私、二回目の人生にてアイドルになるとのこと   作:モコロシ

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第18話 深雪、服を買うの巻

東京に来てまで部屋でダラダラするのは少し勿体無い気がしない事もない。そう思った私は鉛蓄電池の様に重たい腰を上げ、七年くらい愛用しているショルダーバッグへとお出かけ道具を放り込む。

 

まず欠かせないのが何といってもお金。これが無いと何処にも行けないし何も買えない。以前、私が遠出した時、ICカードにお金が入ってたのをいいことに財布を忘れるという愚行を仕出かしている。なまじICカードで電車に乗れてしまうから中々気付きにくいのだ。ようやく気付いたのは目的地に到着して自販機で飲み物を買おうとした瞬間であった。あの時の絶望感は半端では無く、今でも脳髄に刻み込まれている。幸いにも友人との待ち合わせだったので事なきを得たのだが、友人がいなかったと思ったらゾッとする。因みにその帰りにICカードの残金を確認したところ、帰りの電車分は残っていなかった。

 

次に必要な物は簡易充電器。これも必需品だ。渋谷とか新宿で携帯の充電が切れてしまえば樹海に一人取り残されたのと相違ない。いざとなれば人に聞けばいい話なのだが、携帯があるのとないのでは安心感が違う。特に私の携帯はかれこれ2年以上使っているので充電の減りが不規則なのだ。まだ30%あると思っていたらいつの間にか電源が落ちていたなんてのもザラだ。いい加減買い換えるべきか。

 

その次に汗拭きタオルだ。私は暑がり寒がりなので暑いと思っていたら寒くなった、寒いと思っていたら暑くなった、なんてこともよくあるのだ。最早今手元にあるこの黒、緑、赤、青の4種類のタオル達は私の相棒と言っても過言ではないだろう。特に黒、緑に関しては中学生頃からの愛用なので愛着が湧いている。赤青は高校からの新参者だ。私がなくさない限りは最期まで役目を全うして欲しいと思う。

 

続いて女の子のやつ。説明不要。

 

あと薬類。頭痛薬とか酔い止めとか諸々。

 

そしてトドメはイヤホン。これ無しで都会を一人で歩くだなんてまず考えられない。フライドポテトに砂糖かけて食べるくらい有り得ない。

 

さて、準備は終了した。服装は先ほどパパッと取ってきたジーンズ、上は適当に取った暖かそうな服でいいだろう。……うん、十分映えてる映えてる。

 

「show timeだ!」

 

いざ行かん、魔界の地へ!

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

帰ろっかなー。

 

取り敢えずJRの中央特快で新宿まで来た。羽田空港から乗り換えてきた時もそうだったが例によって例の如く人が多い。人の多さに酔うなんて事はないと思うが、げんなりしてしまうのは仕方のない事だろう。一瞬帰りたい気持ちが生まれたが、行き帰りのお金が勿体ないし、ここまで来たら観光するしかあるまい。

 

新宿は私から見ればまるで迷路の様な駅だ。出口に辿り着くだけでも苦労を感じさせる。恐るべき東京。何年住んでも全く慣れそうにない。

 

途中、お土産屋に足を運びながらもなんとか出口にまで辿り着いた私だが……実はここからが問題だ。

 

「何処に行けばいいの……」

 

そう、何処に行くかという事だ。というのも今回私が外に出てきた理由、目的は存在しない。完璧なる気まぐれだ。電化製品でも見て回ろうとも思ったが、今日はなんだか気分が乗らない。

 

「服でも買おうかな」

 

お金は少し余裕がある。両親から頂いたものだ。あまり無駄遣いは出来ないが使わないままだと貰った意味がないので使う時には使おうと決めている。寮費も両親に払ってもらっているので、仕事で売れてお金が入り始めたら少しずつ返して行こう。

 

さて、服を買うと決めたなら行く場所は服屋さんだ。丁度この時期だと年末セールとかそんな感じのでもやっているだろう。しかし、私は服のセンスに些か自信がない。私がこれまで買ってきた服は大概が店員にお勧めされたものなので、自ら選んで購入したものはほぼ存在しない。ぶっちゃけ選ぶの面倒なので店員さんがコーディネートしてくれるのはだいぶ助かっていた。店員さんがやってくれるのであれば確実だろうし。

 

……はぁ、そんなのだから私はいつまで経っても成長しないんだろうなぁ。オシャンティーになりたいとは言わないが、最低限自分で選んで「これでよし」ってなるくらいには選択眼を身に付けたい。そういえば私も一応アイドルの端くれ。……そう、アイアムアイドル! マイネームイズアイドル! アイドルといえば可愛い洋服! 綺麗な衣装! オシャンティーじゃないアイドルなんて多分いない! これからはアイドルらしくオシャンティーに生きていこうと思います!

 

目の前に何語かよく分からない名前の服屋さんがあるし、丁度良い。

 

自動ドアが開くと同時にいらっしゃいませー、と恒例の挨拶が聞こえる。私は早速すぐ前に設置されている棚を眺め、気になった明るめの黄色が着色されたシャツを手に取り、値札を確認した。

 

「さん、なな、はち、まる、まる。……37800円……だと?」

 

……あれれ〜おかしいぞ〜? 桁が一つ多いんじゃないかな〜? 真面目な話、このロングシャツ3780円の間違いじゃないの? これ。それともこれくらいが普通……普通じゃない? ……いやいや、私の服はもうちょっとお手頃価格だった筈。うん、これはだいぶ高いやつだ。そもそも私の手持ちじゃ手が届かないというね。いやぁ、東京の物価舐めてたわ。この分だと他の服もどんなものか分かったものじゃないな。……いやいや、まだ手頃なのが他にもあるはずだ。諦めず探してみよう。……あっちのシャツはセール中って書いてあるな。どれどれ……

 

「7560円」

 

わぁ、とってもお買い得♪ ……って十分高いわアホ! 7500円あったら他のシャツ3枚は買えるわ! 先程のと比べてだいぶ安かった所為で感覚が麻痺してしまった。

 

ダメだ、選ぶ店を間違えた! 値段強気過ぎてここは学生には厳しすぎる。ということで次の店にレッツラゴー!

 

 

という事でそれからも二店目、三店目と次々足を運び続けたが、入る店が悪いのか選んだ店の(ことごと)くが高いものしか置いてない高級店ばかりであった。値段強気過ぎて笑えない。これはきっとゴルゴムの仕業(適当)。

 

再び次の店へと歩みを進めようとするも、先程の決意新たな意気込みとは打って変わり、鬱蒼とした気持ちが湧き上がってくる。流石にここまでヒットしないと気が滅入るというものである。

 

趣向を変えよう。単品の店に行くのではなく、集合体の店を攻めてみるというのはどうだろうか。

 

気持ちを一新するという意味も込めて曲を変え、適当なデパートへと足を運んだ。案内地図でファッションエリアを見つけだし、早速エスカレーターで上がってみると、幾つもの服を売っている店が点在している。ぱっと見の値段も、先程の店と比べても良心的。先程までの店が高過ぎたのだ。

 

取り敢えずは店に入らず、全体的に見て私の好みに合うような服が多そうな店をピックアップしてから買うものを選んで行こう。

 

「ミユキー」

「……ん?」

 

後ろから呼ばれたので振り向くと、銀糸のような髪を柔らかく揺らしながら此方へ駆け寄る少女の姿がそこにあった。

 

「アーニャちゃん」

 

その少女の名はアナスタシア。愛称はアーニャ。最近知り合った同じ部署の子だ。いかにも服が入ってそうな手提げ袋を手にしているので、恐らく彼女も服を買いに来たのだろう。

 

私が名前を呼ぶと、少し嬉しそうに微笑んだ。

 

「ダー、アーニャです。やっぱりミユキでしたね。ミユキも服を買いに来ましたか?」

「うん。今色々回ってるとこ」

「ワタシも同じです。良かったら一緒に回りませんか?」

 

アーニャちゃんからの誘い。断る理由もないので一緒に回る事にした。これも仲良くなる良い機会だ。ついでに私も、自ら服を選ぶ事によってファッションに対するセンスを磨いていきたい。そこからアーニャちゃんにアドバイスをもらう事によって、更なるスキルアップを試みることができるという魂胆だ。

 

「いいよ、一緒に回ろっか」

「ラート! 嬉しいです! ……あ、ミナミもいますが、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。何処にいるの?」

「ミナミは花をつ、掴み? に行きました」

「花を摘むね」

「それです!」

 

合点がいったと顔を綻ばせるアーニャちゃん。

 

成る程、新田さんもいるのか。彼女は現役JDだからさぞやお洒落な格好をしているに違いない(偏見)。

 

「アーニャちゃんはもう何か買ったの?」

「デニムのスキニーパンツを買いました」

「えっ?」

 

やばいよやばいよ、スキニーデニムはあかーん! なんでもスキニーデニムは長時間しゃがんでいると、筋肉や神経に障害が起きて歩行困難になるらしい。後遺症が残る場合もあり、事の大きさによっては手術も必要となってくる恐ろしい服なのだ。

 

「ウージャス! 恐ろしいですね……」

 

アーニャちゃんは私の話を聞いて身震いした。その気持ちはよく分かる。特に私はスキニーパンツ履いてる時にこの記事を見つけたから尚更だ。実家でダラッてしている時だったので速攻で脱ぎ捨てたのは記憶に新しい。

 

「でも、自分の体型にあったものだったら大丈夫だって」

 

つまり、脚を細く見せようと無理をすると私が言ったような事がおきるという訳だ。対策としてはウェストに少し余裕があるものの方がいいと記事には書いてある。因みに私が脱ぎ捨てたやつは指二本くらい余裕があったのでそのまま履き直した。ったく人騒がせな奴だぜ。

 

「ミユキは、物知りですね!」

「偶々知ってただけだよ。ところで、何処から回る?」

「では、あちらは見たので、今度はこちらを回ってみたいです」

「じゃあ新田さんが来たら行こうか」

「そうですね」

 

……と、話していたらキョロキョロと周りを見渡す新田さんの姿が見えた。水色と白を基調とした新田さんによく似合うコーディネートだった。やはり私の目に狂いはなかった。

 

「アーニャちゃん、新田さん来たよ」

「え? ……あっ、ミナミー」

「あっ、アーニャちゃん、そこにいたのね。……あれ? 深雪ちゃん?」

「……お疲れ様です」

 

うーむ、ちゃん付けは未だに慣れないんだよなぁ。まあいいけど。

 

「ミナミ! ミユキも一緒に服メグリしてもいいですよね?」

「もちろん! だったら……こっちから回ってもいい?」

「いいですよ。初めからそのつもりでしたし」

「なら行きましょうか」

「ダー」

 

と言う事で私達は三人で色々な店を見て回り始めた。やはり年末という事もありセール品が多く店頭に並んでいる。これでようやくまともな服選びが出来るというものである。

 

「これなんてどうかな?」

「ハラショー! とても可愛らしいです! ミナミにぴったりです!」

「ふふっ、そうかな? あ、これなんてアーニャちゃんにいいんじゃない?」

 

二人がわいわいと服を見ている中、私は一人でそこらへんを物色していた。中々良さげなものは見つからない。

 

……おっ、このジーンズは安いし、中々良いかもしれない。持っとこ。あっ、あのカーディガンも中々手頃。ちょっと試着してみよう。

 

カーディガンを上から羽織り鏡で自分の姿を見つめる。……んー、分からん。正直可愛い子や美人が着る服とか全部センスの塊にしか見えないから、一般的にはダサく見えても私には理解出来ません。

 

しれっと自画自賛っぽい事を言いつつ私は二人の元へ歩み寄り、羽織ったカーディガンをヒラヒラさせながら問う。

 

「これ、どうかな?」

「そのカーディガン? ん〜……どうだろう。深雪ちゃんには子供っぽく感じるかな」

「ミユキには似合いません」

 

ぐっ……正直に言うじゃねーか。しかし、そうかぁ。いい感じだと思ったんだけどなー……。服選びはむつかしい。

 

それからも色々と服を見つけては二人に聞いてみたりしたのだが、中々良い反応は貰えない。

 

一瞬諦めて選んでもらおうとも思ったし、選ぼうかとも言われたが、しかしそう言われると選ばせたくなくなるのが人の(さが)。意地でも自分で選んで買ってやろうと心に誓った。

 

二人には正直な感想を述べるように言ってあるし、素直に聞けば恥ずかしい物を買う心配はない! と言うことで、イクゾ-!

 

 

 

 

──そして二時間が経過した。

 

 

 

 

ここまで私が選んだ服は悉く却下されてしまった。

 

「やだ、私ってばファッションセンス皆無……?」

 

知られざる事実の発覚。店員にお任せの障害がこんな所で出てくるなんて……儘ならない世の中である。

 

とは言え服を選ぶだけで二時間が経ってしまったのは痛い。二人は其々気に入った物を買ってるのに対して私は手ぶら。厳密には手持ちのショルダーバッグがあるがそこはどうでもいい。今の私は俗に言う「なんの成果も!! 得られませんでした!!」という奴だ。

 

でも私としては、よくぞここまで集中力を保ったと自分を褒めてやりたい気分である。大体こういうのは三十分と経たずに飽きるから本当に続いた方だと思う。今もまだやる気と根気と元気は残っているし。素晴らしい持続力だ。

 

「……先に、帰ってもいいよ?」

 

しかしこれ以上付き合わせるのも忍びなかったので、彼女ら二人に帰る事を提案した。この分だとまだ時間が掛かる可能性があるし。

 

「……え? だ、大丈夫だから気にしないで! 最後まで付き合うよ」

「ダー。ミナミの言う通りです」

 

二人は笑顔で私の提案を突っぱねる。

 

な、なんて良い子達なんだ……! これが私だったら喜んで帰ってるのに!

 

彼女らの人の良さに私は思わず少し涙ぐんだ。

 

「そういえばもうお昼だね。……あっ、あそこのうどん屋さんに行かない?」

「オー、うどん、ですか」

 

新田さんの提案にアーニャちゃんが感慨深そうに頷く。見た目何の変哲も無いうどん屋さんだが、何かあるのだろうか。

 

「どうしたの?」

「いえ、うどん、日本に戻ってきて食べてないです。何がありましたか?」

「えっと、ごぼう天うどんが美味しいよ」

 

あれは本当に美味しい。出汁の効いたスープが染み込んだ衣にシャキシャキのごぼう。あの組み合わせは最強だと思う。他にも海老天とかかき揚げとか、チーズ肉うどんなんてものも好きだがやはり私はごぼう天うどんが好きだなー。空腹時の時に食べるとつい宇治田の様になってしまう。但しワカメと刻み油揚げ、テメーらはダメだ。

 

「ごぼうの、天ぷら? どんな物か気になります」

「このお店は行った事ないけど多分美味しいよ」

 

お店の見た目は美味しそうな雰囲気出してるし。うん、多分美味しいよ。まあ、私は天丼食べるんですけどね!

 

そんなこんなで、私達はお店の中へと入った。ジャストタイミングで四人席が空いたのでそこへ座り、各々メニュー表を手に取る。天丼は……お、あるある。値段もまあまあ良心的だ。決まり! メニュー表は閉じ! これ以上見てると目移りしちゃうからね。

 

どうやら二人も決まったようなので、店員を呼ぶとしよう。

 

「すいませーん!!」

 

厨房の方から「はーい!」と返事が聞こえる。すると新田さんが戸惑ったようにある物を指差す。

 

「あ、あの、深雪ちゃん……? 呼び出しボタンあるのよ……?」

「えっ? あっ、本当だ。まぁ、聞こえたんならいいですよ」

「ミユキは声が大きいですね!」

「私の声は響くからね」

「今の褒めてるのかな……?」

「ところで、二人はもう服は買わないんですか?」

「アーニャはもう大丈夫です」

「私ももう大丈夫かな? あ、でも気にせず選んでいいからね?」

 

新田さんはそう言うが、流石に気にするよ。こっちは待たせてる身だからね。やっぱり意地張らずに選んでもらったほうがよかったのかな? ……もうちょっとだけ選んでダメだったら頼むとしよう。

 

やがて頼んだものが届くと、三人で頂きますをして食べ始めた。うめうめ。

 

アーニャちゃんは私が勧めたごぼう天うどん。長いスティック状のごぼうだった。美味しそうだなーと見ていたら一本くれたので私もお返しに海老をくれてやった。明らかに差異があるが無邪気に喜ぶアーニャちゃんが可愛かったので良し。

 

ちなみに新田さんは鴨南蛮そばを食べていた。うどん屋さんなんだからうどんを食べなさい!(ブーメラン)

 

食べ終わり、再び徘徊を始めようとすると、新田さんから新たな提案が出た。

 

「建物を変えない?」

「ふむ」

 

要するに違うデパートで探してみないかという事だろう。確かにこのデパートの服屋さんは粗方回ったので後は同じ箇所を回るだけ。そこまで歩くのは面倒ではあるが、いいんじゃなかろうか。

 

「近くにあるんですか?」

「さっき少し調べたけれど、300mぐらい歩くと同じ規模のデパートがあるみたいね」

「じゃあそこに行きますか」

 

私達はデパートを出て新田さんの言うデパートへと向かった。

 

やがて辿り着き、入り口付近に設置されてある案内の地図を覗く。

 

「ファッションは……六階からみたいね」

「ですね」

「み、ミナミ! ミユキ! あ、あれは何ですか!」

 

突然アーニャちゃんが大声を出すので何事かと振り向けば、彼女はとある物を指差していた。おっ、あれは……

 

「たこせんだね」

「タコセン?」

「えっと、海老味醂(みりん)にたこ焼きを挟んだものだったっけ?」

 

新田さんに言われてしまったが、ほとんどその通りだ。厳密に言うならばそこから更にソースやマヨネーズがかけられている。中々に美味である。私は結構好きだ。

 

「結構美味しいですよ」

「あれ食べてみたいです!」

「昼食食べたばかりだよアーニャちゃん……。三時ぐらいになったらもう一度来よう?」

「……ダー」

 

え? 三時まで待たないといけないの? 私も食べたかったんだけど……。

 

内心がっかりしながらも私は目的を思い出して、六階へとエスカレーターで登る。見た所どうやら六階はレディースの物しか置いていないらしく、今の私にはうってつけのフロアだった。

 

「ちょっと、花を……か、刈りに行ってきますね 」

「摘む、な」

 

早速目の前のお店で自分なりに良さげなのを見繕う。アーニャちゃんが花刈りに行ったので新田さんに見せてみるも

 

「これはどうですか?」

「……ごめんなさい。好みの問題かも知れないけど私はあんまり好きじゃないかな」

「はい」

 

そう言われる。どうやら彼女自身もそこまでオシャレに詳しいわけでは無いらしいので、アドバイスというより本当の意味で感想をもらっているような感じだ。アーニャちゃんはアーニャちゃんで感想をくれたりするのだが、格好いいだの可愛いだのと言葉が抽象的すぎて参考にならない。いや、嬉しいんだけどね? あざ! って感じで。結局全部しっくりこなくて買わなかったんだけども。

 

「次こそは……!」

 

と、意気込み新たに次の店へと足を運ぼうとした私。しかし、次の瞬間脳内に一つの疑問が生じた。

 

 

 

 

 

──アイドルらしさを求める私、それが本当に私という“アイドル”なのか……?

 

 

 

 

 

カッコよく決めてみたが、結局のところ言いたい事は、所詮私がどう工夫しようとも、それは只の付け焼き刃でしかなく、根本的な解決にはならないという事だ。

 

それは違う! そう言う人もいるかもしれないが、私のことは私が一番よく分かっている。私は興味のない事には全く興味を示さない人間だ。この際だから言おう。私は──

 

──私は、オシャレに一切興味を持ってません! 化粧も渋々やってます! そんな人間がどうしたらシャレオツになれるでしょうか?

 

 

 

結論 : なれません♡

 

 

 

そういう事だ。

 

幾ら経験を積もうが興味がなければ全く意味はない。というか寧ろ興味が無いどころか女子の服装自体あまり好きではないのだ。さっきまで選んでいたのもぶっちゃけなんとなくだし、見るだけならともかく自分が着るとなると相当面倒臭いと思うんだ。特にスカート! 未だにあれには抵抗がある。ロングならまだしも裾が短いのだと階段上がる時に視線を感じるし……いや、気持ちは分かるんだけどね。見えそうなら見たいよね。すっごい分かる。……でもね! 自分がやられるのは嫌なの! 大分自己中な事言ってるのは分かってる! でもね! この気持ち! 分かれ!!

 

それに裾が短いスカートは股下がスースーして気になってしょうがない。夏は汗で張り付いて気持ち悪いし、冬とか股引……あー、ヒートテック? レギンス? ……の常備必須。なんなん、あれ。動きにくいわスースーするわ蒸れるわ寒いわで、最悪じゃん。お陰で制服以外でスカートを履いたことは殆どない。部屋にもスカートは存在しない。本音を言えばジーパンにスカジャンかまして街を歩きたい。楽だし格好良いし、最強かよ。

 

「────ッ!!」

 

「? どうしたの?」

 

そうだ! スカジャン! これだったら近くに用がある時にも手軽に着れるし、オシャレとしても十分活用出来る筈! 今ちょっと調べてみたけど、ファッション雑誌とかにも載ってて意外と流行ってるっぽいし。スカジャンはお洒落! んっん〜、良い響きだ。この雑誌は着眼点が違うな。今度から愛読しよう。

 

これで軽く用事がある時とかにどんな服装で外に出ればいいかっていつも悩んでたのも解決出来る。よそ行きの服装は準備が面倒だし、かといってジャージはジャージでちょっと……ってなってたからね。まあ、結局その場合はジャージで外に出てたんだけども!

 

それより、今はスカジャンですよ! スカジャン! 買うなら絶対に桜吹雪と般若のやつだね! あれ以上に最高の組み合わせなんて存在するだろうか。いや、ない(反語)。

 

早速私は地図を確認すべくエスカレーターのある場所へと戻る。

 

「み、深雪ちゃん……?」

 

ふむふむ、地図によればこのデパートにスカジャン売ってそうなお店は……一軒だけあるっぽいね。……売り切れたら嫌だし、さっさと行ってさっさと済ませよう!

 

「ちょっと行ってくるんで、アーニャちゃんを待っててください」

「えっ、あっ、み、深雪ちゃん!? 何処に行くのー!? 深雪ちゃーん!?」

 

そして私は新田さんを置き去りに目的の場所へと向かった。結果としては欲しい物は買えたので大満足だ。アドバイスや感想をくれた二人には感謝の念が尽きない。お陰でこんなに素晴らしいものが買えたのだから。

 

買った後で二人にどんな服を買ったのか聞かれたが、どうせなら着て見せたかったので次の練習の日まで秘密と答えておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、どうしても誰かに見せたかったので、買ったスカジャンとお気に入りのサングラスを決め込んで事務所で夏樹に見せびらかしてたんだけど、普段では考えられないような必死な形相の武内さんに呼び止められてしまった。何故かすぐ脱力していたんだけど。きっと私のファンキーかつグルービーな魅力溢れるファッションに度肝を抜かれたのだろう。

 

……え? 事務所にスカジャン着て来るの禁止? 解せぬ。

 

 

因みにその後、事の経緯を武内さんから聞いた新田さんが私の観察を行い始めたらしいのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

P.S たこせんおいしかったです。

 

 

 

 

 

 

 


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