というのも仕事が多忙(建前)なのと、最近fgoにハマった事(本音)と、それにより今まで読めなかったfgo小説を読み漁っていたこと(本音)が原因です。面白いの多いからね、しょうがないね。
な、何故花屋の凛ちゃんがこんなところに……?
ピシリと固まりながら理由を考えてみる。
遊びに来た? そもそも私がここに通ってる事自体知らないだろうし、簡単に入館できる場所でもない。
バイト? この会社は高校一年生を雇う程の人材不足なのか? 確かに武内さんの仕事量を見てると人材不足感は否めないけど、それは多分ないだろう。
誰かの迎え? あり得るけど苗字からして血縁者は多分この中にはいない。
という事はもしかして……
「あっ、あの時の! この間はありがとうございました」
こちらもまた何故かいる、笑顔が素晴らしい女性がこれまた素晴らしい笑顔をこちらに向けながら話しかけてくる。
「いえ、ぶつかったのは私ですから気にしないでください。花は元気ですか?」
「はい! お部屋に飾ってます!」
それは良かった。ないとは思うけどあれが原因ですぐ枯れたとか言われたら居た堪れないし。
「なになに、もしかして二人って知り合いなの?」
「いや、顔見知り程度」
「へーそうなんだ! 実は遠い親戚とか?」
「……まあ、ちょっとあってね」
なんとなく説明するのを憚られた私は本田さんの追求を適当にはぐらかした。
「それにしても凄い偶然ですよね! あの時の女の子が、まさかアイドルで、そして一緒にアイドルをやる事になるなんて」
「……という事はやはり三人がCPの新しいメンバーなんですか?」
「はい!」
彼女の肯定の言葉に、私は驚愕と納得の思いが心の中で渦巻いていた。
彼女の言う通り、まさかあの時衝突した女の子が私と同僚になるなんて露程にも思わなかったというのもある。とはいえ、私なんかよりもっとずっと非常に素敵な笑顔を振りまく彼女なのだ。スカウトの基準が笑顔な武内さんに見出される筈だ。
「はいはーい、ご名答ー! 改めてよろしくね! くれみー!」
本田さんが元気に手を上げながら後ろから肩を掴んでくる。なんか初対面にしては馴れ馴れしいなぁ。嫌ではないけど。
というか、くれみー? もしかして私の事? そんな渾名を付けられたのは生まれて初めて……いや、そもそも渾名で呼ばれる事がこの十数年間なかったから実質渾名を付けられる事自体が初めての経験かもしれない。……べっ、別に悲しい訳じゃないんだからね! そもそもキャラじゃないからね、しょうがないよね。……ちょっと嬉しいと思ったのは内緒。
「……あっ! 自己紹介がまだでしたね。島村卯月です! えっと、小暮深雪ちゃん……ですよね?」
「はい、小暮深雪です」
「なら、深雪ちゃんですね! これからよろしくお願いします!」
まさかの再会に多少は吹き飛んだものの眠気で若干テンション低めの私に、二人は対照的に非常に元気良く口を開く。元気な若者というのはそれだけで元気が貰えるから私にとっては非常に好ましい。
……さて、内心で好感度を高めながら挨拶も程々に、続いて本題だ。私は先程からチラチラの此方を見ている彼女を一瞥して声をあげる。
「あ、あー、この部屋を退出して微妙に長い廊下を歩いて曲がり角を右に曲がって更にその隣にある十字路を左に曲がったその右側にあるトイレに行きたいなー」
「えらく具体的すぎない?」
「……! わ、私も……」
花屋の凛ちゃんはハッと気が付いたような表情を浮かべ、私の言葉に便乗した。よし、気が付いたか。目が合った私達はコクリと頷きあう。
「……」
「……」
彼女を連れて廊下へと出る。少し歩いて部屋から離れたところで私から切り出した。
「それで、花屋の凛ちゃん……だよね? 今日は部活初日じゃなかったの?」
「……えっと、まだ言ってなかったんだけど、実はアイドルになったんだ」
「聞いてないんけど」
「だから言ってないんだってば」
あの状況からして薄々そうとは思っていたが、まさか本当に花屋の凛ちゃんもアイドルになったとは……。先日ぶつかった女子高生もアイドルで植木鉢を購入した店の店員さんもアイドル。そしてオマケに私もアイドル。つまりどういう事だってばよ。
「ていうか深雪帰ったんじゃなかったの?」
「帰ったっていうか仕事で抜けてただけで、ってその事知ってるって事は……」
「うん、深雪が来る前に皆から聞いたよ。深雪、アイドルだったんだね。なんで教えてくれなかったの?」
ジト目で此方を見つめる花屋の凛ちゃん。成る程、事前に情報を得ていたのか。だからさっき目があった時私と違って反応が薄かったんだな。
「いや、別に隠してたつもりはないけど……デビューしてる訳でもないから言う程の物かなと。言われたところで「で?」って感じだし、しかもそれお互い様でしょ?」
「……確かに」
寧ろ私だったら自慢かよって苛つくと思う。余計な事言いな人は嫌われるからね。そういうの結構気遣ってるんだよ。
「オーディション?」
「いや、この前プロデューサーにスカウトされた」
「……よくあんな強面の人の話を初対面で聞いたね」
「全く興味なかったからずっと相手にしてなかったんだけどね。でも、卯月の夢を聞いて、プロデューサーに可能性を感じて、そして深雪の後押しがあったからアイドルってやつをやろうって決心したんだ」
花屋の凛ちゃんが真剣な表情を浮かべながら私に説明する。
……おっ? 何の話だこれ? 私の後押しって何の事なの? 全く記憶にないんだけど。
「そういう深雪は? オーディション?」
「いや、私もあの人からスカウトされたよ。同じくその時まで興味なかったし」
「そうなんだ……って深雪も人の事言えないじゃん」
「……確かに」
そう考えたら私って少し話聞いただけでよくアイドルになろうって決心したよな。……あれ、もしかして私って意外とチョロい? いやいや、私程ガードが固い人なんてそうそういないだろう。なんてったっていつもスタンガン常備だからね! 今も鞄の中にひっそりと息を潜めてるし。
「……ねぇ」
「なに?」
「深雪がよく私に勧めてた“Unknown Invaders”ってさ……もしかして深雪の知り合いなの?」
「えっ!? き、急にどうしたの……?」
いきなりの核心をつくような問いに、私は驚きを誤魔化せなかった。というのも彼女の聞き方は疑問というより確認の度合いが高かったように見受けられたからだ。
「……その反応だとやっぱそうなんだ」
「う、うん、実は当人……じゃなくて知り合いなんだ」
「へー……ん? 当人?」
「い、いや、桃仁だよ桃仁! 桃の種子の核を乾燥させた漢方の事だよ!?」
「ふ、ふぅん……?」
あ、あぶねー!! 危うく真実を伝える所だった! 眠気と動揺のせいで口が少し滑ってしまった。というかもう少しマシな言い訳は無かったのか。なんだよ桃仁って。自分でも知ってた事のが不思議なくらいだわ!
「……でも今思い出して見るとあのユニットのメイクが凄い人、深雪に似てる気がする」
「気のせいじゃないかな!」
「いやでも、体型とか空色の髪とか意外と共通点あるし」
「えっ、嘘!? 髪見えてた!?」
「えっ?」
「へ? ……ぁっ」
ぬ、ぬおおおお!! どうしてこんなに素直な反応をしてしまうんだ私はああああ!! 口の滑り具合がやばい! 眠いから!? 眠いからなの!? こんちくしょーー!!! 憎い! この滑りまくる口が憎い! 何よりも未だに眠くてあんまり回ってない頭が心底ムカつく!! だああああああああ!!! くぉああああああああ!!! ほぁああああああああ!!!
「み、深雪、大丈夫……?」
「ふーっ、ふーっ!」
「落ち着いて」
「……はぁ、ふぅ」
い、いかん、自分の滑りまくる口にムカついて興奮しすぎた。これが俗にいう身体は正直だなってやつか……できれば知りたくなかった。
私は両手で目を押さえながら天を仰ぎ、溜息とも区別が付かないような深呼吸を何度か繰り返した。
「……ごめん、取り乱した」
「ほんとにね。もしかして聞いたらダメな事だった?」
少し不安げな表情で此方を伺う彼女。確かに追求されたくはなかったけど、そもそもの原因は私が彼女に自分のユニットを勧めた事だからね。気になるのも仕方ない、人間だもの。ゆきを。
……よし、冗談言える程度には復活した。こうなったら訳を話すしかあるまい。杏ちゃんに聞かれた時はなあなあに誤魔化したけど、彼女一人くらいになら説明しても問題ないだろう。というかもう誤魔化しは効かない段階だし、寧ろ他に波及しないようにしっかり説明せねば。
「出来ればね。他の人がいる前では聞かないで」
「……本当にあのメイクの人って深雪だったんだ。冗談のつもりだったんだけど」
「……え? 嘘?」
「あ、うん。体型はともかく髪は嘘だよ。……ごめん、そんなに取り乱すとは思わなかったんだ」
「……いや、もういい。寧ろ嘘だと分かって安心してる」
「……皆には秘密にしてるの?」
「うん、実は──」
私は彼女の中々にタチの悪い冗談に安堵した所で皆に隠している理由、つまり目指しているアイドル像を話した。
「そういう事だったんだ……分かった。さっきの事は誰にも言わないよ。……で、それは分かったんだけど」
「けど、どうしたの?」
「深雪があのユニットを勧めてきたのはなんで? ただ単に自己宣伝?」
「……まあそうだけど、でも好きなのには変わりないから」
「自分の曲なのに?」
「自分の曲だからこそじゃない?」
「そういうものなんだ……」
そういうものです。好きじゃない曲を心を込めて演奏するなんて出来っこない。好きこそ物の上手なれってやつ? ていうか今普通にぶっちゃけちゃったけど、大丈夫だったかな? まあ、怒ってなさそうだし大丈夫か。あわよくばCDも買ってもらおうとも思っていたが、流石にそれ言ったら怒られそう。
「説明したついでにだけど、花屋の凛ちゃんは何かなりたいアイドル像ってあるの?」
「……まだ実感も湧かないし、分かんないよ」
「そっか……まぁ、やってたら見つかると思うよ、多分」
「多分って……」
「だって当人じゃないし」
「……それもそうか」
私の言葉で花屋の凛ちゃんは少し考えるように視線を下へ向ける。とはいえ、時計で確認したところ部屋を出て十分が経過しようとしているので、そろそろ戻った方が良いだろう。
「取り敢えず聞きたい事は聞いたし、戻ろうか」
「そうだね。……深雪」
「なに?」
踵を返し歩こうとすると呼び止められたので一体何かと再び顔を向けるが、何故か彼女は少し言いにくそうに間を空ける。どうしたのかと疑問に思いながら待っていると、ようやく小さなその唇から言葉が紡がれた。
「これから、その……よろしくね」
「……うん、よろしく」
改めて言うのが恥ずかしかったのか、少し照れながら微笑むその表情は、正にアイドルのような、とても綺麗な笑みだった。
☆☆☆
メンバーの仕事の都合で早めに終わった“CB/DS”としての練習。と言ってもライブまでもう日が無い為、学校を早退して早めに練習を始めたので実質プラマイゼロである。後日のノート写しが面倒ではあるが仕方のないことだ。杏ちゃんのを写させてもらおう。
早く終わったということで
見ると部屋の中で2グループに分かれており、一つはトレーナーさんから指導されている組。私は此方側だ。もう一つは最近入った本田さん、島村さん、花屋の凛ちゃんのグループ。指導はトレーナーさんではなく美嘉さんが直接行なっている。恐らく本番が近いので連携を取る意味合いもあるのだろう。
「……ふむ」
四人のダンスを眺めながら、どの場面だろうかと考える。音源がないので踊りで判断するしかない。既に『TOKIMEKIエスカレート』は予習済みなのでよく考えれば分かる筈だ。考えろ、私! ……むむむ、閃いた! 二番のBメロだ! 間違いない!
「小暮! 突っ立ってないでさっさと此方へ来い!」
怒られてしまった。答えを確認するまで見ていたかったのだが、仕方あるまい。私は素直にトレーナーさんの方へと足を運んだ。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。今日は来る日だったか? まぁいい。神崎も今来たところだから二人でしっかり柔軟しておけ」
トレーナーさんはそう言うと、ダンスの指導に戻った。因みに現在指導を受けている子は三村さん、緒方さんで、新田さんとアーニャちゃんが丁度休憩をとっている。よく見ると新田さんがじーっと、まるで探る様な目でこちらを見つめているが……何かあったのか。
「ミユキ、お疲れ様です」
「アーニャちゃんお疲れ様。新田さんもお疲れ様です」
「えっ? あっ、お、お疲れ様っ」
少し難しい顔をしていた新田さん。私が声を掛けると今気付いたかのような反応を見せたので恐らくぼーっとしていたのだろう。もしかして疲れが溜まっているのだろうか。
「新田さん、体調悪いんですか? 心ここに在らずって感じですけど……」
「ミナミ、病気ですか!?」
「だ、大丈夫よ! 元気だから、ありがとう」
ならいいのだが。さて、そろそろ柔軟を始めないとまた怒られそうだ。早速始めるとしよう。
「神崎さんやろうか」
「うむ、よくぞ参った。さぁ、我が背中を押せ。晩鐘が汝の名を示す前に」
「請け負った」
いつもより物々しく低い声で口にする神崎さん。この台詞の元は最近始めたゲームの彼女のお気に入りのキャラらしい。一番最初に当たった最上級レアという事で愛着が湧いたとのこと。詳しくは知らない。
「このくらい? もうちょっと?」
「うむ、もっと押しても良い……」
そのまましばらく順繰りで柔軟を続けていると三村さん達の指導が終わり、続いて私達の番となる。一昨日に練習したばかりなのできっと大丈夫な筈。……と思っていたが
「小暮! 手の動きが甘いぞ! 指の先まで意識しろ!」
「小暮! 足が伸びきってない! 意識が足りんと言っているだろう!」
「小暮! そんな動き教えてないぞ! 創作ダンスなら家でやれ!」
ヒィッ! 全然そんな事なかったよ! 凄まじいほどの集中砲火! しかし、それも仕方のない事だった。何故なら私は彼女らに比べて練度が足りていないからだ。こっちの練習抜けてあっちの練習してるからね、しゃーなし。
隣の神崎さんも何度か指摘を受けていたが、とはいえ私とは経験の差があるので細かい指摘が多かった。ここ数ヶ月で慣れはしたが中身がおっさんを通り越してジジィオブザジジィの私には運動という言葉自体が辞書に載っていなかったのだ。それ相応に運動は苦手である。そりゃあ授業で動かす事はくらいはあるけど大体手抜きだし。冬の授業で恒例のマラソンなんかも学年全体で比べても下から数えた方が早い。嫌いじゃないけど別に好きでもないという。汗を流すのは気持ちいいから好きだけどね。
「……よし、時間も時間なので今日は終わりだ。お疲れ様」
お、終わった〜。今日は泥の様に眠るのは確定だよ。もう課題なんてしらない! 明日杏ちゃんに写させてもらうとしよう。
「はぁ、はぁ……ふぁ〜」
私はペタリと座り込み壁に寄りかかる。バッグから取り出した
上着を脱ぎ捨て肌触りの良いシャツに張り付く汗を拭き取ると、シャツをパタパタさせて素肌に風を送る。汗がまだ乾ききってないので少々肌寒くはあるが、これくらいが丁度良いのだ。
「……ふぅ、はぁ、疲れた。神崎さんもお疲れ」
「はぁ……わ、我に疲労という、概念は存在せぬ。……この程度、ふぅ……造作も無き事よ」
という事は明らかに疲れているように見えるのは私の気のせいということか。流石大魔王。
「そ、それにしても……はぁ、人の身体という物は余りにも非合理が過ぎる」
うるせーわ。結局それ疲れてるって事じゃん。ていうかそれ前も言ってなかった?
そんな事より飲み物飲み物……あ、アクアリウス買ってくるの忘れた。あれ運動した後飲むとめちゃくちゃ美味しいんだよね。
「飲み物買ってくるけど、なんかいる?」
「我には深淵の霊草を煎りし黄金水を所持している。故に不要である」
そう言ってジャスミン茶で喉を潤す大魔王。
「そう? じゃあ買ってくる」
「うむ」
「ま、待って! わ、私も行くわ」
立ち上がり部屋を出ようとすると、運動後の柔軟をしていた新田さんが同行すると言い始めた。うむ、勿論構わないとも。早くアクアリウスを買いに行こう。
二人で自販機のある場所へと歩みを進める。四ヶ月も一緒にいれば自然と雑談くらいは出来る仲となっていたので、気軽に会話を進めながら二人で飲み物を買う。途中よく分からないことを聞かれたのだが……一体なんだったんだろう?
「1、2、3、4──」
部屋に戻ると神崎さんが壁側を向いて柔軟していたので、こっそり近付いて買ったばかりの冷たいアルミ缶を彼女の頬へと当てる。
「ふひゃ! ……天の御使いよ、何の真似だ?」
「別に」
「そ、素っ気ない……」
返事を返してアクアリウスを一気に飲み干すと、そのままなんとなしに花屋の凛ちゃん達の練習風景を眺める。
慣れないであろうダンスを流れる汗を煌めかせて踊る彼女らは、楽しそうというよりかはどちらかと言うと必死で余裕が無さそうに見える。それもそのはず、アイドル養成所に通っていたという島村さんはともかく本田さんと花屋の凛ちゃんはダンスのダの字も知らないトーシロー。しかも本番が既に目前まで迫っているのだ。余計な思考に割く時間はないのだろうし、内心焦りが生じているのだろう。プレッシャーも相当大きい筈だ。私だって初めてのライブは緊張いっぱいで胸焼けしてたのだから。そしてそれは島村さんだって同じ筈。何か彼女らの助けになる事を同僚としてしてあげたいが、何かないだろうか。
少し考えを巡らす。……そうだ! 飲みに……は彼女ら未成年だし、無理か。いやそもそも私も未成年だったし、よく考えたらただの私の願望だったわ。畜生め。黄金の麦茶(偽)とか水のお湯割り(偽)とかは家ではこっそり飲んでたけど、やっぱり店で飲む方が好き。何故なら店には最強のお供達が勢揃いしているからだ! 焼き鳥とか鉄板物とか揚げ物とか! 昔食べたあの店の分厚いタンステーキとか美味かったなぁ。くーっ、たまんねーぜ! でも流石に未成年のみじゃ居酒屋とか無理だろうからなー。お酒買うくらいなら日本人離れした顔付きだからいける可能性は五分五分くらいだと思うけど……やめておこう。バレたら人生棒に振る事になる。
……ごほん、話がずれたな。飲みが駄目なら精をつける為に焼肉なんてのはどうだろうか。でも、うーん、今時の女子高生って焼肉って言われて喜ぶのかな? 勝手なイメージだとなんとなく本田さんなら喜びそうだけど他二人はあんまり乗り気にならなさそう。さり気なく聞いてみよう。
「──5、6、7、8! ふーっ、今の感じ忘れないでね! て事で今日は終わり! お疲れ様★」
どうやら彼女らの練習も終わったようだ。今の話はまた改めて何かしら考えておくとしよう。
「はぁ、はぁ……あ、ありがとう、ございました……」
「お、お疲れ様でした……はぁ、ふぅ」
「……はぁ、はぁ」
疲れを隠し切れない三人。特に花屋の凛ちゃんの疲労が大きい。それに比べて美嘉さんはまだ幾らか余裕がありそうだ。これも年季の差というものか。
「しっかり柔軟しときなよ? それじゃ、またね★」
座り込む三人にそう言い残すと、美嘉さんは荷物を持って部屋から出て行った。……あっ、挨拶しそびれたけど、まあいっか。
「三人共お疲れ様です」
「ふぅ……あっ、くれみー来てたんだ。お疲れ様!」
「お、お疲れ様ですっ」
私は神崎さんにも言ったように三人を労う。声に張りが戻っているので落ち着いてきたのだろう。
「花屋の凛ちゃんも、お疲れ様」
「お疲れ……アイドルって、大変なんだね」
「仕事だしね。どんな職種だって最初は何かしら苦労するものだよ」
「……そんなもんか」
「やっていけそう?」
「まだ、分からない……でも、ライブをやりきったら、何か掴めそうな気がするんだ」
真剣な目をこちらに向ける花屋の凛ちゃん。どうやらヤル気は十分のようだ。
「頑張り過ぎても仕方ないからあんまり気張らないようにね。じゃ」
「あ、うん」
激励も終わったのでさっさと帰るとしよう。前も言ったかもしれないが寮生は実家勢とは違い夕飯に制限時間があるのだ。しかも今日のお菜は私の好物のチキン南蛮。絶対に遅れるわけにはいかない! 絶対にだ!
「神崎さん! アーニャちゃん! 帰るよ!」
「承知」
「ダー」
皆への挨拶を済ませると、私達は着替えて帰途に就くのだった。
次回でライブは終わらせたいなと漠然とは思っていますが、どうなるかは分かりません。そもそも次回投稿もいつになるのやら……。気長にお待ちくださいますようお願い申し上げます。