君に届け(仮)   作:風霧奏

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第1話

昔、と言っても10年20年ほど前じゃない。

 

 

2年前、

 

 

僕は、

 

 

魅せられた。昂った。名残惜しんだ。

 

 

『恋をした』のだろう。

 

 

母の勧めで大きなコンクールの各都道府県予選を見れるだけ、見に行くことになった。

 

 

 

 

東は千葉、西は長崎までの計17つのコンクールを観に行った。それも1ヶ月でだ。相当馬鹿だと思う。

 

 

 

だけど僕は、久しぶりの日本だったし、久しぶりの親子で行く旅行にとても心が揺らいでいた。どの演奏も素晴らしいと思う。彼ら彼女らの努力が伝わる演奏も多々あった。でも、何か物足りなく感じた。

 

例えるなら、ご飯を食べているけれど、満腹感がなく食べている実感が湧かなかった。

 

 

最後に来たのは、僕の生まれ故郷である京都府。実際ここにいた期間は保育園を卒業するまでだったため、あまり覚えていない。

 

 

「コンクールか、僕とは、もう縁のないものだな。」

 

 

この時には、僕はこの違和感の正体に気づき始めていたのかもしれない。

 

 

♪〜♪〜〜〜♪〜♪♪〜♪〜〜

 

 

この曲は?フルート?それにオーボエも?

 

これは僕が幼い頃に母に弾いてもらっていた。

お気に入りの曲だ。

 

音につられ僕は歩き出した。

 

どこか儚く壊れてしまいそうで、でもそれでいて強い想いが詰まった音色。

 

あぁ、好きだなぁ。この初心な音色が何処と無く、昔を思い出させてくれる。

 

幼馴染の二人は元気にしているだろうか?

二人はまだ、音楽に関わっているのだろうか?

 

 

「ちょっと!星詠!どこ行くの?!」

 

背後から母の声が聞こえて、振り返るとそこには息を切らした母がいた。

 

 

「急にいなくなったから心配したじゃない!」

 

相当心配したみたいだ。

 

「ごめんなさい。」

 

素直に僕が謝ると母はニコッと微笑み

 

「もうじきコンクール始まるわよ。行きましょ」

 

母は会場へと向かう。

 

僕はもう一度メロディが聞こえてきた方を向くが、もう聞こえることはなかった。

 

「行くわよ!星詠!」

 

母が僕を呼ぶ。

 

 

「今、行く!」

 

 

名残惜しい気持ちを抑え僕は母の後を追いかけた。

 

 

その後、僕はコンクールの会場へと行ったが、さっき聞いた。音が離れなくてすぐに会場を出た。母には申し訳ないが、この感情が僕の心を駆り立てる。

 

走る。走る。走る。僕を呼ぶあの声のもとに、僕をそうさせる感情に身をまかせる。

 

 

風を切る音、車が止まる音、鳥が羽ばたく音、人々の足音、声、全てが心地よいこんな気持ちのいいメロディは久し振りに聞いた。

 

 

あの頃のように、とても美しい、温かい、眩しい。

 

僕が見ていた世界が姿を変える。

 

世界が変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違う。そうじゃない。

 

 

 

 

 

 

僕が変わったんだ。

僕が戻ったんだ。

 

 

 

 

 

家に着くと僕は自分の部屋に行くと、この8年間何一つ変わらない部屋がある。

 

机の上に僕の体の一部、僕の心の一部であるそいつは昔も今も変わらない姿で待っていてくれていた。

 

 

「ごめん。待たせたね。」

 

 

僕が持ち上げると僕の体に馴染んだ。

 

 

 

「もう二度と離さないから。」

 

 

と言うと、そいつは「二度と離すな」と言った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大学生になって色々始めて、初めてのことすぎてなかなか投稿できませんでした。けど、


また、始めていきます。

よろしくお願いします!

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