インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは。お久しぶりです
ラスリコでSAO熱が落ちてたトコがあるんですが、先日発表された新作の映像でやる気が再燃しました。ユージオ達が登場するのを見て感化されましたね、ええ
そんな今話はアリスとユージオ達の対話です
原作知ってると分かる話が多いです。一応後書きで要点を纏めます
視点:アリス
字数:六千
ではどうぞ
パタン、と扉が閉まる渇いた音が部屋に木霊した。
とても見慣れぬ内装の部屋では、ヒースクリフに伴われて異界空都で再会を――彼らからすれば遭遇かもしれない――を果たした亜麻色の髪の青年ユージオ、長い赤髪の少女ティーゼ・シュトリーネン、短い茶髪の少女ロニエ・アラベルが居心地悪そうにして、こちらに視線を向けてきている。
その視線のいずれも不安と恐れを内包している事に、私はほんの少し嘆息する。
過去、そういった視線を向けられた事も無くはない。
先達たる整合騎士の供をする形で愛竜たる飛竜の背に乗り、人界の各地を巡った事がある。人界に仇名す暗黒界の住人たるゴブリンやオークと対峙し、それを斬った事がある。あるいは、決して多くはないが、情報収集のために市井の者に接触を図った事もあった。
それらの際に向けられる視線は、同輩に向けるそれではない。
暗黒界の者からは敵意と憎しみを向けられた。彼らからすれば人界の守護者は不倶戴天の敵故に、それも無理からぬ事と言える。整合騎士は不老ゆえに百年以上を生きる者も少なくないから、こちらが斬って捨てた者の子孫と対峙するという事もあり得るのだ。それが連綿と続き、伝播したが故の感情だろう事は容易に察せた。
人界の民からは畏敬の念を向けられた。人界の守護者に向ける純粋な感情とは言えないものを、その時は感じた。
――今感じるのは、それに近い。
《畏敬》とは、敬う感情だけでなく、相手を恐れる意味も含んでいる。かつて整合騎士だからと恐れ、へりくだった者が向けてきた感情と、いまユージオ達が向けてきている者は確かに近い。
だが――同じでは、ない。
ティーゼとロニエは同じだ。恐怖の方が強い様子は、過去に向けられたものと同じだ。
違うのは青年ユージオが向けてくるものである。
恐怖はある。尊敬し、敬おうとする気持ちも含まれているのは分かる。
しかしそれだけではない。彼が私に向けてくるものの中には、それ以外の何かがある。
――――思い返せば、
そこで記憶に浮かぶのは一つの情景。私と彼ら、そして殺人の大罪を犯した《人界のキリト》と初めて会った時の事だ。
あの時も、少女たちは恐れの強い畏敬の念を向けてきていた。
――――……君、は……?!
――――…………嘘だろう……
しかし青年は。そして少年は。
もっと別の感情を向けてきていた。
あの時の私は、その様子を取り乱しと判断した。逃げられると思っていたのか、と。あるいは整合騎士に女性は居ないと思っていたのだろうか、と。
……今思えば、その判断は誤りだった。
己が犯した罪を、整合騎士の姿を見ていよいよ自覚し、惑乱するなら理解はできる。
迫りくる現実に絶望し始めていたと捉える事も、まだ出来た。
あの時、なぜユージオまでもが顔を強張らせ、じっと強い視線を向けてきたのか。
それを私は見逃した。
その違和感を無視していた。
咎人でない彼があの反応を何故取ったのか説明がつかない。
つまり、矛盾だ。
これを知るために、私は更なる異界で邂逅した同胞たちと話し合いの場を作った。
その答えこそ、己の認識と意思を縛る封の存在意義や、咎人キリトが何故罪を犯したのかに繋がり、咎人キリトに敗れ流れ着いた先で得た知見が齎した違和感の正体を知れると信じて。
「――先ずは謝罪を。『話がしたい』といきなり連れてきてしまい、申し訳ありません」
「えっ……い、いえいえ、そんな! 騎士様のご命令とあらばこれくらい!」
「そ、そうです! 如何様な罰も受ける覚悟ですので、遠慮なく!」
「む……」
私の謝罪に、右拳を胸に当てる制式礼を取りながら早口でロニエとティーゼが応じた。過剰とすら言えるほどの緊張ぶりと、恐れが現れた発言に思わず眉根を寄せてしまう。
どうやら目の前で罪人を連行する姿を見せているせいで大層恐れられてしまっているらしい。
話で聞いただけでなく、実際に目にしたからこその恐れだからだろうが……
「勘違いしているようですが、私にあなた達を罰する気はありませんし、そのような命も受けていません。むしろ元の世界へ帰るまでは守るつもりです」
「そ、そうなのですか……」
「ええ。あなた達は何の罪も犯していないでしょう?」
私が異界に飛ばされて以降は流石に知らないが、仮に罪を犯していれば、他の整合騎士が捕縛に向かう筈だ。
キリトはカセドラル八十階まで上がってきたが、何も全ての整合騎士を倒している訳ではない。道中に配置されていた強力な神器使いは軒並み倒しているが、神器に選ばれていない下位の騎士がまだいる。その内の誰かに捕縛の命を出す事もある筈なのだ。
それを含めて考え、ロニエ達が罪を犯していないと私は判断した。
「っ……違います」
――しかし、ロニエは否を返してきた。
思わず更に眉を寄せる。
「違う……? つまりあなたは、何らかの禁忌目録違反を?」
「そうでは……いえ、でも、実質はそうと言えます……」
「…………?」
判然としない答えに、私は首を傾げた。罪を犯したのか、という問いに対する答えとしては不適切だ。
おそらく禁忌目録違反はしていないのだろう。つまり彼女は、罪は犯していないということ。
だがその事実に反し、彼女自身は何らかの罪を犯したと思っている。
認識が歪んでいるのか。
あるいは私が知り得ていない『何か』が彼女をその思考に追いやっているのか。
思考をグルグルと回し、それでも答えが出ないでいると、ロニエが更に言葉を続けた。
「わ、私のせいで、先輩は、罪を犯したんです……!」
振り絞るように。
喘ぐように。
ロニエが、告解した。
「――ロニエ、それは違う!」
私が反応するよりも先にそう言ったのは、ロニエの隣で同じように苦しそうにしていたティーゼだった。彼女は告解したロニエの肩を掴んで自身の方に向き直らせ、涙を流しながら――それでも鮮烈な眼差しで茶髪の少女を見つめた。
「ロニエだけじゃない、私もだよ! 私も悪いんだ! 二人で相談してあの場に行ったんだから、私だって同罪だよ! ――騎士様、お願いします! ロニエを罰するなら私も罰してください!」
「てぃ、ティーゼぇ……!」
ティーゼが口にする悲痛な願い。それにロニエは、首を横に振りながらボロボロと涙をこぼしていた。言葉にもならないほど感情が混ざり合っているのだろう。
「――二人が罰せられるなら、僕も罰されるべきだ。あの場には僕も居たんだから……いや、キリトがした事は、元々僕がしようとしていた事なんだから」
そこで、それまで複雑な視線を向けてきて静観していたユージオまでもが、同じような事を言い出した。
そちらに視線を向ければ、柔和な青年は力なく笑みを浮かべていた。
「……どういう意味ですか?」
「――言葉通りの意味です。キリトが斬ったライオス・アンティノスは、最初は僕が斬ろうとしていたんです」
「何ですって……?!」
予想外の言葉に私は瞠目し、息を呑んだ。
どう見ても柔和で、剣士には向きそうもない穏やかな気質の青年が、最初に禁忌を犯そうとしていたとは予想もしていなかった。そんな危険人物には思えなかったのだ。
だが――初等練士である二人が否定しないという事は、彼がライオス・アンティノスを殺害しようとしたのは事実なのだ。
しかし、おそらくその場にキリトが乱入し、ユージオを止めた。そして代わりになるとばかりに剣を振るった。
つまり、そうするだけの『理由』があったのだ。
一目見て優しいと思える気質のユージオが動こうとし、そしてキリトがそうするほどの。
そうしなければならないほどの『理由』が。
それに気づいた瞬間、とある会話が脳裏を過ぎった。
――――キリト君が誰かを傷付ける時、それは『怨みを晴らす事』が目的じゃない。彼の真の目的はずっと同じ……誰かを、大切な人を助ける事なんだよ
それは異界で出会った剣士アスナとの会話。異界のキリトが為してきた事を語り聞かせてくれた時、彼女がしみじみと言っていた事だ。
その言葉が、一つ一つの情報を繋ぎ合わせていく。
キリトがライオスという者を斬った『理由』が予測立てられていく。
……もしも、異界のキリトと人界のキリトが、殆ど変わらないのであれば。
「あの者は、あなた達を守るために、罪を犯した……?」
ポツリと、呟く。
思考そのままのそれは、整合騎士として忠実にあった私であれば考えつかないような答えだった。考えついたとしてもその上で『悪である』と断じていた。実際、異界でキリトの過去の所業を聞いた時はそう思った。
だが――今の私は、そう断言できない。
私は知ってしまった。
人界のキリトの事はまだよく知らないが、あれほどまでに剣筋が近い異界のキリトの人柄を知り、心意を感じ、彼を愛する人達の想いを知ってしまった。
そしていま、人界のキリトを知る少女達の慟哭を知った。青年の、後悔を知った。
――これほどまでに想われる人物だけが裁かれるべきなのか?
――本当に裁くべき者は、他に居るのではないか?
私は、その疑問を抱いた。
「――――あぐっ……?!」
瞬間、右眼に激痛。
幾度となく経験したあの痛み。瞼を閉じ、暗い視界の半分が深紅に染まっていて、何かの文字が回転している。何時ぞやに気絶した時と同じもの。
公理教会の判断に沿わないが故に齎されるものだ。
「くっ……!」
「き、騎士様?! どうされたのですか?!」
「どこかお怪我を……?!」
「い、いえ……大丈夫、です。問題ありません……!」
右眼を押さえ、ふら、とよろめいて壁に凭れ掛かった私を見て、ロニエ達が慌てたように駆け寄ろうとする。その二人を制しながらゆっくりと深呼吸した。
少しすれば痛みが和らいできた。
「騒がせてしまいましたね……どうか、気にしないで下さい」
そう言った私は、コホンと咳払いし、ユージオ達を見据える。心配そうにこちらを見ていた三人も表情を改め、最初に見た畏敬に近い面持ちに戻った。
それを見てから、私は脳裏で組み立てた予測について話す事にした。
「あなた達の話から類推するに、ですが。あの者が殺人を犯した理由は、あなた達を守るため。そしてあなた達を害そうとしていたのは件のライオス・アンティノスという男……で合っていますか?」
この予測に返されたのは、無言の首肯。三人揃ってまったくの同時だった。
「なるほど……アンティノス。姓があるという事は貴族ですね。爵家は何等か分かりますか?」
「三等爵家です。あと、ロニエ達は六等爵家です」
「…………なるほど」
ユージオが追加した情報で、私は一体何があったのかを薄々察してしまい、不快さに顔を顰めた。
『貴族裁決権』というものがある。
これは『一等から四等爵家の貴族が、五等爵家と六等爵家の貴族とその家族、および私領地民に対し、何らかの無礼にあたる事があった場合は、己の裁量で
上位貴族の者が下位貴族を指導するためという目的のために利用するものなのだが、嘆かわしい事に近年の人界の貴族は私腹を肥やし、我欲を満たすために放蕩に耽る家も少なくないという。巧妙に隠蔽した上で悪行を為すのだ。しかも法に則った上での行為なため誰もそれを咎められない。あるいは、自身も同じことをしているからと、逆に指摘される事を恐れて見て見ぬふりをする。
そして今回の場合は、六等爵家の子女と、三等爵家の男子の間のいざこざだ。
下世話な話になるが、
それをユージオは止めようとして剣を抜こうとし、乱入した人界のキリトがユージオの代わりにライオスを斬り捨てた、というのがユージオの言から分かっている。
つまり――――
「……間違っていれば、訂正して欲しいのですが。つまり事の経緯は、帝国基本法に則り、且つ禁忌目録に反しない範疇の不埒を働こうとした『罪を犯していない』男から、後輩の少女達と同輩の青年を守るためあの者は『罪を犯した』。そして罪人として連行された、と。そういう事ですか?」
「っ……はい」
私の推測に、ロニエは是を返した。
――その後、彼女は堰を切ったように話し始めた。
彼女が先輩と呼ぶキリトは、ユージオと初等練士の頃から、三等爵家のライオス・アンティノスと、その供をよくしていた四等爵家のウンベール・ジーゼックから、平民出だからと嫌味を言われ、見下されていた。
しかし二人が――特にキリトは――物ともせず上級修剣士になってからは、同じく上級修剣士になっていたライオス達は、ウンベールの傍付きに嫌がらせを始めた。傍付きになったのはティーゼ達と同じ寮室の少女フレニーカ・シェスキ。少しの粗相でも理不尽な言い付けを課すなどの不当な扱いをしていたのだという。
それを知ったロニエとティーゼは、自身の指導生であるキリト、ユージオに、フレニーカの指導生の変更について相談。
変更はフレニーカの指導生であるウンベールの承認も必要だからと、その日の内に彼らはライオス達へ抗議。
しかしその後、フレニーカへの不当な扱いは勢いを増し、学院を去る事をロニエ達は本人から聞かされ、居てもたってもいられずライオス達の下へ向かった。
その抗議に対し、ライオス達は不敬だと言って貴族裁決権を行使。ロニエ達は逆らえず丈夫な縄で縛られ、ユージオ達を誘き寄せるための餌にされたのだという。
「お二人は、ユージオ先輩が怒って修剣士懲罰権を行使できる逸礼行為をするよう、私達を……ぅ……」
「もういい、もういいのです。話したくなければ、もう」
堰を切ったように、止めどなく言葉を続けていたロニエが顔を恐怖に歪め、口元を押さえたのを見て、私は咄嗟に抱き締めて頭を撫でた。
そこまで言わずとも、もう分かるからと。
整合騎士ではあるが、それでも同じ女の身。縛られた後の事は想像がついてしまった。
そしてその状況を知ったいま、私は人界のキリトに対する評価を極めて高くしていた。禁忌を犯しこそしたが、人としては間違っていないと。
だからこそ、人界の法に縛られている私では、同じ事は出来ないだろうとも思った。
少なくとも公理教会や最高司祭への不信を思考する度に痛む右眼の封がある限り、彼女達と同じ立場では。
――――む、ではなぜユージオは動けたのでしょうか
その疑問が不意に浮かんだ。
この話し合いの場を持った時から思っていたが、この青年、何やら色々とおかしな点が無いか?
いやおかしいのは人界のキリトもなのだが、異界のキリトと同一人物の可能性がある以上、彼は禁忌目録に縛られていない可能性もある。そう考えれば彼は純粋な人界人ではなく、右目の封も無い可能性は高い。
まあそもそも、右目の封自体、最高司祭と謁見した整合騎士にしか無い可能性もある訳だが……
ロニエの頭を撫でながらそんな思考を浮かべた。
ちなみにティーゼも泣いていたがそちらはユージオが抱き留めて慰めていた。彼女はユージオの傍付きらしいが、事の経緯を考えれば男性恐怖症を患ってもおかしくないのだからよほど信頼関係が構築されているのだろう。
そんな事を考えてから暫くし、ロニエ達が落ち着いた後。
そろそろいい頃かと思い、私は口を開いた。
「話は分かりました。事の経緯を考えれば、あの者を処刑するのに一考の余地はあるのでしょう」
「では……!」
私の言葉に、ぱぁっとロニエの顔が華やいだ。それに罪悪感を抱きながら「しかし」と続ける。
「残念ながら、処刑は覆らないかと」
「それはっ……なぜ、でしょう」
一度は驚愕で叫びそうになるのを堪え、すぐ落ち着いたティーゼが問いを投げてくる。
その返答に私は僅かに逡巡した。
したが、すぐに意を決し、口を開いた。
「……あの者、脱獄したのです」
「「「――――えっ」」」
その答えに、三人は唖然とした。
それ後、次はこちらの番だと連行した後から私が知るまでのキリトの行動を話していったが、三人とも困惑するばかりだった。
まぁ、そうなるだろうなと内心で思った。
Q:人界キリトの殺人の経緯とは、つまり?
A:貴族の不貞から後輩を守るため、そして兄代わりの同輩に罪を犯させないため、自身が罪を犯した
・アリス・シンセシス・サーティ
結構柔軟な思考になってきた整合騎士
以前は『法を犯したなら悪』とにべも無かったが、異界キリトという例外存在とその周囲――特にヒースクリフとアスナ――から影響を受けてかなり柔和になっている。実は口調もかなり柔らかい。
事件の経緯を知ろうとしたのはヒースクリフの影響。原作だとカセドラル外壁でプラーン状態でキリトと言い合って共有される情報。しかもフレニーカ辺りの話は、多分原作アリスはキリトから聞かされてないなら今も知らない
右眼の封はまだ残っている
ユージオについて、『初見時の反応』と『法を犯せそうだった』理由で少し気になっている
・ユージオ
あんまり喋っていない上級修剣士
本作世界線では罪人になってない。つまりウンベールの腕を斬り落とす前に人界キリトが乱入している
よってキリトが罪人になり、連行されていく姿を見送る事になった
――アリスの時のトラウマが刺激されてるねぇ!
何なら整合騎士アリスにとっての爆弾ですらある
また原作と違って『記憶が無い』と確定して分かった訳ではないため、ユージオにとっても騎士アリスは爆弾
キリト脱獄については色々と予想外過ぎて所感が追い付いていない
「剣も無い状態で牢屋からどうやって出たんだろう……?」
・ロニエ
人界キリトの傍付き=本作の被害者
原作と違いキリト一人が罪人になった事もあり、罪悪感が半端じゃない。何なら年下の子供なので倍率ドン。助けられた恩もあるので更に倍。しかも原作で弟がいる事も判明してるという……
SAO編でのサチ、凌辱含めると本作のリーファやシノンともほぼ同じ立ち位置にいる
キリト脱獄については困惑しているが、生きている事は分かったし、整合騎士を倒す強さを持ってる事について凄いと思っている
でも後々を考えるとマズいのでは、と戦々恐々
「先輩、今は何のために戦ってるんだろう……?」
・ティーゼ
ユージオの傍付き
人界キリトの事は普通に慕っていたし、自身の行動が考え無しだったと思って罪悪感で泣いている。自分のせいで年下の子供(先輩)が死んだと思ったらそりゃあ泣く
その反動で脱獄については全く理解が追い付いていない
「あの人、何やってるんだろう……?」
では、次話にてお会いしましょう