インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今話で漸く駆け足気味に話が進む……待ちに待ったであろう、アスナとクラディールのお話です。駆け足気味なので今までと違って内容としては軽いです。

 時間軸は前話と然して変わりありません。前半キリト視点で新ポーションの解説と今後の予定を語ってもらい、後半アスナ視点で一気に進みます。

 そこまで原作と変わりありませんが……まぁ、同じだとアレなんでちょいちょい変えてます。

 ではどうぞ。約二万文字です。




第四十四章 ~紅に潜む狂気~

 

 

「うーむ……まさかここまでゼリー系素材で化けるとは予想外だな」

 

 白と相談しつつ、《調薬》スキルで手持ちの素材を使って配合していった結果、予想以上の成果を得る事が出来た。ズラリと床の上に並べたポーションを眺めながら思わず呟いてしまう程だ。

 まず《エメラルドゼリー》の効果は、一概にHP回復能力の強化というのが分かった。

 HP回復ポーションと混ぜれば一段階上のポーションへと昇華させる効果を持ち、一度水分を飛ばして粉末にしてから混ぜれば効能を即時と自動それぞれ二割ずつ底上げする。

 状態異常回復ポーションと混ぜれば、ゼリー状であれば一律でHP三割即時回復効果が追加され、粉末状であれば一割の自動回復効果も追加される。粉末にしてからであれば従来の性能に《ポーション》の効果が付与されるという訳だ。ステータスブーストポーションと混ぜてもこれは同一だった。

 次に澄んだ黄色の《トロピカルゼリー》。これの効果は、元となったモンスターがそれに特化していた為か、状態異常回復の強化だった。

 状態異常回復ポーションとゼリー状のまま混ぜれば、状態異常デバフ時間の短縮効果が強化され、より短時間で解除されるようになる。粉末状であれば短縮効果から即時回復へと変化した、結晶アイテムと同じ効果になったのだ。

 数は少ないながら常備している状態異常誘発ポーションと混ぜれば、ゼリー状ではレベルはそのままで効果時間だけ延ばし、粉末状にすれば元のレベルから一段階底上げさせる事が分かった。

 ちなみに状態異常は種類によってレベルと効果時間が同一のものと別々のものが存在する。

 毒はレベルが『毎秒発生する一定ダメージ量』を決定し、効果時間は蜂や蠍などで別々に設定されている。麻痺毒では効果の程度は全て同一であるので、レベルが効果時間を示している。

 なので今回の結果では、麻痺毒はゼリー状と粉末状とで結果が変わらないものの、毒は変わっているという事になる。毒の効果時間は、誘発ポーションに使っている素材によって左右されるらしく、どの素材でどれくらいなのかまでは調べ切れていない。ここは今後の課題である。

 残念ながらHP回復ポーションとステータスブーストポーションと混ぜても意味は無かった。どうやら《トロピカルゼリー》は状態異常関連のアイテムにだけ効果を発生させるらしい。

 まぁ、もしかしたら混ぜた状態のものから更に何か手を加える事で変化が起こるかもしれないが、現状では分からないので一先ずは放置だ。頭の片隅に置いておくくらいで良いだろう。取り合えずテキストメモに書き残しておいたので何れ色々と試してみようと考えている。

 次に攻撃力特化の紅いスライムからドロップした《クリムゾンゼリー》と、防御力特化の蒼いスライムからドロップした《ハワイアンゼリー》。

 これらの効果はどちらも似たり寄ったりだった。それぞれの特性はドロップしたスライムの特性を引き継いでいるようで、ステータスブーストポーションと混ぜた際に同一の効能は強化、別のステータス強化であれば更にSTRあるいはVIT強化効果を追加というものだった。

 STRポーションであれば、紅のゼリーは効果を強化、粉末状と混ぜれば効果時間も伸ばし、別のステータス強化であればVITポーションと同程度の筋力強化を施す。これは蒼のゼリーも同様だった。HP回復ポーション、状態異常回復ポーションでも、ただのステータスブーストポーションと同程度の効果を付与したため結果は同じ。

 面白いのが状態異常誘発ポーションで、毒や麻痺毒といった効果と共に相手のステータスを低下させるデバフ効果が追加された。ステータスは変わらないものの、相手を弱体化させるバフを使用者に与えるというコンセプトに置き換わっていたのだ。

 なので強化したブーストポーションと強化した状態異常誘発ポーションを併用すれば、敵にかなりのダメージを与えらえれるようになるという訳である。

 

「これは使いようによっては強いけど……」

 

 上位ゼリー四種類でここまでの変化を見せた事はとても喜ばしいし、効率よく使っていけば、上手く嵌ればこれからの戦いをとても優位に運べる事は間違いない。

 防御面に難がある俺やアスナ達に強化回復ポーションや強化VITポーションを使えば非常に打たれ強くなるし、タンクメンバーに使えば尚更堅くなり、アタッカーが使えば結果的に回復アイテムの使用量を少なく出来るだろう。逆に強化STRポーションを使えば、固いボスのHPをガリガリ削れるという訳だから速く戦闘が終わり、こちらも結果的に消耗が少なくて済む。

 これらを考えれば、回復アイテムの強化だけでなく、これまで効果が微妙だったステータスブーストポーションも非常に有用である事が分かる。

 だが問題なのは、ブーストポーションが増えるのに反比例して回復アイテムの量は減らさなければならないという事。

 基本的に筋力値が高くなればストレージ容量は増えるし、《所持容量拡張》というスキル値が高くなるにつれてストレージ容量が増えるスキルも大抵のプレイヤーは持っているので、攻略組は多くのアイテムを持って行ける。俺のようなダメージディーラーやヒースクリフといったタンク勢は基本的に筋力値へ優先的にステータスポイントを振っているので、ボス戦には大量の回復アイテムを持って行くのが常だ。

 敏捷値へ多めに振っているアスナ達の場合、相対的に武具の重量が軽くなる為、多少量が少なくなるだけでそこまで大差がある訳では無い。ステータスポイントによる補正はレベル補正に競べればそこまで大きくないからだ。

 そんな中、ボス戦に参戦するタンクやダメージディーラーの回復アイテム類は、戦いを終える度に何時もギリギリなのが常だった。ある程度余裕がある事もあるが、ここ最近は基本的にそこまで余裕はないと聞いている。

 まぁ、ボス戦開始直後は俺がおらず、暫くしてから入っていた事もあるだろうが。

 ただ問題なのは、ボスの強さが絶対的に上がっているであろう事。

 それは上位ゼリーによって強化されたポーション類の存在が示している。完全回復アイテムまで出て来たのだ、第三クォーターだけでなくそれ以降のフロアボスはこれまで以上の強さを持っている事は想像に難くない。

 つまりこれまで以上にポーション類の消費が激しくなるという事だ。俺がユニークスキルや常識外の装備を得ているのを含めても、かなりの苦戦を強いられるだろうし、下手すればアスナやランといった主力ながらHPや防御力に不安があるスピードアタッカーは一撃死という可能性もある。

 そうでなくとも第七十四層中ボスの一撃で俺が瀕死まで陥った。鎧を装備していなかったとしても、超高レベルによる補正が掛かっている俺ですらそれなのだから、アスナ達が一撃死という可能性は決して否定出来ない。

 なのでステータスブーストポーションの有用性は確かにあるのだが、それを持って行こうとすると、今度は長期戦で不利になる可能性がある。

 ステータスブーストポーションの効果は通常で一律で五分、効果時間を延ばした強化版であれば二倍の十分が限度だ。

 なので短期決戦であればステータスブーストポーションの連続使用で押し切れるだろうが、闘技場《レイド戦》に出て来た過去のボス達にすら二、三十分も掛かった上に、第七十四層タッグに関しては主力以外が全滅したのだ。全滅しないよう慎重に行くとなればどうしても長期戦になるだろう。

 故に回復ポーションはこれまで以上に必要になる。

 それなのにステータスブーストポーションを持って行っては、ポーションの個数は少なくなってしまう。

 フロアボス戦の平均戦闘時間は二、三時間。その間ずっとステータスブーストをするとなれば、強化版ですら最低二十個も持って行かなければならない。

 そんなに持ってしまえば、回復ポーションの個数はとても少ないだろう。なのでどうしてもジリ貧に近くなる。

 まぁ、結晶無効化空間なのだから、ボス戦の時だけ結晶系アイテムを置いていけばまだマシなのだが……

 それに、仮に個数に関してはどうにかなるにしても、使用するタイミングが難しい。

 もしブーストポーションを前提に前線を維持する方針で行くことになった場合、ボスの攻撃を防ぐタンクのブースト効果が外れた瞬間に攻撃を受ければ想定以上のダメージを受け、回復の為に後退しなければならなくなる。それが続けばレイドが回らなくなるだろう。

 

「……強化回復ポーションはまだしも、強化ブーストポーションの公開は一旦様子見するかな……」

 

 強化回復及び状態異常回復のポーションはすぐにでも量産し、攻略組に優先して供給するべきだろうが、強化ブーストポーションの存在は一旦伏せておいた方が良さそうだ。一先ず第七十五層ボスの部屋も結晶無効化空間と判明し、結晶系アイテムを置いていくとなった時点で必要と感じれば出すべきだろう。

 まだボスの情報が一つも無い以上、現状では先送りにしておく方が無難だろう。偵察戦での具合で出すかどうか決めるとする。

 

「俺を除こうとしていたキバオウも居なくなったからな……第三クォーターという事もあるし、《ⅩⅢ》も解放したから今回の偵察戦には俺も参加すると言ってみようかな」

 

 偵察戦はタンク隊を中心に約二十名とフルレイドの半数程で行われる。

 大体は攻撃パターンを確かめるためで、偶に俺やユウキといったダメージディーラーが混ざってHPを減らし、半減したところでのパターン変化も調べるという時もある。そういう場合はボスのHPか防御力が低かったり、弱点が明確になっている場合が殆どなのだが。

 今回は第三クォーター。《アインクラッド解放軍》を半壊させた第一クォーター、総合的にステータスが高かった第二クォーターの例もあるため、恐らくタンク特化のヒースクリフも偵察戦に出張るだろう。それに乗じて、《ⅩⅢ》による物量作戦を行える俺も加えればそれなりの情報を得られるはずだ。

 これまでと違って結晶無効化空間である以上、即効性のある結晶系アイテムを使った回復が出来ないせいで何かともたつくだろうし、遠距離攻撃が可能である俺とタンクのヒースクリフが中心となれば、余程ぶっ壊れたステータスを持つボスでも無い限り一瞬で敗北とはならない筈だ。

 まぁ、油断は出来ないが。不可視の障壁を張る鎧防具【フォースフィールド・マテリアライト】があるとは言え、まだ微妙に防御力に難があるのは否めないし。

 

「さて……そろそろ帰途に就いた方が良さげかな」

 

 強化ポーションのレシピをメモに書き残し、それらをセーブしてから床に並べていた製作したばかりのアイテム群をストレージへと放り込み、一息吐く。それから視界右上に表示されている時間を見て、そう言葉を洩らす。

 表示されている時間は午後三時半。実に三時間程も製作やレシピ考案に熱中していたという訳だ。

 迷宮区に現れるモンスターのデータは昨日と今日で粗方取り終えたし、新たな発見もあったから今日はこれで引き上げても良いだろう。

 マッピングも八割方は済んだので、速くて明日の午前中、遅くとも午後にはボス部屋前には辿り着くだろう。それを考えれば明日に回しても問題は無い。俺以外にも攻略しているメンバーは居るのだから他の誰かがボス部屋を発見していたとしてもおかしくないし、攻略組の強化を考えれば俺はこの階層でやり過ぎない方が良い。

 それに、そろそろ帰途に就かなければ夕飯に間に合わなくなってしまう。

 物悲し気に見られるのは凄く心が痛むし、あまり遅くなると説教を受けてしまうから、帰ろうと決断し、立ち上がる。

 それから帰り道を把握する為に右手を振ってメニューを呼び出し、それからマップへと画面を移す。

 

 

 

 ――――あああああああぁぁぁぁ……ッ!

 

 

 

 その時、耳朶を打つ声。

 敵に斬り掛かる際に上げるような雄々しい雄叫びでは無く、何か別の感情を込めていると分かる絶叫だ。

 声が聞こえて来た方角は、丁度俺が帰る為に通ろうと考えていたルートの方向だった。

 恐らくリポップした敵にいきなり襲い掛かられたのだろう。

 

「……それにしては、ちょっと必死過ぎる気がするな……」

 

 しかし俺は違和感を覚えて首を傾げた。

 最前線の迷宮区に潜る程のレベルを有するプレイヤーなら、リポップした敵だけでなく、いきなり横合いからネームド、酷ければボス級Mobに襲い掛かられる経験は普通にある筈だ。実際第六十層台に存在したレイス等が主だった階層は、壁をすり抜けていきなり襲い掛かって来るパターンも多かった。

 アスナやランといったお化けが苦手なプレイヤーはそれに腰を抜かして音を上げ、一時的に攻略が滞った時もある。

 だがこの階層に出て来るモンスターは、スケルトン系といったアンデッドはいるもののそこまでホラー要素は大きくないし、壁をすり抜けて来るパターンも無かった。俺が確認した限りではあるが、少なくとも声が響いてくる範囲内で見つけたトラップ系は全て解除したし、一定時間で復活するトラップもつい四時間程前に解除したばかりでまだ復活スパンに入っていないから起動していない筈。

 まぁ、トラップに関しては俺が見逃したものもあるかもしれないが……

 だが、八割方マッピングを終えている現状で、ボス部屋側から聞こえたならまだしも、俺がトラップ類を解除してきた側から必死に過ぎる悲鳴が聞こえてくるというのは少々解せない。少なくともこの《安全地帯》に来るまでの全てのルートはマッピングを終えているのだ。

 第三クォーターの階層であるためモンスターのレベルは80手前程まで強化されているが、攻略組の平均レベルはもう少し上だし、そこまで強敵と言えるモンスターは確認していない。ネームドも今日倒したばかりだから復活するのも明日か明後日の筈だからそれも無いだろう。ボス級Mobの可能性も限りなく低い筈だ。

 一体何があったというのだろうか。ひょっとすると未知の何かが現れたのか。

 得も言われぬ不安感を抱いた俺は、《索敵》スキルを有効化してからマップを確認した。

 《索敵》にはハイディングしているMobやプレイヤーを看破する確率にブーストを掛ける他、マップ上にプレイヤーを表示する範囲を広くするModも存在する。

 それを使う事で、迷宮区内でもプレイヤーの位置データをマップ上にアイコンとして表示する事が出来る。

 このブーストではカーソルの色やギルドタグ、HPの残量、ゲージ枠の色から掛かっている状態異常まで判別が可能だ。迷宮区内ではプレイヤーの追跡を行えないが、この索敵表示範囲内に入れば位置を知る事が出来るので、場面によっては非常に重宝する。

 そのマップ上では、俺が居る《安全地帯》から帰還ルート側へ五百メートル程戻ったところに三つの反応があった。

 その内、一つは俺のフレンドだった。表示に《Asuna》とあり、他二つのアイコンにも同じギルドタグがある事から、《血盟騎士団》副団長のアスナが率いるパーティーである事が分かった。

 

「……どういう事だ……」

 

 三つの反応の内、二つのアイコンに表示されているHPゲージの枠が黄色に明滅していた。アスナともう一人がその明滅をしている。

 黄色の明滅は麻痺毒状態を示すのだが、まず引っ掛かったのはモンスターの反応である赤のアイコンが無い事。

 《索敵》スキルを用いたこのマップ索敵の本来の用途は、プレイヤーの反応を追う事では無く、自身の周囲にどれだけのモンスターが居るかを移動せず識るという事だ。モンスターの視覚や聴覚といった感知範囲外から場所を知る事で優位に動く事を目的としている。

 まぁ、これをするにはマッピングデータが無ければならず、完全初見の場所では取れない手段だから過信は禁物だ。

 それはともかく、モンスターの反応は自身のレベルに応じてアイコンの色が変わる。この色はカーソルの色に準じているので、自身より強ければ黒に近く、弱ければピングへと変わっていく仕様だ。俺よりレベルが高いモンスターはこの階層に居る筈が無いので、全てのアイコンはピンク色になる。

 更にこのマップ索敵はプレイヤーの反応よりもモンスターの反応の方が追いやすい。まぁ、本来の用途を考えれば当然なのだが。

 なので《索敵》スキルを完全習得している俺がマップ索敵をすれば、プレイヤーの反応よりもモンスターの反応の方が多くなるのが必然。

 しかし、現在マップ上でアスナともう一人が麻痺毒状態になっていて、もう一人が無事であるというその周囲にモンスターの反応が無い。それなのに麻痺毒になっている。

 まぁ、俺がマップで確認するまでの間にモンスターを倒してしまったのであれば納得はいく。この階層には《トロピカルゼリー》を落とす状態異常特化のスライムが居るし、麻痺毒を付与してきてもおかしくはない。

 だが次に引っ掛かったのは、麻痺毒状態にあるアスナともう一人のギルドメンバーのHPは、共にフル状態である事。敵Mobから状態異常を受けたのなら必ずHPは幾らか減る筈なのに、どちらも全快状態なのである。

 敵Mobから麻痺毒を受けた訳では無い事はこれから分かる。

 プレイヤーにダメージを与えずに状態異常にする方法だがそれを俺は一つ知っている。

 それこそが所謂経口摂取、飲み物に毒物を混ぜたパターンだ。《圏内》では効かないが、《圏外》であれば問答無用で効果を発揮する。経口摂取のパターンだけはどれだけ耐性スキルを上げていても百パーセントの確率で絶対状態異常が掛かってしまう方法である。

 以前、シリカとアルゴに協力してピナ蘇生の為に《プネウマの花》を取りに行った際、ロザリア率いる《タイタンズハント》に遭遇した事がある。あの時、ロザリアがグリーンであったのは《圏内》で野良パーティーに参入して獲物を見繕い、適当なところで『いい狩場がある』と嘘を吐いて味方のオレンジが居る場所へ誘導する為だった。

 それと同様なのがこの方法。

 要領は簡単で、仲間として潜り込んだプレイヤーが獲物であるパーティーメンバーに飲み水と称して渡すものに、麻痺毒を混入させるだけ。仲間だと思っている者達はそれに警戒する筈も無く、麻痺毒で無力化させられてしまう。その場所にオレンジが居るのであれば詰み。

 たとえ俺であってもその手に掛かれば助からないので、基本的に他人から飲み物は貰わないようにしているし、飲むにしても《圏内》に限定している。《圏内》であれば絶対に効かないからだ。あるいはこっそり鑑定するか。

 …………攻略で俺にポーションとか飲み水とか渡す人なんて基本的に居ないので、俺はこの方法に掛かる事が無いのだが。ユウキ達と会っても、迷宮区だと誰に見られるか分からないからあまり長く会話はしない方針にしているのもある。

 とにかく他者を基本的に疑って掛かるべきなのがこの《ソードアート・オンライン》だ。

 これらを踏まえると、三人の内、麻痺毒状態になっていないもう一人が麻痺毒入りの水を盛ったという事になるのだが……

 

 

 

 そう考えていると、麻痺毒に掛かっている片方のプレイヤーのHPが減少し、掛かっていないプレイヤーのカーソルがオレンジに変わった。

 

 

 

「ッ……予想はしていたが、やっぱり《血盟騎士団》にも潜り込んだ奴がいたか!」

 

 《聖竜連合》のモルテ然り、《アインクラッド解放軍》のキバオウ然り、やはり《血盟騎士団》にも潜り込んだオレンジ側のプレイヤーが居た訳だ。俺を狙う為にアスナを襲ったのか、あるいは別の目的があるかは知らないが。

 とにかく、今は全力で助けに向かうべきだと判断し、俺は一気に帰還する為の道を駆け出した。

 

 ***

 

「はあああああッ!」

『グルアッ!』

 

 裂帛の声を上げながら、右手で握る愛剣ランベントライトを神速を以て突き出す。刺突は対峙するレベル78のモンスター《デモニッシュ・リーパー》という骸骨剣士の胸骨に直撃し、軽く怯ませた。

 立て続けに中段に三連、下段の左薙ぎ、右薙ぎ、逆風に斬り上げ、最後に上段への二連刺突からなる《細剣》上位の八連撃技《スター・スプラッシュ》を放ち、全撃綺麗にヒット。

 通常攻撃とスキルによる連続ダメージを受けた敵は、HPゲージを残り三割程まで減らした。

 

「スイッチ!」

「了解しました!」

 

 ソードスキルの直撃を受けて仰け反った骸骨剣士を見て、交代するなら今だろうと判断した私が合図を掛けると、それを見計らっていたパーティーメンバーがすぐに応じてくれた。

 橙色の光の帯を引きながら袈裟掛けに振るわれる両手剣。《アバランシュ》という長距離突進と単発重攻撃の特徴を持つ上位ソードスキルは、怯んで動けない骸骨剣士へ吸い込まれるように直撃。残るHPを一気に全損させ、青い結晶片へと散り消えた。

 その後、周囲にもう敵が居ない事を確認してから、私は構えていた細剣を下げる。

 

「ふぅ……」

「お疲れ様です、副団長殿」

「ああ、ゴドフリーさん。お疲れ様です」

 

 敵を倒して一息吐いていると、同時に現れた別の敵を相手にしていたパーティーメンバーの一人、《血盟騎士団》の両手斧使いプレイヤーに労いの声を掛けられた。それにこちらも同じように言葉を返す。

 茶色の髪と髭が繋がっているライオンを思わせる相貌の男は団長と同程度の体躯をしていて、見た目とても力強さがある。実際両手斧使いとしては破格の実力を持ち合わせており何気に《血盟騎士団》の中でトップの使い手だったりする。たった今も、同時に現れた別のモンスターを私と違って一人で相手して、勝利している。

 加えて低層の頃に参戦した攻略意欲溢れるプレイヤーでもあるため、攻略に関してとても頼もしい人物だ。面倒見も良く、団員からの人望も厚い、団長からの信頼もだ。当然私も信頼を置いている。

 まぁ、こう言っては何だが、人の機微に疎いのが玉に瑕である。クラディールやエギルさん曰くこの人は所謂脳筋で、根性論で物事を通そうとする側面があるため微妙に折り合いの悪いプレイヤーが居る。

 ちなみに、その折り合いの悪いプレイヤーが現在パーティーを組んでいる中の一人のクラディールだったりする。

 現在、第七十五層迷宮区に潜っている私は護衛である両手剣使いクラディールと両手斧使いゴドフリーさんとでパーティーを組んでいた。スピードによる翻弄に長けた私は一撃の火力に欠けるので、ダメージディーラーとタンクの二人と組んでバランスを取っている。

 団長はタンクではあるものの《神聖剣》というユニークスキルによって攻撃力があるため同時にダメージディーラーも兼任出来る上、他のタンクに較べれば突破力がある。そのため私とは別のパーティーで迷宮区攻略をしている。

 確か、今回は初の参戦であるストレアさんと一緒だった筈だ。他の団員は強化を目的としているので、今回は戦力を分けて全体的に戦う機会が巡って来るようにしているらしい。

 迷宮区入りしたのは午前十時くらいで、途中でお昼休憩を挟んでからも探索を続けて現在は午後三時半。微妙に疲労が戦闘にも影響するようになってきた頃合いだ。

 

「……いい感じにマッピングも出来てるし、素材も集まったので、そろそろ引き上げましょうか」

 

 メニューを開き、迷宮区のマップを確認してから言う。

 ある程度であれば昨日の会議の時点でキリト君が探索していたためマッピングデータがあるものの、現在私達が踏み込んでいるのは未探索領域であるため常に気を張っていなければならない。

 今朝開示されたデータより彼が先に進んでいる可能性は十分あり得るので、この未探索領域を彼は既に通り過ぎている可能性もあるが、逆に違う可能性もあるため油断は禁物。

 平均しておよそ二十のフロアで構成されている迷宮区のマッピングは、大体三、四日のスパンで全て終わる。

 最初の二日で八割方を終えた後、細かなところを探索しつつレベリングというのが基本的な攻略組のスタイルだ。

 八割方のマッピングを終えてからはキリト君もあまり最前線で暴れないので、それから私達がマッピングデータを基に各ギルドの攻略パーティーに担当範囲を当て、効率よくレベリングするようになる。これまではこれで回してきた。

 なので今日はそこまで無理をする必要はない。キリト君主体の攻略というのに少々思うところがあるものの、攻略速度や効率からこの方法が丁度良く回せているから甘えてしまっている。彼の個人戦力も高まった事で死亡確率が下がったのがせめてもの救いか。

 それに闘技場《レイド戦》で《ⅩⅢ》の特性を大暴露した事で大っぴらに使う事が出来るようになったし、そういう意味でも彼の全力を発揮出来るようになっている。

 あの時は驚いたが、今となってはアレで良かったかもしれないと思う。後々に開放した時に、あの時こうしていればと責められては堪らないだろうし。

 まぁ、そもそも死人が出た場合、彼だけの責任では無いのだが……

 とにかく、死亡確率が低くなったキリト君が全力で迷宮区攻略をしている事を考えれば、私達が無理に攻略を進める必要も無い。

 夜になると敵が強くなり、リポップ速度も速くなるため、そろそろ帰るのが頃合いだろうと考え仲間の二人に提案した。

 

「副団長がそう言うのであれば。私も異存はありません」

「私もです」

「では本部へ帰投します。とは言え、油断はしない様に。危険だと判断したら躊躇せず転移結晶を使用してください」

 

 最前線のモンスターを相手にしていれば、モンスタードロップで転移結晶も手に入るので緊急脱出で使う程度であればそこまで痛くはない。それに財布よりも命の方が大事なのだから、その辺に関して特に規制は掛けていない。

 とは言え、帰還する際に使っていては勿体無いため、基本的には徒歩で帰るのが常だ。

 それに慣れていつつも、毎度の如く注意を促せば、二人も神妙な面持ちで頷いた。

 

「しかし副団長、移動を開始する前に一度休憩しませんかな。流石に気を張り続けていては油断していなくとも見落としで危険に陥る可能性も否めませんぞ」

 

 頷くのを見て早速移動しようとした時、ゴドフリーさんが一時休憩を申し出て来た。

 何気に才能の塊であるユウキや、割ととんでもない実力者であるキリト君と地下迷宮に潜ったり、偶に偶然バッタリ会って迷宮区攻略を共にする事がある私としてはまだまだ余裕なのだが、ゴドフリーさんには昼休憩を挟んだと言えど数時間連続の攻略は堪えたらしい。

 

「私もそれに賛成です。先ほどここのモンスターを片付け、リポップするまでに余裕もある事ですし、これを機に数分ほど休息を取るのは如何でしょう」

「クラディールもですか……」

 

 どうやらクラディールも休憩には賛成のようだった。二人の顔色を見れば、まだ色濃くは無いもののそれなりの疲労感は見て取れる。私がユウキ達に慣れてしまっているせいでペースが違うのだ。

 それにゴドフリーさんともクラディールともこれまでの攻略で一緒になった事は殆ど無い。そのせいで互いのペースの違いに私が気付かず、二人も言うに言えない状態のままここまで我慢してきたのだろう。

 流石に二人の意見を無視してこのまま進むのは互いの関係に溝を生んでしまうし、それで危険に陥ったら副団長として立つ瀬が無くなってしまう。

 結果的に何事も無かったら良いという訳では無いし、ここは二人の意見を呑むべきだろう。

 

「分かりました、では十分ほど休息を取りましょう。《圏外》なので警戒は怠らない様に」

「感謝します、副団長」

「では早速……アスナ様、水は如何ですかな。ゴドフリー殿も」

 

 休憩を宣言し、ゴドフリーさんが笑みを浮かべながら礼を述べて来た後、クラディールがストレージから二つの小瓶を取り出した。

 ポーションのそれよりも二回りほど大きいそれはお酒が入れられているようなビンの形をしており、それなりの大きさだ。

 中身は水のようで、クラディールはそれらを両手に持って私とゴドフリーさんに差し出してきた。

 私も水は持ってきているが、無下に断るのも気が引けるし、何だかんだで世話を焼いてくれるため断る気も起きなかった。

 

「ありがとう、クラディール」

「用意が良いな。礼を言うぞ」

 

 二人で礼を言ってそれを受け取り、コルク栓を抜いてビンを呷る。

 口の中に冷たい水が入って来て、美味しいなと思いつつそれを飲み下していく。どうやら私もそれなりに疲れていたらしい。

 こくっ、こくっ、と小さく喉を鳴らしながら水を飲んでいた私は、ビンを口から離そうとして……力が入らず、石畳の床に倒れ込んでしまった。蓋が空いたままのビンも床に転がり、中身がトクトクと零れる。

 

「な……に、が……?」

 

 ただの脱力では無く、力を入れようとしても上手く入らない状態は明らかに異常。視界左上に表示されているHPゲージの枠は黄色に明滅しており、その下には黄色を背景に黒い稲妻が描かれているアイコンが表示されていた。麻痺毒だ。

 しかし周囲に敵影は無い。つまり今し方口にした水は、実は麻痺毒の水であったという事。確か以前、そういう手口をするレッドやオレンジ集団がいると聞いた事がある……

 

「クラディール……あなた、何を……」

「クッ……クックッ……クッ、ヒャッヒャッヒャッ!

アッヒャヒャッヒャッハアアアアアアアアッ!!!」

 

 先の水を渡してきたのはクラディールだ、用意したのも彼なら、麻痺毒を仕込んだのも彼に違いない。

 なので何とか顔を動かして視線を両手剣使いに送れば、三白眼に痩せた体躯なのが特徴的なクラディールは狂気を感じさせる表情で哄笑を上げる。

 その様は、さっきまで一緒に戦っていた頼れる仲間では無く、かつて相対したレッドプレイヤー……《笑う棺桶》にいたプレイヤーを思わせる狂気に相当するものを纏った狂人のようだった。

 

「長かった……実に長かったぜェ、邪魔にならねェ奴と一緒に副団長サマと同じパーティーになる日が来るまで、実に一年と七ヶ月も掛かるなんてよォ」

「……どういう、事……?」

 

 口を開いたクラディールから発せられた言葉は、背筋がぞっとするような意味を含んだものだった。

 それの意味する事、意図を汲み取れず、あるいは理解出来ず、私は呆然と問い返した。

 あの護衛初日は混乱して怖かったものの、それから短い期間ではあったが何だかんだと護衛してくれて、今日一緒に攻略して頼れる人物だなと思っていた矢先にこれだ。頭がどうしても、これが現実なのだとしても許容出来ないでいた。

 そんな混乱の極みに居る私を、クラディールはニタリと嫌な笑みを浮かべながら見下してくる。

 

「言った通り、元々、俺が《血盟騎士団》に入ったのはアンタが目的だった」

「……第一層の、頃から……」

「まァ、実を言うと本当の最初は違ったんですがねェ。当初はゲームクリアの為にって一致団結した連中を内部崩壊させるって目的があったが、クソガキの大暴れでラフコフが消滅しちまってからはアンタに目的を切り替えたんだ。ま、鼻から従うつもりなんて無かったから丁度良かったんだがよォ」

 

 ラフコフ。それは《笑う棺桶》の略称だ。

 つまりクラディールは、第一層ボス戦に攻略隊の一員として加わったあの時から、既にPoHの手下だったという訳だ。《聖竜連合》に属してながら、話に聞いた限りではどうも《笑う棺桶》の古参幹部だったらしいモルテという男と同様に。

 キリト君から各攻略ギルドにオレンジやレッドプレイヤーがスパイとして潜入している可能性は示唆されていた。件の《笑う棺桶》討伐戦の折、作戦決行の時間が流れていた原因は恐らくそれだろうと彼は言っていたのだ。モルテだけでなく、恐らくは他のギルドにも何人かは混じっていると。

 だが大本である《笑う棺桶》を始め、他のオレンジギルドは《ビーター》の彼の悪名によってある程度活動を抑えられているから、モルテの件は闇に葬る事になった。それでも一応警戒はしていたのだが……

 まさか、第一層の頃から共に戦う仲間であったクラディールが、団長から信頼を置かれる程の剣士であるこの男が、よもや《笑う棺桶》のメンバーだったなんて。

 自身の不甲斐無さに悔しさと怒りを覚え歯噛みしている間にも、クラディールはこちらを麻痺毒で冒して動けなくしている事に気を良くしたのか、あるいは一年半という長い期間ずっと忍んでいた反動か、嫌な笑みを浮かべて口を開き続ける。

 

「これまで何だかんだと副団長サマと一緒にならなかったし、少し前になってもクソガキや【絶剣】と一緒だったから堪えてたが、まさか第三クォーターボスに挑む前にこんな機会が巡って来るとは思わなかったぜ……ククッ」

「ぐぅ……クラディール、お前……何が目的なんだ……!」

 

 私と同じく麻痺毒で床に倒れ込んでいるゴドフリーさんが問い掛けると、ギョロリとクラディールは落ち窪んだ三白眼を彼へ向けた。

 

「アア? 俺の目的ィ? 決まってンだろ。この世界でなら、レベルとステータスさえあれば偉そうな女も好きに出来るんだ。現実じゃあISだとか女尊男卑とか冤罪掛けられるとかでウザッてェが、この世界でなら女相手にでも好き勝手出来る。どうせクリアなんて出来ねェンだから好きに生きるンだよ。その為に俺はクソ面倒な攻略に出てたんだぜェ? 団長サマから副団長サマを任せられるくらい信用されるまでどれほど面倒だったかテメェに聞かせてやりてェよ、まったく」

「……あなた、私で、何をするつもり……?」

 

 これが現実だったんら身代金だとか考えるが、ここはゲームの世界、人質に取ってもほぼ意味は無いのだから私が狙いと言ってもいまいちピンと来ない。

 

「アン? 副団長サマ、まさか知らないのか……ああ、だったら分かる訳が無ェな」

 

 そんな私の疑問は、どうもクラディールにとっては不可解なものだったようだ。すぐに私が分からない訳を察したらしいが……

 

「いいですかァ? ここは仮想現実世界で、基本的にあらゆる事を現実と同じように再現されてる世界……排泄とか、極論食事も取らなくていい訳だが、人間の三大欲求で睡眠は絶対取らないといけない……なら、もう一つの性欲はどうなってると思う?」

「……出来ないでしょ。ハラスメント防止コードで、異性の接触はかなりガッチリ防がれるじゃない」

 

 まぁ、ハイタッチや肩を叩いたりなどは大丈夫なのだが、割とその辺でアバウトな部分があるからイマイチ境界線を理解していなかったりする。

 取り合えずリアルでセクハラと考えられるラインは全てアウトラインだろう。お尻を触ったりの他、腰に手をやったり、肩を組んだりなども異性の場合は基本的にアウトだと思う。

 ただしこのパターンは男性から女性にの場合が殆どで、その逆の女性から男性の場合は結構広い範囲で許容されている。キリト君の頭を撫でたり、抱き締めたりしている時にハラスメント防止コードで弾かれるという場面は一度も見た事が無い。

 だが、ある程度振れ幅があると言ってもこのコードによって絶対性的接触は出来ない筈なのだ。

 そう結論を出した私だが、クラディールは思った通りと言わんばかりに嫌な笑みを浮かべ、私を見下ろしてきた。

 

「それがァ、出来ちゃうンだなァ、この世界でもそういうコト」

「…………は?」

「プレイヤーオプションの凄く深いところに『倫理コード解除設定』ってやつがあって、それの設定を解除すればそういうコトがヤれちゃうンだなァ。まァ、解除するにはどっちもやらなきゃいけない訳なんだが……今、副団長サマって麻痺毒で動けないんでェ……俺が操作して、解除出来ちゃうって訳で」

「…………う、そ……でしょ……」

「クハッ、マジで知らなかったってのか! 一時期裏ではヤリ姦PKってのが流行ったってのにマジかよ! どんだけあのクソガキに守られてたんだよ副団長サマァ?!」

「ぐ……ッ!」

 

 物凄くおかしそうに嘲笑ってくるクラディールの言葉は、私の心にグサリと深い棘として突き刺さった。

 本当に『倫理コード解除設定』というオプションについて一切知らなかった私だが、その上でそんなPK方法があったという事は、それに対処していたであろうキリト君が私に情報が流れないよう手を回していたという事だ。ユウキ達が知っているかは分からないが、少なくともアルゴさんは知っている筈だ。

 アルゴさんが気を遣ったという可能性もあるが、十中八九キリト君が情報が流れないようにしたのだろう。

 この世界は男女平等ではあるが、一部のプレイヤーには女尊男卑思考の人がいるし、逆に女性に虐げられた事でレベルを上げた男性の中には女性に対して酷い扱いをするプレイヤーがいるというのを聞いた事がある。事実女性でありながら強者として名を馳せていた私を女尊男卑の御旗にしようと動かれた時もあった。

 まぁ、私は基本的に性別で差別しない主義なので関わらなかったのだが、女性であるという理由で私に対して敵愾心を抱く者は少なくない。実際狙われた事も何回かはある。

 だから性的な目で見られるという事も、そういうのを目的に狙われた事があるのも認識はしていたのだが、どこかでこの世界ではそういう行為は行えないと高を括って安心感を抱いていたのは否めない。故にそこまで深く考える事もしなかった。

 そのツケが、ここに来て襲ってきたという訳だ。まさか身内にここまで執念深い男性が居たとは思わなかった……!

 

「さってと……早速イッツ・ショウ・タイムと行きたいところだが、先に無粋な奴を始末しとかねェなァ。イイところで邪魔されたら萎えるどころじゃないしよォ……」

「ぬ……?!」

「クラディール……あなた、まさか……?!」

 

 私に近付いていたクラディールは、ゴドフリーさんへと体を向けてひょこひょこと変な歩き方で近付く。

 その手には鞘から抜かれた両手剣が握られており、目的は明らかだった。

 

「ゴドフリーさんよォ、前からアンタの言動にはイライラさせられてたんだよなァ? 俺より後に入ったクセして態度デケェし、声は矢鱈バカデケェし、その上脳筋だしよォ? 俺はアンタみてェな奴は大嫌いなんだよなァ……けど、今日の幸運の女神サマは俺に微笑んでくれてるみてェだなァ?」

「まさか……クラディール、お前、私を殺す気か?!」

「まさかも何も、そのつもりってのは見て分かるだろォ? 脳筋ってのはいちいち言われねェと分かンねェのかァ? なら分からせてやるよ……その身を以てなァッ!!!」

 

 怪鳥のような耳を劈く声へといきなりトーンを変えたクラディールは、ユラリと幽鬼を思わせる動きで両手剣を振り上げた直後、力の限りそれを振り下ろした。

 ガスッ、と鈍い音と共にゴドフリーさんの分厚いアーマーを貫通し、肉体を斬り裂く。

 

「ぐあああああああああああああああッ?!」

「いいかァ?! 俺達はァ、今日の攻略で悲運にもオレンジの集団に遭遇ゥ! 奮闘虚しくも仲間の一人は死亡ォッ!」

 

 一度振り下ろしてグリグリと傷口を抉るように両手剣を逆手持ちで動かしていたクラディールは、再び剣を持ち上げ、突き下ろした。

 グシュッ、といやにリアリティのある音が耳に入って来て、手で耳を塞ぎたくても麻痺で塞げず、目の前の光景から目を逸らしたくても逸らせず、ただただゴドフリーさんのHPが削られていく狂気の光景を見る事しか出来なかった。

 

「があああああああああああああああッ?!」

「副団長サマはオレンジに攫われてェッ! そこで処女を散らして傷心ンンッ! そこを俺が助け出すゥッ!」

「ぐあああああああああああああああッ!!!」

「傷心のあまり攻略に参加出来ない副団長サマを護衛の俺が世話する事になってェッ!!! 誰も居ないホームに二人っきりで過ごしてェッ!!!」

「ぐおああああああああああああああッ!!!」

 

 喋っている間に脳内で比呂が得ている妄想で興奮してきたのか、段々クラディールの表情が狂気と恍惚が入り混じったものへと変わって来た。更には語尾も力が入り始め、足元で絶叫を上げているゴドフリーに突き下ろす剣の柄を握る手にも力が籠る。

 

 

 

「それでェッ!!! 俺様専用のメス奴隷に――――」

 

 

 

 もう一割しかHPが残っていないゴドフリーさんにトドメの一撃を刺すと共に、妄想もフィナーレを迎えようとしているのか最後の言葉をすぐには口にせず為を挟みつつ、逆手に持った剣を思い切り持ち上げた。

 そして最後に突き下ろそうとして……

 

 

 

「誰がさせるかこの腐れ外道があああああああああああああああッ!!!!!!」

 

 

 

「ぐげえええええええええええええええええええええええええええええッ?!」

 

 

 

 妄想全開で叫んでいたクラディールの声に被さる様に別の声が響いて来た。

 真っ黒な影が凄まじい速度で駆けて来て、勢いそのままに右足を突き出して飛び蹴りの構えでクラディールに突っ込んだ。右足は紅い光を纏っていて、背中で諸に喰らったクラディールは潰されたカエルのような絶叫を上げつつ吹っ飛び、壁に顔面から突っ込んで止まった。

 

「キリト君……?!」

 

 飛び蹴りを放つ《体術》スキル《飛燕》でクラディールを吹っ飛ばした人物は、黒尽くめにギア型の鍔を持つ黒剣エリュシデータを背負ったキリト君だった。相変わらずの恰好の彼は肩で荒い呼吸をしていて、その度に長い黒髪がサラサラと揺れる。

 その彼が、私の声を聴いてからチラリと視線を向けて来た。その瞳には安堵の色が見える。

 

「はぁ……はぁ……副団長は、無事みたいだな……そっちの両手斧使いはヤバいっぽいけど……ン、ヒール。あとパラライズキュア」

「む……すまない、助かった」

「礼は良い。アンタは副団長の方を頼む、俺はあの外道オレンジの始末をする」

 

 全速力で走って来た彼は息を整え、私達の安否と状態を確認した後、まず最初にHPが危険域まで減っていたゴドフリーさんにピンク色の全快結晶を使い、続けて黄色の解痺結晶を使った。高級な結晶系アイテムを惜しまず使う辺り、彼の手持ちの余裕さと人命優先の信念が感じられる。

 ゴドフリーさんが私の方に来て麻痺を解除してくれて、立ち上がった後、私達はキリト君とバックアタックとレベル差で発生した大ダメージによるスタンから回復して立ち上がったクラディールの二人へ視線を向けた。

 

「ぐっ……《ビーター》のクソガキか。まさかテメェが居たとは……」

「俺だって攻略組だからな、別に迷宮区に居たとしてもおかしくは無いだろう。それに俺がここに来られたのはアンタの絶叫が《安全地帯》まで聞こえたからだ。聞こえなかったら気付かなかった」

「何だと……チッ、さっさとヤっておけばよかったか……」

「詰めが甘かったな」

 

 忌々しそうにキリト君を睨んで舌打ちしながら言うクラディールに、当の黒尽くめの少年は嘲笑った。それはもう、物凄く悪役っぽく、苛立ちを掻き立てるような清々しい程の笑みだった。

 何だろうか。彼、何気にストレス溜まってたりするのだろうか。いや、まぁ、彼の境遇を考えればむしろ無い方がおかしいのだが……

 …………まさか、悪役プレイにハマったとかじゃない……よね?

 

「ところで、《血盟騎士団》副団長としてはどう処分を下すつもりなんだ? 俺に任せたら即刻殺害になるが」

「え、えっと……こ、殺しちゃダメ! 監獄に送るから無力化に抑えて!」

「了解……さて、狩られる側になる覚悟は十分かッ!」

 

 私の要請に頷いた後、彼はそう言いながら自身の周囲に剣を何十本も出現させて、クラディールへ向けて射出した。

 それらは全てギリギリ当たらない、あるいは末端部を掠る程度ではあったが、そもそもキリト君のレベルが高くて攻撃力が半端ないせいで掠るだけでも一割の半分程もHPは削れていく。

 だからクラディールのHPが真っ赤になるのも、そう遅くはなかった。

 

「チィ……このクソガキがあああああああああッ!!!」

「く……ッ?!」

 

 最後には自棄になったか、剣弾に臆さず両手剣を握り締めて突貫を仕掛け始めるクラディール。

 その行動はキリト君にとっても流石に予想外だったようで、当たりそうになった剣弾の軌道を無理矢理捻じ曲げ、全損させないよう逸らしていた。

 私の要請を守ろうとしているのだ。

 

「キヒャッ! 甘ェえンだよッ、クソガキィィィィイイイイイイイイイイイイッ!!!」

 

 そして、それこそがクラディールの狙いだった。

 キリト君は自分を殺せないと分かるや否や、クラディールは両手剣から橙色の光を迸らせながら進路を私に変えて斬り掛かって来たのだ。

 《両手剣》の突進系上位ソードスキル《アバランシュ》。その突進距離と攻撃力も然る事ながら、突進速度もかなりのものである。

 斧を構えていなかったゴドフリーさんもこれに即座に対応する事は出来ず、私も予想外であったため動けなかった。

 

「させる、かッ!」

 

 しかし、キリト君は持ち前の反応速度を以て、これに対応してみせた。

 右手に提げていたエリュシデータを体の左側に動かしながらクラディールの後を追うように駆け出した直後、剣から橙色の光が迸らせ、一気に加速。ほぼ一瞬で剣を振り下ろすクラディールに追い付き、クラディールの左斜め後ろから刃を交差させるように剣を右斬り上げに振り上げた。

 私たち目掛けて袈裟掛けに振り下ろされようとしていた両手剣は、横合いから割り込んできた右斬り上げに振るわれた剣の一撃に阻まれる。

 通常、両手剣と片手剣ではその重量とスキルの攻撃力から前者に軍配が上がるようになっている。振り下ろしと振り上げも同じく前者だ、位置エネルギーの問題である。

 しかしながら、この世界は現実の物理法則を再現していながら一部はそれを無視してもいる。その代表例がソードスキルやプレイヤーのステータスである。

 ステータスと武器の重量を考えればどちらもキリト君の方が圧倒的に有利であるため、物理法則を無視したソードスキルの打ち合いも有利に働く。圧倒的にレベルが低いクラディールでは彼にステータス的に絶対勝てないのだ。

 結果、けたたましい金属音が響いてから一瞬の膠着の後、クラディールの両手剣は思い切り真上に跳ね上げられた。それだけでなくクラディールの手からは両手剣が弾かれ、クルクルと空中を高速回転しながら飛んだあと、山なりの軌道を描いて床に落ち、持ち主のすぐ後ろに突き立った。

 武器を落とすという概念的な状態……ファンブルである。プレイヤーやモンスターがこれを意図的に行うものを《武器落とし》と言う。

 その結果に唖然として無防備となっているクラディールに、キリト君はエリュシデータを突き付けた。

 ゴドフリーさんも、私も、この結果には絶句させられた。

 

「なっ……な、ン……ッ?!」

「タイミングとしてはギリギリだったが、やれば出来るものだな。上手く決まらなかったら副団長が斬られていた」

「な……テメェ、まさかファンブルを意図的に……ッ?!」

「システム外スキルの構築は俺の十八番なんでね。プレイヤーの武器を手から弾く際には、手元を狂わせればいい……例えば、重心が寄っている柄や鍔元を横から弾く、とか。今回は鍔をかち上げる事で弾かせてもらった」

 

 《武器落とし》というのは一種の状態異常のようなものだが、これを意図的に起こすには相手をスタンさせるか麻痺させるかが一般的で、通常の状態ではまず起こせない。

 だが、それをキリト君は意図的に、相手をスタンにも麻痺にもせずに起こした。その方法が相手の武器の鍔元を横から弾く、というもの。

 彼が構築したシステム外スキルには《武器破壊》などがある。これはソードスキルの発動前後、あるいは発動中の武器の脆い部分を強打するというシビアなタイミングで発生させられるが、超高速で発動されるソードスキルの最中や前後を見切って脆い部分にソードスキルを当てるなんて事が簡単に出来る筈が無い。

 キリト君が行った《武器落とし》は、それと理屈では同じだ。しかもさっきの状況では、超高速のソードスキルを使っている相手の鍔元を、相手の剣の軌道を正確に先読みした上で交錯するスキルを選び、タイミングを重ね、一分の狂いなく剣戟を叩き込んで初めて成功するというものだった。それを彼は成し遂げたのだ。

 その結果、私もゴドフリーさんも斬り裂かれずに済んだ。

 この至難さを理解しているから私もゴドフリーさんも、そしてクラディールも驚愕に固まっているのである。

 

「さて……出し抜こうとして見事に失敗した訳だが、まだ抵抗するか? これ以上は命の保証をしかねるが」

「……ハッ、良いのかよ? 俺を殺したら、副団長サマの命令に背く事になるんじゃねェのか?」

「ふん、何を勘違いしている。俺は命令に従っている訳じゃ無いし、そもそも、唯々諾々と従うほど出来た人間じゃない。俺はお前を生かして監獄に叩き込む事にメリットを見出してないから今ここで殺す事に躊躇も無いしな……」

 

 だが、とキリト君はそこで一度言葉を区切り、チラリと肩越しに視線を私に送って、すぐに戻した。

 

「俺は副団長に幾らか借りがあってな。それを返し切るまでは極力要請には沿うよう動くと決めているんだ」

 

 借り……むしろ私の方が多くの恩恵を貰っていると思うのだが……

 ひょっとすると、キリト君自身を見ている事とか、クリスマスイベントの時の事だろうか……借りと言えばそれくらいしか思い当たらない。

 

「まぁ、相手の出方次第で対応も変わるから、必ずしも副団長の意思に沿う結果を出せる訳では無いが、出来る限りは沿いたいと思ってるんだよ。一種の契約だ……つまり、俺としてはお前を殺すつもりだが、副団長の要請でしていないだけ。お前の行動が自分自身の先を決めると覚えておけ。妙な動きを見せれば、即刻斬り捨てる」

「ぐ……」

 

 言っている事と容姿からして付け入る隙があると思われるかもしれないが、キリト君の目は本気だ、宣言通り、クラディールが少しでも妙なことをすれば私の要請を無視して即座にこの男を斬りに動く。

 それが、恐らく行為としてオレンジやレッドであるクラディールだからこそ私よりも理解出来たのだろう、彼の目に気圧されたようで低く呻きながら顔を顰めて動かなくなった。

 そのクラディールに、彼は剣を突き付けたまま左手で腰のポーチから黄色の液体が詰まった小瓶を取り出した。それを私は解痺ポーションだと思ったのだが、何とその液体を掛けられた途端に麻痺毒状態となってクラディールは地面に倒れてしまった。

 解痺ポーションでは無く、以前モルテとの戦いて用いられたという状態異常誘発ポーションだったのだ。

 

「後の処理はそっちに任せるが、構わないな?」

「え、ええ……その……ありがとう」

「借りの一つを返しただけだ。それに、この手の輩の相手は俺の方が適任だろう。気にしなくていい……」

 

 ああ、それと、と何か思い付いたような声を上げながらキリト君は、私の隣で唖然として固まっているゴドフリーさんに目を向けた。

 

「そっちの両手斧使いの……確か、アタッカーのゴドフリー、だったか?」

「う、うむ、そうだが……」

「悪いが、出来る事なら副団長との貸し借りの話は内密に頼みたい。俺としても攻略組の柱である副団長への信頼や信用に罅を入れたくないんでな」

「む? いや、それくらいは勿論構わないが……そういえば、私は助けられたのだったな。助けてくれてありがとう」

「偶々絶叫が聞こえたから駆け付けられただけだ……ただ、まぁ、全ての人間がそうとは限らないが、攻略組にどれほどオレンジが入り込んでいるか分からない、警戒して然るべきだ。今回の事を教訓にして今後は他人から渡される飲み物には気を付ける事だな」

「うむ……ん? 待て。何故私達が飲み物で麻痺させられた事を知って……?」

 

 苦笑と共に私達に忠告をしたキリト君の言葉に疑問を抱いたゴドフリーさんが問い掛ければ、彼は苦笑を更に深めた。

 まるで、出来の悪い生徒に苦笑する教師であるかのように、そんな事かと言わんばかりの笑みだ。

 

「あのなぁ、俺の立場を忘れたんじゃないだろうな。俺は《笑う棺桶》の首領と同等以上に悪名高い《ビーター》だぞ。オレンジやレッドを相手にしてもいるんだ。ダメージを負わずに麻痺させて、しかもその内の一人がオレンジになっているとなれば、飲み水に麻痺毒を仕込まれた事くらいすぐに分かる。特にアンタ達は仲間内であれば警戒しなさそうだからな」

「む、ぅ……そう言われては、ぐぅの音も出ないな……」

 

 確かに、実際全く警戒していなかったからこんな事になったのだし……そういう事に精通しているキリト君であれば状況からどんな手を使われたのかすぐ察せられるだろう。

 

「さて……コイツに掛けた麻痺毒もそう長くは保たない。一旦HPを回復させて、それから麻痺毒を塗ったナイフで麻痺の上書きをする。それから移動しよう。一先ず《アインクラッド解放軍》のディアベルに連絡を取る為に、徒歩で迷宮区を出るぞ」

 

 それから《ポーション》でクラディールのHPを回復したキリト君は、攻撃力は低いもののレベルが高い麻痺毒を塗っている短剣を《ⅩⅢ》で呼び出し、それを刺す事で残り僅かとなっていた状態異常の効果時間を上書きし、再び動けなくしてからクラディールを担いで移動を開始した。

 この後、キリト君とゴドフリーさん、私の事情説明もあってクラディールは団長によって脱退させられ、ディアベルさんによってしっかり監獄へと送られたのであった。

 

 






 はい、如何だったでしょうか。

 まずポーションに関してですが、後でもうちょっと簡単に説明するシーンを挟むので、今はその存在だけ覚えといてください。取り敢えず、結晶系アイテムの代わりが出来たということで。

 次に跳び蹴り体術《飛燕》について。原作で殆ど体術スキルって出てないし、それだと味気無いからあまりにも酷いものでなければと思って作りました。オリジナルですので原作には無いです。

 クラディールとの戦闘や《武器落とし》の描写は、原作のデュエルを参考にしております。多分似たような感じでしょう。

 《武器破壊》では無く《武器落とし》で弾いた方を選んだのは、破壊よりも難しそうだったからです。あと、あのタイミングで破壊してもアスナ達に刃が当たるので。

 クラディールの口調は再現出来ているのだろうか……原作であんまり出番無いし、本性顕した後の口調ってブレッブレだから書き辛かった。当て馬要素はそこそこ出来たと思う。

 ゴドフリーさんは死亡させるか迷いましたが、一先ずあまり人死にを出したくないので生存ルート。この人書いてるとプログレッシブのオルランドさんと口調が混じる、豪快な性格含めて。

 そしてアスナ救出となりましたが……アスナはまだ堕ちてませんよ? まだ問題があるので堕としません、お家問題とか許嫁問題とかあるので。遅くてLS編、速ければSAO編後半で堕ちる予定。

 年齢的にも現十六、七歳だからお姉さん意識ありそうですし、これで堕ちると軽い感じがするので。暫くはリズやリーファとお姉さんしそう。所々嫉妬する場面は入れたいけど、基本はほのぼのとさせたい。

 まぁ、地下迷宮時にそれっぽい要素がありましたがね……やっぱりもうちょい踏み込んだ事情で自然にしたい。ユウキやシノン、リーファみたいに。

 それなりに上手く書けたんじゃないかなと思います。キリトの行動もキチンと意味はあるんで、気長に今後をお待ちください。

 では、次話にてお会いしましょう。


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