ちからこぶれ!ユーフォニアム   作:ブロx

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なんか続きました。しかも中編。時間設定がおかしいのはこの駄文が妄想の産物だからです。
私と一緒に、新しいユーフォssを作ろう。毎日が楽しいぞぉ?
悪魔に唆されたんです。






中編

 

 

 

 

 『高校生になったら、今度こそ金賞をとろう』

 

 中学最後の吹奏楽コンクールでいい結果が得られず、屈辱感に苛まれた者は大抵こう考えるだろう。現に、私はそのように考え去年まで生きてきた。

屈辱を晴らす。過去に打ち勝つ。そうしなければ、悔しくて死にそうだった。比喩ではなく。

今のままでは駄目だ。弱いままでは駄目だ。私は、特別になりたい。

その猛々しい想いをフルートにのせ、当時私は放課後居残り練習をしていた。

 曲は、「ハンガリアン田園幻想曲」

 

『今日も良い音を響かせるね、あんたのフルート』

 

『―――傘木。何の用?』 

 

同じ1年生で同じ吹奏楽部、同じくフルート奏者。それがこの傘木希美という女だ。

何の用?とは言ったものの、この女がここに来た理由は一目瞭然。

私の金色のフルートとは違う、銀色のフルートを手に持ちここ北宇治高校の屋上を訪れる理由はただ一つ。

 

『勿論練習だよ。……今日も先輩達、一緒に練習してくれなかったね』

 

『…明日こそ絶対説得してみせる。だって、私吹奏楽好きだもの。合奏が、好きだもの』

 

音と音が重なり、一つの大きな音楽になる。だからこそ、コンクールで賞という結果が現れる。

 

『ハハ、流石だね。我が強敵?』

 

『傘木。言っとくけど、私はアンタに負けるつもりなんてサラサラ無いからね。

…我が強敵(とも)』

 

二つのフルートの合奏が響く。

それはまるでこれからの人生に明るい展望が待っているだろう、美しいメロディーだった。

寂しげな黄昏など吹き飛ばせ。我が学び舎よもっと彩れ。

私の音楽よ、どうか響き続けてくれ。

 

―――私達1年が3年の先輩達に何を言っても無視され始めたのは、その次の日からだった。

何もかもが無駄だったのだ。私は全てに失望し、吹奏楽部を辞めた。

 

 そして一年後、計画実行の前日。

その日の放課後、久しぶりに学校の屋上で私はフルートを吹く。

演奏する曲は、とある映画の劇中曲。そのアレンジ。

 

私の音楽よ、どうか轟け。我が学び舎を呪え。美しい黄昏よ、もっともっと憎しみを孕め。

 

―――その日、吹奏楽部で最後まで居残り練習していた1年・川島緑輝は、フルートの音色を聴いた。

それは美しい旋律で、しかしどこか調子が狂ったような、音階にひずみのようなものがある曲。

徹頭徹尾冷酷悲痛、まるで闇の夜空をかけめぐる死霊の恨みと呪いに満ち満ちた雄叫び。呪詛と憎悪のメロディーだったという。

今思い出しても、肌が粟立ち怖気がはしる。

この曲を聴いたことが無くとも、誰でも一度聴けば吹いている者が何なのかは分かる。

 

「―――悪魔が来りて笛を吹く」

 

次の日、テロリストの蜂起が北宇治高校を襲うのだが、川島緑輝はまだ何も知らない。

 

 

 

 

 

 

 ビデオカメラが回る。映像は放送室を経由してこの北宇治高校各教室のテレビに映る。音声は全校放送だ。

これは声明。去年あんな事件があったのにもかかわらず、何もしなかった無能な奴等への。

元吹奏楽部、3年・斎藤葵は息を吸った。

 

「―――お前らは私達学生を・・・・黙殺したんだ。

教師でありながら我々の人生に何の干渉もしなかった。

そのお前らが我々を、落伍者(テロリスト)と呼ぶぅ!!!

・・・だが今、迫害された者達の手に、貴様ら大人に反逆する強力な武器が与えられた!!!

よく聞け・・・、北宇治よ。夏の大会に出場する全ての部活動を棄権撤退させろ即刻!!!そして永遠にな!!!!!

【真紅のサキソフォン】は、要求が通るまで北宇治高校の教室を一時間に、一つずつ!!!爆破していく事を宣言する。

―――ただし、一つ目の爆破はこの無人の体育館倉庫で行う。

我々の力を貴様ら大人に示す為に、我らの人命尊重の証として!!

―――しかしだ!

・・・要求が入れられない時は、我らは迷う事無く、この学校の主要教室への爆弾攻勢を開始するだろう!!!一時間に一つぅ!!・・・・・・・??」

 

 何故かビデオカメラが下げられる。

何か問題があったのだろうか?カメラを持つ同志は震えながら、重い口を開いた。

 

「―――バッテリー切れですぅ……」

 

 

――――――――――・・・・。。

 

 

「―――切れたらさっさと入れ替えろマヌケェ・・・」

 

「すぐとってきます・・・・。放送室から・・・」

 

遠いわボケ。

 

「アジズ」

 

「何よお!!?」

 

「えっと、その呼び名やめません?・・・葵先輩でいいんじゃ」

 

「駄目よ」

 

「・・・了解ボス」

 

気を取り直そう。最後が切れたかもだけれど、声明は伝わったはずだ。

 

これは逆襲だ。この学校への、他人への、あの頃の自分への。

 

「皆!吹奏楽部をはじめ邪魔者は必ず来るわ!気を抜かないで」

 

 来やがれ、面ァ見せろ。

出てこい、チェーンガン(筋肉)が待ってるぜ。

 

 

 

 

 

 北宇治高校吹奏楽部の部員一同は、空き教室でテロリストへの緊急対策会議を行っていた。

テロの首謀者は元吹奏楽部員、3年、斎藤葵。

私、黄前久美子の幼馴染だ。

 

「じゃあ状況を整理するよ?・・・3時間前我が部の顧問が、香織先輩含め多数の生徒達と共に、テロリストに拉致された」

 

「成る程」

 

 夏紀先輩が机の上にこの学校の地図を広げながら、私達に説明する。

集まったのは2・3年生が少しと1年生が大多数。正直私達に一体何が出来るのか、とても心もとない。

 

「デカリボンとみぞれ達の情報で人質のいる位置は掴んだ。おおよそこの辺りに監禁されてるみたい。…そうよね?みぞれ」

 

「ええ。先生達人質は皆図書室に集められてる。そしてテロリストのメンバーは、去年吹奏楽部を辞めた現2年生。燻っていた火種が葵先輩の甘言によって着火、爆発して今回のテロってこと。

…さっきの声明といい、全くテロリストの典型ね。被害妄想もいいところよ」

 

「しかしどうやって爆破を?相手は核弾頭でも手に入れたんですか?」

 

物騒な事を言う葉月ちゃん。でも私は、葵ちゃん達が核を持ってたって不思議じゃないと思っている。

・・・あの時の葵ちゃん、目だけが光っていた。何をやってもおかしくはない凄みを私は感じていた。

 

「違うわ、後輩。…硫黄と酸素を使った簡易的な爆発物を作ったみたい。学校って、意外と危ない薬品が揃ってるからね。

隙さえ突けば、あらゆる爆弾テロに絡んだサイコ野郎の出来上がりよ」

 

デカリボンもとい吉川優子先輩が吐き捨てる。人質として囚われている3年の香織先輩を慕っている彼女からしてみれば、

テロリスト達はサイコ野郎どころか最低野郎なのだろう。

 

「・・・先輩方。私達はこれから何をしろと?」

 

「私達北宇治高校吹奏楽部は絶対全国に行く。その為には、」

 

「スピードが命よ。警察沙汰になる前に済ませましょう。表で見張ってる敵を黙らせて人質を奪還、敵本拠地の放送室をおさえて葵先輩をふんじばって音楽室に引き揚げる」

 

「恐ろしい相手ですよ…?」

 

「放送室はまるで要塞です。きっと敵が待ち構えてるに決まってます…!」

 

「・・・でも」

 

―――やるしかないでしょう?

 

夏紀先輩達の目がそう語っていた。周囲を見やれば、葉月ちゃん達も同じく。

 

「しかしどうやってです?…物理で殴れとでも?」

 

「ええそうよ」

 

「みぞれ、キツいジョーク言わないの。…幸いこの教室を見張ってるのは男子二人だけみたいだから、奴等を甘い言葉で誘ってこの教室の中に連れて来て。後は私がやるわ、いい?」

 

「…でも、やっぱりわたし達怖いです…!」

 

「よしてくれぇ…、恐れを知らぬ吹奏楽部だろうが!」

 

震える一年生。相手は先輩で男性だ。恐ろしくないと思う方がどうかしてる。

 

「―――私が行きます」

 

すっくと、麗奈が手を上げる。滝先生を助け出せるのならこの命だって惜しくは無い。

裂帛の気迫を私は感じた。

・・・その気迫は、図書室と敵の本拠地で振るわれるべきだ。

 

「麗奈、ここは私が往くよ。…滝先生を救いたい気持ちは分かるけど、女でしょう?現実を受け止めて」

 

「久美子。…でも!」

 

「先輩方。麗奈は図書室及び放送室への突入要因に最適で、優秀です。ご存知でしょう?」

 

一匹狼。特別な存在。それが高坂麗奈という人間だ。彼女が奏でるトランペットの音色は万人を奮わせる。

ということはつまりワンマンアーミーって事とおんなじこった。

こんな所で疲労してちゃだめだ。

 

「分かった。…久美子ちゃん、気をつけて」

 

「フォースと共にあれ」

 

みぞれ先輩ってマスタージェダイか何か? 風格ありすぎるよ。

 

 

 

 

 

 

 教室のドアを開いて外を覗くと、二人の男性が見えた。どうやらお友達みたいだね、二人で談笑して友情を示してる。

 

「あのぉ~…」

 

「おい。教室から出るんじゃあない」

 

「いやちょっと待てよ。・・・・ん~?」

 

教室から出た私を、靴の先から頭のてっぺんまで舐め回すように見る先輩。

 

「ほ~・・・、へいへ~い後輩の女子だ。悪かねえぜ?」

 

「良くもねえがな」

 

鼻で笑われる私。

 

「おいおい。何で?」

 

「小型機に用は無い」

 

HAHAHAッという笑い声。

何かがキレる音が、脳内に響いた。

 

「見ろ!!!ゾウさんだ!!!」

 

二人の後方に向って叫び、人差し指を伸ばす。後ろを向く男性達。

 

両腕を広げ、その無防備な頚椎目掛けて私はラリアットをぶちかました。

 

「…成長期の乙女をなめんじゃねえよ」

 

気絶した二人の耳にフーっと息吹と、冥土の土産とを与えてやる。

 

「この手に限る」

 

「久美子ちゃん、やる事が派手だねぇ…」

 

「終わったな。所詮、クズはクズなのだ」

 

夏紀先輩が呆れ、みぞれ先輩が嫌いな野菜(例えばブロッコリー)を見るかのような目で気絶した男性二人を睨む。

 

「よぉし!派手に行こう!!」

 

葉月ちゃんと優子先輩が周囲に檄を飛ばし、皆は颯爽と走り出した。目指すは人質が捕らえられている図書室だ。

 

「…でも夏紀先輩。放送室から敵の増援が来たらどうします?あと葵ちゃ、……葵先輩が外から戻ってきたら?この人数では心許ない様な」

 

「大丈夫。ちゃんと手は打ってあるよ、後輩」

 

走りながらウィンクをする夏紀先輩。

 

―――頼んだよ?塚本君。

 

そういえば。

いつの間にいなくなったのだろうか?私は葵ちゃんと同じく幼馴染の秀一が消えている事に気付いた。

 

 

 

 

 

 

 学校と言われる建物で欠かせない部屋がある。それは放送機材が置いてある部屋で、一般的に放送室と呼ばれている。

この部屋には学校の音響全てを管轄するボタンや機器が置いてある。

例えばどの部屋にピンポイントでマイク放送を流すか、ビデオ映像や朝・昼・夕方の音楽をどうするか等を設定できるようになっているのだ。

そして音楽室に次いで防音防壁がしっかりと為されており、その構造上一度立て篭もってしまえば外からは突入しづらいようになっている。(諸説あり)

 

 つまりここを崩すには、奇策を使う必要がある。

 

「よぉ待ちな!おいおいおい!!お前どこ行く気だ…?」

 

「おぉっと頼むよ気をつけてくれぇ!職員室の佐藤先生にデリバリーだぁ」

 

放送室近辺を警備していた【真紅のサキソフォン】の一味が、変な箱を持った一人の怪しげな男を問い詰める。

よく見てみると有名なピザ屋の格好をした、いかにもピザの配達に来ましたという風な男であった。

 

「悪いけど、許可の無い者を通すわけにはいかない」

 

「キョカノナイモノヲトオスワケニワ。いっひへへへへ!!!!お~い怒るこたぁないだろぉ?だったら佐藤先生に確かめろよ。

ペパロニのピッツァだぁ、激ウマだでぇ~!!」

 

「…分からない奴だね。この学校は今特別警戒中だ!」

 

「おや~?分かってないのはお嬢さんあんたの方じゃないか?これはあのドミノ○○のピッツァだぞ?

アツアツのうちに届かない場合は、代金をこの俺が払わなきゃなんねえんだ!

楽器買うのに倹約……おぉい触るんじゃねえよ!!!」

 

 もしやこのピザの配達人は自分達の敵では? そう考えた【真紅のサキソフォン】の一味は男のボディーチェックを始めた。

壁に押さえつけて腹と手を付かせ、ピザと書かれた帽子を取り、身体をまさぐる。

その光景は傍から見れば、女の子達数人が男に言い寄っているように見える。

 

「…何も持って無いね」

 

「異常なし」

 

「おい!言っとくが俺は心臓に持病があるんだ、訴えてやるからな!」

 

「うるさい!!」

 

もしや箱の中に何か仕掛けが?

 

「―――確かにペパロニだ」

 

異常なし。どうやらこの男は本当にピザの配達人のようだ。

 

「よし、ならこの男に用は無いわ。追い出しなさい」

 

「おいもういいぞ帰れ」

 

しかし、男は正面を向かず動かない。

 

「おい!帰れって言ってんだよ!!」

 

埒が明かない。業を煮やした一味の一人が強引に男をこちらに振り向かせた。

 

「ゥゥゥ・・・」

 

「…ん?」

 

そこには、

 

「ゥゥう、ゥううううううう!!!!」

 

泡を吹き痙攣して白目を剥いた、変わり果てたピザの配達人の姿があった。

 

「ひでぇ事しやがる……!」

 

「何もしてないわよ!こいつが勝手に倒れて…!」

 

泡を吹いて倒れる人間など、そう見れるものでもない。混乱するテロリスト達。

そこに、放送室の中に居た残りの【真紅のサキソフォン】のメンバー達が、報告を受けて放送室から続々と出てきた。

 

「ちょっと何やってるの?」

 

人が倒れたと聞いて見てみれば、そこにはピザ屋の制服を着た男が泡を吹いて痙攣している。

そしてザワザワと騒ぎ出している同志達。

 

「ピザの配達に来た男が発作を起こしてます…」

 

「どこの馬鹿だ、ピザ頼んだのは!!!」

 

「そんな事言ってる場合か!」

 

「急いで保健委員を呼んで保健室に運んで!!」

 

保健委員を呼びに行く、倒れた男を介抱しに来る人々。正に現場は大混乱だ。

 

―――時間は稼いだぜ?皆。

 

ピザの配達人もとい、吹奏楽部1年・塚本秀一は誰にも顔を見せずほくそ笑んだ。

この学校の吹奏楽部は男子部員が極端に少ない。そして自分は、その中でも特に存在感が薄い。

リーダーの葵さんがいるならまだしも、他の【真紅のサキソフォン】のメンバーに顔がばれる事はない。そして自慢じゃ無いが、自分は演技派だ。

一種の賭けではあったが、どうやら今回は大成功のようだ。

 

―――人質の救出は頼んだぜ皆。・・・怪我するなよ、久美子。

 

親愛なる己の幼馴染に、秀一は心の中で祈った。

 

 

 

 

「………はい?」

 

 図書室の出入り口で警備をしていた【真紅のサキソフォン】のメンバーは、いきなりぞろぞろとやってきた集団の言葉に耳を疑っていた。

ここ北宇治高校は、他校に比べて大きい図書室を有している。蔵書保護の為壁は分厚く、廊下から中を覗く事は難しい。加えて本棚等を使えば人質を監禁するのにはもってこいの部屋である。

大人達との交渉材料を他者に渡すわけにはいかない。当然ここの守りは鉄壁であった。

 

「だからさっきから言ってるでしょう?―――ここで何してやがんの?」

 

「…何ですって?」

 

こちらを射殺さんとばかりに睨みつけている、集団。数は5、6人。

何と書かれているのかはよく分からないが、集団の腕には腕章が付いていた。

 

「あたし達ゃ北高図書委員会のもんだ」

 

「あんたらがウチの優秀な図書委員を使わないで図書室に入り浸ってるって小耳に挟んだ。…まさか違うよな?」

 

隠蔽は万全だったはず。どこかから情報が漏れたとしても、ここが嗅ぎ付かれるわけが無い。

 

「……面倒な奴等が来たわね」

 

「ああ全くだ」

 

「―――ちょっと騒がしいよ。…一体何を騒いでるの?」

 

部屋の奥から現れたのは、金色の筒を持った背の高い女性。図書室の警備を任された【真紅のサキソフォン】サブリーダーである。

 

「じゃあそっちの姉さんに説明させてもらおう。

図書委員を使わねえ生徒は、ウチの図書室を跨がせるわけにはいかねえ。……ウチの委員の姿が見えないようだね。…見えるか?」

 

「・・・ァあ?」

 

―――何だこいつら。図書委員だかなんだか知らないがそんなの関係ない。我々の復讐を果たす為ならば、こんな奴ら全員素手でぶっ倒してやる。

 

 図書室の警備を任された【真紅のサキソフォン】サブリーダーの女性は、元々この学校の吹奏楽部のフルート奏者だった。

中学最後の大会で銀賞をとり、その屈辱感から高校では絶対金賞。

いいや、全国大会に出場してやる!と息巻きここの吹奏楽部に入部した。

その結果は見ての通り。先輩を説得させるどころか、部の和を乱す邪魔者扱いをされた彼女は部を退部し、この蜂起に参加した。

・・・自分と同じ学年、同じフルート奏者に傘木希美という人物が居る。

在部当時、彼女とは互いに切磋琢磨した仲で、強敵(とも)だった。

だから自分と同じく彼女も、この蜂起に参加するものだと思っていた。

 

『…ごめん。私はもうちょっと自分なりに頑張ってみる』

 

『頑張るって…! この学校が憎くないの!?吹奏楽部が!大人が!!』

 

『ごめん。これは私が、決めた事だから。…あんたこそ、馬鹿なマネはやめた方がいいよ?』

 

『―――うるさい。負け犬が吠えるな』

 

誘いを断った彼女がその後どうなったかは知らない。

ただ時折放課後に聞こえてくる綺麗なフルートの音色を、彼女は最近耳にするようになっていた。

それはとても高らかで、気高く。そして美しく、可憐だった。

己が自宅で奏でる黄金のフルートの音色とは真逆。

まるで人生の喜びに出会えた様な曲。

 

・・・それがとても忌々しい。とても、憎い。

 

「学校長から任された仕事をしてるんだ!今すぐこっから立ち去ってもらおうか!!」

 

「・・・・あんたそれ脅してんの?」

 

「ええその通り。そう言ってるんだよ!」

 

吹き矢を構えるサブリーダー。一歩でも足を動かしたら、吹き刺してやる。

睨みつけるその瞳が、彼女の思いを語っていた。

そして同じく、目を細める図書委員。

 

「……図書委員を、」

 

「―――なめんじゃないわよ」

 

「!?」

 

 対峙していた図書委員が急にしゃがみこみ、その背後から人影が躍り出る。

その人物はしゃがんだ図書委員の肩を踏み台にし、サブリーダーの顎に膝蹴りを食らわせた。

この高校に階段部はないけれど、綺麗な長い黒髪をはためかせる彼女はまるで黒翼の天使だ。

 

「……あ、あんたは…!」

 

「北宇治高校吹奏楽部、トランペットパート1年・高坂麗奈。―――滝先生は、返して貰う」

 

言うべき事はそれ以外何も無い。麗奈はその燃え上がる恋の炎、愛の力を全開にして図書室に突入した。

その姿はまるで、フォースを身体全体に纏わせてアクロバティックに戦うマスタージェダイ。

そして続々と図書室に突入し、人質開放及びテロリスト達をふんじばる吹奏楽部員と図書委員達。

 

「―――ここの図書委員や吹奏楽部員ってのは皆サイボーグみたいね、いや腕が立つわ」

 

「……傘木」

 

「や。久しぶりだね、強敵」

 

 いつの間にいたのか、サブリーダーの腕を押さえる傘木希美。

かつての同輩を見やりながら、希美はその口を開いた。

 

「あんた、馬鹿だよ。あの時言ったじゃない。こんな事したって何になるっていうのさ」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すわ傘木。アンタ一体何やってるの?」

 

「あんた達を止めに来た」

 

止める?止めるだと?

 

「この高校が!吹奏楽部が私らに何をした!?…ァあ!?仲良し子良し楽しく音楽やりましょう?部員が集団で部を辞めてるのに何も問題は無いって?

冗談じゃない!!所詮は子供の戯けた行動だと思ってるんでしょう!それはこっちの台詞よ!!!」

 

―――何も知らない癖に!!口だけは達者なトーシロどもが!!!

 

「私達は必死だった!必死だったのよ!!上手くなりたかった!昔よりも今よりも誰よりも!!金を取って全国に行きたかったの!!!あんなぬるま湯の中じゃ、あのままじゃ悔しくって死にそうだったのよ!!!」

 

「―――分かるよ」

 

「だったら何で私達を止める!?傘木だってみぞれだって優子達だってこの気持ちを持っているのに!何で私の邪魔をするの!!」

 

―――これは復讐。否定され無視され、悔しさを昇華させる場を無くさせたモノらに対する復讐。

あんたら吹奏楽部が楽しく切磋琢磨し全国大会を目指して演奏をしている間、ずっとずっと私達は我慢していた。

だから邪魔するなよ。この蜂起は私達の正当な権利だろうが。

 

 呪詛と憎悪に満ちている彼女には分からない。

自分が今何を言っているのかを。己の支離滅裂さを。

それを聞いた傘木希美は一度瞳を閉じると、これまでの己の音楽を思い返した。

そしてゆっくりと瞼を開け、己の強敵(とも)をしっかりと見つめながら口を開いた。

 

「……ねぇ強敵。最近知った事なんだけどさ、音楽には一人じゃ出せない音があるんだよ」

 

「――――は?」

 

怪訝の目で、サブリーダーは希美の顔を見る。眼前にいる強敵の顔は何故か晴れやかで、彼女が放課後奏でるフルートの音色のように美しかった。

 

「あんた、部を辞めてから一人でずっとフルート吹いてたでしょう?もう合奏の意味、忘れちゃった?」

 

「……何、言ってるの」

 

「音楽は個人の力量が勿論大事だけど、一人一人の音色が合わさった音、合奏が如何に上手く出来るか。皆で出す音が如何に響くか。これが一番大切なんじゃないの?」

 

「は?皆で?そんな負け犬の理屈……!」

 

「強者の理屈を振りかざしてたから、私達は金賞をとれなかったんじゃないの?」

 

「何を………」

 

―――中学最後のコンクールは銀賞だった。だから、高校では絶対・・・。

 

―――絶対皆で、全国に行くんだ。

 

屈辱と共に、あの時そう心に誓ったのは一体誰だったか。

 

『先輩!皆で、合わせてみませんか?』

 

『一緒に練習しましょうよ!先輩!』

 

『先輩……。私、皆と一緒に全国に…』

 

 

「――――――やめてよ」

 

「あの人達と私達とじゃ、方向性は違ったのかもしれない。私達の音楽は、一年前退部届けを出したあの日に終わったのかもしれない。…でも!」

 

「やめてって言ってるでしょ!!!」

 

拒絶の声に耳を貸さず、手を差し出す私の強敵(とも)。

 

「あんたには私がいる。後輩だって、先輩だって!」

 

希美が後ろを振り向くと、そこには吹奏楽部の後輩達と監禁していた先輩達がいた。

全国を目指す、誰よりも上を目指す、現吹奏楽部員がそこに。

 

「何だかんだ言ったけど音楽って奴はさ、一人じゃ無い限り終わらないんだよ。

―――だから、一緒に続けようよ」

 

私達の音楽を。いつも屋上で明るく響いてた、私達の合奏を。

 

差し出す掌に暖かい感触が伝わるのを、二人は感じた。

 

 

 

 

「―――保健委員が来ましたけど入れますかあ!?」

 

「・・・その前にボディチェックだそれくらい分かるだろう!!!」

 

「…!」

 

時間稼ぎに成功した秀一はその怒声を聞き、驚嘆と同時に恐怖を感じた。

 

―――失敗だ。

 

声の主は、【真紅のサキソフォン】リーダー、斎藤葵。

 

「…図書室から連絡があったわ。ねぇ秀一君?あなた達、人質を開放したらしいわね?

――――それは、ビッグミステイクだぜ」

 

何かに刺され、演技ではなく今度は本気で秀一は意識が無くなっていった。

 

 

 

後編に続く。

 

 

 

 

 


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