私、二回目の人生にてアイドルになるとのこと   作:モコロシ

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第19話 142'sと大晦日 前半

「んぅ、ふわぁ……ねむいぞー」

 

本日は十二月三十一日、つまり大晦日。二月に歌番組の生放送が控えているとは言え、流石に年末年始に練習はないらしい。なので今日一日は最近あまり出来ていなかった資格勉強に勤しむ日にしてガッツリ頑張った為、久々に使った頭が休息を求めているという訳だ。……まあ、正直に言うと起きたのはほぼ真昼だし、始めたのも十四時くらいだから実質行った時間は四時間くらいなんだけどね。それでも十分か。

 

ちなみにその日、輝子から折角の大晦日だから二十二時頃から映画を見ようと誘いを受けていた。大晦日と言えば紅白やガキの使いだと思うのだが、映画が見たいのであればやぶさかでは無い。紅白はそれ程好きなわけではないし、ガキ使は録画して後で見る派だし、問題はない。

 

ただ、いじめっこ主犯の小梅ィ氏も来るとの事でどうにも嫌な予感しかしないのだ。しかし、紹介したい人がいるらしく是非来て欲しいと言われたので行くしかあるまい。

 

因みに小梅氏がいじめっ子というのは私に会う度に意味深な事を言ってきたり、急に背後から脅かしてきたり、面白い映画と称してホラー映画を渡そうとして来たりとか色々ちょっかいかけてくるからそう言っている。彼女には幾度となく煮え湯を飲まされた。しかも的確に私の急所を突いてくるのが末恐ろしい。そんなに私を脅かして楽しいのかあのアマ。……楽しいんだろうなぁ。はぁ、私が麻倉家だったら即☆成☆仏してたんだけどなぁ。

 

十八時にご飯を食べて、珍しく早めにお風呂に入って、現在の時刻は十九時半。お風呂には美穂ちゃんとユッコちゃんがいたのでしばらく談笑していた。私は聞く側なんだけど。

 

実はユッコちゃん、自称エスパーらしく超能力が使えるそうなのだ。だいぶ怪しい話だったが、冗談を言っているような感じでもなかった為、有るか無いか分からない程度のほんの僅かな期待を持って何かやってくれと無茶振りしたところ、なんと二つ返事で快諾してくれた。すると何処に隠していたのかスプーンを取り出し左手で持つと、ムムムーン! と可愛らしく唸り、沈黙した。

 

「……きょ、今日は調子が悪いみたいですね。またの機会に!」

「そ、そうですか……」

「あ、あはは……」

 

案の定だったので特に思うことはなかった。

 

 

 

 

──しかし、次の瞬間

 

 

 

 

ガシャアアアアアアアン!!!

ホ、ホタルチャ-ン!?

 

 

 

 

「あ……」

「ほ、ほたるちゃん……!」

 

 

 

 

ヤ、ヤットフッテキタ…

ナンデアンシンシテルノ!?

キョウハマダフッテナカッタノデ…

チョットナニイッテルカワカンナイ…

 

 

 

 

「ホッ……」

「ほ、ほたるちゃん……」

 

 

 

 

どうやら二人の知り合いのようだ。なにやら凄いことを言っていたように聞こえたが、問題なさそうで安心した。

 

そんな経緯を経て一段落ついて風呂から上がり部屋でまったりしているのが現在の状況だ。

 

まだ二十二時まで余裕もあるし、本でも読んでいようかな。今日は……“めぞん一刻”の気分! 本棚から適当な巻を抜き出してベッドに横になりながらペラリと一コマずつ目を通していく。

 

うおー、三鷹きたー! いつ見ても歯がキラキラしてるなー。しかし五代、自分を信じなさい……信じなさい。それにしても本当に“めぞん一刻”は名作だよね。前世合わせて何度読み直したことか。だいぶ前に古本屋で見かけた時は速攻で全巻買ったよ。その時の心情が「あ、買わなきゃ」って感じだったのを思い出す。あの時は“買いたい”という欲求じゃなくて、“買わねばならない”という使命感が私を突き動かしたね。まあ、私の悲しい記憶力では実物を見るまで存在なんて忘れていたんだけども。しかし、今は手元にあるので良しとしようではないか。

 

ペラリとページをめくる。ふむふむ、あー、そうそう。こんな台詞あったなぁ……。

 

……あ、やばい……眠気が、急に。

 

…………ううん! 起きとかなきゃ! ……でも、四谷さん……って、ほんとに……良いキャラしてる……よ、ね。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

「きのこっのーこっのこぼっちのこー……ふひひ」

 

輝子は今回のきのこ(マイタケ君34号)の出来栄えを吟味しながら全体を眺める。

 

「色……艶……傘……今回は、いい……! 実に良い……! この出来栄えは歴代でも三位には入るかもしれない……!」

 

どういった基準で評価しているのかは彼女以外知る由もないが、非常にご満悦な様子だ。そこで本日の手入れはこれで終了したようで、手にしていたきのこを所定の位置へと戻し始めた。

 

輝子は現在、部屋で友人達が来るのを待っていた。大晦日の本日、これから皆で映画観賞を行う為だ。計画したのは小梅で、輝子もそれに賛同し、結果輝子の部屋で行われることとなったのだ。

 

「お邪魔しますよ」

「お、お邪魔しまーす……」

 

噂をすれば何とやら。輝子の友人が部屋へと到着したようだ。輝子は出迎えるべく玄関へと足を運んだ。

 

「お、おお、いらっしゃい」

「ふむ、少し時間に遅れたようですねぇ」

「ご、ごめんね……?」

 

友人二人──白坂小梅と輿水幸子は遅れた事を謝罪するも、輝子は特に気にしておらず、中へと招き入れた。

 

「誘っておいてなんだけど、さ、幸子ちゃん明日仕事じゃないのか……?」

「ボクは昼過ぎに現場入りなので最悪十二時くらいには眠れれば大丈夫ですよ! 確かに貴重な休み時間ではありますが、仕方がないので付き合ってあげましょう」

 

ふふんと鼻を鳴らしながら口にする幸子に、小梅はその様子に思わずといったように小さく笑い声をあげた。

 

「な、なんですか……?」

「じ、実はお昼に幸子ちゃんが、友紀さんに今日の事楽しそうに話してるの……聞いちゃったんだぁ」

「なぁ!? い、いたんですか!?」

「扉から聞こえたから……つい。あ、で、でも聞いたのはそれだけ、だよ……?」

「う、動かざる事きのこの如し……ふひ」

「ちょっと意味分からないです」

 

幸子は少し気まずそうに二人から視線を逸らすと、拗ねたような口調でポツリと呟き始めた。

 

「……小梅さんは四月からの新ドラマ『ゾンビガール』、輝子さんは新ユニット『アンノウンインベーダーズ』。ボクはボクでライブや……少し不服ではありますがバラエティのお仕事も頂き始めて多忙ですから。中々揃う機会なんて、最近ないじゃないですか……」

「幸子ちゃん……ふひひ」

「えへへ……えいっ」

「あっ、ちょっ、わぷっ……!」

 

言い終えると同時に小梅と輝子の両名が拗ねる幸子へと抱きついた。

 

「幸子ちゃん、可愛い……♪」

「ど、同感……」

「ふ、二人して何ですか! ボクがカワイイなんて当たり前の事ですっ!」

「照れてるの……?」

「照れてません!」

「て、照れてるな」

「照れてません!!」

 

捲し立てるも輝子と小梅はにこにこと微笑みかけるだけであった。その様子に何を言っても無駄だと悟った幸子は話題を変えて誤魔化すこととした。

 

「というかなんで映画鑑賞なんですか? 大晦日なんですから『笑ったらあかん』とか『紅白歌合戦』とか定番のがあるでしょう」

「ど、どっちももう途中だし……そ、それにお、お笑い見るならゾンビ見てた方がいいかなぁ……」

「わ、私もきのこの方がいいな」

「選択肢おかしくないですか?」

 

幸子は呆れたように肩を落とすが、当の二人は何のことかと首を傾げる。そんな様子に溜息をつきたくなる幸子であったが、今に始まった事ではないと思い返し話を続ける。

 

「そういえば、今日はもう一人新部署の新人さんが来るんじゃありませんでしたっけ?」

「確かに、深雪さんが来てないな」

「ね、寝てるのかな……?」

「い、意外と気まぐれだからな……」

「ボク達と同じで寮生なんですよね? 何処ですか?」

「す、すぐ隣だ。ちなみに、引越しの挨拶の時に仲良くなったんだ」

「そうなんですか。どんな方なんですか?」

「えぇと、ぼ、ぼっちの私でも、可愛がってくれるし……あ、後、私のトモダチを褒めてくれるんだ」

「へぇ……輝子さんのきのこを褒めるだなんて、中々のやり手ですねぇ。小梅さんも知り合いなんですか?」

「う、うん、遊ぶと面白い人だよ……♪」

 

本人がいればどういう意味かと問い詰めた所だろうが、生憎と今は部屋で睡眠中だ。深雪と遊ぶのが面白いのか、それとも深雪()遊ぶのが面白いのか、それは本人のみぞ知る事実であった。

 

「け、携帯で呼んでみる…………繋がらない……マナーモード、かな?」

「近いですし、直接呼びに行きますか? カワイイボクと会えるというのに、その方はなんとも勿体無い事をしていますねぇ」

「……そうだな」

 

幸子の言葉に頷いた二人は、三人で隣の深雪の部屋へと向かい、チャイムを鳴らした。

 

「み、深雪さーん……返事がない」

「た、ただの屍に、な、なっちゃったの、かな……?」

「縁起でもない事を言うのはやめてください! ……おや、鍵が開いてます。不用心ですねぇ」

「……は、入ってみるか?」

「そ、それはマズいんじゃないですか……? 不法侵入ですし」

「じゃ、じゃあ、“この子”に確認してもらう……?」

 

小梅は誰もいない筈の空間へと視線を向け、二人へと問う。その瞬間、何もなかった筈のその空間が歪む。それは小梅の言葉がデマではない事を顕著に表している現状であった。事実、小梅の隣には彼女以外には見ることの叶わない、非現実、非ィ科学的な存在──俗に言う幽霊が存在していた。

 

「ヒィッ!」

「な、なるほど……」

 

一体何が成る程なのか。幸子が小さく悲鳴をあげると、輝子が慣れた様子で肯定する相槌を打つ。小梅はその言葉に頷くと「お願い」と一言告げ、幽霊を見送る。

 

戻って来た幽霊に状況を聞いてみた所、小梅の言う通り、深雪は夢の中を旅していた様子だという。ただ、部屋の電気は点灯していたとの事で、恐らく寝落ちしたか、軽く眠っていただけだと予測出来る。

 

「は、入ろっか……」

「だ、大丈夫なんですか……? ボク知り合いですらないんですけど」

「ど、どうせ後で会う事になるんだし、いいんじゃないか? そ、それに、寝てる深雪さんにも責任がある」

「し、しかし……」

 

先程の超常現象に怯えを隠しきれず、少し挙動不審な幸子へ輝子が答える。

 

「こ、小梅ちゃんも、そう思うだろ?」

「寝起きドッキリ……一回、やってみたかったんだぁ……♪」

「あっ……(察し)」

 

嬉しそうな小梅の様子に、輝子はこれから何が起こるかを理解した。輝子は深雪が小梅のオカルトな部分を邪険に扱う事はなかれど、少々苦手に思っている事を知っている。そして小梅の人を脅かす方法は一般人とは正しく次元が違う。彼女が本気を出して人を脅かせば、その場は確実に阿鼻叫喚の巷と化すことだろう。

 

輝子は流石に止めようかとも考えたが、元々は深雪が遅れたのが悪いと思い直し、心の中で合掌するだけに留めた。小梅が度を越すような事をしないと分かっているが故の判断だ。

 

「お邪魔しまーす……」

「お、お邪魔します……ほ、ほら、幸子ちゃんも」

「あっ、ちょ、ちょっと! ……し、仕方がありません。お、お邪魔します……」

 

一人は渋々とではるが、三人は部屋へと足を運ぶ。部屋は“あの子”なる者の言う通り電気がついており、また、ベッドからは穏やかな寝息が聞こえた。正体は言わずもがな深雪である。小梅は顔を覗き込んだ。

 

「ふふふ……し、しっかり寝てる、ね」

 

小梅はやる気に満ち溢れていた。これからどう脅かしてやろうかと、その無邪気な笑みが見るからにそう物語っていた。普段はおとなしい小梅ではあるが、未だ小学六年生。遊びたい盛りなのだ。しかも本日は年に一度の夜更かししても怒られない特別な日、大晦日である。図らずとも気分が高まってしまうのも無理はなかった。

 

「寝顔を覗くのは少々失礼ではありますが……最早今更ですね。……へぇ、この人が小暮深雪さんですか。ボク程ではありませんが、中々可愛らしい人ではありませんか!」

「お、起きてる時はもっと、キリッとして……格好良いんだけど、な。……で、でも確かに寝てると、クールというより、きゅ、キュートに近いな」

「……先程も聞きましたが、性格はどんな感じの方なんですか?」

「そ、そうだな……趣味以外で口を開く事はあんまりないけど、やる事なく一緒にいても、苦ではない」

「成る程、そういう関係は憧れますね。……あ、ちなみに趣味ってきのこ関連の事ですか?」

「ち、違う……けど、言えない。わ、私と深雪さんのヒ、ヒミツだ。フヒ。……あ、後関係ないけど、は、反応が分かりやすいな。ど、どうでもいい話題の時は返事が雑で「ふーん」しか返してくれない」

「す、素直な方なんですね……」

 

二人がやりとりをしている間に、小梅はこれからどうするかを考えていた。

 

「……ちゃん」

 

 

 

 

 

 

──お願い。

 

 

 

 

 

瞬間、部屋の電気が突然消灯した。

 

「な、何を……ヒィッ!!」

「おぉ……く、暗くなったな……」

「く、暗くないと……雰囲気、で、出ないから……ね」

「や、やるなら事前に言ってください……!!」

「だ、大丈夫か……?」

「……なんで輝子さんはそんなに慣れてるんですか……?」

「…………深雪さん、よくやられてるんだ」

「……」

「えへへ……何、しよっかなぁ……♪」

 

小梅はいつの間にか手にしていた懐中電灯で部屋を照らす。その後、何か思い付いたのか懐中電灯で自らの顔を下から照らして幸子の方へと勢い良く振り向く。

 

「……バァ」

「……流石にそんなのじゃ驚きませんよ」

「えへへぇ……」

「(……可愛いじゃないですか)」

「そ、それで何をする気なんだ……?」

「えー、と……あっ、そ、そうだ……! 輝子ちゃんは、う、後ろ髪を全部、ぶわーって前にやって……深雪さんを、見つめてて」

「普通に恐怖ですね……」

 

幸子はまるで貞子を模しているかのようなその光景を想像して呟く。

 

「そして幸子ちゃんは……あっ、ま、待って……!」

 

突然小梅が深雪の方へと手を伸ばし、空を切る。

 

「こ、小梅ちゃん、どうしたんだ……?」

「“あ……あの子”が深雪さんの……顔に纏わり憑いて」

「な、なんですって……?」

 

幽霊の事が分からない上に見えない幸子からすれば、現在の状況は何がどうなっているのか分かり得る範囲ではなかった。しかし“幽霊に取り憑かれた”という、字面だけで見れば冗談にならない言葉と、見る見るうちに顔色を悪くする深雪を見て事態の深刻さを自覚した。

 

「う、うぅん……」

「めちゃくちゃ夢見悪そうな顔になってるじゃないですか! 早くどうにかしてあげてください!」

「で、でも……あの子、嬉しそう……」

「その反面この人の顔色どんどん悪くなってるんですが!?」

「だ、大丈夫……還る事はないから」

「土に!?」

 

小梅と幸子がコントのようなやり取りをしている中、輝子はじっと深雪を見つめていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。深雪さんが何か言いそう」

 

小梅と幸子のやりとりに輝子は待ったをかける。その言葉に二人は悪夢でも見ているかのように顔を顰める深雪の顔へと視線を向ける。

 

「ん、ぅ〜ん……」

「……」

「……」

「……」

「──は……」

 

「「「は?」」」

 

 

 

 

 

 

「────は、歯磨き粉……マズい……」

 

 

 

 

 

 

 

「意外としょうもなかった!!」

 

 

 

 

 

 

幸子は深雪の予想外の言葉に思わずツッコミを禁じ得ない。

 

「いや、しょうもなかった事を喜ぶべきなのでしょうか……?」

「で、でも深雪さんの気持ち……よく、分かる」

「うん……名状し難い味だよね」

「なんでそんなに落ち着いてるんですか。元の原因は小梅さんでしょうに」

「……?」

「不思議そうな顔しないで下さい!」

「ブナシメジ?」

「不! 思! 議! です! カスってすらないんですけど!?」

 

叫んでいるように見える幸子ではあるが、無論深雪が就寝している事を考慮して、相応に声量は落としている。

 

「というかまだ離れないんですか!」

「さ、幸子ちゃん……だ、大丈夫だよ。“あの子”……深雪さんにじゃれてるだけで……の、呪いとか、祟りとかは……ないから」

「そ、そういう問題なんですか? というか、幽霊がじゃれるって……」

「わ、私も見えないけど、い、意外と日常的だぞ……」

「……」

 

幸子はいつもこのような事をされているらしい深雪に対して同情を禁じ得なかった。同時に小梅がこのような人物だっただろうかと疑問に思うが、懐いているのだろうと納得し、それ以上考える事をやめた。

 

「よ、呼んでみるね。……も、戻ってきてー」

「生ハムにメロンとか正気の沙汰じゃな……あれ、美味い……」

 

小梅の言葉により“あの子”は深雪(の顔)からようやく離れ、心なしか顔色も良くなったように見える。

 

「お、おかえりぃ」

「……あの、この人本当に寝てるんですか?」

「う、うん……い、息遣いや筋肉の動き、脈拍から考慮すると、ちゃんと寝てる」

「判断の仕方が本格的すぎやしませんか? というか、暗くて目が悪くなりそうなので電気付けますよ?」

「あっ……」

 

幸子は探り探りで部屋の電気のスイッチを探し、点灯させる。

 

「電気も付いちゃったし、そ、そろそろ起こさないか?」

「おや、ドッキリはもう良いんですか?」

「こ、これ以上は深雪さんに……怒られるかもしれない。後、ドッキリしたいのは小梅ちゃんだけだぞ」

「わ、私も……面白いもの見せてくれたから、満足」

「そ、そうですか……」

 

幸子はマイペースな二人だと改めて実感した。

 

「……あ、そ、そうだ」

「ど、どうしたの……?」

 

突然輝子が良いことを思いついたと言わんばかりに手をポンと鳴らした。

 

その後小梅の質問には答えず、輝子は深雪が眠るベッドへと手を掛け始めた。

 

「な、何をしてるんですか……?」

「……ふひひ、あったかい」

 

輝子が一体何をしたかったのか。ただ添い寝をしたかっただけだ。

 

「起こしに来たんじゃなかったんですかねぇ……」

「わ、私も〜……」

「って小梅さんもですか!」

 

羨ましかったのか小梅は輝子の反対側に寝転がる。これで川の字で深雪を囲む形となった。普通であれば一人用のベッドに三人は非常に狭く感じるはずだが、皆細身なのでなんとか仰向けでも寝ることが出来ていた。

 

「あ、あったかい……えへへ」

「だ、だろ?」

「……あの」

 

一人ポツンと残された幸子は途方に暮れた。

 

「……あ、さ、幸子ちゃんも入るか?」

「そんな隙間あるようには見えませんが……」

「……ふわぁ、な、なんだか眠くなってきちゃった」

「……た、確かに」

「え、あの、ちょっと……」

「……スヤァ」

「……グ-スカピ-」

「いや眠るの早過ぎないですか!?」

 

ツッコミを入れるもそれに反応する者は誰一人と存在せず、空虚に響くだけであった。

 

数瞬後、自らの置かれた状況を理解した幸子は次第にピクリと唇を震わせ始めた。

 

「……流石のカワイイボクでも少々苛立ちを隠し切れませんね」

 

三人を見下ろす幸子。幸せそうな寝顔で寝ているのが更に苛立たしさを掻き立たせる。

 

「……それならボクにだって考えがあります」

 

そう言うと幸子はある物(・・・)を取りに、部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 


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