

「はい!」

 

「そ、そうなんだ...それはおめでとう」

 

僕はそれに驚いた。

まさかここで"アイドルになろうとする子"に会うなんて...

 

「ありがとうございます!」

 

彼女は元気良く言い、頭を下げた。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

僕たちは店員さんにお礼をし、

帰って行く。

僕は彼女が僕とは逆方向で行くのかと思いきや、

偶然帰る方向が同じであった。

さすがに話しかけてこないと思いきや.....

 

「えっと、場所はどこらへんですか?」

 

「え、場所?....僕は"20区"だね..」

 

「20区ですか。少し遠いですよね?」

 

「そうだね....でも慣れれば問題ないかな?」

 

この子は社交性がいいのか、まだ話しかけてくる。

僕はあまり慣れない感じに返してしまう....

 

(別に嫌とは言えないけど...)

 

すると、ちょうど目の前に交差点があった。

 

「あ、私はあの交差点に渡らないといけないので」

 

「そうなんだ。じゃあお別れだね」

 

「あなたとお話ができてよかったです」

 

彼女はそう言い、笑顔で返した。

彼女が渡る前に、僕は最後に彼女に質問をした。

 

「ちなみにお名前は?」

 

「名前ですか?"島村卯月"です。あなたの名前は?」

 

「―――"金木研"」

 

「金木さんですか、いい名前ですね」

 

「そうかな?まぁ、卯月ちゃんを応援してるよ」

 

僕は少し笑顔で返し、手を振った。

 

「ありがとうございます。私がんばります!」

 

彼女は純粋に満足した笑顔で僕にそう言い、頭を下げて交差点に渡っていった。

 

 

(こんな出会いもあるんだね...)

 

 

おそらく彼女とは会うことはないと思う。

 

 

(さてと...帰るかな)

 

 

僕は夜空が綺麗に見える住宅街の道へ歩いて行く。

 

 

 

 

期待....希望....

 

 

 

アネモネの花言葉が彼女の今後を表しているようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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