Fate プリズマ☆アンリ   作:雨の日の河童

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第14話

士郎&アンリside

 

時間の流れはあっという間だった。

既に日は傾き、空は茜色に染まりあと数時間足らずに夜を迎える。

 

『さぁて、いよいよだ。こっからさきはあのセイバーよりも苦しい戦いが待っている。・・・・・・・・・覚悟はできたか?』

 

オレンジ色が広がる空を楽しそうに見上げながらいつもの調子でアンリは声をかけてくる。

いや違う。いつもと同じように勤めているだけでその声は少し震えている。

当然だ。

何せ相手はギリシャ神話の大英雄・ヘラクレス。

あらゆる難題を踏破した正真正銘の大英雄。

そんな相手とこれから戦うのだ。怖くない方がおかしい。正直、俺も怖い。

 

「・・・ああ。覚悟はできた」

 

だが、引くことはしない。

実力の差は絶望的だ。だが、だからこそ俺が俺達は気持ちだけは負けてはいけない。

他者など関係ない。常にイメージするのは最強の自分。

この前提条件が崩れた瞬間それが俺達の敗北に直結する。

敗北は即ちイリヤを日常に帰すことを諦めるのと同義。ならばこの気持ちだけは折れるわけにはいかない。

 

『・・・・・・だよなぁ。それでこそお前(衛宮士郎)だよ。なら・・・』

 

そこで一度言葉を区切り、いつもの調子でアンリは宣言した。

 

『最弱英霊の意地ってやつを大英雄様に見せに行きますか!!』

「別にアレを倒してもしまっても構わんのだろう?」

『おい、馬鹿、やめて』

 

さぁ、日常を取り戻すとしよう。

 

 

イリヤside

「はふぅー。やっぱりお風呂は落ち着くねぇ~」

 

久々にゆっくりとお風呂に入れる。

身体中が温かいお湯に染みわたり思わず声が漏れてしまう。

 

『イリヤさん、何だか爺臭いですよ?』

「なにぉ、お風呂は人類が生んだ至高の文化よ。ああ、日本人に生まれてよかったぁって思う瞬間よねぇ」

『イリヤさんはハーフでしょう』

 

・・・夜だ。いつもなら凛さんやルヴィアさん、美遊と一緒にカード回収をしている時間だ。

けど、もうそれはしない。いや、できない。

暗殺者のカードの時、私のせいでみんなを危険にさらした。

私は・・・邪魔にしか・・・・・・ならない。

 

「たっだいま~、イリヤちゃん!!」

「え?マ、ママ!?」

 

そんな暗い気持ちを吹き飛ばすようにママが帰ってきたのだった。

 

 

美遊side

 

『ジャンプ完了しました』

 

サファイアの声と共に私はイリヤ抜きでのカード回収が始まった。

場所は今までと比べかなり狭いビルだった。

 

「狭いわね」

「歪みが減ってきている証拠ですわ。ここの一枚を回収したら恐らくは・・・」

 

その声を遮る様な重量感を持った足音。

 

「―■■■■■■―――!!!」

 

そして、大気を震わせるほどの咆哮が響き渡る。

 

「なによ、アレ!?」

「冗談でしょ!?」

 

それは鉛色の巨人。

極限まで己の肉体を鍛え上げたその身体に纏う武具はない。いや、あの英霊には必要がないのだろう。

 

「―■■■■――!!!!」

 

巨人は天高く飛びまるで砲弾の様に凛さんとルヴィアさんのもとへ拳を振り下ろす。

が、既に二人は危険を察知し回避をしている。

 

英霊の拳は一撃でビルの屋上の一部を陥没させる。

 

「ルヴィアさん、凛さん!?射撃(シュート)!!」

 

慌てて巨人に一撃を与えるが。

 

「・・・・・・――■■■■―――!!!」

 

無傷。

魔力弾は巨人には通じていない様に感じた。

静から動へ。凄まじい速度でこちらに突撃し、一撃一撃が必殺である拳を乱打する巨人。

その攻撃は規則性など無い。ただ目の前の敵を殺すという原子的な暴力を後退しながらなんとか躱していく。

魔力で空中に跳び、一足で巨人から大きく離れたところで二人の援護が入った。

煌めく宝石は爆炎を上げ、足場を這うように亀裂が走り、巨石で押し潰した。

それでも。

 

「■■■■■■―!!」

 

巨人の身には傷すらつかない。

再度、咆哮が響かせながらこちらに狙いをつける巨人。

嵐のように激しく激流の様に速い拳を避け続けた。

 

「なんて出鱈目な腕力・・・!」

『絶対に直撃を受けないでください!あれは物理保護でも守り切れません!』

「避けろと言っても!」

 

狭い空間内で避け続けるのは限界がある。

サファイアもそれは知っている。

だが、現状攻撃が効かないのならそうするしかないのだ。

 

「――■■■■――!!」

「くっ!」

 

正拳突きを空中に避けそのまま境界を区切る魔力の膜を利用して大きく距離を取り二人の側に着地した。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

「え?」

 

その瞬間、轟く様に空気を切り裂き見えない何かが巨人を抉りとる。

 

これは・・・!

 

すぐさま後ろを振り返る。

居た。あの青年だ。

浅黒い肌に不規則な黒い刺青。

赤い腰布とターバン。そして、私やイリヤのことを知っている何者か。

彼は少し高い場所から狙撃を行った様だ。

 

「よっと。案外、一殺目は簡単だな?」

 

笑いながらこちらの近くまで跳んでくる青年。

 

「ちょ、ちょっとミス・遠坂どういうことですの!?」

「私が知るわけないでしょ!?」

 

焦っている二人をにやにやと笑いながら彼はいう。

 

「アンタらアイツに勝てそうにないだろ?ってなわけでここはオレに任せな」

「そんなことできるわけ・・・!」

「安心しろよ。終わったらカードはくれてやるよ」

「・・・貴方、一体何者ですの?」

 

二人の疑問に青年はからからと笑い答えた。

 

「なに、ただの一般人だ。それより美遊?」

「は、はい」

 

いきなり声をかけられ驚いてしまった。

 

「悪いんだけどその二人連れて今日は帰れ」

「それは・・・」

「アイツの名前はな?ヘラクレスっていうんだよ」

「「「な!?」」」

 

ヘラクレス。

ギリシャ神話において最も強い英雄。

神々の十二の試練を突破した者。

高い神性と類まれ無い武勇を持った最強の英霊の一人。

 

「しかもたちの悪いことに・・・」

「―――■■■■■■―――!!!!!!」

「あと十一回殺さなきゃ死なないんだよ、彼奴は」

「そんな・・・」

 

咆哮。

その声は怒りが混じった叫びの様に辺りを飲み込む。

鉛色から朱色に染め上げながら巨人は復活した。

その手に石斧を持ち出して。

 

「美遊!一回撤退しますわよ!!」

「ッ!」

 

その声に弾かれる様に二人の元に駆けだす。

 

「一度、体勢を立て直しますわ!」

「ついでにそこのあんた!速くこっちに・・・・・・!」

「いや、それは出来ない」

「はぁ!!?」

『ジャンプします。もう間に合いません!』

 

青年はくるりと踵を返し背を向けた。

その背中ひどくあの人と重なった。

 

「俺は兄貴だからな。妹は守らないと」

 

その言葉と同時に駆けだす彼を見て私はジャンプさせたのだった。

 




誤字脱字感想などお待ちしております。
後、更新遅れてすみませんでした。

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