インフィニット・オンライン ~孤高の剣士~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちは
めっちゃくちゃお久しぶりですねェ……()
親の葬式と転職活動と仕事に慣れる事と、あと新発売された《ラスト・リコレクション》とか《サムライ・レムナント》とかやったりSAO新刊の《IF》読んだりしてたらあっという間に半年近く経ってました。ごめんなさい
気長にお付き合いください
視点:ヒースクリフ
字数:約九千
ではどうぞ
光が弱まったのを感じ、瞼を開いた私が目にしたのは、澄み渡った蒼穹の空と氷雪の大地だった。少し視線をズラせば天を衝かんばかりの巨樹が屹立する様を遠くに認める。
この光景に見覚えがあった私は一つ頷く。
「なるほど、アルヴヘイムか」
今いる場所は《スヴァルト・アールヴヘイム》の舞台の一つ【環状氷山フロスヒルデ】のようだった。
しかしここが私の知る《ALO》でない事も把握する。
何故なら、いま自分がいる浮遊大陸には、世界観にそぐわない物体がそこかしこに散見されたからだ。黒色のボロボロになったビル群が大地に突き立つ光景はファンタジーの世界観から大きく逸脱していて、これでもかと異常性を伝えてきている。
こんな事態を私は聞いていない。
そんな風に考えるのも、そもそも《VRMMORPG》というものは全て自身が勤める《ユーミル》によって管理されているからに他ならない。
《VRMMORPG》は歴史上《SAO》、《ALO》、《SA:O》の三つしかない。MMORPGの体を為せている理由がカーディナル・システムにあるからだ。そして現存する《ALO》と《SA:O》はどちらも《ユーミル》が運営している。
その《SA:O》にログインしている状態にも関わらずキリトのログを辿れなくなった事から、私は幾つかの予想を立てた。その中には《ALO》から《SAO》に移ったリーファという前例のように、彼が《SA:O》から《ALO》に移ったという予想も入っていた。
結論から言えば、『異界からの来訪者アリスに巻き込まれる形で異世界に飛んだ』という結果に行き着いた。
普通ならあり得ない話だろうが、《異世界》の存在を私達は《織斑秋十》の素性から知っている。過去と未来という点ではヴァベルの存在が否定を許さなかった。そしてトドメとばかりに《ユーミル》が管理する《ALO》で彼のログは見つからなかった。となれば、この予想を否定する材料は無くなったようなもの。
もちろん全く関係ないところ――例えば知育ゲームのような閉鎖ワールドや、それこそ広大なネットの海など――に飛んでる可能性も考えはしたが、幸いなことに、その可能性はヴァベルの協力によって否定される。今回の出来事はヴァベルにとっても予想外の事だったらしく、彼女は言葉こそ交わさなかったもののキリトとの繋がりを辿り、ゲートを開いてくれたのだ。
ヴァベルが動いたという事実が《異世界》との関連を否定できない決定打でもあったのだ。
この事態に対し、有事の際に【森羅の守護者】として動く面々がゲートを潜ってキリトとアリスの救出に乗り出した。メンバーはリーファ、シノン、ユウキ、ラン、サチ、アスナ、レイン、ユイ、ストレア、ヴァフスとオルタ、クライン、そして
正直なところ、キリカとホロウのどちらかが居ればより万全と言えたのだが、今回は留守番を頼んでいる。
《SA:O》での騒動の一部始終はアルゴの中継放送を介して世間にも知られており、当然キリトとアリスの失踪の場面も見られているのだが、その行き先が《異世界》である事は流石に伏せている。つまり対外的には、キリトはまだアリスの問題に対処中=いつでもログアウト出来る状況と見せかけているのだ。
そんな事をするのは、勿論《亡国機業》への牽制である。今回の救出作戦は仲間内でしか話していない極秘事項なので、政府の開発チームや《ユーミル》の運営チームに潜り込んでいるだろうスパイにも知られておらず、キリトの現状も秘匿されたままと言える。
そんな状況なので、一先ずプレミア達の身柄は束に任せ、彼らには有事の際に《桐ヶ谷和人》の影武者として立ち回ってもらう事を頼んでいた。
彼らのサポートを束、七色、楯無達に頼んでいるので万が一は無いだろう。
つまり私はキリトとアリスの二人の救出に注力すればいいという事だ。
「……ふむ。
周囲を見回すが、仲間の姿は一つも無い。
先行きが思いやられるが、流石に時空を越えての転移となるとバラバラに飛んでしまうのは仕方ないだろう。異世界――いや、並行世界ではあるが、全く知らない場所でない事は不幸中の幸いであると納得しておくしかない。
「ステータスは…………うぅむ、これはまた複雑だな……」
SAOアカウントを使った影響か、メニューを呼び出すのは右手になっていたが、ステータスはアカウントで紐づけられた《ALO》のものが適用されていた。STRやVIT値などは《SAO》からコンバートして変換された《ALO》の値だ。
しかしスキルは《ALO》には存在しない筈の《神聖剣》が存在している上に、十枠よりも数が多い。どうやらスキル関係は《SAO》時代のものが参照されているらしい。
通常のALOプレイヤーと比べるとステータス値とスキルの数で有利だが、空は飛べないし、魔法も使えない不利もある。その辺は一長一短と割り切るしか無いだろう
こんな事が起きたのは、この並行世界のALOのカーディナルが《ヒースクリフ》のアカウントデータをこの世界に適合するよう配慮した結果だろう。リーファのアバターや装備に互換性があったように、その辺はこちらの世界でも同じなのだと思われる。
それはつまり、この世界の《ALO》も《SAO》のデータをコピーして作られたわけで、それを為したのもおそらくは須郷伸之である事を意味する訳だが……
「……いや、今は感傷に浸っている場合ではないな」
僅かに沈んだ気を払うように頭を振る。後輩の内心に気付けなかった後悔はあるが、もう過ぎてしまった事だ。
経緯を考えれば複雑だが、今はSAOデータで乗り込んだ身としては有難い話だと割り切るしかない。
気を取り直した私は、フロスヒルデの転移門に向けて歩き始める。仲間達がどこに降り立ったか分からないが、少なくとも一度はスヴァルトエリアの拠点たる空都には足を運ぶはず。合流するならそこが確実だと考えたのだ。
もちろん、道中で会えればそれが一番である。
そうして徒歩で進む事数分して出会ったのは、この世界の《イレギュラー》だった。
「ヘイヘイヘイヘーイ! ソーホットだぜェ――――!!!」
「うぇいうぇいうぇーい!」
「…………ファンタジー世界に、バイクだと……?」
眼にしたのは、雪原を走る大型バイクと、それを駆るドクロメットを被った世紀末を思わせる装いとテンションの人影、そしてタンデムに乗って似たようなテンションではしゃぐ
ファンタジーの世界観ぶち壊しのオンパレードである。
かろうじてタンデムではしゃぐ人影は妖精だが、そちらはそちらで別の問題が浮上する。遠目でも風林火山を象った和装と額に巻いたバンダナは見て取れた。その装いは自身の知る"クライン"とも合致している。
「あの青年は、"並行世界"のクライン君なのだろうな……」
ただ、"キリト"とアリスの救出を目的に動いている現状であんな風にはしゃがないだろうと確信しているから、別世界のクラインだと気付けた。現状でなくともあんなはしゃぎ方はしないだろうとも思うが。
ひょっとするとこの並行世界なら《SAO事件》は起きていないのではないか?
そんな淡い期待を抱かせる程度には交流を持って三年になろうとしている青年とのギャップを感じつつ、私は雪原を爆走する世紀末コンビから離れる方向に歩みを再開した。《ALO》のステータスに互換された《SAO》のカンストステータスを以てすればバイクにも追い付けただろうが――まぁ、触らぬ神になんとやらである。バイクといい世紀末姿の運転手といい明らかな《イレギュラー》は手掛かりになるかもしれないが、優先すべきは拠点の確保と仲間との合流なので、今はスルーする事にした。
それが功を奏したのか、真っ白な雪原に真紅の騎士装はかなり目立つ筈だが、世紀末コンビはバイクで爆走する事で興奮しているからかこちらに気付いた様子はなく、氷山の麓の方へ走り去っていった。
「この世界の《ALO》でも、何かが起きているのだろうな……」
その背を見送りながら、私はそう独り言ちた。
先ほどの世紀末バイクとその運転手もそうだが、フロスヒルデのフィールドも近未来的なビルに侵蝕されており只事でないことが感じられた。もちろんこの世界の《ALO》が近未来的な世界観のVRMMOとコラボをしている影響という可能性も無くはないが、妖精郷というファンタジーのコンセプトを考えれば九割九分無いだろう。よしんばあったとしても、既存エリアを上書きするような形では実施しない筈だ。
その異質さに、私は異常を感じ取った。ともすればこの異常事態が"キリト"とアリスを呼び寄せたのではないかとすら思うほどの異質さだ。
そして悲しいかな、こういった状況に巻き込まれれば解決まで走ってしまうのがあの少年だと、もうすぐ三年になる彼との付き合いから理解している。
「並行世界にまで首を突っ込んでいたらいよいよ過労死するぞ、キリト君」
とても傍観する少年の姿を予想できなかった私は、雪原を行く足を速めた。真っ白な景色のどこかを走る黒は居ないかと見回しながら。
そうして歩き続けていると、同じように雪原を行く者達と遭遇した。
普通なら特筆すべき事ではないが、敢えて取り上げるべき事柄を幾つも見出したため、私はその者達に接触を試みた。
「初めまして、諸君。私はヒースクリフという」
「は、初めまして。僕はユージオ、北セントリア帝立修剣学院の上級修剣士です」
「同じく北セントリア帝立修剣学院、傍付き練士のロニエ・アラベルです!」
「同じく、傍付き練士のティーゼ・シュトリーネンです!」
まずは礼儀としてこちらから名乗る。《SAO》で団長を務めていた頃の立ち振る舞いを思い出しながらの所作は、それなりに効果があったらしく、相対する者達の緊張が僅かにほぐれたように見えた。
左胸に右こぶしを当てながら相対する者達――三人の少年少女が、自己紹介してきた。順に亜麻色の髪に青い服の青年、茶色の髪の少女、赤い長髪の少女だ。
この三人の自己紹介には、この時点でおかしな点が幾つもある。
まず《ALO》に『北セントリア』なんて地域名は存在しない。これは《ユーミル》で運営する事になった際に全てのデータを検閲したからこそ断言できる。
続けて『修剣学院』という施設も存在しない。最も近いのは、OSSを契機に一大流派を興した者が運営する道場だろうが、やはり名称は異なっている。
更に、この三人は妖精郷でありながら耳は人のそれであり、背中に羽も生えていない。
決定的なのは三人の衣服。彼らが纏っている衣服には共通の意匠――刃先を下にした剣を円で囲うような紋章――が刺繍されていたのだが、それがアリスの黄金甲冑にある紋章と同じものだったのだ。
――素直に考えれば、アリス君の関係者だろう。
それが三人を観察して導き出した結論である。
観察の時点で分かったから、わざわざ自己紹介なんてせずとも彼らが『人界からの迷い人』である事は知れていたのだが、それでもしたのは情報収集するために円滑なコミュニケーションは不可欠だからである。
……結果から言えば、期待した情報は得られなかったが。
三人は修剣学院で鍛錬をしている最中、突如として空間に開いた裂け目に吸い込まれ、気が付けばこの雪原と雪山しかない大陸に放り出されていた。それから人里を求めて歩いていたが、誰も見ていないし、この世界――彼らはここが《人界》ではない事を理解していた――の事情についても全く分からないとの事だった。
状況としては《アイングラウンド》に迷い込んだ時のアリスと大差ない。
いや、仮想世界で本当に生きている者であり、現実の我々と同様の生き死にがある事を考えれば、凍死の恐れがあった彼らの方がよほど切迫している。
「凍死する前に出会えたのは不幸中の幸いだな」
「あははは……確かに、そう思います」
私の感想に、茶髪の少女ロニエが苦笑と共にそう返した。
彼女とティーゼは下がスカートだから尚の事この大陸の冷気は堪えるだろう。
そんな彼女らにマントの一つでも貸したいところだが、ストレージには予備の武具と簡易研磨剤、そして詰められるだけ詰めた回復アイテムの類しかなく、防寒着になりそうな余分な衣服は入っていなかった。下手に鎧を渡してもある意味『生身』な彼女らでは却って凍傷を来しかねないので逆効果。
ここは早々に空都ラインへ案内するのが吉だろう。
「ふむ……色々話したいところではあるが、一先ず拠点になる街へ案内しようか」
「え、いいんですか?!」
私の提案に、ユージオ少年が食い気味に問いかけてくる。やはり相当切羽詰まっていたらしい。
そんな彼に私は「もちろんだとも」と笑って頷いた。
「というより、拠点への道が分かるのですか?」
「分かるとも」
長い赤髪を揺らしながら不安げに問うてくるティーゼにも頷きを返しながら、私は右手を振り、メニューウィンドウを呼び出した。目的はもちろん地図を出すためだ。
「「「えっ……?」」」
そこで三者三様、異口同音の驚きの声が上がった。何かと思って目を向ける。
「なにかな?」
「え、いや……その、《ステイシアの窓》みたいですけど、違うなって……そもそもここに来てから《ステイシアの窓》を開けなくなってたから、驚いたんです」
当惑しながらもユージオ少年が先ほどの反応について説明してくれる。
それを聞いて、私はふむ、と顎に手をやりながら思考を回す。
似たような話はアリスを保護した時にも聞いた覚えがある。彼女も同様の名称を口にしていて、そのうえ《SA:O》式のメニューウィンドウも開けないので、武具の損耗についてかなり気を張っていたという。
メニューも開けないのは武具に関しても同じで、アリスの神器や鎧はいくら指でタッチしてもウィンドウがポップアップされなかった。そのためリズベットは効果があるかも不明な中、剣を研ぎ、鎧を磨く仕事をこなさざるを得なかったという。ある程度はアリスも出来たので途中からは自分でしていたようだったが……
とは言え彼女はカーディナルからプレイヤーともNPCとも判定されず、結果システムの恩恵を得られない存在だった。
そんな彼女と同じ状況に置かれている者が、並行世界の仮想世界に三人。
「これは思ったより厄介な状況のようだな……」
"世界を越える"だなんて事態だけでなく、そうして迷い人が集約していそうな"異世界"の《ALO》の事態に対しても思いながら、私はユージオ達を空都へ続く転移門へと案内した。
ユージオ達と行動を共にしてから暫くして、マップに表示されている転移門に到着した私は、三人を伴ってこの世界の空都――『異界空都ライン』へと転移した。
こちらの世界の《カーディナル・システム》がどう動くか不明だったので、システム的にパーティーを組んでいないユージオ達も転移できるか少々懸念していたが、それも杞憂に終わる。私の体のどこかに触れるよう指示していたお陰か三人も転移出来ていた。
アリスの前例から推察はしていたが、細かな部分ではやはりプレイヤーともNPCとも違うものの何だかんだでカーディナルは彼らの事をNPCに近い扱いをしているらしい。
……まぁ、そうでなければ剣で攻撃した時、モンスターのHPを減らすなどというシステム現象は起き得ない訳だから然もありなん。
彼らは《
――彼らの認識は、恐らく仮想世界のNPC達のそれと大差は無いと考えれば、大きな異常とも言えない。
かつてボスモンスターだった霜巨人の将軍ヴァフスは、キリトと刃を交えた当時、傷を塞ぐ魔力量を感覚的に残り体力と認識していたという。我々プレイヤーが現実でそうであるように、仮想世界を現実とする彼らが己の命の値を正確に知る事はないのが普通なのだ。
ユージオ達は《人界》に於いて、《ステイシアの窓》を介して自身や武具の天命値を把握できていたから混乱したのだろうが、こちらの常識――『仮想世界の住人の認識』を基にすれば、彼らの状態は大きな異常とは言い切れないのである。
我々が異常と言っているのも、『カーソルが出ない』『システムウィンドウが出ない』という二点である。
得られる情報こそNPCより少ないだけで、カーディナルが統括する世界で動けている以上、それなりのデータは揃っている訳だ。それこそ設定値がNullのため無名のまま動いていたプレミアやティアなどよりはまだまともとすら言える。
そもそも異世界の、それも恐らく未来の存在という推測がまともではないのだが。
――そんな思考を他所に、私は状況を整理するべく思考を回す。
私よりも先に異界空都に辿り着いていたサチや、そこで合流したアリスや、やはりこの世界でも喫茶店を経営しているらしい異界のエギルの話を聞く限り、どうやら"並行世界"という認識は間違っていなかった。
《茅場晶彦》はとっくに死んでいると、エギルから聞かされた事でそれは確信になった。
"並行世界"に於ける《茅場晶彦》という男はデスゲームの黒幕だったという。
第七十五層でこの世界の《キリト》に正体を暴かれた黒幕《ヒースクリフ》は、彼との一騎打ちに臨んだ。しかしあわや決着が着くというところで外部からの接続という負荷が掛かり、《ヒースクリフ》はその場から消え、なし崩し的に第百層まで攻略する事になった。
この世界の《SAO》は、そうして終わりを迎えたらしい。
「ふむ……世界が変われば立場も変わる、か。興味深い話だ」
「まったくだな。正直な話、アンタが黒幕でない世界があるって言われてもピンと来ねぇ。一体何があって考えが変わったんだ?」
そう言って訝しげな視線を向けてくるバーテンダーの禿頭ノーム。疑念と警戒の籠った視線を感じ取った私は、まぁそうなるかと思いながら苦笑を浮かべる。
「それは私にも分かりかねる。元々私はあの世界をデスゲームにしようなどと露とも考えなかったものなのでね」
「そうなのか?」
「そうだとも。アインクラッドを創り上げたからと言って、私の夢はそこで終わらないのだ」
これは最初にキリトに明かし、それから束に話した事だ。
元々私は《アインクラッド》という幼い頃からの夢の産物を現実に追い求めていた。物理学などで現実を知った故に仮想世界での構築に方針を転換したのだが――丁度そのころ、篠ノ之束によって《インフィニット・ストラトス》が世界に向けて公表された。
並行世界の《茅場晶彦》と明確に差異が生まれたのは恐らくそこだ。
外宇宙へ飛び立つ夢を知り。
《
そして夢想したのだ。
鋼鉄の浮遊城が、無限に広がる星の
――天空の城があり得ないと判断したのは、引力や重力の観点から、あれだけ巨大な物質を滞空させられないという結論に起因している。
ならば逆転の発想である。重力も引力も無い宇宙空間であれば問題ないのでは、と考えた。
酸素は機器で補う。人口光合成の技術も進歩し続けているから解決の糸口はある。浮遊城には広大な草原や森を造るつもりだから、植物問題も然して問題はない筈だ。
無論、素人考えなところはあるので細部をもっと詰める必要はある。
しかし――不可能ではないのでは、という期待は生まれる。
だからこそ《夢》があるのだ。
それは、篠ノ之束との邂逅でより現実に近付いた《夢》。
一度は須郷伸之の凶行により諦めざるを得ず、ただ贖罪として最前線を生きたが、桐ヶ谷和人との縁が繋ぎ止めてくれたモノ。
仮想世界で作るしかなかった《茅場晶彦》との明確な差異である。
「私には、現実で《夢》を為すだけの環境があった。しかしこの世界の"私"には無く、だからこそあの世界を現実に近付けようとした。そういう事だろう」
「なるほどねぇ……」
納得はあまりいっていないのだろう。だが反論するほどの材料も無いらしい異界のエギルは一つ頷き、それ以上は追及してこなかった。
その代わりというように、視線が店の外へと向けられる。
「――――そういや、暫く経つがアリス達はまだ帰って来ねぇな」
「……そうだな」
心配そうな面持ちで言った彼に、私は短く応じるばかり。隣のカウンター席に座って黙って飲み物を飲んでいたサチは言葉を発さない。
――この場に《人界》から迷い込んだ四人は居ない。
異界空都で合流した際、何やら込み入った事情がある事を察した私が、今の内に話をするよう宿の一室を借り、そこに四人を案内したからだ。
――――アリ、ス……? なんで、ここに。いや、その前に、キリトは……まさか、もう処刑されたの?!
――――そ、んな……せん、ぱい……っ
――――わ、私達のせいで……そんな……っ
金色の騎士を視界に収めた途端、それまで後輩二人を不安にさせまいと気丈に振る舞っていた少年が狼狽した。恐怖を含んだ声音での問いかけは、そうあって欲しくないという切実な願望を見せていた。
その少年の不安が伝播したのか、ロニエとティーゼの二人も不安げに眉を顰め。
そして、その不安以上の悔悟の念を浮かべ、涙を滲ませた。
――――……あなた達は、あの者と共に居た……丁度良かった。あなた達に訊きたい事があったのです。少し時間をください
三人の様子を見て、僅かに眉根を寄せたもののすぐ表情を改めたアリスがそう言って、話し合いの場を持つよう動いた。それを見て私は宿の一室を提供したのである。
目的としては、時間を掛けてもいいからあの四人の間での問題は片付けておいてもらうためだ。
ほんの少しのやり取りを見ただけでも、相当込み入った事情がある事は察せた。
まして、ユージオ達は《人界のキリト》と親しい間柄であり、アリスは殺人の咎を理由に連行した張本人。その関係性を抜きにしても、アリスの背景や、彼女から透けて見える《人界》の問題点だけでも面倒そうなのだ。
《人界》を知らない身では具体的な助言も出来ないので、本人達の間で済ませて欲しい。
「あの様子から察するに早々に終わる話ではないだろう。我々の仲間が揃うのも今しばらく掛かるだろうし、問題ではないさ」
エギルにそう言って私はグラスを傾けた。
はい、如何だったでしょうか
ヒースクリフはメタ視点を盛り込みやすいので、状況がとっ散らかった時の纏め役に適してるんですよね
尚SAO当時だともっぱらキリトにお株を奪われがちだった模様
・ヒースクリフ
現実に《夢》を抱いていた天才科学者
《IS》と篠ノ之束、双方との出会いが未来を変えた。一度は須郷の凶行で諦めかけていたが、和人が茅場を信じ続けた結果《夢》は今も続いている。そのためSAO当時よりも思考は前向き
自身をずっと信じ続け、《夢》も応援してくれている和人の事を心の底から信じている
キリト以外でアリスを介して《人界》の問題点に気付いている一人
アリスを前にしたユージオ達の様子からただならぬ事情を察している
・ユージオ
異界からの漂流者の一人
修剣学院で後輩と一緒に居るところで氷山に飛ばされた。ヒースクリフと会ってなかったら世紀末ウェーイと出会ってたかもしれない
とある事情から《アリス》と因縁がある
・ロニエ・アラベル
異界からの漂流者の一人
短い茶髪の少女。人界キリトとユージオの後輩
どうやら人界キリトが殺人の咎を負う事になった要因らしい
・ティーゼ・シュトリーネン
異界からの漂流者の一人
長い赤髪の少女。人界キリトとユージオの後輩
どうやら人界キリトが殺人の咎を負う事になった要因らしい
・世紀末ウェーイ1
氷山をバイクで直走るドクロメットアバター
テンションぶち上げヒャッハー!!!
――ヒースクリフは見て見ぬふりをした
・世紀末ウェーイ2
バイクでタンデムってる火妖精侍
ヒースクリフの記憶にある火妖精侍よりテンションが高い
――ヒースクリフは見て見ぬふりをした(武士の情け的に)
・
現実には無い《夢》の浮遊城を仮想世界で構築し、デスゲームにした男
本作茅場から見た"彼"は、『現実と仮想を逆転させた男』という印象
《夢》を見た先の世界が違っただけ
本作茅場が『人としての在り方』を前面に出しているのに対し、異界茅場は『天才としての在り方』を出している
――《IS》と束、二つの出会いが無ければ同じ道を辿ったという
それが本作茅場からの総評である
では、次話にてお会いしましょう