私、二回目の人生にてアイドルになるとのこと   作:モコロシ

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第13話 たかみねのあにじゅうにさい

「あー、疲れたー」

 

ライブが終わり、現在の時刻は凡そ21時過ぎ。アイドル達は既に解散しており、一緒にパシフィコまで来た輝子もとっくの昔に駅で別れ、帰宅している。打ち上げなんてものも存在しているらしいが、私はエキストラという部外者だし、元より参加する意思は微塵も無かった。顔を売った方が良いというのは理解しているが、やはりどうにも気が乗らない。

 

ちなみにあれから私は皆に慰められ、逆に惨めになりながらもなんとか落ち着きを取り戻した。一番心にグサッときたのは武内さんの言葉。あの人は気遣い方が非常に下手だ。更に泣きそうになったもん。いや、泣いた。もうその時には人前で泣く事の恥じらいなんて今更すぎて覚えなかったからそれも拍車がかかったんだと思う。二度とする気は無いけど。

 

落ち着いた後はもちろん輝子へのお仕置きタイムだった。お仕置きは地味に痛いグリグリ攻撃をお見舞いし、取り敢えず先程の事は水に流した。輝子だけが悪いと言えば嘘になるし、それに反省もしている様子も見えた。寧ろグリグリの後は反省しすぎて自分を責めてるきらいがあったので慰めざるを得なかったというのもある。流石に私もそれ以上は望むところではない。しかしその時の輝子の涙目があまりにも保護欲を誘ったので加虐趣味に目覚めてしまいそうになった事をここに表記する。

 

さて、本日はクリスマスイブ。正直クリスマス当日より当日感がある今日(こんにち)という事もあり、街中はなんとなく賑わっているような気がする。

 

そんな中、私は夜のご飯処を探すべく寮の近くの街中をぶらぶらと歩き回る。というのも本日、私は寮の夕飯を予約していなかったのだ。理由は単純で、特に食べたいと思える御菜が存在しなかった為である。しかし、そうは言ったものの現在の時刻は21時を回っている。開いている店と言えば昼に行きそこなったマックなどのファストフード店、牛丼屋さん、後は今の私には縁のない居酒屋くらいなものだろう。他にもあるかもしれないが調べるのが面倒だ。牛丼を食べるか、マックとかそこら辺の店で食べるか。この二択で決定である。元より料理するつもりなど更々ない。私にとっては無駄に1Kな部屋なのだ。いや、必要なのは確かではあるのだが。そういえば私が新人研修中に住んでいた寮はお手洗いと洗面所が共用だったのでその度部屋から出なければならなかった。カップ麺作る時なんかもいちいち部屋から出てポットに水足さないといけなかったので、今は正直言うと凄い楽。キッチンさいこー! ごめん、無駄に1Kなんて言って。

 

それはそれとして、今は夕飯の問題だ。ぶっちゃけ私の中では最早牛丼一択に絞られていた。しかし、ここからが問題なのだ。

 

私の中で、牛丼屋は4種類存在する。

 

 

 

──すき家。

 

──吉野家。

 

──松屋。

 

──なか卯。

 

 

 

確固たる順位付けはされているもののこの4店舗が日本の牛丼界を占める強者。所謂──四天王。

 

……いや、やはりすき家と吉野家の双璧と言った方が良いだろうか。松屋となか卯では逆立ちどころかトリプルアクセルしても双璧には敵わないだろう。別に人気が無いとか美味しくないとか批判をしているわけではない。ただひたすらに、店舗数が違うのだ。(松屋は兎も角、なか卯とか見た事)ないです。

 

牛丼とカレーの2本柱で勝負のすき家。牛丼以外の丼ものも様々存在し、メニューが豊富なところも利点だ。カレーは食べた事ないけど。丼は並盛、大盛などのほか、「ミニ」から「メガ」まで、サイズ展開が幅広いのも特徴的である。私は食べた事は無いが、友人の話を聞く限り「メガ」は相当ヤバイらしい。恐らく私では半分も食べる事は敵わないだろう。ちなみに私の好きな牛丼はねぎ玉牛丼とチーズ牛丼。中盛と大盛の値段が一緒の為ついつい大盛を頼んでしまうのが悩みだ。

 

私の中ではやはり牛丼と言えば吉野家、というイメージが根付いている。チェーン店も国内では1000店以上、海外にも約500店を展開しており、店舗数でも最大手の牛丼屋だ。

 

中でも有名なのはかのゆでたまご先生の大作、『キン肉マン』との関係性であろう。キン肉マンがアニメ化される際、吉野家から東映への依頼により、アニメに出てくる牛丼屋が吉野家となり大盛況した、という話はあまりに有名だ。

 

ゆでたまご先生は、過去に吉野家から『持参すれば永久に牛丼が無料で食べられる丼』という物を贈呈されている。まあ、当たり前といえば当たり前の対応である。アニメ『キン肉マン』はそれ以上に吉野家へと貢献して来たのだ。アニメ『キン肉マン』を見て吉野家に憧れた子供は少なからず存在するだろう。現に、リアルタイムで見ていた当時の私も吉野家に対して憧憬の念すら抱いていた。

 

 

 

──それだけに私は、吉野家を許せない。吉野家の愚行を。ゆでたまご先生への不義理を。

 

 

 

『持参すれば永久に牛丼が無料で食べられる丼』、実はゆでたまご先生はこれを持参してもお金を払わないと食べられなかったらしい。この情報は某テレビ番組で放送されており、放送後には『吉野家』に対して「タダで牛丼を食べさせなかった件」で苦情が殺到した。

 

その後すぐさま『吉野家』の社員がゆでたまご先生のもとを訪れ、菓子折りと牛丼のタダ券を謝罪として渡したのだが、ここからさらなる問題に発展した。その時の社員の言葉はこうだ。

 

 

「いやぁ~キン肉マンって牛丼にすごい影響を与えてるんですね?」

 

 

はぁ?

 

空いた口が塞がらないとはこの事だろう。この耳を疑う発言により、ゆでたまご先生と、ついでに私の怒りを買う結果になってしまったのだ。

 

厚顔無恥にも程があるというものである。どれだけ『キン肉マン』が牛丼業界に影響を与えたのか、この社員はまったく理解できていないのである。無知は罪なり、よくいったものである。

 

ここから更に言い訳で、その社員は放映当時を覚えていない社員が多い為、その辺りが分からなかったと発言。流石のゆでたまご先生も怒り心頭に菓子折りと牛丼のタダ券を叩き返したのだという。

 

これで終われば私は今も、そしてこれからも『吉野家』へ足を運ぶ事はなかった。しかし、ゆでたまご先生はその後のコメントで「揉めたからといって自分の好きな店の物を食べなくなるのはおかしい。どうか自分好みの味の牛丼を食べてほしい。牛丼を嫌いにならないで」という、なんとも慈悲深いメッセージをファン達へ送り、この騒動に幕を下ろした。

 

許したわけではない。許せることでもないが、この言葉のお陰で私は未だに吉野家へ通うことが出来ている。それに元々私も吉野家に憧れた者。この出来事で好きな吉野家へ通えなくなるのは辛いものがあった。吉野家は私の純粋で無垢な子供心を引き裂いた。しかし、牛丼に罪はないのだ。原作者の言葉というものは偉大である。

 

そういう事なので今日の夕飯は吉野家で済ませることにしよう。私は早速マップで調べて近くの吉野家へ辿り着くと、手動ドアを開け、空いてる席があるか見渡す。其処で一番に目に入ったのは、只々煌めき続ける白銀の世界だった。

 

「……あれは」

 

の、のあさん! 変装しているつもりかもしれないが、あの艶やかな銀髪とサイバネティックな服装は確かにのあさんだ。私の目は誤魔化せない。私みたいな似非とは違う本物のクールビューティだけど大分天然が入ってる彼女がどうして吉野家に……!

 

……いや、考えなくとも分かることだ。彼女も私と同じでこの店で夕餉を済ませる気なのだ。カウンター席に空きは存在しない。空いている席といえばのあさんが座っている二人席のところだけだ。

 

「……待つか」

 

のあさんの一人の時間を邪魔しちゃ悪いしね。私も一人の時間を邪魔されるのは嫌いだし。そう思いながら待機席へと座ろうとすると、何を思ったのか、のあさんが此方へと目を向け、そして視線が重なった。

 

「〜〜〜〜♪ ……?…………ッ!!?」

 

見てないふりをしたかったのか、彼女は分かりやすいほどに肩をビクッと揺らしながら目を泳がせる。しかしそれは違ったようで、ただ席をキョロキョロと見渡していただけのようだ。そしておずおずと手の平を下に向け、此方へ来るようにジェスチャー。私は申し訳ないと思いながらものあさんの善意に甘え、そちらの席へ赴くこととした。

 

「のあさん、ありがとうございます」

「うん……ア……、ミ、深雪……? モ、もしかして後をつけてた、トカ」

 

のあさんは何処か挙動不審な様子で私へ問いかける。後をつけるってのあさん……私をストーカーか何かと勘違いしてるんじゃなかろうか。

 

「いえ、偶々今日は吉野家にしようかなと」

「……アッ、熱ィ………………そ、そう。……深雪が牛丼なんて、よく来るのかしら?」

 

のあさんは熱そうにしながら牛丼をフゥフゥと冷まし、口へと含む。

 

「偶に来ますね。ふとした時なんかに」

「……! ……モ、もしかして、深雪も吉野家派──」

「いえ、すき家派です」

「アッハイ」

 

私はメニュー表を見て注文し、牛丼を食べるのあさんをこっそり見続けた。

 

「……ング……私が言うのもちょっとアレだけど……意外ね」

「ふふ、よく言われるんですよね。でも私、皆が思ってる以上に俗っぽいんですよ? こんなナリしてるから遠目に見られますけど」

「……へぇ、興味深いわね」

 

一仕事終えた所為か、私は普段だったら言わないような事を口にしていた。のあさんは表情では分かりにくいが雰囲気で非常に興味深そうに耳を傾けているのが分かり、お酒も飲んでいないのに口が軽くなった私は更に続けた。

 

「こう見えて家では結構自堕落で、部屋も結構散らかってますしね」

 

これを言うと結構な頻度で驚かれるか、信じてくれないかの二択になる。よく優雅な生活をしてそうと言われていたのを思い出す。別に一人暮らしだからとかは関係ないと思う。家でもしょっちゅう親に部屋を片付けろと言われていたし。それに私自身、別に猫を被っているつもりは毛頭ない。ただ皆、この外見を見ただけである程度の性格を勝手に決めつけてしまう為、何かと敬遠されがちになってしまうというルートが出来上がっているのだ。その為私と関わりのない人たちはこれからもずっと私の事を勘違いしたままだろう。

 

クールというより皆より精神的に大人な分落ち着いているだけだし、ミステリアスというよりただペチャクチャと話すのが面倒なだけ。おまけに同年代とは趣味は合わずに今時の話題にもついていけないし、友達作りに積極的な訳ではない。しかし私に関しては話せば大体分かってくれる事が多い。仲良くしたい人とだけ話して仲良くする。これが私クォリティである。

 

「……!! ……ド、同類……!」

 

ガシャン! ビチャー

 

私が話を終えると、のあさんは何故か興奮した様子で立ち上がり、その反動で右肘がピッチャーへ突き刺さる。そしてピッチャーは床へと衝突し、中から水が溢れ出てしまった。ピッチャーの中にはまだ沢山の水や氷が残っていたので、床への広がり方は尋常では無く、今も床全体に水が行き渡ろうとしていた。

 

「ヒッ! あっ、ああ……ゴ、ごめんなさぃ、……ふ、拭かなきゃ……!」

「あっ、ちょっ、そんなにいら──」

 

のあさんは非常に慌てた様子で、テーブルに常備されているティッシュを丸ごと全て取り出したかと思えばベチャリと床へ置き、水を染み込ませていく。私が出来ることといえば荷物と足が濡れないようにすることと、濡れた床に這い蹲ろうとしているのあさんを止める事くらいである。

 

「の、のあさん、大丈夫ですよ! 店員さんがやってくれますから!」

「お、お客様よろしいですよ。此方で対処致しますので」

「本当にすいません……」

「ゴ……ごめんなさぃ……」

 

私は申し訳無さそうに、のあさんはシュンとしながら店員へと謝罪をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

「今日ののあさん、なんだか変だったな。可愛かったけど」

 

あれから事が済むと、私も注文して二人で食べてそのまま解散した。サラッと奢ってくれたのがカッコよかった。

 

実は食べ終わった後に飲みに誘われたのだが、残念に思いながらも断って今帰途に着いているところだ。行きたい気持ちは勿論あったのだが、未成年な為酒が飲めないという事と、補導されると面倒だという理由から諦めた。後お腹いっぱいになった事で少し眠気が襲ってきたというのもある。ちなみにのあさんは私がとっくに成人しているものと思っていたようでだいぶ驚いていた。

 

『こんなにしっかりした子が私より7つも年下……!? タ、立つ瀬がなぃ……』

 

消え去りたいと小さく呟くのあさんに流石の私も困ったがどうにか慰めて、現在に至るというわけだ。

 

のあさんは三月生まれの22歳。私は1月生まれの現在15歳。三月生まれは高校在学中に車の免許が取りにくい。しかものあさんは3月後半、の更に後半の25日生まれな為実質在学中に取ることは不可能。この件に関して何か言い分はあるかという問いを投げかけると「誠に遺憾である」という有り難いコメントをいただいた。嘘です。

 

とはいえ残念なものは残念だったらしく、今でも免許は取得出来ていないらしい。私は誕生日の1ヶ月前に自動車学校(私の地域では車校と言う)に入学してさっさと取得する予定だ。しかしその前にやるべきことは沢山ある。高校生活とは部活動に入らなければ非常に楽なものだ。正直就職する前と後での勉強量は圧倒的に後の方が多い。なので資格を取得するにはもってこいの期間という訳だ。

 

私は前世取得していた資格を高校生活の間に全て……とはいかないまでも主要の物は取り戻したいと考えている。前世頑張ったことを無駄にしない為、小学校の頃からコツコツ忘れないように復習して来たので自信は結構ある。子供だからか非常に頭が柔らかくなった為、知り得なかった知識もするすると覚えることが出来て正直とても気持ちが良い。勉強が楽しいと勉強が捗る為、本当に嬉しい。それに現場で働いていたので、モノ(・・)を知っているというのも利点だ。ぶっちゃけ私が今狙っている『第二種電気主任技術者』という資格は、取得さえしておけば食いっぱぐれる事はほぼないと言える。聞いた話では競艇場や競馬場などのギャンブル系のところであれば、そこにいるだけ(・・・・)で収入を得ることが出来るらしい。

 

ギャンブル系の施設は絶対に停電してはいけない。少しでも通電が途切れてしまうと、途中経過のデータやレースの現状を写すモニタも全て消えてしまうからだ。すぐに客からクレームの嵐、批判殺到が目に見える。ではそうならない為にはどうすれば良いか。そこで出てくるのが『電気主任技術者』だ。少しでも施設に不具合が起きた場合にその系統の知識を持っている『電気主任技術者』がいれば即座に対応、そして原因を探り、早期解決を試みる事ができるという訳だ。その役割は非常に重要なものだ。その為、『電気主任技術者』という職に就けば最悪何もせずとも年収1000万を超えることもあるということだ。つまりその資格さえ取得しておけばアイドル業務で失敗しても何ら問題はないという事である。

 

それにしても、本当に今日ののあさんはどうしてしまったんだろう。ライブの時は至って普通ののあさんだったのに、吉野家ののあさんは別人と言ってもいいくらいギャップが凄まじかった。あれって牛丼食べてるのバレたくなったから挙動不審だったのかな? 牛丼くらい誰だって食べるだろうに。恥ずかしがり屋さんだったのだろうか。だとしたら本気であの人が可愛く感じる。

 

ライブ前にのあさんが檸檬の蜂蜜漬けを食べている時も今と同じような気持ちに陥っていたことを思い出す。両手でリスのように食べている様子が非常に微笑ましかった。あれが所謂ギャップ萌えというものなのだろう。成る程、色々と勉強になる。

 

ところで、のあさんは私が住んでいる寮や346プロの城もとい事務所が存在するこの場所とは少し離れたところのマンションに住んでいるらしい。先程まで此方にいた理由は単純に事務所に忘れ物があったからで、電車に乗る前に夕飯を食べておこうといった意図があったようだ。のあさんとしては恥ずかしいところを見られて災難だっただろうが、私からしたらのあさんの新しい一面も観れたので来てよかったと思う。これもキン肉マンが引き寄せた出会いである。ラッキー、クッキー、もんじゃ焼きってか。懐かしすぎてなんだか笑いが出てくる。正直ラッ○ーマンと奇○組の登場人物のネーミングセンスは神がかっているよね。追手内洋一はついてないよーだし、一堂零に至っては一同礼だ。

 

そう考えているうちに、やがて寮へと辿り着いた。部屋へと入ると、私はすぐさまその身をベッドへと沈めさせる。その瞬間、身体にドッと疲れが現れ、一瞬のうちに眠気が全身を襲い始める。どうやら私が思っている以上にこの身体は疲れを感じているらしい。初ライブの緊張やこれまでの練習の疲れも一気に出ているのだろう。このまま寝てしまいたいといった欲求が次第に強くなっていくのが分かるが、これから風呂に入らなければならないので泣く泣くその身を起こし、準備をした。

 

ふらふらと幽鬼のように重い足取りで浴室まで赴くと、服を籠へとポンポン脱ぎ捨ててガラリと扉を開ける。その瞬間、風呂特有の湿気た空気が顔を襲い、心地良い温かさによって更に眠気を誘った。寝落ちしない為にもせかせかと髪、身体、顔の順で洗い終えると、出していたお湯のシャワーの温度を冷水と言えるまでの温度に一気に下げる。勿論放出していたお湯も即座に水へと変わり、洗顔を落としている最中であった私の顔へと襲撃した。

 

「うひゃう!」

 

自分でやっておきながら声を出してしまう辺り、相当寝惚けていたのだろう。お陰で寝落ちだけは免れそうだが、それでも頭はあまり働きそうになかった。

 

「あははっ、君面白いねー」

 

笑い声と話しかける声がタイルの壁を反射して浴室内に響き渡った。無論、私の声ではない。そして反応する声が無いことから考えると、この声は私に対して発したものなのだろう。しかも妙に馴れ馴れしいときた。

 

私は笑われた事はすっかり忘れ、失礼なやつだとなくならない眠気も相まって多少不機嫌になりながら声の方へと振り返る。

 

「……誰ですか」

「や、そんな怒んないでよ。私は塩見周子さんだよん」

「はぁ……」

「………………えっ? そこは自己紹介返すところじゃ無いの?」

 

目が覚めたとはいえ疲れが抜けていない私は思考能力が低下しており、自己紹介されても「はいそうですか」といった感想しか持てなかった。

 

話すのも億劫だった私は最低限の挨拶を残してこの場を去る選択をした。

 

「…………あ、私は小暮深雪です。……あの、すいません。私疲れてるので」

「……あ、うん。……なんか、ごめんね?」

「いえ……また今度」

 

私は湯船にも浸からずその場を後にした。

 

 

 

 


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